医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


小児腎臓病の豊富な臨床経験から生まれた,信頼できる指南書

《Meet the Master Clinician》
小児尿路感染症の外来診療マスターブック

平岡政弘 著

《書 評》五十嵐隆(東京大教授・小児医学)

小児の慢性腎不全防止には,上部尿路感染症の正しい診断が重要

 乳幼児の発熱時には咽頭,内耳,尿を診るのが小児科医の鉄則です。そのなかで最も診断が難しいのが上部尿路感染症による発熱です。臨床所見だけで上部尿路感染症の診断はできません。そこで,小児科医は尿沈渣中の白血球数や細菌を調べたり,尿中の細菌を定量培養したり,血液中の白血球数,核の左方移動,CRPなどを参考にして,上部尿路感染症を総合的に診断しています。しかし,乳幼児から細菌汚染がない状態で採尿するのは至難の技ですし,尿中細菌の定量培養の診断基準も一種の取り決めです。このように,上部尿路感染症の診断法は標準化ができにくい状況にあります。わが国では現在小児期に末期腎不全になる原因の1位を占めるのは腎炎ではなく,先天性腎尿路異常症です。しばしば先天性腎尿路異常症は上部尿路感染症を契機に診断されるため,外来で上部尿路感染症を正しく診断し治療することが,慢性腎不全の防止を目的とする上できわめて重要です。

標準化の難しい上部尿路感染症の診断・治療のノウハウを紹介

 本書では,診断が難しい上部尿路感染症を簡単な方法で正しく診断し,治療するための知識とノウハウが,たくさんの写真や図を用いて,わかりやすく紹介されています。特に,尿中細菌の定量法としてKoba Slide 10Gを用いた診断法の有用性が強調されています。できるだけ発症早期に急性腎盂腎炎を診断したいのは,急性腎盂腎炎を発症24時間以内に診断し正しく治療すれば感染による腎障害を起こすことが少ないという著者らが明らかにしたエビデンスに由来します。また,少し熟練を要しますが,超音波装置を上手に利用すれば,臨床上問題となるIII度以上の膀胱尿管逆流の診断も困難でないことも述べられています。
 本書は,小児腎臓病の豊富な臨床経験とそこから得た多数の貴重なエビデンスを世界に発信してこられた平岡先生がお書きになった,最も信頼性の高い小児尿路感染症の臨床に関する指南書であり,自信を持ってお勧めしたいと思います。
5・頁164 定価(本体3,500円+税)医学書院


診療にも研究にも役立つ,精神薬理学の最新知見が満載

臨床精神薬理ハンドブック
樋口輝彦,他 著

《書 評》八木剛平(翠星ヒーリングセンター/慶應大客員教授)

向精神薬の生物学的基盤も学べる

 病気の治療における医薬(化学物質)の有効性は,哺乳動物の個体内部のすべての細胞に対する情報が化学物質として与えられており,個体の積極的な行動や生存は,個体を構成する細胞が化学物質の情報を受容して応答することによって保証されるという事実にもとづいている。それでは,いま世界中で使用されている医薬のうち,抗生物質・免疫抑制剤・抗がん剤を除くほとんどが,その作用点を直接・間接に受容体にもっているのはなぜか。それは,細胞を機能させるための情報の受け入れ口は受容体だけであり,受容体を介して細胞内情報伝達系を稼動させることが,無理なく(つまり生理的に)細胞の機能をコントロールする唯一無二の手段だからである。これに対して,受容体を介さないで細胞内の重要な構成因子の活性だけを直接抑えるような化学物質は,いずれ細胞の生理的機能を破綻させる恐れがあり,精神疾患をはじめとするcommon diseaseの治療の目的には望ましいものではない。
 これは,第1編「神経精神薬理の基礎」の第1章「神経情報伝達のメカニズム」から評者が学んだことの一部である。精神科の治療薬を思い浮かべながらこの章を読む読者は,今使われている向精神薬のいわば生物学的基盤を把握できるであろう。
 39名の執筆者による本書の構成は次のとおりである。
 第I編 神経精神薬理の基礎(86頁)
  第1章 神経情報伝達のメカニズム
  第2章 向精神薬のスクリーニング
  第3章 薬物動態学と相互作用
  第4章 薬理遺伝学
  第5章 生理学的手法による精神薬理学研究(I基礎,II臨床)
  第6章 血中薬物濃度モニタリング(TDM)
 第II編 精神薬理の理論と実際(215頁)
  第7章 統合失調症(精神分裂病)
  第8章 気分障害
  第9章 不安障害
  第10章 睡眠障害
  第11章 てんかん
  第12章 痴呆
 以上の第II編の各章では治療薬の薬理と薬物療法のガイドラインとの2部に分けて,それぞれ別の執筆者が担当している。
  第13章 依存性薬物の薬理
  第14章 自閉症,注意欠陥,多動性障害,チックの薬物療法
  第15章 せん妄の薬物療法
 第III編 向精神薬の臨床試験(20頁)
  第16章 臨床試験(治験)の方法論と進め方
(I新GCPについて,II臨床評価,評価尺度,II臨床試験(治験)の進め方)
 その他に「抗精神病薬開発の歴史」をはじめ,抗不安薬,抗てんかん薬,児童精神科薬物療法についてのSide Memo(8編)があり,最後に索引(和文,欧文)が付されている。
 本書は,基礎面では遺伝子解析の進展,臨床面ではEBMの提唱など,20世紀末から21世紀はじめに至る最新の知見を視界にいれて編集され,神経精神薬理学と精神科薬物治療学とを統合したハンドブックである。診療にも研究にも役立つ良書として推薦したい。
B5・頁360 定価(本体8,500円+税)医学書院


臨床神経生理学的検査の基礎から臨床までが理解できる

神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために
[CD-ROM付(Windows)]

木村 淳,幸原伸夫 著

《書 評》玉置哲也(愛徳医療・福祉センター長/和歌山県立医大名誉教授)

 この度,医学書院から木村淳・幸原伸夫著『神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために』が出版された。
 本書は臨床神経生理学的検査,特に神経伝導速度検査と筋電図検査を行なう者にとっては,まさに必携の書となるものと考える。
 本書は「第1部 神経筋の構造と機能」からはじまり「第5部 AAEM(American Association of Electrodiagnostic Medicine)用語集」で構成され,さらに付録として他書にはない特徴である「CD-ROMを用いた筋電図波形の学習」がついている。それら各部の一貫した理念は,読者に臨床神経生理学的検査の基礎から臨床までをいかに理解させ,実際に活用させるかということであり,さまざまな工夫がなされている。

神経生理学の基礎的知識については熟読すべき

 内容を通覧すると,まず,臨床神経生理学的検査を日常的に実施する者にとって必要な神経生理学の基礎的知識がきわめてわかりやすく説明されている。最近の臨床神経生理学的検査を行なう若い研究者には,この基礎的な知識の欠如がしばしば見受けられることから,この部は是非熟読していただきたい。神経伝導検査,各種誘発電位検査についても基本原理が非常に丁寧に述べられており,その実施の際の注意すべき点についても細かく記述がなされている。また,所々にはコラムのセクションが設けられ,要領よくまとめられた重要な臨床的,基礎的知識とup to dateな情報は,読者の知識を十分に補填するものと考える。また各章のおわりには必ずQ&Aの項目が付加されており,理解しにくいこと,あるいは疑問になる点を想定してさらなる説明が加えられている。

付録のCD-ROMで筋電図検査の知識と技術を身に付けられる

 さらに,臨床神経生理学的検査の基本ともいえる筋電図検査については,その基礎生理学的知識,異常波形の説明,記録機器の解説に加え,本書の特徴である付録CD-ROMにより,今までの書籍ではなし得なかった動く波形と音による知識と技術の伝達を実現している。Windows PCには外付けのスピーカーシステムを付加して,臨床的にも貴重な情報である音による診断も体験すべきである。
 縷々述べてきたように,本書は臨床神経生理学のきわめて完成度の高い教科書であり,わが国においてこのような書が世に出されたことをたいへん嬉しく思っている。
B5・頁328 定価(本体8,000円+税)医学書院