第2567号 2004年1月12日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


定評ある腫瘍医学の実践書がついに改訂!

がん診療レジデントマニュアル 第3版
国立がんセンター内科レジデント 編

《書 評》堀田知光(東海大教授・血液腫瘍内科)

求められるがん治療の専門医

 わが国ではこれまでがんの治療はおもに臓器別に行なわれ,手術後適応がない白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍を除いて,術後の化学療法は引き続きその主治医によって行なわれることが多い。一方,欧米を中心とした世界の多くの国々では,がんの化学療法はメディカルオンコロジストと呼ばれる化学療法専門医が受け持つのが一般的である。その点で,わが国のがん治療は世界的にみて,きわめて特殊な状況にあるといって差し支えない。近年のがん薬物療法は切れ味鋭いが毒性にも特別な注意が必要な薬剤が主体となっており,薬物の作用機序,薬物動態,毒性の管理や効果判定などにおいて十分に訓練された医師のもとで行なわれる必要性が増してきている。

若手医師にぜひ薦めたい

 そのような背景にあって,国立がんセンターはがん診療のEBMの実践と創出の国家的拠点(ナショナルセンター)として,がん診療の専門家を養成するレジデント制を含む教育研修プログラムを整えてきた。本書は,国立がんセンターの腫瘍内科レジデントによるレジデントのための診療マニュアルである。世にマニュアル本は数多いが,本書の特徴は,(1)国立がんセンターの現役のレジデントが執筆を担当し,各専門分野のスタッフがレビューする編集方針をとっており,きわめて実践的かつ内容的には高度なものとなっていること,(2)最新の情報をもとにそれぞれの治療法のエビデンスのレベルが一目でわかるように記載されていること,(3)単なるクックブックのようなマニュアル本でなく,腫瘍医学を科学的・倫理的に実践するためのインフォームドコンセント,臨床試験のあり方,化学療法の基礎理論,疼痛対策と緩和医療,感染症をはじめとする化学療法の副作用対策についてもバランスよく記載されていることなどである。
 白衣のポケットに収まる大きさであるが,活字は8ポイントの大きさがあるので読みやすく,2色刷であることもうれしい。常に携帯して参照できる実践的マニュアルであり,がん診療にかかわる若手医師にぜひ薦めたい逸本である。
B6変・頁400 定価(本体3,800円+税)医学書院


医師の「プロ」としての責任が問われる時代に「国際標準」を実践する

臨床のためのEBM入門
決定版JAMAユーザーズガイド

Gordon Guyatt,Drummond Rennie 著
古川壽亮,山崎 力 監訳

《書 評》黒川 清(東海大学総合医学研究所所長)

インターネットの普及で標準となったEBM

 JAMA“User's Guide to the Medical Literature”(Gordon GuyattとDrummond Rennie編による)が古川壽亮,山崎 力両氏の監訳で出版された。ありがたいことである。この本の目的,歴史,使い方などについては編者であるMcMaster大学のGuyatt先生による「日本語版への序」に明らかにされている。EBMという言葉が「流行り」だしてから,いろいろな書物が出版されてきた。そして時には原著論文を吟味して読むことが大切であるともいわれていた。
 しかし,最近ではありがたいことに多くの吟味をされた後での妥当な選択肢を提供してくれる「情報源」が手軽に得られるようになって,特に情報手段であるインターネットが安価に使えるようになった最近では(2,3年前までは日本でのインターネットの使用は接続料金が高くて困ったものであった),いわゆる「グローバルスタンダード」の情報が誰にでもたやすく入手できる。これが診療現場での標準になりつつある。UpToDate,Cochrane,Best Evidence,さらに少しマニアックな人はPubMedというMEDLINE検索システムを使うこともあるであろう。こんな時代になったのである。しかも,「困ったことに」医師ばかりでなく,その他の医療人や,患者さんや社会もこのような情報に接触している。
 もちろん,診療の現場ではEBMだけではないが,EBMを知らないようでは困ったものである。例えば,「日本人でのエビデンスがないから」とか,あれこれ言う人も多いようであるが,ないから何をしてもよいというわけでもないのは当然である。「なぜ」その選択肢なのか,その根拠は,と説明できなければならない。

フィードバックを通じて良質の医療を実現する

 ところで,臨床研修が義務化された。いよいよ来年度から「混ざる」システムがはじまる。こんな「混ざる」などという考えは,広い世界では当たり前のことであるが,明治以来,この日本ではどこの社会でも初めてのことではないだろうか。もちろん問題はたくさんある。これらの課題を解決しながらよりよいシステムを構築していくこと,これこそが私たち医師全員に科せられた社会的義務であり責任であろう。
 それにはできるだけ情報を開かれたものにすることである。研修医,医学生,指導医,研修病院,行政などのすべてが多様な,複数の,しかし開かれた情報を共有する場を作り上げていくことである。これによって研修の内容が多面的により明らかになり,フィードバックを受けつつ研修の質と医師の能力の向上へと向かうことであろう。何しろ医師の育成は医師のためというよりは,社会のためなのであるから。
 この当たり前のことが認識されていなかったところにいまの日本の問題がある。別に医学界に限ったことではない。政府も政治も企業も,どこでもである。そこで,この新しい研修制度を改善していくプロセスを通して,ぜひ皆さんで,患者さんも,社会も巻き込んで,EBMの実践を臨床の現場に広げていってはどうであろうか。前から言っていることだが,EBMは理屈ではなく,実践なのである。
 いくつもEBMの本があるが,みんなで意見を交換しているうちにどれが使いやすいとか,本の評価もできてくる。本もよりよいものが作られるであろう。その意味ではこの本は,「本場もの」といえるであろう。しかし,使いにくいところもあるかもしれない。多くの人たちと意見を交わしながらこの本を使ってみると,さらにこの本のよさが生かされるのではないかと思われる。1人で読んでいても,わかりにくいこともあるのだから。
A5・頁404 定価(本体4,000円+税)医学書院


人からコロノスコピーの技術を学ぶ

日本のコロノスコピー
エキスパートに学ぶ心と技

日比紀文,光島 徹,上野文昭,他 編著

《書 評》多賀須幸男(多賀須消化器科内科クリニック)

コロノスコピーの技術習得に悩む医師たち

 評者はこの本の実質的な編集者である光島,上野両先生の講演や対談を何度も拝聴したことがあり,達人らしい語りにそのつど聴き惚れたものである。
 上部消化管内視鏡を長年やっていた小生が開業に当たって下部内視鏡を習いはじめて思い知らされたのは,書物を読み雑誌を見ても一向に上達しないことである。5分で盲腸まで挿入することができないのである。同じ悩みの医師が多いことは,コロノスコープ挿入法のビデオシンポジウムが決まって大入り満員であることからわかる。「日本のコロノスコピー」と銘打ったユニークなこの本は,その悩みの解消をめざしている。

「真の達人」をめざして

 光島先生は序文でコロノスコピーは楽器の演奏などと同じく技能であり,教科書やビデオでは絶対に会得できないと言う。反復練習するほかないのであるが,袋小路に迷い込んで悩み抜いている時にその道の先達の何気ない一言で突破口が開けるもので,苦労の末にそれを会得した藤井隆広・五十嵐正広・趙栄済・和田亮一・神保勝一・中島均の6氏が綴った文章の中からそれを見つけてもらうべくこの本を編集したと述べている。
 上野先生は序文で,コロノスコピーの技術に情熱を傾けるのも結構であるが,それは患者さんの健康維持のための一手段にすぎないと注意している。コロノスコピーの名人を自負する「町の力自慢」は傲慢である。しかし腕は自慢のために研くのではなく,苦痛がなく見落としがない検査ができるように患者さんのために腕を研くのが「真の達人」であると,わが意を得る極意が書かれている。
 このように主張する光島・上野両先生が執筆された第2章の5つの項は,まさにコロノスコピーに携わる者の規範である。
 そして第3章に,腹腔にただよう柔らかい腸管を手なずけて盲腸までスコープを進めるエキスパート6氏それぞれのやりかたが書かれている。編者らが意図するように,悩めるエンドスコピストはそこから珠玉の突破口を見つけることができよう。
B5・頁224 定価(本体9,000円+税)医学書院