医学界新聞

 

褥瘡対策チームのあり方を議論

第5回日本褥瘡学会開催される


 第5回日本褥瘡学会が,矢野英雄会長(富士温泉病院名誉院長)のもと,8月29-30日の両日,さいたま市の大宮ソニックシティーにおいて開催された。
 「褥瘡を予防しよう」をテーマとする今回は医師,看護師や栄養士,薬剤師など幅広い職種から総参加者数4217名という盛況なものとなり,褥瘡に対する関心の高さをうかがわせた。


褥瘡発生機序の新知見

 会長講演「褥瘡発生のメカニズムに関する考察」では,矢野氏が20年以上にわたる臨床研究と動物実験の結果から,褥瘡発生機序に関する新たな考察を提言した。
 氏はまず,炎症が起こるとサイトカインの働きによって脳の発熱中枢が刺激され,また炎症部分においても代謝の亢進による産熱が起こることから,「炎症による局所的な熱障害が褥瘡発生の一因ではないか」と指摘,従来の「外力による血行障害や挫傷を起点として持続性血行障害が起こり,潰瘍を形成する」という褥瘡発生機序に「熱障害」を加えた新しい仮説「矢野モデル」を紹介した。
 この仮説では,外力により損傷を受けた組織に炎症が起こり,この部分に加圧と除圧が繰り返されることによって再灌流障害が生じる。そして炎症が引き起こす熱障害が原因となって細胞構築タンパクの変性,組織液の変化による浮腫の発生が起こり,最終的には不可逆性の血行障害により組織が壊死し,褥瘡となる。
 氏は褥瘡を「外力が加わって生じた組織の損傷と一過性血行障害が,個々の身体の健康状態に応じて浮腫と熱障害を誘発したときに,初めて持続性灌流障害へと進行して発生する」と定義し,「一般論で語らず,患者1人ひとりの状況をよく見ること。疫学調査やエビデンスはあくまで参考資料であるということを考えて,褥瘡を予防するという哲学をつくっていかなければならない」と提言して講演をしめくくった。

褥瘡対策の現状と課題

 褥瘡対策未実施減算が制定され,各医療施設に褥瘡対策チームが結成されて約1年。パネルディスカッション「褥瘡対策チーム結成から一年:課題と今後」(座長=市岡滋氏・埼玉医大,山名敏子氏・川口市立医療センター)では,褥瘡にかかわるさまざまな立場の講演者が,現状の抱える問題点やチームのあるべき姿を討論した。
 美濃良夫氏(阪和第一泉病院)は「褥瘡対策の現状」と題し,全国の医療保険施設を対象に行なったアンケートの結果を発表した。
 その結果,現在ほぼすべての施設において褥瘡対策チームが組織されており,7-8割の施設で褥瘡の評価にDESIGNを採用しているという。その一方で「施設経営者の多くが褥瘡対策に関心を持っているが,現場の医師の関心は薄い傾向がある」と指摘,現状での問題点を提起した。

皮膚科と形成外科の連携が重要

 続いて,褥瘡患者の治療を担当する皮膚科医と形成外科医の立場から河合修三氏(皮フ科シュウゾー)と島田賢一氏(金沢医大)が登壇,それぞれのチーム医療における役割について講演した。河合氏は皮膚科医の役割として「創傷外用薬,創傷被覆材の選択」と「ポケット切開などの外科的デブリードマン処置」をあげ,褥瘡の治療に関しては「創傷被覆材により創を湿潤状態に保つ新しい治療法を選択すべきである」と強調した。
 島田氏は「手術適応を決定するのが形成外科医の役割だが,単に手術の可否だけでなく治癒後の生活も考慮に入れて行なわなければならない」と述べ,再発を防ぐための適切な除圧,正しい日常動作の指導も重要な役割であると指摘した。そして,形成外科医のいない病院について「地域の基幹病院を中心に,往診や写真による診断,手術適応を助言できるようなネットワークを構築するべきである」と提言した。
 また,褥瘡のチーム医療においてしばしば発生する「皮膚科医と整形外科医のどちらがイニシアチブを持つか」という問題に関しては,「保存治療は皮膚科,手術は形成外科が一般的。対策委員会の中で個々の症例に応じてディスカッションしながら行なっている」と述べた。

地域で褥瘡を予防・治療

 病院における褥瘡対策チームの活動について,岡田晋吾氏(函館五稜郭病院)はクリニカルパスを用いた情報の共有化がチーム内での連携に有効であったことを紹介し,「全身管理が得意な外科医がチームに参加することの意義は大きい」と述べた。また上村直子氏(埼玉医大)と天野冨士子氏(定山渓病院)は,院内に褥瘡対策チームを置くことにより「在院日数の短縮や褥瘡発生率の低下がみられた」,「褥瘡発生原因のアセスメントや除圧に重点をおくようになり,観察の重要性を再認識した」という効果があったことを報告した。
 間下信昭氏(東名厚木病院)は病院経営・管理の面から「患者の入院期間の長期化を防ぐためにも,褥瘡対策チームを組織し,定期的に活動することは重要」と述べ,地域内での病院の機能分化と連携によって,褥瘡を1つの病院だけでなく地域で予防・治療する体制づくりの必要性を強調した。
 また,最後の質疑応答の際には会場から「褥瘡専門医をつくることでより効果的なチーム医療ができるのではないか」との指摘があり,大浦武彦理事長(褥瘡・創傷治癒研究所)は「褥瘡専門医については現在検討中。今後も積極的に取り組んでいきたい」と回答した。