医学界新聞

 

【投稿】

ミシガンでの家庭医療を経験して

――考えさせられた日本独自の「家庭医療」

鳴本敬一郎(筑波大学医学専門学群・6年)




 4月21日から2週間にわたって,ミシガン大学イーストアナーバー診療所にて,アメリカ家庭医療の現場を見学させていただいた。これまで「家庭医療」については,自分に合っていそうだと軽いイメージを持つくらいで,漠然としか理解していなかった。しかし,今回思い切って渡米し,本場の家庭医療に肌で触れ,また,日本を外から眺めることで,本来の家庭医療とはどのようなものかを理解することができた。

アメリカの家庭医療の現場とは?

 初日,時差ボケで頭がボーッとする中,あわただしい1日がはじまる。渡米して間もない神経症の男性,6か月の乳児健診,頻尿を主訴にして来た女性,くじいて足が腫れて歩けない男性,肘部に円形状紅斑で痒がっている女の子,と患者さんのいる部屋を行ったり来たりして一息つく間もない。しかも小児科,整形外科,皮膚科,精神科,婦人科と,いろいろな症状に対して頭をフル回転させなければならないことにびっくりし,ぐったりしている頭を必死でたたき起こした。
 まず基本となる病歴聴取では,鑑別疾患を頭に浮かべたうえでの質問からはじまり,患者さんの暮らしの様子,ストレスはないか,家族はハッピーか,仕事の上司はどんな人か,どこに住んでいるのか,など質問内容の焦点をジワジワとズームアウトしていく。「……はありませんか?」と主訴とは一見何のかかわりもなさそうな質問に対して,患者さんの答えはズバリYES!しかもその紐をたどっていくと,主訴につながっていくところがとてもおもしろく,まるでシャーロックホームズの推理ゲームをしているかのようだ。
 また,身体診察では成人のルーチンの診察から,小児の診察,整形外科的な診察,女性の内診,肩こり・腰痛の患者さんに対するマッサージまで幅広く行なう。健診で肩こりを指摘されマッサージを受けた男性が「あぁ~気持ちいぃ……。健診ってイイですねぇ」とクシャクシャにして喜んだ顔がとても印象深かった。日本の健診ではほとんど見ることのない一場面だった。

患者さんのニーズを常に意識して

 病歴聴取・身体診察の間,佐野潔先生(ミシガン大)の口は絶えず動き続け,頭で考えていることをそのまま言葉にすることで,患者さんへの説明を同時に行なっていた。病歴聴取と身体所見から確定診断に至ると,市販・処方の薬の説明に加えて,日常生活の中でどのようなことを改善していったらいいのか,運動といってもどのような運動をすればいいのか,どんな食事を控えたらいいのかなど,具体的な対処方法を患者さんと話し合いながら提案していく。
 一方患者さん側は,佐野先生からされる質問内容に,ことごとく自分の現状が当てはまっていると,「そうなんですよ~」「なるほど~!」と表情が徐々に明るくなっていき,僕自身もそれを眺めていてほのぼのとした気持ちになった。患者さんの表情変化をみていると,薬や病気の説明よりもむしろ,患者さんのバックグランドに隠れた要因を発見し,その対処法について話し合うことのほうが,患者さんにとってより納得できるものではないかと感じた。いろいろな種類のニーズがあり,患者さんによってニーズは異なってくるが,あくまでも患者さん側に立って,そのニーズをいつも意識していきたいとその時強く思った。
 2日目,3日目と佐野先生の診療を見学していくうちに,本来の「家庭医療」とはどのようなものかをはっきりと理解することができた。それと同時に,さまざまな問題に対して世界の家庭医と対等にディスカッションするためには,本来の「家庭医療」がどういうものであるのかを,現在行なわれている日本の家庭医療と照らし合わせながら,再認識する必要性があることに気がついた。しかし,アメリカ家庭医療の現場を実際に目にすることで,今まで抱いていた家庭医療に対する迷いや不安がふっきれ,これからの自分の進むべき方向性を見つけることができたような気がした。

どのように家庭医をめざすか?

 日本では家庭医を養うためのプログラムが今のところまだほとんど確立されていないが,どんなプログラムでも患者さんのバックグラウンド,すなわちpsychosocialの視点を持ち続けながら,患者さんのproblemにアプローチしていけば,家庭医をめざす人にとって,その研修は少しでも効果的なものになるのではないかと思う。
 研修内容が外来中心でなく入院中心であっても,入院中に出てくる小さな問題1つひとつに対して,入院食以外に秘密で何か食べているのでは,寝ている時はどんな態勢をしているのか,お見舞いに誰がよく来るのか,同室の患者さんはどんな人たちかなど,psychosocialなアプローチは可能で,さらにそれに基づいたプライマリケアも実践していくことができるはずだ。
 しかし今回,家庭医として小児科,産婦人科,整形外科,皮膚科といった多分野にわたって,「広く,しかもある程度深く」医療行為ができなければならないこと,そのためには初期研修のトレーニングだけでは不十分であること,また患者さんの抱えるさまざまな問題を解決していくには,各分野の知識を統合して考えていくようなトレーニングが必要であることを改めて痛感した。
 現時点で家庭医への確固としたプログラムがあるに越したことはありませんが,前向きに考えれば途上段階であるからこそ,「家庭医療」を正しく認識したうえで,日本の地形,日本の文化,日本人の生活環境,そして何よりも日本人の心にアプローチしていく中で,日本ならではのオリジナリティを模索し見つけていくことができるのではないだろうか。ハウトゥをすぐ求めるよりも,いつも素直に,新鮮な気持ちで,試行錯誤を繰り返しながら1つひとつ築き上げていくほうが,大きな楽しみや喜びにつながると思う。今後学生からもドンドン盛り上げていって,グローバルでかつオリジナリティのある家庭医療をみんなで創っていきましょう!!!