医学界新聞

 

家庭医療学の確立に向けて-「総合する専門医」をどう育てるのか

伴信太郎氏(名大総合診療部教授・日本家庭医療学会会長)に聞く


まずは専門研修の確立

──家庭医療学を志す学生や研修医は,今後どのような研修が必要になるのでしょうか?
 家庭医療学を習得するステップとしては初期研修,その後に続く専門研修,そして専門医としての認定という3段階があると思います。
 このうち初期研修については,すでに来年度からスタートする臨床研修の必修化に伴い,「地域保健・医療」の研修が必須とされ,そのための研修モデルカリキュラムが,日本家庭医療学会,日本プライマリ・ケア学会などの他,計6つの団体からなる「プライマリ・ケア教育連絡協議会」(http://www.reference.co.jp/primary-care/)によって作成されています。ここでは,プライマリ・ケアや地域医療の位置付けや,病棟での医療とは異なる患者へのアプローチを中心に学ぶことになります。
 初期研修の修了者を対象とした家庭医療の専門研修については,現在,日本家庭医療学会内でもワーキンググループを作り,そのカリキュラムの準備をしているところです。
 専門医制度については,先に申し上げた連絡協議会のような,プライマリ・ケアに関わる諸団体で一本化したような専門医制度が必要と考えています。それぞれの団体で専門医制度が乱立する事態になりますと,学生や研修医は困惑することになるでしょう。ただ,現時点では,まだ専門医制度の必要性の有無について議論される部分もあり,専門医制度一本化に向けた調整はこれからという段階です。まずは,家庭医療学会としての専門研修を確立することが先と考えています。

開業前のre-trainingの場としても

──家庭医専門研修にはどのような要素が求められますか?
 家庭医をめざす場合,1つの診療所だけでの研修では足りません。やはりさまざまな専門領域における研修が必要になってきます。いわゆる第3次医療機関における研修もおりまぜて,各領域を「学びなおす」ということも必要です。家庭医は「よろず健康相談」を受けることのできる医師ですが,地域にいて,患者をそれぞれの専門科に振り分けるだけの存在ではありません。どこの国でも,外来で訪れる患者の9割ほどのトラブルを家庭医が対応し,解決しています。「総合する専門医」としての家庭医は,地域にいて,保健,医療,福祉のすべてに関わる存在なのです。
 また,開業する医師のためのre-trainingの意味でも家庭医専門研修は重要です。例えば現在,内科の医師が開業する場合に,小児科のことも勉強しようと考えて数か月程度小児科で研修をしなおしたとします。小児科は季節によって多い疾患がかなり異なってきますので,例えば夏場の数か月間で研修した場合,冬場に多い感染性胃腸炎などはほとんど診ずに終わってしまいます。このように考えると,小児科などのメジャーな科の場合,re-trainingとはいってもやはり1年間は研修が必要です。専門研修では,このような部分もフォローしていけるようなカリキュラムが必要と考えます。

「家庭医」輩出できる土壌はある

──今後の家庭医に対するニーズはどのようにお考えでしょう?
 現在は「身内に医師がいると良い医療が受けられる」と言われます。先に述べましたような,保健,医療,福祉のすべてに通じる家庭医がいることで,誰もが平等に,気軽に医療を受けられることになります。そのような意味で,患者の立場で見れば,間違いなく必要な分野といえるでしょう。
 医師の立場からみますと,日本は非常に専門科志向が強いですが,これは研修する病院に専門科が増えたからであるといえます。外国では専門医のほうが各段に収入が多くなるなどといった国もみられますが,日本では経済的な格差は少ないのです。このような観点からも,日本で多くの「家庭医療専門医」を輩出できる土壌は欧米よりもむしろよいと考えます。実際に,全国の医学生,医師の中には「総合する専門医」をめざす人が少なくありませんので,その人たちのための受け皿作りをぜひ進めていきたいと考えています。
──ありがとうございました。