医学界新聞

 

外科医療が直面する問題を議論

第65回日本臨床外科学会開催される


 第65回日本臨床外科学会がさる11月13-15日の3日間,溝手博義会長(久留米大教授)のもと,福岡国際会議場,他で開催された。本学会では,特別パネルディスカッションとして「わが国における手術施設基準のあり方」が企画された他,「医療制度改革」,「外科専門医制度」,「卒後臨床研修医制度」の各テーマで特別シンポジウムが企画されるなど,現在,外科医療が直面している重要な問題が取り上げられた。


手術施設の集約化を狙った施設基準

 本紙では,昨年導入されて以来,その是非をめぐって議論が続いている「手術施設基準」を取り上げた特別パネルディスカッションの様子を報告する。
 昨(2002)年4月,高度な技術を必要とする手術を一定の専門医療施設に集中させるために,手術症例数などによって定められた施設基準を満たさなければ,その手術料を3割減算するという,いわゆる「手術施設基準」が導入された(その後,基準に満たない施設でも専門医の執刀であれば報酬の減算にはならないなど,いくつかの基準が緩和された)。

施設基準への疑問点

 特別パネルディスカッション「わが国における手術施設基準のあり方」(司会=出月康夫副会長,佐藤裕俊副会長)では,議論の絶えないこの「手術施設基準」について,外科系各領域や日本医師会,厚労省などからのパネリストがそれぞれの立場から発言を行なった。
 司会の出月氏はパネルの冒頭に「なぜ特定の手術に基準を設けたのか?」,「基準として設けられた症例数の根拠とは?」,「手術は外科医の技術による部分が大きいのではないか?(症例数が多いところでも,1医師あたりの数は少ないかもしれない)」,「減額の幅となった30%の根拠とは?」など,この基準への疑問点を列挙し,「国が基準を設けるのではなく,本来,患者自身が病院や医師を選択できるようにすべき。医療の質の向上,効率的な医療提供の観点からも問題がある」と問題提起した。

情報公開,技術評価のあり方などが課題

 さる9月,外保連は再度手術施設基準の撤廃を厚労省に提出しているが,山口俊晴氏(癌研病院)は,その外保連の行なったアンケート調査の結果をもとに発言。手術症例基準は「その算定根拠が示されていない」と指摘しつつ,「各都道府県に基準を満たす施設のない術式が多数ある。施設基準が導入された後もこれらの手術は専門施設へと集約化されなかった」と述べ,「実状を無視した実効性のない施策」と批判した。さらに氏は,「情報公開のルールを作ったうえで,患者さんに選んでもらうべきだ」と持論を展開した。
 消化器外科領域から発言した愛甲孝氏(鹿児島大)は「手術に関しては,普遍性,有効性,効率性,安全性,技術的成熟度,そして倫理性,社会的妥当性を考慮すべきものであり,難易度,時間,技術力の正当な評価が求められるべき」と主張した。
 心臓血管外科領域の竹内靖夫氏(東女医大)は,「心臓外科領域では3分の1程度の施設しか基準を満たしていない。2次医療圏の約75%が基準に達していない現状で,2次医療圏で医療を完結させるという方針と矛盾する」と指摘した。
 小児外科の岩中督氏(埼玉県立小児医療センター)は「乳児外科手術基準は,施設の設備,専門医構成などの学会認定施設の要件などを参考に決定すべきであり,手術症例数のみでの基準は不合理」とした。
 脳神経外科の有賀徹氏(昭和大)は「施設基準の根拠などが乱暴」,整形外科の松下氏(帝京大)は「技術レベルに応じて診療報酬を変えるという方針には賛成だが,今回の基準は適切なものではない」など,批判が続いた。
 矢面に立たされた形の中村健二氏(厚労省医療課)は「現在医療技術評価に関する調査組織を中医協の下に設置し,手術の施設基準についても,活発に討議している」と述べた。また,青柳俊氏(日本医師会)も「手術施設基準の導入は科学的根拠が明確でない」と述べるとともに現在の診療報酬体系が持つ不合理を指摘した。

一般の人にわかりやすい基準を

 フロアを交えた討論では,出月氏が「施設基準ではなく,専門医を評価する方向で解決されるべきではないか」と述べると,青柳氏は「米国では第3者が専門医を認定し評価している。日本のように学会が認定し評価するような専門医では,批判に耐えられないのではないか」とその方向性に疑問を呈した。出月氏もこれに関し,「日本における,第3者機構による専門医認定の足を引っ張るような政策が行なわれた」と昨年,この手術施設基準の緩和にあわせて導入された「学会が認定した専門医」という概念を批判した。
 また,市民の立場から討論に加わった飯野奈津子氏(NHK)は「施設の質,専門医の質,そのいずれも一般の人にはわかりにくい」と述べ,どういう基準で,何年ごとに更新を行なっているかなど,わかりやすく示すべきだとの考えを述べた。
 司会の佐藤氏は,「どこで治療をするか選択するのは本来患者だ。そのために必要な仕組みをつくっていかなければならない。この議論を来年度の改定に活かしてほしい」と述べ討論を締めくくった。