医学界新聞

 

〔インタビュー〕

「看護における地域貢献」とは何か

川野雅資第23回日本看護科学学会会長に聞く


 きたる12月6-7日,「第23回日本看護科学学会学術集会」が「看護における地域貢献」をメインテーマに,川野雅資会長(三重県立看護大学教授・地域交流研究センター長)のもと,三重県総合文化センターにおいて開催される。
 本号では開催に先立って,川野雅資会長に学術集会の概要を紹介していただくとともに,その抱負をお聞きした。


日本看護科学学会の4つの活動

――最初に日本看護科学学会について,ご説明いただけますか。
川野 日本看護科学学会の目的は,少し硬い表現になりますが,「看護学の発展を図り,広く知識の交流に努め,もって人々の健康と福祉に貢献する」と会則第3条に定められております。言い換えてみますと,「看護学の知見の蓄積とそれを用いた社会への還元」ということができると思います。
 具体的な活動としては,「看護学の構築と体系化」「国際活動を通した看護学の構築」「看護学研究者の育成と組織化」「社会貢献」の4つに大きく分けられます。
 主なものをあげますと,「看護学の構築と体系化」の実績としては,「学会誌の創設と継続的発刊(年4回)」「優秀論文表彰制度を通じて,“看護学開発の方向性”を提示」「看護学学術用語検討委員会を通し看護学の体系化をめざす」ことなどがあります。
 「国際活動を通した看護学の構築」の実績として,国際活動推進委員会の活動による「News from JANS(Japan Academy of Nursing Science)」の定期発行(年2回)」「3年ごとの国際学術集会の開催など,海外への成果の発信・交流」などがあります。
 また「社会貢献」では,「学術集会における一般市民向け講演会の実施」や「学術成果をホームページで公開する」ことがあります。

「看護における地域貢献」

――メインテーマ「看護における地域貢献」にはどのような意図があるのでしょうか。
川野 三重県立看護大学は,人材の育成と県内看護教育・研究の中核機関,地域社会への貢献を使命としていますが,平成9年度の開学と同時に,特に地域社会への貢献を目的として,「地域交流研究センター」が附属研究機関として設置されています。
 申し上げるまでもなく,生活の質の向上は,保健・医療・福祉分野の連携による地域社会の総合的なサービス基盤があってはじめて実現するものです。そのためには,地域性を十分に踏まえた個性ある地域ケアモデルの構築が必要であり,このような研究開発を推進することを目的として地域交流研究センターが設立されたわけです。
 詳細は省略しますが,同センターの地域貢献に関する施策には,(1)研究開発事業,(2)県民局担当制事業,(3)継続教育事業,(4)直接ケア事業があります。
 今回はこの地域交流研究センターの研究成果を踏まえて,「看護における地域貢献」をメインテーマにしました。

「地域への貢献なくして看護の発展はあるのか」

――会長講演「地域への貢献なくして看護の発展はあるのか」についてはいかがでしょうか。
川野 ご存じのように,看護は実践の学問としてその意義を持っており,科学的根拠に基づいた実践と,実践の意味を科学的に概念化,抽象化することが重要です。そして,このような看護の知と技を生活する人,あるいは医療を受けている人に提供することに看護の意義があります。
 会長講演はメインテーマとも絡めて,地域で暮らす人々は,看護がないとどのような暮らしになるのか。生活の中で看護はどのような意味を持っているのか。看護はそこでどのような貢献をしているのか。そして,看護の科学とは何か,ということをあらためて考えてみたいと思います。
 またその中で,「実践と研究の融合」という観点から,「臨床」「教育」「研究」のバランス保持について検討してみたいと思います。

「Communitas:Caring for self & Community」

――教育講演についてはいかがでしょうか。
川野 「Communitas:Caring for self & Community」と題しまして,ケアリング理論のジーン・ワトソン先生(コロラド大学名誉教授)に,21世紀に看護はどのような方向に向かうのか,ポストモダンを超えた看護(Postmodern nursing and beyond)の理論から「地域貢献」と「ケアリング」にはどのような接点があるのかをお話ししていただきたいと思います。
 「Communitas」というのはワトソン先生の造語だと思われます。「自分自身と地域をケアする」という副題がついておりまして,どのような内容になるのか今から楽しみにしています。

「シンポジウム」

――シンポジウムについてはいかがでしょうか。
川野 シンポジウムは「地域貢献に焦点を当てた看護実践」と「地域に根ざした看護実践知の探究」の2つを準備しました。
 「地域貢献に焦点を当てた看護実践」では,例えば,「患者満足度」や「IT看護」などさまざまな角度から看護の理論や技法を実践に生かすのか,を議論していただきたいと思っています。
 また,「地域に根ざした看護実践知の探求」では,実際に行なっている地域における看護実践をどのように抽象化し,概念化して看護概念の構築化,あるいは理論化の方向を検討できたらと思います。
 この2つのシンポジウムにおいて,それぞれ双方向化できたらすばらしいと思います。

「市民フォーラム」と「交流集会」

――「市民フォーラム」についてはいかがでしょうか。
川野 「病気・障害とともに暮らすこと:当面する問題・援助の選択・看護の活用」という市民フォーラムは,先ほど申しましたこの学会の4つの活動の中の「社会貢献」を具体化したものの1つです。
 今回は終末期医療に造詣の深い季羽倭文子先生(ホスピス研究会)に講師をお願いしました。また,日本看護協会は住民の方たちの身近な存在ですし,日本看護科学学会は日本看護協会との連携が重要ですので,山口直美先生(三重県看護協会)に司会をお願いしました。
――「交流集会」についてはいかがでしょうか。
川野 これは日本看護科学学会独特の催しであろうと思います。私どもは会場を提供するだけで,内容はすべて企画者におまかせするものです。
 今回は14テーマの応募がありました。このうちの1テーマは,先ほど申し上げました本学会の4つの活動のうちの1つ「国際活動を通した看護学の構築」の中で,今後,英文誌の発行が計画されています。その英文誌への投稿に役立つことを伝授してくださるそうです。
 ですからこの内容は特別企画「はじめよう! 英文投稿;JANS英文誌創刊に向けて」と題して
1)JANS英文誌の発行の学会の意図について
2)英文誌概要の紹介
3)編集長の挨拶
4)論文作成の過程とAPAの論文作成形式の内容が予定されています。
 結果的に交流集会は13テーマになりました。
 今回は教育講演をお願いしましたワトソン先生と前原澄子三重県立看護大学学長による「人によりそう看護」というテーマがあったり,「災害医療における情報・ネットワーク・教育」「がん看護専門看護師のキャリア発達と開発におけるリソース」「看護におけるヒューマン・エラー:防止策としての新しい分析指標」「看護の視点から見た病院建築」など多彩なテーマが用意されています。
 その他には,示説を含めた一般演題が468題にのぼりました。

「地域交流研究センター」について

――最初にお話がありました「地域交流研究センター」について,もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
川野 「納税者に対する直接的・間接的なシーズの提供という,公立大学の当然の責務」という考え方が基本にあります。
 先ほど申しましたように,本センターの地域貢献に関する施策には,(1)研究開発事業,(2)県民局担当制事業,(3)継続教育事業,(4)直接ケア事業の4つの事業があります。
 まず「研究開発事業」ですが,これまで延べ16の研究開発事業を実施しておりまして,三重県民の地域特性に応じた看護モデルを開発することが最終目標です。今年度は,「ルーラルナーシングの教育プログラム開発」「三重県における児童青年精神医療ケアシステムに関する研究」などを研究しております。
 次いで,「県民局担当制事業」は地域との連携強化,地域ケアの向上,教員の臨床能力の向上をめざした活動です。三重県下69市町村の隅々まで,教員が保健・医療・福祉の実践者・行政職者とともに活動し,住民のニーズを把握し,それに応えています。例えば,「適応指導教室」「保健センター」「子育て支援グループ」などの活動をしています。
 そして,「継続教育事業」は1つには病院事業庁と共同して県立病院で働く看護職者の看護研究指導を行なっています。これまでに115名の看護師がこのコースを修了しました。この数は県立病院で働く看護職者の15.3%に相当します。年末にはその成果の発表会を行なっています。
 今年度は看護研究の助言者になる「看護研究I」と看護研究の指導者になる「看護研究II」のコースに分けました。特定の教員への偏り,指導内容の格差の除去,レベルの統一などをめざしています。
 その他には,キャリアラダー開発や固定チームナーシングの導入などの支援をしています。さらに県庁からの依頼で7つの県民局それぞれで介護支援専門員現任研修などが予定されています。
 また,「直接ケア事業」は本センターを拠点として,地域貢献の観点から,県民が抱える健康問題,健康上のニーズに応え,生活に即した地域密着型の健康相談・保健指導などを提供することによって,住民・家族が健やかに暮らせる地域社会づくりを支援するものです。今年度から,電話による不妊相談を開始しました。大変多くの相談が寄せられています。
 それぞれに,現行の施策にかかわる課題や今後の課題がありますが,おおむね目的を達しているものと思われます。
 今回の会長講演には,これまでの地域交流研究センターのねらい,取り組み,成果,課題についても報告し,看護における地域貢献のひとつの試みを議論したいと思います。
――どうもありがとうございます。

●第23回日本看護科学学会学術集会プログラム

【会長講演】
「地域への貢献なくして看護の発展はあるのか」
【教育講演】
「Communitas:Caring for self & Community」:ジーン・ワトソン(コロラド大学名誉教授)
【シンポジウム】
I 「地域貢献に焦点を当てた看護実践」:司会=大西和子(三重大学),村嶋幸代(東京大学・日本看護科学学会理事長),シンポジスト=北島謙吾(京都府立医科大学),川口孝泰(筑波大学),馬庭恭子(訪問看護ステーション「ピース」)
II 「地域に根ざした看護実践知の探究」:司会=太田喜久子(慶応義塾大学),前川厚子(名古屋大学),シンポジスト=麻原きよみ(聖路加看護大学),福島道子(日本赤十字看護大学),萱間真美(東京大学)
【市民フォーラム】
「病気・障害とともに暮らすこと:当面する問題・援助の選択・看護の活用」:季羽倭文子(ホスピス研究会),司会=山口直美(三重県看護協会)