医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


精神科リハビリテーションの世界はここまで進んだ!

精神科リハビリテーション・ケースブック
Bock to the Community!

野田文隆,寺田久子 著

《書 評》神庭重信(山梨大教授/九州大教授・精神神経医学)

チーム・カンファレンスを思わせる 豊富な事例研究

 読者は,精神科リハビリテーションの世界が,これほどまでに深まりと広がりを見せていることに,驚きを隠せないに違いない。
 しかも,至る所に見て取れる,著者らの工夫の跡や精神科リハビリテーションのなんたるかを伝えようとする熱い意気込みからは,本書が単なる真新しいテキストではなく,心憎いばかりの愛着が塗り込められた作品であることを感じるだろう。
 まず目を引くのはその構成である。全体の7割が事例研究で占められている。しかもその事例は,著者らが東京武蔵野病院社会復帰病棟において出会った幾多の患者さんの記憶を断片化し,組み合わせ,合成した創作事例である。事例が同定される可能性を完全に払拭するために,彼らはあえてそうしたのである。
 事例に目を通すと,次に読者は,「あなたならどう考えるか」と問いかけられる。患者の持つ資源,適応能力,心理的・社会的機能度,精神科リハビリテーション診断,そもそも今この患者にリハビリテーションが必要あるいは可能なのか,などについて読者の臨床能力が試される。その後で彼らが用意した解答を読むことになる。さらに事例の経過が記述され,再び「あなたならどう考えるか」,「私たちはこう考えた」と進む,という段取りである。
 その時担当医師はどう動いたのか,ナースは,PSWは,OTは,CPは何を感じ取ったのか,それぞれの立場の動きがリズミカルに記述され,その巧みな筆致は,読む者をして彼らのチーム・カンファレンスに参加しているかのごとき錯覚に誘ってくれる。

リハビリテーションの目的を定義

 筆者らは,精神科リハビリテーション・サービスを「その結果として,クライアントに最も暮らしやすい空間を提供すること」と考えている。それは,自己実現の満足感や希望や可能性を抱けるような生活である。また「周囲が満足しない処遇は,結局は本人のためにならない」ともいう。とかく形式的で画一なサービスに流れがちなリハビリテーションという治療行為に,実に明快で,臨床的な定義を与えている。このように目的を定めることで,リハビリテーション・サービスは具体性を帯び,チームは必要な準備を整えることができる。しかもその計画は1年以上先の目標に向かって進められていたりもする。ここでもチームのスピリットには脱帽である。

チーム医療としてのリハビリテーション

 著者らの強調するもう1つのこと,それは,チーム医療としてのリハビリテーションである。患者の人生の再設計ともいえる,この途方もなく遠大で責任の重い取り組みは,各領域のプロフェッショナルの持つ経験と知識を縦横に活用することが不可欠である。そのためにチームは統合されなければならない。統合されたチームの力で,患者-家族-社会の関係の底流が読み解かれ,それぞれの豊かな経験が共鳴しあう時,チームは,患者や家族にとって心強い援軍へと変身する。
 かように,あとがきを読み終えた時,評者は,精神科リハビリテーションの進化を垣間見れたことに率直な感激を覚えた。本書の誕生は,この医療にかかわるすべての者にとっての記念碑となるに違いない。
B5・頁208 定価(本体2,800円+税)医学書院


指導医,研修医の両者が読むべき研修テキスト

研修指導医ガイドブック 第2版
福井次矢 監修

《書 評》日野原重明(聖路加国際病院理事長)

新しい臨床研修の時代を迎えた 研修指導医にきわめて有用

 「研修指導医ガイドブック」の初版は2002年に(株)インターメディカから出版されたが,今般その改版としての第2版が出版されることとなった。
 在来は医学部卒業生の7割が各大学の大学病院において卒後臨床研修を行なってきたが,いよいよ2004年4月からは『新しい医師法(平成13年6月改正)』により,これが全国の教育病院に分散して行なわれることになる。
 この本は,日本における総合診療指導の第一人者で京都大学の臨床疫学の教授でもあり,総合臨床の責任者である福井次矢教授と,その教育実践の実績を持つ,岩田勲,豊島元,新保卓郎,瀬戸口聡子4氏の協力のもとに書かれたテキストであり,全国に分散する数多くの研修指導医には本書はきわめて有用な研修指導のガイドブックだと思う。

研修における数々の重要な テーマを網羅

 第1章には新しい卒後臨床研修制度と指導医の役割が述べられている。第2章は研修指導に求められる基礎知識が述べられている。第3章には患者の面接法から診療録の書き方,研修の計画の立て方,研修を受ける人と指導医との人間的対応の仕方,コンサルテーションのエチケット,医療事故の予防と過誤への対応などが述べられている。また,第4章には臨床研修の評価という大切なテーマが取り扱われている。最後の第5章には改正医師法と新たなる医師研修制度のあり方の案が紹介されている。
 本書は日本中の教育病院の指導医ならびに,研修医の両サイドで広く読まれるべきテキストであると思い,これを推薦したい。
A5変・頁272 定価(本体3,000円+税)インターメディカ


心筋症と心不全に関する最先端の研究成果を網羅

Cardiomyopathies and Heart Failure
Biomolecular, Infectious and Immune Mechanisms

松森 昭 著

《書 評》篠山重威(浜松労災病院長)

時代とともに変わる心不全治療の変遷も克明に記載

 高齢化社会の出現とともに,どこの国でも心不全が最も大きな健康問題となっている。心不全の原因は欧米では虚血性心疾患が大半を占めるが,日本では非虚血性の心筋症が多い。心不全の治療は,時代とともに大きく変遷してきた。最近では心不全の病態には神経体液系の異常が最も大きく関与するという概念に基づいて,レニン-アンジオテンシン系と交感神経系の抑制に全力が注がれている。20世紀最後の20年間に心不全治療には大きな展開が見られた。しかし,いずれの治療も緩和的であって根治的ではない。
 本書は,心不全の重要な原因の1つである心筋症に関して,生化学,分子生物学,免疫学,ウイルス学などの観点からその機序を検討したものである。著者は世界に先駆けて心筋炎から心筋症に移行するマウスのモデルを作成し,心筋症の炎症説を確立した業績で広く知られている。また,わが国では心筋炎の原因にC型肝炎ウイルスが関係することを発表し社会的にも大きな注目を集めた。第1章では著者のこれまでの研究の流れがまとめられ,心不全の病態にに関するサイトカイン仮説に辿り着くまでの過程が克明に述べられている。

新しい治療法となる可能性を持った 研究にも言及

 本書は9つのチャプターで構成され,38の総説で構成されている。11の国から投稿された論文の著者はこの分野におる先駆的な研究で国際的にもよく知られた研究者である。各々のチャプターは,心筋症,心不全の病態とサイトカインの関係,ミオシン抗原に対する自己免疫疾患としての心筋症,肥満細胞と心疾患とのかかわりに関する基礎的及び臨床的所見,エンテロウイルス,コクサッキーウイルス,C型肝炎ウイルスなどによる炎症と心不全との関係,心筋炎の診断と治療の問題,一部の患者では明らかに見られる遺伝的背景の解析,将来の新しい治療の可能性としてアデノシン,チオレドキシン,造血幹細胞,細胞移植,心臓移植,およびC型肝炎に対する感染の遺伝的素因の解明など心筋症と心不全を取り巻く最先端の研究が網羅されている。
 これらの研究成果がどこまで治療に結びつくかは定かではない。神経体液系の抑制によってもたらされる効性はもう限界に達しており,抗サイトカイン療法など付加的治療法の有効性は期待できないのではないかという説もある。しかし,本書の内容を見る限り,まだまだ未知で解決すべきことは多いと思われる。ハムレットがホーレイショに漏らす台詞に“There are more things in heaven and earth than are dreamt of in your philosophy”という言葉がある。心筋症と心不全に関しても同じことが言えると感じた。
B5変・頁532 定価(本体29,800円+税)Kluwer Academic