医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


話題の創傷治療新概念,ついに出版!

これからの創傷治療
夏井 睦 著

《書 評》坪井良治(東京医大教授・皮膚科)

新しい「皮膚外傷治療マニュアル」

 夏井睦氏のインターネットサイト「新しい創傷治療」は各方面から注目されてホットなサイトとなってきたが,いよいよそれを具体化した本が「これからの創傷治療」と題して医学書院から出版された。本書はB5版100ページほどのハンディな医学書であるが,斬新な医学理論の展開と数多くの鮮明な臨床写真で内容も濃く読みやすい仕上がりになっている。「皮膚外傷治療マニュアル」として日常診療の中で座右の書として推薦できる。
 夏井睦氏は創傷治療に関して,被覆材を使用した閉鎖湿潤療法の重要性と消毒の有害性を一貫して強調してこられた。本邦の外科系診療においては,これまで外傷や皮膚潰瘍に対して毎日の消毒とガーゼ交換が当然のごとく実施されてきた。本書はこの間違った医療行為に対するアンチテーゼであり,氏の主張は理論的に正しい閉鎖療法が実際の医療現場では実践されていないという現実に対する批判でもある。

日常診療にすぐ役立つ内容

 本書の構成は,「創傷治療の基礎知識」,「創傷被覆材について」,「外傷治療の実際」,「消毒とそれに関する問題」,の4章から成り立っている。「創傷治療の基礎知識」では,閉鎖療法による湿潤環境の維持の重要性が図と臨床写真でわかりやすく述べられている。「創傷被覆材について」では,被覆材の特長と選択基準が記載され,巻末に一覧表も掲載されているので,被覆材を選択する際に参考になる。「外傷治療の実際」では,氏の豊富な経験の中から症例を選び,臨床写真で治療経過を示すことで新しい治療法の優位性が述べられている。「消毒とそれに関する問題」では,従来行なわれてきた「消毒」という行為が,生体組織を障害して治癒を遅らせること,感染と定着の違いなどが述べられている。各章にある「ワンポイント」も日常診療に役立つヒントが数多く記載されていて楽しい。
 著者のウイットに富んだ表現と歯切れのよい文章はエッセイとして読んでも楽しい。小外傷や皮膚潰瘍,熱傷,褥瘡などに対する処置は,外科系診療科をはじめほとんどの診療科で必要な知識と技術であり,本書は研修医だけでなく,各科専門医をめざす人や各診療科の責任者にも薦められる。多忙な中,全国各地で講演している氏の講演内容とセットにして読まれるとさらに楽しいかもしれない。
B5・頁112 定価(本体2,800円+税)医学書院


目の前の“この子”と一緒に開く,糖尿病療養指導の実践書

“この子”への療養指導
1型糖尿病と歩こう

青野繁雄 著

《書 評》中村慶子(愛媛大教授・看護学科)

 『1型糖尿病と歩こう』この小さな1冊に出会ったのは,平成15年5月,第46回糖尿病学会,糖尿病サマーキャンプのこれからについて語り合うシンポジウムの打ち合わせ会で,著者である青野繁雄先生と同席させていただいた時でした。福岡ヤングホークスキャンプを指導されている岡田朗先生が笑顔でこの1冊を掲げて,「これ」と青野先生に合図を送っていました。さっそくその会場で求めました。ページを開いた最初の章から,子どもとその家族が目の前にいるような情景が浮かんできました。子どもたちの表情が,ご家族の変化していく様子が。彼らの声さえも聞こえてくるように思えました。青野先生の診察室の情景に加えて,成長していく子どもたちの姿が時空を超えて見えるようでした。

糖尿病教育の現場には正しく新しい学問知識が不可欠

 日本糖尿病療養指導士の誕生は,糖尿病の教育やそれにかかわる人たちに多くの学習の機会を与え,その質的向上に大きく貢献していると思います。しかし,その人たちの集まりでは,「子どもの糖尿病はよくわからない……」「1型糖尿病の子どもを看るのは初めてのことで……」という声をよく聞きます。そんな人はぜひ,今,目の前にいる“この子”と一緒にこの本を開いてくださいとお薦めします。1型糖尿病の子どもではなく,子どもの糖尿病でもなく,“今のこの子”に必要な支援を見出すためには,不可欠な教科書であり,実践書になってくれると思います。
 青野先生は,「糖尿病教育の現場では学問的知識に加えて,経験に基づく知識,あるいは知恵も大切……」と第1部の冒頭で述べています。私は確かに経験と知恵は大切な要素であると思いますが,それらの根底には,正しく新しい学問的知識の存在が不可欠であると考えています。糖尿病教育にかかわる者にはそのための学習や研鑽は義務であり,経験と知恵はこれらの知識と相互に関係し,円環的な効果を示すものであると思います。この本の中では,“この子”のための知識として,代謝や思春期の内分泌機能の影響,検査データの判断など,私たちにとっては難解な知識の部分がわかりやすく解説され,CSIIや間もなくわが国で発売される超遅効型インスリン製剤,さらに小児の内服薬の治療や合併症への対応など最も新しい知識が網羅されています。そして,何よりも心強いのは示された1型糖尿病を持つ子どもたちへの療養指導や治療の1つひとつに根拠があることです。やさしく示された指導方法とその根拠には,青野先生とそのグループの先生方の経験に基づく知識と知恵,研究成果の裏づけが伺えます。

改めて問われる“この子に必要な支援”

 バッグにすっぽり入ってしまう小さな本『1型糖尿病と歩こう』は,糖尿病の療養指導にかかわる私たちに求められる能力や有り様から,子どもたちや家族の方々にわかりやすく説明できるための資料や方法論までを支援してくれています。さらに,子どもの糖尿病の療養指導を専門に担当してきた者には,うっかりと陥りやすい落とし穴を警告し,改めて“今,この子に必要な支援とは?”を問いかけてくれるものであると思います。そして,子どもの思い,親の思い,医療スタッフの姿勢やものの見方を問い直してくれています。つまり「1型糖尿病と歩こう──“この子”への療養指導」とは,特別な環境をつくることではないこと,子どもの話を聞くこと,コントロールが不良な子には改めて単純な質問をすること,そして,子どもの自己管理能力の向上を待ってやること……。
 1型糖尿病を持つ子どもたちにとっては,糖尿病であることが特別ではなく普通のことであると言えます。そんな1型糖尿病をもつ子どもたちみんなのための環境づくりと,子育ての視点に立った1人のための療養指導の継続に,青野先生からのメッセージが,この小さいけれど賢い本を介して発展していくことを期待しています。
A5・頁184 定価(本体3,000円+税)医学書院


リハビリテーション医療の現場で「愛用」されるべき1冊

義肢装具のチェックポイント 第6版
日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会 監修

《書 評》蜂須賀研二(産業医大教授・リハビリテーション医学)

挿絵を使ったわかりやすい解説

 医学部を卒業してリハビリテーション医学の道に入り4-5年経った頃,『義肢装具のチェックポイント』の初版を購入した記憶があります。装具や義足の説明が写真ではなく挿絵であったこと,説明の文章がきわめて簡潔であったことが印象的で,それ以来,私が愛用する1冊となっています。
 この度,医学書院から『義肢装具のチェックポイント』〔第6版〕が出版されました。本書は日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が監修し,これまで長らく本書の出版に携わってきた北里大医療衛生学部・加倉井周一教授(現・同大客員教授)と,精鋭として新たに加わった国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所・赤居正美部長が編集を担当し,臨床経験豊富な22名の方々が分担して執筆を担当しています。本書の構成は,第Ⅰ章「義肢装具の処方」,第Ⅱ章「義肢装具のための運動学」,第Ⅲ章「切断術」,第Ⅳ章「義肢のチェックポイント」,第Ⅴ章「装具のチェックポイント」,第Ⅵ章「リハビリテーション機器のチェックポイント」,付録からなり,義肢や装具の臨床に必要とされるほぼすべての領域が含まれています。
 第6版の挿絵は初版の伝統を引き継ぎながら,2色刷の単純な描画ですが若干の濃淡がつけてあり,よりリアルな印象を与え,写真を見るよりも一目で何が重要かがわかるように仕上がっています。大腿切断者や下腿切断者の異常歩行はdynamic alignmentとして重要ですが,われわれ臨床家には馴染みにくい点があり,私自身,本書第1-5版の挿絵を見ながらその理解を深めてきた経緯があります。第6版では切断者の異常歩行の挿絵がさらにわかりやすくなっています。すでに本書の義肢装具の挿絵は,この領域ではスタンダードとなった感があり,リハビリテーション医,義肢装具士,理学療法士,作業療法士の方々は,少なくとも一度はこれらの挿絵を見たことがあると思います。

臨床家にうれしい構成

 本文の記載は,臨床的立場から「チェックポイント」に焦点を当てているのが最大の特徴であり,義肢装具の歴史や機構を教科書的に解説した書とは一線を画するものです。また,ページのあちこちに余白が残されているので,調べやすく,読みやすい印象を与え,文章と挿絵のレイアウトの観点からもこの余白が大変重要な役割を果たしています。そのため本書は教科書ではなくマイ・ノートとして使えるのが魅力です。
 『義肢装具のチェックポイント』があれば,リハビリテーション医療の現場で必要な義肢装具の知識をほぼすべて習得することができ,リハビリテーション医,義肢装具士,理学療法士,作業療法士ばかりではなく,整形外科医,医療ソーシャルワーカー,その他の医療福祉関係者にもぜひ一読されることをお勧めします。またベテランの臨床家にとっては,診察室や訓練室の本棚に1冊備えて置き,臨床現場の疑問点を挿絵を見ながら確認する使い方が最適です。本書は愛読書というよりも愛用書となる1冊です。
B5・頁372 定価(本体7,600円+税)医学書院


日本の医学・コメディカル教育のレベル向上のために

ハリソン内科学
Harrison's Principles of Internal Medicine, 15th ed

福井次矢,黒川 清 日本語版監修

《書 評》日野原重明(聖路加国際病院理事長)

 今般,『ハリソン内科学』原著第15版(「内科学の原理」の邦訳)がメディカル・サイエンス・インターナショナルから出版された。日本語版監修はアメリカ医学に精通し,臨床医学としての内科学の原理と応用については多年の経験と広い学識をもたれる京都大学の福井次矢教授と東海大学の黒川清教授である。私が渡米した1951年にはCecil編著の内科学が有名で全米に普及していたが,1950年にこれに対抗して病態生理学と症候学に重点をおいたHarrison教授による内科学書が発行されており,急速に医学生の間に広がっていた。その勢いはますます盛んになったが,私がエモリー大学に留学していた当時に交流のあったBeeson教授は初版と第2版で,またBeeson教授の後を受けてその弟子のI. Bennett教授も『ハリソン内科学』の編者として活躍された。

医学全般を知るための必読書

 EBMが日本に急速に普及するに至り,教科書の位置が下がった感触がもたれる傾向のある今日であるが,この第15版のHarrisonの教科書を見ると,福井教授の序文にあるごとく,このテキストの教えは幅広く,奥深い医学知識をよく分類して読者に最新の情報を提供するものである。このテキストは医学生や研修医,さらに医学に関連を持つ看護やコメディカルの指導者,さらに内科以外の各科の教官がそれぞれの専門性を持ちながらも,広い医学全般を知るうえで必読の書だと思う。

全人的医療の大要がわかる

 本著の冒頭に現れるPart1の臨床医学総論は,上述の学徒に必読の内容を持ち,臨床医学とはどんなもので,どのように他の専門とかかわるか,また,環境や社会とどうかかわりあうかを適切に解説するものである。これを読むことで全人的医療の大要がわかるのである。そのあとのPart2では主要症候として痛み,発熱,その他各科の疾患の症候が取り上げられている。Part3以下は各系統別の疾患が取り上げられている。
 日本における医学教育やコメディカルの教育のレベルを上げるうえで,この『ハリソン内科学』は新しく,かつ幅広い知識を学習者が身につけるために非常に有効なテキストだと思う。読者はPart 1とPart 2を必読し,それ以下のパートは症例に出会った際に選び読みすることをお奨めしたい。
A4変・頁3200 定価(本体29,800円+税)MEDSi


一歩踏み込んで知識を深めたい救急医に最適

《総合診療ブックス》
救急総合診療Advanced Course21

箕輪良行,他 編

《書 評》郡 義明(天理よろづ相談所病院・総合診療教育部部長)

 本書は好評であった総合診療ブックス『救急総合診療basic 20問』の続編である。したがって最も基本的なBLS,ACLSなどから一歩踏み込んだ内容になっている。
 本書は,救急の現場でよく遭遇する21の疾患・病態・手技について取り上げている。それぞれの項目には,まず,最初に適当な症例の提示があり,3つのステップ(ステップ1:病態・手技の基礎知識,ステップ2:手順と注意点,ステップ3:未だに語論の分かれる点)別にポイントを押さえた記述があり,最後に提示した症例のマネージメントに関する教訓が記載されている。臨場感があり,現場を想定しながら読んでいけるので理解しやすい。
 本書の特長をあげると,まず,内容が実際の臨床経験に裏打ちされていて実践的である。しかも,悪しき経験主義に陥らないように,よく用いられている手技や治療法についても,学問的な裏づけ(有効性のevidence)に触れ,現時点での評価がなされている。

救急診療の「その心」を解説

 昨今,救急診療に関するマニュアル本は多々あるが,往々にして急性心筋梗塞→亜硝酸薬の点滴のようにしか書かれていない。つまり,「何々とかけて,何々と解く」で終わってしまっている。本書では「その心は……である」についての解説がある。「その心」を知らない機械的な処置が,時にピットフォールに陥いることは,ある程度救急の現場を経験した者なら誰しも実感していることだけに大いに役立つはずである。
 また,随所に知識の整理に役立つ格言や記憶術があり,手技に関しては豊富なイラストがある。中身が濃いだけに,私のような浅学者にとっては,イラストは理解を助けてくれるだけでなく,一息つける頭の休息の場でもある。
 さらに救急の現場でよく遭遇するにもかかわらず,これまであまり文章化されてこなかった,突然の死を迎えた家族への対応にも触れている。救急の現場では,救命に全力が注がれ,死は医療者にとって敗北を意味するためか,患者が死亡した際の対応は,どことなくぎこちないものになりがちである。多くの修羅場を経験した著者ならではの家族の心情に配慮した対処の仕方が記載されていて,大変参考になる。
 各項目の文献紹介も,文献の要旨を1行程度に解説してくれている。また救急に関するEBMの紹介もある。さらに知識を深めたいときに,何をまず読めばよいかがわかり,ありがたい。
 本書はadvancedの名の通り,ある程度救急の現場を経験した者が,知識の整理あるいは足らない部分を補足するために好適の書である。
A5・頁264 定価(本体4,000円+税)医学書院


EBMのNew Testament-時代を切り開く導きの手として

臨床のためのEBM入門
決定版JAMAユーザーズガイド

Gordon Guyatt,Drummond Rennie 著
古川壽亮,山崎 力 監訳

《書 評》斉尾武郎(フジ虎ノ門健康増進センター)

あんな分厚い本を訳すとは!

 「JAMAガイド」として有名な連載がEBMの提唱者の手で1冊の本にまとめあげられた。それを訳したものが本書の原著である──いや,実はJAMAガイドの原著は「エッセンシャル版」と「マニュアル版」の2種類にまとまっているのであった。
 1年ほど前であろうか,風の便りに古川教授がJAMAガイドを翻訳出版するそうだ,という話を聞いた。その時思ったのは,「さすが古川先生,あんな分厚い本を訳すとは!」であった。ガイアット先生といえば,GHGと言ってEBMer憧れの大御所である。そのガイアット先生の本を訳出するのに,古川教授ほど適任な人もなかなかいないというのも確かである。氏の名著『エビデンス精神医療-EBPの基礎から臨床へ』(医学書院)はそのまま英訳すれば,洋書として世界中でまとまった部数を販売できるほどのしっかりとした内容であり,また,氏の編集した『精神科診察診断学-エビデンスからナラティブへ』(医学書院)もまた,EBM時代の新しい精神医学像を世界に先駆けて提唱する歴史に残る名著である。私自身,都内で精神科の外来診療・精神保健業務に従事しており,氏の著作を日々参照しながら,診療に臨んでいる。しかし……「それにしても,あんな分厚い本を訳すとは!」

充実のエッセンシャル版

 原書で700ページほどもある分厚い本だとばかり思っていたところ,JAMAガイドをまとめた本は実は2種類あるのだと友人が指摘してくれた。構成はほぼ同じで,文庫本大なのが,本書の原著(エッセンシャル版)である。私は700ページもある「マニュアル版」を日常,EBMの辞書代わりに用いているが,本書(エッセンシャル版)もかなりの充実度であり,日常出くわすEBM関連の疑問は本書で十分に解決できる。これは裏を返せば,これまでEBMを正しく理解するための本の決定版がなかなか出なかったということでもある。本書には,EBMという言葉の来歴や,私の研究分野であるEBMの哲学についての概説も載っている。かねてより,私はEBMの修得にはEBMのエトスの理解が不可欠であると述べている。読者諸氏は本書を座右に置き,縦横に使いこなすことにより,EBMの達人になることも可能であろう。古川教授・山崎教授をはじめ,翻訳の偉業を成し遂げられたEBMの伝道師の方々に深く感謝するものである。
A5・頁404 定価(本体4,000円+税)医学書院