医学界新聞

 

患者の心理と行動面への着目が焦点

第8回日本糖尿病教育・看護学会の話題から




 さる9月27-28日,第8回日本糖尿病教育・看護学会が佐々木ミツ子会長(末浜病院看護部長)のもと,新潟県・朱鷺メッセにおいて開催された。「実践に求められる糖尿病患者教育・看護――心の通う取り組み」をテーマにした今回は,学会史上最大の149題の演題を集めた大規模な学術集会となった。


糖尿病療養指導士の実態とは

 会長講演では佐々木氏が「糖尿病療養指導士の活動実態とよりよい体制づくりを目指して」と題して,3年目を迎え,8000名を超える認定者を出した制度の現況と今後の展望について語った。
 世界的な糖尿病患者の増加傾向の中,日本では総人口1億2000万人のうち700万人が糖尿病であり,その数は年々増加していると言われている。佐々木氏は,こうした状況の中,医師,特に糖尿病専門医のみの取り組みによって糖尿病の2,3次予防を行なうことは不可能であり,そこに療養指導士制度発足の強い社会的要請があったと指摘。現在約8000名の認定者のうち4000名が看護師ということもあり,その現況を明らかにするためにも,糖尿病療養指導士のいる全国の施設の看護師長ならびに看護師に対して行なったアンケート結果を発表した。
 まず,佐々木氏は,8割以上の施設で糖尿病教室が開かれ,6割を超える施設で個別指導が行なわれているといった,積極的な患者指導の実態を報告。また,しばしば指摘される資格取得者の異動の問題については,77%が「(糖尿病へのかかわりを)継続できるなら,異動してもかまわない」と回答したことを紹介。療養指導士のかかわりが継続できるよう,フレキシブルな管理を行なう必要性を示唆した。
 一方,療養指導士の側からは不満もある。管理者からは「院内・院外へのスタッフ教育」「自分自身のレベルアップにつなげてほしい」といった期待が寄せられる半面,「資格取得者として認められていない」「資格継続が金銭・時間的に困難」「給与面に反映しない」「他施設の療養指導士と連携をとる機会がない」といった不満の声が紹介された。
 佐々木氏は最後に自らの療養指導の経験を述べつつ,「患者への心理的アプローチを重視して取り組んでいる療養指導士の取り組みは今後も継続していくべき。ただ,今回のアンケートから,療養指導士の待遇面の改善や地域間の連携の必要性が示唆された」と述べ,今後療養指導士の自主的な組織ができることによって,糖尿病にかかわる看護師の教育の充実が期待できる,とまとめた。

さまざまな角度からの心理アプローチが紹介される

 シンポジウム「糖尿病教育における心理的アプローチ」は,座長・中村慶子氏(愛媛大),山田洋子氏(新潟県立吉田病院附属看護専門学校)のもと,山田幸男氏(信楽園病院),朝倉俊成氏(太田西ノ内病院),岡崎優子氏(東北厚生年金病院),安酸史子氏(福男県立大)の4名のシンポジストによって行なわれた。
 はじめに山田幸男氏は,内科医である自分が視覚障害者のリハビリテーションにかかわるようになった経緯を紹介。糖尿病性網膜症によって失明した患者さんが,その診察の直後に自殺するという悲劇を経験した山田氏は,糖尿病診療における視覚障害へのケアの重要性を認識することとなった。視覚障害者,特に中途視覚障害者へのリハビリテーションは,例えば脳卒中患者へのリハビリテーションに比べ大きく遅れている。山田氏はそうした中で行なわれている数少ない視覚障害リハの知見を調査・研究してきた(山田幸男・小野賢治著『視覚障害者のリハビリテーション』日本メディカルセンター発行にまとめられている)。
 視覚障害者へのリハビリテーションは,心理的ケアの側面からも,早期から開始する必要性が高い。山田氏は,特に糖尿病性網膜症の場合は,他の合併症との併発などから生きる希望を失ってしまう患者も少なくないため,眼科よりもむしろ内科での受診時から積極的にかかわっていく必要性を訴えた。
 続いて朝倉氏は薬剤師としての立場から,インスリン導入時の心理的問題について,具体的な対処法とその考え方を述べた。インスリン導入時には注射や低血糖の恐怖から,インスリンそのものに対する否定的な感情まで,さまざまな拒否的な心理が働く。朝倉氏は「インスリンをすでに使用している人は,使用していない人よりもインスリンに対する肯定感情を持つ人が多い」といったさまざまなデータを提示し,患者が受け入れやすい説明方法を示唆した。
 また朝倉氏は,多種多様なインスリンの自己注射器の選定についても,文字の大きさや使いやすさなどに関するさまざまなデータに基づいて,患者個々に合わせて,機器の選定を行なうべきであると述べた。さらにそのアセスメントの際には,「視力」や「握力」といった数値的なデータだけではなく,例えば「新聞の文字は読めますか」「万年筆のインクの入れ替えは自分でできますか」といった,具体的かつ日常的な問診によってアセスメントするのが良いと解説した。
 続いて岡崎氏は糖尿病看護認定看護師の立場から,患者の持つ力を引き出すような心理アプローチの重要性を語った。外来での療養指導の実例を紹介したうえで岡崎氏は,傾聴を軸にステップバイステップで患者を思い込みから解き放つ必要性を強調。患者の自己効力感を高めることができれば,継続的な自己管理を定着させることができるとした。その意味で氏は,例えばインスリンの自己注射指導などでも,単に注射手技を教えるのではなく,そのかかわりの中で,自己効力感を高め,自己管理の意識を高めてもらうようなアプローチをしていくことが重要だと述べた。
 最後に安酸氏は,心理的アプローチの理論モデルと臨床とのかかわりについて概説。糖尿病での心理的アプローチとして近年注目されているのは自己効力理論とエンパワメントアプローチであると述べ,両者が糖尿病患者教育のさまざまな場面で活用されうるものであることを紹介した。
 さらにこうした理論を臨床で活用することの意義として氏は,(1)方針が立てやすい,(2)共通言語でディスカッションができる,(3)評価がしやすい,(4)後輩への指導が行ないやすい,などの利点をあげ,今後もこれらの理論が糖尿病患者教育の中で活用されていくであろう見通しを述べた。

多数のセミナーが開催される

 今回の学術集会では同時開催セミナーとして,ランチョン・イブニング合わせて6つのセミナーが行なわれ,多くの参加者を集めた。
 セミナー2「問題探索型コンピュータソフトを用いた看護面談の展開」では,山本壽一氏(ハートライフ病院医師),大城郁子氏(同看護師)が,コンピュータソフト「アキュチェックインタビュー」(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いて行なった患者面接の様子をビデオで紹介。面談を繰り返すうちに顕著に打ち解けてくる患者の様子や,自らの面接をビデオで見直すといった形で,医師・看護師の教育プログラムとしても使用している現状などを紹介した。
 またセミナー3「どこまでやれるか日本式糖尿病エンパワーメント」では,石井均氏(天理よろづ相談所病院)が,患者の自己決定能力を引き出すエンパワーメントアプローチについて紹介。石井氏は全国各地のナースの取り組みを紹介しながら,こうしたアプローチが日本の社会・文化背景の中でどのように定着していくのかを,参加者全員で考えていきたいと述べた(このセミナーの詳細は『糖尿病診療マスター』〔医学書院〕2004年1月号に掲載予定)。