医学界新聞

 

「第9回白壁賞」,「第28回村上記念『胃と腸』賞」決定


 「第9回白壁賞」および「第28回村上記念『胃と腸』賞」が,それぞれ八巻悟郎氏(東京都がん検診センター,現:こころとからだの元氣プラザ)他による「食道m3・sm1癌の質的・量的X線診断」(『胃と腸』誌37巻1号),橋立英樹氏(新潟大学医学部病理学第1講座,現:新潟市民病院臨床検査部)他による「cap polyposisと隆起型MPSとの病理組織学的差異」(『胃と腸』誌37巻5号)に決定し,さる9月17日,東京・千代田区の一ツ橋ホール(日本教育会館内)で開かれた早期胃癌研究会の席上,両賞の贈呈式が行なわれた。

食道m3・sm1癌の質的・量的X線診断

 白壁賞は,故白壁彦夫氏の偉業を讃えて設けられた賞で,氏の業績を鑑みて,消化管の形態診断学の進歩と普及に寄与する優れた論文を対象とし,「『胃と腸』誌に掲載された論文に限らず,同誌編集委員が推薦する論文も対象とする」としている。
 贈呈式では,選考小委員を代表して渕上忠彦氏(松山赤十字病院)が,「内視鏡治療と外科手術の狭間にある食道m3・sm1癌の深達度診断の指標を,X線の立場から示した。X線で癌の微細な所見を美麗に描出し,さらに術後造影像を撮影し,それを切除標本と見事に対比している。癌がm3に少なくとも3mmの長さで浸潤すると粘膜面の凹凸の変化,あるいは辺縁における凹凸不整像としてとらえられ,表層拡大型などの大きな病変を除くとその所見をとらえることで,m3・sm1癌の深達度診断がX線診断で可能と結論している」と選考理由を説明。また,同誌編集委員長の牛尾恭輔氏(国立病院九州がんセンター)から賞状と盾が贈られた。
 受賞者を代表して挨拶に立った八巻氏は,「恩師,白壁先生の冠のついた賞をいただけるのは夢のようである。形態学は一人でできるものではなく,外科,病理の先生方に迷惑をかけた。さらに,X線技師の方々には,どうしても術後造影像を撮りたかったので,夜遅くまで条件合わせなどをしてもらった。1つの標本からの200個以上のブロック1つ1つのプレパラートをていねいに作っていただいた病理の技師の方にもお礼を言いたい」と謝辞を述べた。

cap polyposisと隆起型MPSとの病理組織学的差異

 引き続いて「村上記念『胃と腸』賞」の贈呈式が行なわれた。
 本賞は,『胃と腸』誌創刊当時の「相期胃癌研究会」の代表であった故村上忠重氏を顕彰して設けられた賞で,消化器,特に消化管疾患の病態解明に寄与した同誌の年間最優秀論文に対して贈られる。
 贈呈式では,渕上氏が「cap polyposisと隆起型MPS(mucosal prolapse syndrome;粘膜脱症候群)は病変の分布,形態の違いなどから,臨床的には鑑別可能だが,病理組織学的には鑑別点が明らかでなかった。この論文では,HE染色に加え各種特殊染色を用い,両者の組織学的差異を明らかにした」と選考理由を説明した。
 挨拶に立った橋立氏は,cap polyposisは12症例22病変,MPSは36病変と,かなりまれな症例を数多く検討できたことについて,協力施設および渡辺英伸教授室への感謝の思いを強調し,「論文を書いて知ることも多いが,それ以上に課題や論文の不備,やりたいこと知りたいことが増えてくる。cap polyposisについてもまだわからないことが多い。特に病因についてもっと深く知りたい。cap polyposisの組織学的な定義もしっかりしなければならない」と抱負を述べて謝辞を締めくくった。



「第11回総合リハビリテーション賞」決定


縦断研究による虚弱高齢者の転倒頻度と身体機能変化との関係

 「第11回総合リハビリテーション賞」(主催=金原一郎医学医療振興財団,後援=『総合リハビリテーション』編集室)が,島田裕之氏(介護老人保健施設二ツ箭荘)・他による「21か月間の縦断研究による虚弱高齢者の転倒頻度と身体機能変化との関係」(『総合リハビリテーション』30巻10号)に決定し,さる9月22日,その贈呈式が東京・文京区の医学書院本社会議室において行なわれた。
 本賞は『総合リハビリテーション』誌編集顧問である上田敏氏(東大名誉教授)が東大を退官された折(1993年)の同財団への寄付を原資基金として発足。同誌に掲載された1年間の全投稿論文を対象に,最も優れた論文を表彰している。今回は同誌第30巻に掲載された投稿論文45篇を対象に,編集同人による投票の結果を踏まえ編集委員会で審議して決定された。
 今回の受賞論文は,通所リハビリテーションを利用する高齢者を対象に転倒状況と機能状態との関連性について21か月間にわたり追跡調査を行ない,転倒の予測因子と効果的な介入方法を提唱したもの。
 高齢者が寝たきりになる原因の上位にあげられる「転倒」については,介護保険制度の導入に伴い「介護予防」という概念が注目される中,国の施策でとりあげられるほどの問題だが,今までは比較的地味な研究領域とされてきた「転倒」を研究テーマとしてていねいな研究を続けられているところが高く評価され,今回の受賞につながった。

Second Decade 第1回目の受賞論文

 選考委員を代表して木村彰氏(慶大)が,「この賞も今回が11回目となり,島田先生はSecond Decadeの第1回目の受賞者となります。先生の研究によって“転倒”という研究領域にまさに“点灯”して光がさしたわけです。引き続いてぜひこの分野の研究を続けてください」と軽妙なジョークを交えて講評を述べた。
 引き続いて開かれた受賞祝賀会では,上田敏氏から「リハビリテーション医学界に何らかの形で貢献したいという思いでこの賞を作っていただいた。受賞者のリストを見ると,いかにもリ“ハビリテーション医学”にふさわしい多職種の方が受賞しておられ,『総合リハビリテーション』誌にふさわしい賞になっていると喜んでいる。1回受賞したら免疫ができる,ということはないので,今後もがんばっていただきたい」と受賞者を激励した。
 続いて受賞者の島田氏からは「最初に投稿した時には非常に厳しいコメントをいただいたが,査読をしていただいた先生方の懇切ていねいなご指導のおかげで,賞をいただけるような完成度の高い論文となったと思う。高齢者の転倒は,重篤な大腿骨頚部骨折などの疾病を引き起こす大きな要因の1つで,それが高齢者の寝たきりにつながるということで比較的最近のリハビリテーション分野でのホットな話題になってきている。継続的に高齢者の方を,“通所リハ”,あるいは“施設ケア”で見ているわれわれにとっては,転倒頻度が上昇してくる方がいらっしゃるが,そのような方々のどういうところが問題になっているのか,なぜ転倒頻度があがってきてしまうのか,というところに強く関心を惹かれた。今後は引き続き対象を変えて,転倒しないけれども,これから転倒リスクが高まるような介護予防の対象者を中心にして,研究を進めてゆく所存です」という決意のほどを受賞の言葉とした。