医学界新聞

 

家庭医療学の持つ役割とは

第18回日本家庭医療学会開催される


 第18回日本家庭医療学会が,藤沼康樹会長(北部東京家庭医療学センター)のもと,さる11月15-16日の両日,東京・新宿区の早稲田大学国際会議場において開催された。
 「コミュニケーションから見たEBM」や「女性医師のキャリアとしての家庭医」といったユニークなテーマでのワークショップも企画され,会場は多くの参加者を集めた。


家庭医に必要な視点

 「家庭医とプライマリ・ヘルスケア」と題した会長講演で藤沼氏は,「家庭医療の現場は地域の健康問題のサンプリングの場所にもなっている」と指摘。目の前にあらわれる問題は,地域の問題にもなっているという視点を強調した。さらに,家庭医にかかる患者が増えれば,家庭医のサンプリングとしての機能も増すとの考えを示した。
 この視点を踏まえて「地域のQOL」を高めていくには,(1)地域の優先順位の高い問題の同定,(2)ゴールの設定,(3)実施,(4)評価の4項目を繰り返すサイクルを繰り返すことが必要であり,これがプライマリ・ヘルスケアそのものであると指摘した。
 氏は,こうしたプライマリ・ヘルスケアを推進するためのストラテジーとして,(1)効率的なプライマリ・ヘルスケア・サービスをつくる,(2)スタンダードを保証するメカニズムをつくる,(3)プライマリ・ヘルスケアにかかわるすべての人のパートナーシップを構築する,の3点を強調したうえで,「家庭医療の発展によって住みよい地域づくりに貢献する」という自身の思いを述べ,講演を締めくくった。

英国に見るGP教育の実際

 教育講演「Undergraduate community based medical education in UK」ではG. K. Freeman氏(英国インペリアル大)と,A. P. Hill氏(ロンドン大クイーンメアリー校,Independent GP educationalist)の夫妻が登壇。岡田唯男氏(亀田メディカルセンター)の司会・通訳で講演が行なわれ,英国におけるGeneral Practitioner(GP)による卒前教育の実際が紹介された。
 はじめにFreeman氏が大学の立場から発言し,英国に見られる診療所における教育の価値について言及。かつては大学において基礎医学を学ぶのが先と言われていたが,早い段階から患者に接することでプロとしてのモラルを形成することができ,また,問診・診察技術についても現在では診察室で教えられると指摘した。さらに,診療所で学生に接することによってGPは,「専門医になれなかった人がなる」のではなく,1つの専門領域として存在することを知らせることもできるとした。

専門医からの信頼を得る

 一方で専門医からはGPへの信頼は得がたく,学生の教育を行なうにも障害になることもあると述べ,教育についての専門的なトレーニングをGPの側が行なっておくことによって学生からの信頼を得,それが後に専門医からの信頼を得ていくことにもつながると指摘し,解決の方向性を示した。
 また,GP教育におけるポイントとして,医学的に必要な要素を集めることと患者のもつ問題とをうまくすりあわせていく技術であるとし,それをどう教えていくかが重要になるとした。さらに,「診療所と大学で教えることがリンクしていなければ,学生は地域で学んだことを忘れてしまう」として診療所と大学との教育におけるチームワークの重要性についても指摘した。

診療所側はどうかかわるか

 続いてHill氏が,受け入れ側である地域の診療所の立場から発言。診療所のGPとしての卒前教育での役割として,学生を患者に紹介して話をしてもらうことや,週に1度のグループミーティングで学生を呼んだり,大学に出向いての講義などをあげた。指導医と学生が1対1の組になって指導することもあるが,このためには診療所側に学生を受け入れられる,設備を含めた体制が必要とした。このほか,経験の少ない教員のサポートをすることや,大学のGP部門と連携して特定のコースの企画・運営,学生が行なう研究の監督役としてもかかわることもできると紹介した。
 氏は,こうした教育にかかわることは,教育者自身の生涯教育にもなると指摘。また,学生と接することで日々の診療活動に変化や刺激をもたらし,医師としてその地域で活動を続けていける源ともなること,学生とのかかわりがきっかけとなって自らも大学へ戻り,教員としてそれまでとは違ったキャリアを歩むこともあることなどといった,教育者側にとってのメリットもあげた。しかし,最も大きなモチベーションとなるのはやはり自分がロールモデルとなって学生を刺激していきたいという心であるとし,自分自身が患者を診る機会が減ったり,教育のための準備に使う時間に対して十分な金銭的見返りがあるとはいえないが,他のさまざまなメリットによって努力が報われていると締めくくった。