医学界新聞

 

「新たなる医療への展望」をテーマに

第4回日本クリニカルパス学会開催


 第4回日本クリニカルパス学会が,さる11月21-22日の両日,光波康壮会長(中電病院顧問)のもと,広島国際会議場にて開催された。「新たなる医療への展望」をテーマとした今回は,特別講演で医事紛争・医療安全対策や診療報酬包括化,教育講演で人事考課や術後管理が取り上げられるなど,クリニカルパスを在院日数短縮だけでなく,医療の諸課題を解決するツールとして捉える試みが目立った。また,招待講演では,本紙連載でもおなじみの李啓充氏(医師・作家)が登場するなど,多彩な企画に3000人の参加者が熱心に耳を傾けた。


人事考課のあり方と病院変革

 阿部俊子氏(東医歯大)は「クリニカルパスと医療における人事考課のあり方」と題して講演。まず,人事考課に際して組織内の職務規定が欠けている病院の現状を指摘し,それぞれの診療科でナースに求められる最低限の事項が明確でなければ,適切な人事考課もできないと強調した。また,考課要素の設定に際しては,もともと持つ「能力」だけでなく「情意(やり遂げようという意思)」と「成績」をあわせた3要素を細分化し組織の理念によってウェイトをかけることや,「1回失敗したら駄目」として本人の動機づけを下げないために考課結果は一定期間ごとに精算していくのが望ましいことを説明した。
 次に,近年人事考課の方法論として注目されているバランス・スコア・カードについて説明。「これまでの企業は財務的視点だけでよかったが,生き残っていくためには人的資源や業務プロセスの視点が不可欠となっている」と普及の背景を説明し,医療においては,特に業務プロセスと患者の視点において,パスの項目を練りこんでいくことができると言及した。
 最後に,「いいパスがあったら教えてください,とよく言われるが,自分たちで考えて,自分たちの病院から医療を変えていくぐらいの気持ちが大切」と参加者に檄。「病院の顧客はドクターでなく患者」「看護にしかわからない看護の質を考えるのではなく,患者にわかってもらえる看護の質を」など,患者中心の医療実現の期待を込めてメッセージを贈った。

包括化の本質は診療報酬と医療コストの分離

 医療制度改革の柱として,2003年4月から全国の特定機能病院においてDPCに基づく包括支払い制度が導入された。さらに次期診療報酬改定をめぐる中医協の議論の中で支払い側委員から民間病院への拡大を求める声があがるなど診療報酬包括化に関する医療関係者の注目が高まっている。
 高瀬浩造氏(東医歯大)は,「診療報酬包括化とクリニカルパス」と題して特別講演。診療報酬包括化について基本概念を解説するとともに,「包括化ときわめて関連が強い」というクリニカルパスとの相互影響を分析した。
 氏はまず,包括化に至る背景となった日本の医療制度の問題点を,海外の医療制度や他産業との比較を通して指摘。「現行の医療制度は崩壊し,医療従事者の負担と疲弊のうえで成り立っている」との考え方を示し,「自分たちの戦略を実行できる医療制度を実現するには,包括化が第一歩になる“かもしれない”」とした。さらに,診療報酬と医療コストは本来まったく別のものであるにもかかわらず出来高払い制度の中では同意義となる矛盾を指摘し,それらが包括化で分離されれば(診療報酬=包括評価部分+出来高部分),医療コスト低減による収益化の可能性が出ると強調した。
 包括化が医療機関の意識に与える影響としては,薬剤使用の適正化などコストダウン意識の浸透をあげ,DPC導入後,抗生剤の一種でコストに対して効果が低い薬剤の使用機会が半分になった例を報告。また在院日数短縮との関連については,「クリニカルパスは在院日数短縮のプロセスに影響し,包括化は意識改革に影響する」と影響力が強いとの見方を示した。
 包括化には過少診療の危険性も付きものだが,氏はクリニカルパスによる標準的な質保証が過少診療防止の役割を果たすとした。また,包括対象の詳細が記載されないため患者に診療内容が説明しにくい点についても,パスによる診療内容の説明が有効であると述べた。逆に,包括化がパスに与える影響としては,パスの持つ効率化要素に期待が集まること,DPC/パスによるベンチマークの実施によって医療機関間の比較が進むことなどをあげた。
 最後に日本の医療制度の行方を述べる中で,「DPC/パスで医療の標準化が進むが,医療水準向上の中でも(現在の社会状況の中では)低コストは維持しなければならない」として,包括化診療のコスト部分を削減し,活路を見出すという方向性を示した。




過誤防止に果たす看護の役割に期待

李啓充氏招待講演「米国における医療過誤防止努力に学ぶ」から




 招待講演では李啓充氏が登場。病院側の真相究明への真摯な努力と患者家族への説明,心理的ケアによって示談が成立し,過誤被害者の父親に「これからもそちらの病院で家族がお世話になりたい」とまで言わしめた米国の医療過誤防止努力の事例を最初に紹介。(1)何が起こったのか本当のことを知りたい,(2)謝ってほしい,(3)他の患者に同じことが起きるのを防いでほしい,という3つの条件を病院側が早急に満たせば,訴訟に至る可能性は低いとした。また,「医師の治療に疑問を持った時,看護師は遠慮せず患者のために質問し,周囲もその行為をサポートしなければならない」として,過誤防止のためには医療文化の変革が不可欠だと強調した。
 また,「看護師が受け持つ患者が1人増えるごとに患者の死亡率は7%増える」(JAMA2002:288)など,人員配置と患者安全に関するショッキングな報告を引用。米国では医療過誤防止における看護師の役割の重要性がデータで示され,一企業が看護師養成に1億ドル寄付するなど社会的にも認知されている現状を伝えた。
 最後に日本における問題点として,米国の医療施設評価合同委員会(JCAHO)のような医療の質を保証する制度が社会にないこと,再発防止よりも処罰を優先するカルチャー,医療過誤の調査法が標準化されていないことなどを指摘した。さらには,「インフォームド・コンセントは患者との治療のゴールを共有すること」として,訴訟逃れの書式が流布する日本の現状に警告を与えるなど,アメリカ医療の“光”の側面からの真摯な学びを日本の医療従事者に求めた。