医学界新聞

 

〔インタビュー〕

うつ対策に厚労省がマニュアルを作成

植田紀美子氏(厚生労働省社会・援護局/心の健康づくり対策官)


 厚労省の「地域におけるうつ対策検討会」が今年8月,うつ対策マニュアルの作成をはじめた。本会のねらいを,事務局の植田氏に聞いた。


――検討会ができた経緯と,会の趣旨を聞かせてください。
植田 「自殺防止対策有識者懇談会」の最終報告(2002年12月)の中で,早急に取り組むべき自殺防止対策として,うつ病対策が盛り込まれました。その根拠は3つあって,うつ病の治療法が確立されていること。自殺者の中には精神疾患,特にうつ病を患っていた人が多いこと。うつ対策によって自殺防止に一定の効果をあげている事例が,世界的にみても日本においても蓄積されていることです。検討会の中では,うつ対策として効果的な方法を検討し,地域医療従事者(保健師・看護師・精神保健福祉士など)向けのマニュアルと自治体(都道府県・市町村)向けのマニュアルを作成します。遅くとも今年度中には仕上がると思います。
――マニュアルは配布されるのですか。
植田 この検討会は,有効な対策を検討するのに加えて,普及方法も議論していきます。どの関係機関に配布するか,冊子体にするかweb上の閲覧になるのか,今後話が出てくると思います。
――かかりつけ医の役割についてはどうお考えですか。
植田 かかりつけ医の重要性に関するデータは多く,多くの自殺者が自殺直前にかかりつけ医にかかっているというデータの他にも,最近アメリカで出たリコメンデーションでは,外来での簡単なスクリーニングとフォローで効果的なうつ対策ができると述べられています。患者さんが精神疾患に気づかずに,眠れない,頭が痛いなどの身体症状で訴えることもあると思います。
 当初,本検討会でもかかりつけ医向けのマニュアルを作成することを考えましたが,普及を念頭において,医師会との連携を模索しました。医師会でも検討会(西島氏寄稿を参照)を開き,積極的に医師向けのマニュアルを作成するとのことだったので,お互いに情報交換しながら進めています。もちろん,地域医療従事者と自治体向けのマニュアルの中にも,かかりつけ医や医療機関との連携の方法,かかりつけ医が重要であるという理論的背景も盛り込んでいく予定です。
――医療職がうつ予防に取り組むために,何が重要でしょうか。
植田 まず,うつ病は誰でもかかる病気であるという認識に立って,早期発見する術を持つことが大事です。第1回の検討会で,「これまでの生涯で15-30人に1人がうつ病にかかり,そのうちの4分の3は医療を受けていない」(2002年度厚生労働省研究班の疫学調査)という報告がされました。この4分の3を,なんとか医療につなげる活動をしたいと思っています。