医学界新聞

 

Vol.18 No.9 for Students & Residents

医学生・研修医版 2003. Nov

〔座談会〕救急初期研修で学べること

臨床医に必須のスキル・知識とは

田中 和豊氏(国立国際医療センター
救急部=司会)

大橋 博樹氏(聖マリアンナ医科大学・
医師4年目)

清水 逸平氏(国立国際医療センター・
内科系研修医2年目)

天羽健太郎氏(聖路加国際病院・
外科系研修医2年目)
 


 2004年度から医師卒後臨床研修が必修化される。中でも救急医療を含む7診療科のローテーションが義務付けられることによって,すべての医師が,初期の鑑別診断や救急処置の基本的な能力を習得することが期待されている。今回は『問題解決型救急初期診療』(医学書院刊)を執筆した田中和豊氏を中心に,救急初期研修で何が学べるのか,学ぶべきなのかを体験談を交えつつ語っていただいた。


■研修中に救急をローテートする意義

施設ごとに大きく異なる救急システム

田中 今日は救急での研修を経験された卒後2-4年目の先生にお集まりいただき,救急初期研修についてのお話をうかがいたいと思います。まずは,それぞれの研修病院を選ばれた経緯からお話ください。
大橋 私は卒後4年目になりますが,卒後研修は武蔵野赤十字病院で2年間行ないました。武蔵野赤十字病院を選んだ理由は,学生時代に見学に行った時,救急外来の当直で研修医が,大人も子どもも外傷から内科的疾患まで,ほとんどすべての1・2次救急の疾患について診療している姿を見て,「こういうふうになんでも診ることができる医師になりたい」と思ったからです。
 武蔵野赤十字病院では,現在,年間約9000台前後の救急車,約4万人の救急患者さんが訪れます。当時も,かなり多くの患者さんがいらっしゃって,夜はてんやわんやの状態で,何が何だかわからないまま,ひたすら患者さんを診ていたという状況でした。その中でもよかった点は,2年目の研修医が1年目の研修医を教える習慣があることでした。2年目の先生は,1年目の人間がわからない点をよく知っていますから,いちばんよき理解者であり,よき指導者だったと思います。
 とはいえ,指導体制に問題がなかったわけではありません。僕らのように何でも診る研修医はいても,何でも診る指導医というのは日本にはまだなかなかいません。何か起こった時に,何科の先生を呼んだらいいのかがわからないことが多く,その点が2年間かなり苦労した点です。
 救急研修をこなす中で,臓器や診療科にとらわれず患者さんを診る,いわゆるプライマリケアに大変興味をもちました。現在,家庭医療学という分野をやっていますが,患者さんを全人的に診る点や,コモン・ディジーズを扱うという点で,救急で学んだことが活かせていると感じています。
清水 私は現在国立国際医療センターの内科で研修をしています。学生の時から決めていたことですが,3年目以降は循環器を専門として研鑚を積む予定です。初期研修の2年間は専門にとらわれない各科のジェネラルな知識・技能を身につけるために現在の病院を選びました。
 国立国際医療センターでは,大学病院で診るような専門性の高い疾患から,喘息,虫垂炎といったコモン・ディジーズまで幅広く診る機会があり,大学病院と市中病院の中間に位置する存在だと思います。また国際色豊かで,日本の社会全体を凝縮したような新宿という街にあるため,さまざまな国籍や社会背景を持つ方々がいらっしゃいます。当直をしていると,日本語も英語も通じない方が心肺停止状態や意識障害でこられることも決して珍しくはありません。あらゆる面で「多様性」が存在し,日々それに対処することを求められる研修病院といっても過言ではないでしょう。
 救急部では便秘から交通事故の多発外傷まで,いろいろな緊急度の方を診る機会をいただき,プライマリケアの技能を身につけるのに理想的な環境だと思います。またACLS(Advanced Cardiac Life Support)やJATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)に精通した先生方がいらっしゃるため,それらのアルゴリズムを学べるという面でも非常に満足しています。
天羽 私は昭和大学を卒業し,研修システムがしっかりしていることに魅力を感じ,聖路加国際病院に就職,現在,外科系2年目として研修を行なっています。聖路加国際病院の救急の特徴は,1次救急のごく軽症の方から,最重症の3次の方までを扱うところ,また救急のICUがあり集中治療ができるところなどです。
 実際に,救急の外来をしていると,本当に“なんでもあり”で,とても勉強になりました。逆に問題点としては研修するにあたって的をしぼりきれないということがありました。聖路加国際病院の外科系研修医の救急のローテーションは2か月と短く,自分も何をしていいのか焦点をしぼりきれず,中途半端に終わってしまったと感じています。重症者の入院治療に重点を置くのか,外来に重点を置くのかによって,時間の使い方が変わってきますから。正直言ってもう少し長くやりたかったなというのが本音です。
 それでも,1次から3次までを診ることができましたし,聖路加で救急を学んでよかったと思っています。
田中 聖路加国際病院の場合は,1-3次のすべて,つまり歩いて来院する人も,救急車で来る人も,小児科・産婦人科以外の人は全部,救急が診ることになっていて,そのうえ集中治療室も病棟も持っているというシステムになっているというお話でしたが,救急のシステムは施設ごとにかなり違うようです。
 例えば国立国際医療センターでは基本的に,救急車で来る患者さんは救急で診ることになっていて,歩いてくる患者さんは当該各科の研修医が別に診ることになっています。また,集中治療室は持っていません。
大橋 武蔵野日赤の場合は,3次救急の部門が1つの科として存在していて,研修医は1-2年目にそれぞれ2-3か月そこにローテーションすることになります。そしてそれ以外の期間はどの科をまわっていても週に1-2回の救急当直があり,その時に1,2次救急を診ることになります。
田中 ローテーションについては,国立国際医療センターの場合は何年目に救急をローテーションするかはわからないのに対して,聖路加国際病院の場合は,原則として2年目に救急を回ることになっています。つまり,1年目には内科あるいは外科といった自分の専攻を回って,その応用として2年目で救急を回ることになっていますね。1年目にも救急当直はあるのですが,これは「見習当直」といわれていて,本当直ではなく,時間を限って,上の先生について助けるというかたちになっています。

いつ,何を救急で学ぶのか

田中 3施設だけでも,かなり救急のシステム,そしてローテーションのシステムが違うわけですが,研修の内容について,あるいは何年目でまわるのがよいかということについてはどのように考えていますか?
大橋 私はコモン・ディジーズを診る救急が今の日本の研修には欠けていると思いますし,それは医師であれば誰でもできなければいけないことだろうと思っています。それを学ぶためということであれば,1年目からはじめるのは決して悪いことではないでしょう。私の場合は,1年目から内科,外科などの領域を超えた,さまざまなコモン・ディジーズを診ることができましたし,それは大きな財産となっています。
 また,救急といっても,いわゆる集中治療管理や重症患者管理というものについては,極論すれば,エレクティブになってしまってもいいと思います。各科のスキルをある程度学んだ2年目にやればいいのではないでしょうか。
清水 early exposureという点では1年目から何らかの形で救急部にかかわれるのが理想的だと思いますが,メインで救急部をまわる時期としては2年目がよいと思います。現在私は2年目で回っていますが,ある程度の手技が身についていることから,診断学に頭を割く余裕があり,今まで身につけてきた技能・知識を救急の現場という,時間的に限られた状況で発揮するトレーニングを積めると思います。
 ただ,1年目,2年目ということよりも,救急部に回るのが6週間だけというのは個人的にちょっと物足りなく感じます。専門医を志している私にとっては,この2年間は各科の初期診療を学び実践するのにとても大切な時期です。月に数回でもよいので他の科にいても,歩いて来院する患者を対象とする研修医当直とは別に,救急車で来院する患者を診る救急部の当直をし,365日2年間に渡り経験を積む機会があればよいと思います。
 コモン・ディジーズ患者の外来対処か,重傷者の集中室管理のどちらに重点を置いて救急部での研修を積むかという話ですが,両者を同時に学ぶのは非常に困難だと思います。どちらかといえば救急部のローテーション中は外来初期研修を学ぶのに重点を置くほうがよいと思います。
天羽 「救急」といっても仕事の内容は幅広いので難しいのですが,外来の初期診療に関しては1年目に回ったほうがいいんじゃないかと私は思います。患者さんの様子からわかるもの,感じ取れるものをもとに診断する,いわゆる「症候診断学」は,医師としていちばん最初に身につけておきたいものですし,それを救急で身につけておくことは,病棟に出た時に非常に役立つと思います。もちろんこれは,1年目の研修医にすべて任されるといった環境ではなく,ちゃんと指導してくれる上級医がいて,診断が1年目研修医のひとりよがりにならないシステムがあるうえでの話ですが。
 重症者の集中治療については皆さんと同じく,1年目からは難しいと思います。重傷者管理は知識もスキルも必要ですし,ある程度患者を診れるようになった2年目に回ったほうがよいでしょうね。
田中 研修時期については意見が分かれるけれども,研修内容としては概ねコモン・ディジーズを学びたいということですね。私も,いわゆるプライマリケアを志したのは,研修医として横須賀米海軍病院で勤めていた時のことでした。
 そこでは,例えば外科の先生が「腹痛」について,小児科疾患から婦人科の子宮外妊娠まで,患者の年齢,性別によらず,全部の鑑別診断の入った内容を講義しているのです。もちろん,外科で手術をする能力もある先生です。そういうプライマリケア能力のある専門医を見て,「こういうふうになりたいなあ」という思いと同時に,そういう能力のない自分が非常に悔しかったことを覚えています。
 今回新たに設定された厚生労働省の研修基準には,「経験すべき症状・病態」として35項目があげられています。内科疾患,外科疾患,産婦人科疾患から精神科疾患まで含めたこれらすべてを診ることができるのは医者の夢,本当に理想ですよね。もちろん私もこれらをすべて診ることは無理ですが,救急初期研修は,こういう理想に少しでも近づくチャンスだと思います。
大橋 日本の専門医は,「少なくとも自分の科の病気じゃない」と特定する能力まではあると思うんです。しかし,その先の「○○という病気が疑われるので,そちらにコンサルテーションしましょう」と言えないという問題があるように思います。
田中 腹痛の場合だったら,まず内科の先生が診て,「内科的疾患ではない」と言う。次に外科の先生が「外科疾患ではない」。産婦人科の先生も「産婦人科疾患ではない」と,患者さんはいろいろな科をたらい回しにされて結局,救急で「便秘です」と診断される(笑)。そういう症例は非常に多いと思いますよね。アメリカの医療では,ジェネラリストが1人そこに入ることで,そういう問題が回避されているという側面はあるでしょう。無論,それはそのジェネラリストが優秀であれば,ということですが。

■何を学べるのか――実際に救急現場に身をおいて

診断から手技まで,高い密度で学べる

田中 実際に救急を回ってみて,これはよかったという点は何でしょうか。
大橋 救急外来で僕が学んだことは,患者さんとその家族に会うことができたことで,コミュニケーションスキルを多く学んだということがあります。それからやはり,何が「コモン・ディジーズ」かということを学べたことは大きいです。外来に来た患者さんを診る時に,「これだけは見逃してはいけない」ということを判断するスキルを学べたと思いますね。
田中 それは病棟や集中治療室でも役に立つスキルですか。
大橋 そうですね。例えば病棟で自分の診ていた子どもが転倒してしまった時にも,まず自分が駆けつけてとりあえずの処置をして,その後で脳外科の先生にコンサルテーションを仰ぐことができるというように,とりあえず自分で何とかしてから専門の先生にコンサルテーションができるという自信はついたように思います。
清水 いかなる分野の疾患を想定するにしても,救急車で来院した患者さんを診て最初にすることは,A(airway),B(breathing),C(circulation)の確認をすることです。ACLSではそれに加えprimary surveyではD(defibrilator;除細動),secondary surveyではD(differential diagnosis),JATECではD(consciousness disturbance level;意識レベル)となるわけですが,内因性疾患,外傷のどちらの場合もABCDアプローチを行ない,問題があれば同時に対処していくという基本的なスタンスが確認でき,実践する場があったことが非常によかったです。
天羽 救急を回っていちばんよかったのは,他の科では診ないようないろいろな疾患を診ることができたということですね。とにかく,軽症から重症までいろんな人が来るので,そういう人たちを,自分でイチからアセスメントしていって,どこの科にコンサルテーションすればいいのかということが経験の中でわかっていく。それが学べたというのはすごく勉強になり,自信につながったと思います。
 ACLSの話が出ましたが,病棟での急変の時にも,救急での経験があるため落ち着いて対処できますし,何をすればいいのかがわかります。今,目の前にいる患者の状態は,何をすれば把握できるのか,また,どういう状態が危ない状態なのかということが理解できたように思います。
田中 多彩な患者さんを診ることで,いわゆるプライマリケアができるようになったこと,また蘇生法を学ぶことなどで緊急時の対応に自信がついたということですね。一方,救急の大きな学習目標の1つに,手技的なものがあると思いますが,挿管,中心静脈ライン挿入などの手技についてはどのように学ばれましたか。
大橋 3次救急ではかなりの数の挿管とCVライン挿入のチャンスが得られたと思います。CVラインの挿入は,他の科を回っていてもやる機会があるとは思うんですが,やはり救急を回った後には落ち着いてできるようになっていますので成果はあったと思っています。
田中 胸腔ドレナージやチェストチューブ,気管切開などの手技は行ないましたか。
大橋 胸腔ドレナージは何回か経験しました。気管切開も必ず1回か2回,(手術の)前立ちか何かでやると思います。
田中 清水先生はどうでしょうか。
清水 手技的には,私は2年目ということもあり,あまり新鮮さはありませんでした。しかし,時間的制約がより厳しい状況下で手技を行なうトレーニングを積むことができたと思います。気管内挿管1つとっても,オペ室できちんと管理された状況下で行なわれる場合と違い,刻々と状態が変化・悪化する中での手技にはやはりプレッシャーがかかり,より困難なものであることは救急外来で経験しました。
天羽 聖路加には救急のICUがあるので,そこに入る患者さんを受け持つことで,CVライン挿入,ほかにも挿管や,気切,胸腔ドレナージなどたくさんの手技をする機会に恵まれました。また,外来でよく起こりうる外傷,例えば包丁で切ったというような手の切傷や,階段から落ちて頭を打った時の切創に対する処置が,手技では印象に残っています。そういった処置がある程度自分ひとりでできるようになったことが非常にうれしかったですね。
田中 医師が自分ひとりで手技をするという体験は,研修時代の救急外来しかなかったように思います。外科を回っていても,消毒・麻酔・縫合・包帯の全部を1人でやることはないですね。手術室で縫う場合でも,既に消毒してあり,麻酔もしてあるので,縫うだけになりますが,救急外来の場合は,消毒からはじめてすべてを自分ひとりでやらなければなりません。

救急の知識をどう学ぶ?

田中 お話をうかがっていると皆さん,救急のローテーション中にいわゆる診断学を学ぼうとされているわけですが,どういうふうに問診し,診察し,検査をするのかについて,どういった勉強をしたのかということを教えてほしいと思います。経験で覚えていったのか,上の先生から教わったのか,本を読みながらやったのか,もし読んだとしたらどんな本を読んだのか,といった話をお聞きしたいです。
大橋 内科の患者さんは4-5割で,それについては『内科レジデントマニュアル』を使用していました。外科やその他の科については,初期の対応のマニュアルというのがなくて,僕らは伝統的に研修医のあいだでプリント集を作っていました。毎週1-2回,勉強会を開いて,それをファイリングしたファイルを伝統的に回していくんです。
 本については,各個人がいろいろなものを使っていました。ただ,日本の診断学の本には,内科診断学しか書いていないものが多くて,救急での多様な患者さんに対応するには不十分でした。海外の診断学の本には,内科に限らずいろいろなアプローチの仕方が書いてあるものがあります。そういうものを皆で拾い読みしたりしました。
田中 研修医のプリントというのは,いまでも語り継がれているんですか。
大橋 ええ。ですからだんだん厚くなっていくんです(笑)。しかし,誰もが見逃しやすいところというのは,代々変わっていないので,そういうコアの部分は1つのファイルとしてまとめられていて,必ず当直にはそのファイルを持っていきます。
清水 症候から診断というコンセプトの本は個人的に興味がありいろいろと学生の時から読んでいました。『研修医当直御法度』『総合診療Basic20問』『内科レジデントマニュアル』など,皆さんご存知だと思います。個人的には,『Guide to Inpatient Medicine』『Guide to Outpatient Medicine』が好きです。特に後者は整形外科的なものや,眼下疾患があって実際の初期診療に非常に役立っています。
 田中先生が今回出された本は,症候から診断までのプロセスが実際に日本の診療現場の環境に即したものであり,その過程に明確なロジックがあるのが魅力だと感じました。内科的なことから整形外科その他外来初期診療で必要な知識・対処法まで書いてあり,さらにACLSやJATECも含まれていて,これ1冊で非常に勉強になる本だと思いますね。
田中 そう言ってもらえるとありがたいですね(笑)。研修医時代は私も,どんな患者さんが来るかまったくわからない中で,未熟な知識と技量で診ていた経験があります。どのように問診したらいいかわからないし,主訴からどこを診察したらいいのか,どこを検査したらいいのかもわからない。採血・点滴も慣れていなくて冷や汗もので,検査結果をもらっても診断がつかない。やっと診断にたどりついても,肝心の治療がわからないわけです。
 お話をうかがっていても,皆さんの悩みどころは私の頃と同じだなと感じます。やはり問題指向型に書かれた本というのがあまりなくて,あっても内科疾患しか書いてないとか,外科疾患しか書いてないわけです。今回の『問題解決型 救急初期診療』はそういう,研修医時代の思いを込めて作ったつもりです。

これから救急初期研修を行なう皆さんへ

田中 非常に具体的なお話が聞けて,読者にも救急初期研修のイメージが伝わったかと思います。最後に,本紙を読まれる医学生や研修医の方たちに向けて,初期研修を受けるうえで気をつけることや,施設の選び方などについてのアドバイスがありましたらひと言ずつお願いしたいと思います。
大橋 いま,大学で学生さんと接する機会が多いのですが,プライマリケアのできる医者になりたい,コモン・ディジーズを診られる医者になりたいとおっしゃる方がとても多いです。しかし,では今そういうことが学べる場がどこにあるかと考えてみると,一部の1,2次の救急施設と,家庭医療といわれる診療所または一般外来における外来の実習の2つに限られるように思います。また,家庭医療学を勉強するようになって思うのですが,救急外来という環境におけるコモン・ディジーズと診療所・一般外来におけるコモン・ディジーズ,プライマリケアというものも実は異なるのではないかと最近感じています。正直なところ,日本にはまだコモン・ディジーズの専門科というのは存在しませんし,専門医としてプライマリケアを行なう医師はほとんどいないのが現状だと思います。
 ですから,現状でなるべくそういう指導者がいる施設,そういうことが多く経験できる施設,または,同じ考えを持った研修医たちが集まる施設を選ぶべきですし,厚生労働省は今回のようなプログラムをつくった以上は,そういう指導者を早く養成し,発展させていただかなければいけないんじゃないかと思います。
清水 最近,ACLSが現場で急速に普及していますが,いかなる科の医師もそのプロトコルを知り,有事に際してアルゴリズムに基づいた適切な対処をとることが求められています。医師として最低限必要であると思われるACLSのアルゴリズムを学生のうちからぜひ学んでほしいと思います。
 いま,必修化・マッチングなどで,研修を控えた学生の方は非常にストレスに感じていると思います。しかし,これは極論ですが,個人的には初期研修はどこの病院でもよいのではないかと思っています。早いうちから病院見学をして,いろいろな研修医を見て自分なりの研修医像をつくることが重要ではないでしょうか。その像に向かってがんばるなら,どの施設であっても納得のいくよい研修ができると思います。いろいろとたいへんだとは思いますが,皆さんどうかがんばってください。
天羽 今日集った3施設でもそれぞれ違うように,研修先のシステムの違いをはっきりと理解して,自分がどういう医者になりたいのかを考え,それにあったシステムを持っている病院を見つけるのが重要だとは思います。しかし,自分が求めるシステムとは違ったとしても,そこで仕事に対するモチベーションが低くなったりするのは,研修医の心構えとしてよいとは思えません。どんな施設に行っても患者がいる限り学べることはあるわけで,学ぶ姿勢さえあれば,いくらでも学ぶことはあります。まずその人自身の姿勢がいちばん大事だと思います。
田中 今日は3人の先生方に,ご自身の救急初期研修についてのお話をうかがいました。皆さんの意見をまとめると,救急初期研修は診断学,ひいてはコモン・ディジーズへの対応を学ぶ絶好の機会だったということがいえると思います。また,今後の救急初期研修の課題としては,研修の器はあっても,指導者,指導体制等の教育システムが不足しているのではないかということが提起されたかと思います。皆さん,長い時間どうもありがとうございました。



田中和豊氏
(国立国際医療センター救急部)

1994年筑波大学医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院インターン,聖路加国際病院外科系研修医を経て現職。横須賀米海軍病院での救急医の活躍を目にしたことをきっかけに,コモン・ディジーズを中心に幅広い診療を行なえる救急医を志す。2003年,その思いと自らの研修医時代の経験をもとに『問題解決型 救急初期診療』を上梓。



大橋博樹氏
(聖マリアンナ医科大学・総合診療内科)

2000年獨協医科大学卒業。武蔵野赤十字病院研修医を経た後,「家庭医療学」の持つ幅広さと奥深さに感銘を受ける。現在所属での勤務とともに週1回,町の診療所で家庭医療の実践も行なっている。



清水逸平氏
(国立国際医療センター・内科系研修医2年目)

2002年千葉大学医学部卒業。国立国際医療センター内科系研修医2年目。医師として必要なGeneralな知識と,将来の希望である循環器専門医としての知識・技能の獲得に日々努めている。



天羽健太郎氏
(聖路加国際病院・外科系研修医2年目)

2002年昭和大学医学部卒業。聖路加国際病院外科系研修医2年目。研修後は整形外科を専門とする予定だが,まずは医師としての土台となるような基礎能力を身に付けたいと語る。