医学界新聞

 

〔寄稿〕

日本で家庭医療専門医になる

富塚太郎(カレスアライアンス東室蘭サテライトクリニック)


 私はこの4月に医療法人社団カレスアライアンス北海道家庭医療学センター(以下,HCFM: The Hokkaido Centre for Family Medicine)家庭医療学専門医課程を修了し,5月から北海道室蘭市にあるクリニックで家庭医として働いています。HCFMは日本で家庭医療学専門医養成を目的とする数少ない機関です。私は3期生であり,研修環境はまだ発展途上でしたが「日本で質の高い家庭医をめざす」という志と情熱が溢れる雰囲気の中,よい研修ができたと感じています。

HCFMの研修内容

 HCFMの家庭医療学専門医課程は2年間の初期研修と2年間の後期研修,合計4年間のプログラムです。
 初期の2年間は地域で家庭医療を実践している教育クリニックでの研修を軸とし,病床数544床の日鋼記念病院でスーパーローテート方式の研修をしました。その中では1年に1か月のクリニック研修の他に,各専門科を研修している時も週に半日,教育クリニックで外来・訪問診療の研修をし,経験ある家庭医療専門医の指導を受けます。このプログラムにより常に家庭医療という目標を意識しながら研修できました。またここには同じ目標に向かって進むレジデント仲間が多数いて,夢を語りながらお互いをモチベートしあえる,よい環境でした。
 3-4年目の後期研修は家庭医療の実践を経験しながら,さまざまな地域の指導医の元で指導を受ける充実したものでした。岐阜の「揖斐郡北西部地域医療センター」,沖縄の「ファミリークリニックきたなかぐすく」といった,日本で家庭医療を実践し,かつ教育も行なうという優れた指導医のいる施設で診療し,学び,語りあいました。このことが,家庭医療を実践するために必要な知識・技術・態度のみならず,プロフェッショナリズムや生き方そのものも学ぶ機会になり,今後の実践の基礎を形成しました。
 また選択研修として米国の代表的家庭医療学教室を持つOregon Health & Science Universityで研修する機会に恵まれ,診療・教育のみならず研究・運営などを学びました。そこで実践されていること,めざしていることはHCFMと共通であると実感し,強く惹かれる医師にも出会い,現在の実践の自信・意欲の源となっています。

期待できる家庭医療の今後

 研修を終了し,地域での診療に携わっていて感じることは,専門科としての家庭医療は日本では新しい概念であり,医師間のみならず患者さんにも馴染みがなく,そのままでは受け入れられづらい現状があるということです。今,私は「家庭医療」という枠組みを押しつけるのではなく,「その患者・地域に必要とされている医療を幅広く継続的に提供する」という,家庭医療の基本スタンスで診療を続けていますが,そうすることで患者さんがどんな問題でも相談してくれるようになり,患者さんが患者さんを連れて来てくれるという嬉しい状況になっています。このことからも,家庭医療が支持されていると感じますし,今後の発展に確信を持っています。

家庭医研修の理想と実際

 家庭医をめざすには,初期臨床研修から家庭医療を指向する目標の明確な研修病院を選択できることが理想です。そこで幅広い実践を経験しながら必要な知識・技術を身につけ,独学や講義では得られない,家庭医療実践の背景にある「家庭医療のプリンシプルズ」を実感,経験し,それを指導してくれる指導医のもとで深めていく作業が重要なのです。
 しかし現状ではまだ研修施設が未成熟で,数も限られているため,希望する方の期待に沿えないことも多いでしょう。例えば「スーパーローテート研修プラス外来研修」といったような,分断された専門科研修を受けながら家庭医をめざす場合には,専門科研修の集積が,決してイコール家庭医療の研修にはならないことを強く意識しなければなりません。その経験をふまえつつ,早く家庭医療を実践する場で,できれば経験ある家庭医とともに経験を積むべきです。
 最後に,成熟した十分な研修の中で教育を享受しようと考えている方には,現状ではまだ家庭医療という選択は厳しいです。今日本で家庭医になろうとするならば,多少の困難を覚悟し,これから日本の家庭医療のパイオニアになろうという意志が必要かもしれません。



富塚太郎氏
1999年京都府立医科大学卒業。医療法人社団カレスアライアンス日鋼記念病院・北海道家庭医療学センター研修医時代は「それぞれの地域が持つ個性」を意識し,各地の診療所に積極的に出向いて医師としての研鑚を積んだ。2003年より現職。家庭医として活躍している。
(E-mail:taro.tomizuka@nikko-kinen.or.jp