医学界新聞

 

DPC導入・診療情報開示の流れの中で問われる診療情報管理士の役割

第29回日本診療録管理学会開催


 第29回日本診療録管理学会学術大会が,さる9月11-12日,瀬戸山元一会長(高知県・高知市病院組合理事)のもと,高知県・高知市文化プラザ「かるぽーと」にて開催された。「IT医療革命時代の情報管理-求められる医療と情報」をテーマにした今回は,近年の情報開示や電子カルテ化などの話題に加え,2003年4月より特定機能病院において導入された包括支払い制度にかかわる諸課題など,診療情報管理にかかわる重要テーマが議論された(関連記事)。


■診療情報管理に今,求められるもの

 「診療情報管理体制-医療管理職者の責め」と題された会長講演は,そのテーマ通り,これまでの診療情報管理の変遷を追いながら,医療管理職者ならびに,診療情報の管理者の取り組みの問題点を自ら厳しく問う内容となった。
 瀬戸山氏は診療録にまつわる歴史的変遷を概観したうえで,特に2000年4月に診療報酬制度の中で制度化された診療録管理体制加算について「加算がついたことは大きな一歩だった」と評価したものの,「30点から前進がないことは残念。ぜひとも今後の課題としたい」と述べ,その目標のためにも,今自分たちに何が求められているかをこの制度から読み取りたいとした。

「診療録管理体制加算」から見えるもの

 氏は診療録管理への加算が制度化された背景を「診療情報開示に向けての環境整備」と「包括支払制度導入に向けての基盤整備」(参照記事)と分析。続いて,診療録管理体制加算の施設基準9項目の1つひとつを取り上げながら,診療情報管理士に求められているものは何かと会場に問いかけた。
 診療録管理体制加算の施設基準は,
1)診療録記録のすべてが保管・管理されていること
2)中央病歴管理室が設置されていること
3)診療録管理部門または診療録管理者が配置されていること
4)診療記録の保管・管理のための規定が明文化されていること
5)1名以上の選任の診療録管理者が配置されていること
6)保管・管理された診療記録が疾患別に検索・抽出できること
7)入院患者について疾病統計には,ICD大分類程度以上の疾病分類がされていること
8)全診療科において退院時要約が全患者について作成されていること
9)患者に対し診療情報の提供が現に行なわれていること
の9項目である。
 氏はまず1)について欧米の資料と比較しながら,医師法に定める5年という保管期限が国際的にみて短いものであることを指摘。また,例えば小児科や産婦人科の診療録を長期間保管するよう定めているイギリスの制度などを紹介し,保管期限を一律に定めている現行制度に疑問を投げかけ,今後の議論の必要性を説いた。
 2)については現在,多くの病院で診療録の保管場所にかかわる問題が生じている。スペースだけの問題であれば電子カルテ化によって解決が可能と考えられるが,一方で「その情報が本当に残す価値のあるものなのか」という判断も求められる問題でもある。氏は「その記録が参照するに足るものでなければ,保管や中央管理することの意義そのものが問われることになるだろう」と述べ,情報の質の評価と担保が課題であるとした。

見えない「診療情報管理士」の姿

 3-5)は診療録の管理者についてであるが,氏はこれらの項目に「診療情報管理士」という資格名が明記されていないことを指摘。「診療情報管理士」は日本病院会ほか4病協,5団体の認定資格であり,国家資格に匹敵する重みを持つものであり,「国家資格でないからといって,明記されていないことの理由にはならない」と述べ,「診療情報管理士」が法制度の中にきちんと組み込まれるよう,努力すべきだと訴えた。
 また氏は,自ら行なった全国調査の結果から,診療情報管理士の普及はまだまだ進んでおらず,各病院管理者の診療情報管理への認識はいまだ低いことを指摘。これらの認知度をあげ,普及を進めていく努力を,診療情報管理士はもちろん,会場に集まった各施設管理者に求めた。
 同様に,6-8)は診療情報の分類・管理にかかわるものだが,氏は「今春にはDPCに基づく医療費の包括支払い制度の導入もあり,こうした分類・管理の現状も改善される方向にあるだろう」としたものの,一方でICD10など,診療情報管理の基本的な概念についてあまりにも知識がない医師・看護師も少なくないと指摘。こうした分類が存在し,全世界共通のものとして用いられていることが,医療職の共通認識となっていないのは由々しき問題であるとして,今後の大きな課題であると述べた。
 また,9)は診療情報の開示についての条項だが,「情報開示において一番の基本は,記録の現物を見せることであり,コピーや要約では意味がない」とし,診療情報開示を「全面開示」の方向性へと牽引していく役割を,病院管理者と診療情報管理士に求めた。

診療情報管理は病院経営の「要」

 以上のように診療情報管理士のこれからの役割について述べた氏は,病院経営には医療の質の向上,患者サービスの向上,そして経営の効率化という3つの大切なポイントがあるが,診療情報管理士の仕事はそのいずれにも深いかかわりを持っていることを指摘。「医療の質の改善を念頭に置き,病院経営に参画するような機能を持っていくことが,私が診療情報管理部門に期待していることである」として,講演をまとめた。

■アジア各国で進むIT化・標準化

 2日目に行なわれた特別講演「アジアにおける診療録管理事情」では,3人の演者が韓国,中国,台湾のそれぞれの診療録管理の現状を報告した。
 金弘鎭氏(嶺南大・韓国)は,DRGや電子カルテシステムの導入などの経緯を紹介しつつ,国家的な法整備のもと診療録管理が行なわれている韓国の状況を紹介した。
 DRGについては全面的に導入されているわけではないが,DRG導入によって医療費が抑制されていることも報告されており,今後さらに範囲を広げていくことも予想されている。
 もともと医学教育を英語中心に行なってきた韓国ではカルテも英語+韓国語の記載が主流。韓国語部分も疾病名などは漢字記載が多く,漢字が読めない患者も少なくないことから,情報開示時代を迎えて「ハングルでカルテを書いてほしい」という声も高まっている,と報告した。
 続いて張彦虎氏(高知女子大助教授・中国)は,「歴史が長い」「レベルが高くない」「地域差が大きい」という3つのキーワードを示したうえで,中国の診療録管理の現状と課題を報告した。
 古くは宋の時代からの歴史を持つ中国の診療録管理。張氏は全体としてのレベルは高くはないと述べるが,例えばカルテの保存年限が外来で15年,入院カルテは永久保存であることや,開示請求のあった場合,原則的にカルテのコピーを発行するなど,非常に特徴的な部分も多く紹介され,会場からは多くの質問がとんだ。
 また,地域差が非常に大きいことも中国の特徴であり,世界的な標準に達している施設がある一方で,基本的な診療録管理機構を持たない地域もあるなど,課題は大きいとした。
 最後に范碧玉氏(台湾大附属病院・台湾)は,97年に設立した台湾診療録管理協会を中心とした台湾での診療録管理の歩みを紹介した。
 カルテ管理の方法は,疾患分類にICD-9-CMを使用するなど,米国式を多く導入。電子カルテは実に60%近くの病院が取り入れており,IT化が急速に進展する台湾の状況が報告された。