医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


救急医療に臨む研修医に愛され続ける1冊

救急レジデントマニュアル 第3版
相川直樹,堀 進悟 編

《書 評》明石勝也(聖マリアンナ医大教授・救急医学)

10年の歴史,さらに充実した内容

 平成16年度からの新しい医師卒後臨床研修制度必修化に向けて,このところ研修医向けの新たな救急医療関連書籍が出版されはじめた。かねてよりレジデントに好評であった本書もこれに合わせたように第3版が上梓された。しかしながら誤解してはならない。初版からの本書のコンセプトが,レジデントにとって必要な救急医療の知識として,軽症から重症まで救急外来を訪れるすべての患者に初期対応できるものとされていたのである。今回初めて表紙に「ER(Emergency Room)」と明記されている点にも著者らの意識が強く表れているように思う。
 初版からの10年間に実際にレジデントによって使われ続けた結果,第3版では各項目の記述は簡潔かつ明確な内容にいっそう高められている。「症候からみた初期治療」の章などは項目の分け方などに経験に基づく吟味が感じられる。ACLSがアルゴリズムとして記載されるようになったところ,ATLSにFASTがside memoとして解説されているところなど細かなところにも配慮がなされている。

実践の場で役立つ工夫

 本書が救急医療の実践の場で役立つマニュアルとして優れている点は,症候別に対処法が記載されていること,初期治療に焦点が当てられていること,各項目が救急診療の手順にのっとり,最初の処置,重症度の判定に始まり,入院・帰宅の判断まで順序よく記載されていること,必要な手技もわかりやすくコツがつかめるように書かれていることなどである。しかし最も優れているところは,これだけの内容をポケットに収まるサイズにコンパクトに仕上げている点であると思う。
 われわれの救命センターでもオリジナルマニュアルの作成に取り組んだことがあるが,本書の存在を知って以来,レジデントには本書を配布するようにしている。第3版も彼らに高く評価されることは間違いなかろう。
B6変・頁576 定価(本体5,800円+税)医学書院


最新のAO哲学が示された,整形外科医の座右の書

AO法骨折治療
[英語版CD-ROM 2枚付]

糸満盛憲 日本語版総編集
田中 正 日本語版編集代表

《書 評》松下 隆(帝京大教授・整形外科学)

骨折治癒の病態生理と生物学に主眼

 本書は初版の出版以来33年ぶりに大改訂を受けたAO骨折治療法マニュアルの日本語版である。「Manual der Osteosynthese」の初版本は1969年に出版され,翌1970年には本書と同じ医学書院から『図説 骨折の手術AO法』の名で訳本が出版されている。この本は印刷された図版をそのまま輸入し,説明文のみを日本語に置き換えたもので,当時としては非常に美しい画期的なものであった。その後,英語版は1977年と1992年とに2度の改訂を受けそれぞれ日本語版が発行されている。
 本書の英語版はAO骨折治療マニュアルの第4版の位置づけではあるが,内容はこれまでの版とは大きく異なっており,書名も「AO Principles of Fracture Management」と変更されている。これまでの版がどちらかといえば骨接合術の手術手技書の性格が強かったのに対して,本書は骨折治療の新しい考え方や治療法を示し,固定の力学的観点より骨折治癒の病態生理と生物学とについて詳しく解説し,最新のAO哲学を伝えることを主眼としている。

示された新しいAO哲学

 本書によれば,AOの哲学は,「筋骨格系の外傷とそれに関連した障害を持つすべての患者を中心に据え,関節可動性や機能の早期回復をはかるための治療パターンを計画し提供すること」である。そして,この哲学を実現するための原則は,AOの創設期では「骨片間圧迫によって絶対的安定性を獲得し骨折部の強固な固定性を得る」という簡潔で教義的とも思えるものであったが,今日では,1)解剖学的な関係を回復するための骨折整復と固定,2)骨折とその損傷の特徴が必要とするだけの固定あるいは安定化,3)注意深い操作と愛護的な整復技術による,骨・軟部組織への血行の温存,4)患部と患者の早期および安全な運動,の4点となっている。

CD-ROMを活用して手技を確認

 本書も初版の訳本と同様,1600点を超えるすべての図がオリジナルとまったく同一であり美しく理解しやすい。さらにCD-ROMも添付されており,すべての図をパソコンの画面上で見ることができる。しかもその中の100点以上が動画であり,手技のステップを繰り返し確認することができる。CD-ROMの画面は英語版のページレイアウトと全く同一であり,本書は実質上,訳本に原著もついてくるという今までに例を見ないものである。私は,原著を一昨年手に入れ,内容の充実ぶりと画像の美しさに驚かされたが,本の形をCD-ROMの画面と同一の形にするために横長の装丁になっていることには違和感を覚えていた。ところが,本書はレイアウトが変更され,原著よりずっと読みやすくなっている。
 本書は,整形外科を標榜するすべての医師にとって骨折治療の知識をブラッシュアップする最良の書であり,日々外傷の治療に携わっている整形外科医にとっては頼りになる座右の書となると確信している。
A4・頁688 定価(本体35,000円+税)医学書院


学生にも読みやすい,比類なき小児科学テキスト

標準小児科学 第5版
森川昭廣,内山 聖 編

《書 評》根東義明(東北大教授・医療情報学分野)

重要項目を見極めにくい現在の医学

 四半世紀前,まだ私が医学部の学生であった頃,小児科学の教科書では大変苦労をした覚えがある。当時5年生で小児科をすでにめざしていた私は,小児科の全体像に特に強い関心を持っており,短時間に広い分野を網羅し理解することのできる教科書を望んでいた。しかし,どの教科書も大変専門的で,医学初心者である学部学生にとってこうした専門的小児科学教科書の読破は,まさしく悪戦苦闘だった。ましてや,Nelsonの『Textbook of Pediatrics』を英語で読むというのは,ごく一部の秀才学生を除いては,ほとんど不可能な至難の業だったと思う。今思えば,小児科学をよく理解したいというその思いは,結果的に国家試験対策のサブノートなどの簡便な書籍へ持ちこまざるを得ない状況だった。それでも,当時まだよかったのは,分子生物学がまだ十分に発展していない頃であったため,医学も現在ほど多岐にはわたっておらず,何が基本で何が専門的なのかを見極めるのが,学生でもそれなりにできていたように思う。
 現在の医学は,とりわけこの10年間に驚くべき進歩を遂げつつある。このことは小児科学でも同じであり,何がより基礎的かつ重要なのか,何がより専門的で各論的なのかを見極め整理することは,学生にとって大変難しい時代になったことと思う。

初学者でも取っ付きやすく

 本書を手に取りまず感じることは,その取っつきやすさである。教科書といえば以前から,大変堅物で,情報が単に羅列され,どこが大事なのかよくわからないという印象を持つ。ところが,本書はこの先入観をみごとに覆しているように思われる。より直感的に理解しやすいよう,非常にたくさんの図表が使われている。整理され網羅された章立てには考え抜かれた論理性がある。執筆の先生方は,当然高い専門性を持たれているのに,あえて初学者の立場に立ち直して基礎的知識をきちんと整理され,重要な最新の知識をもちりばめている。こうした知識整理のすばらしさは,すでに20年以上小児科学に身を投じてきた私自身も,改めて最初から最後まで読み進めたくなるという,大変優れた出来栄えである。これなら使えると思わず言いたくなった。このことは,1991年に初版の本書がこの10年以上にわたる改版の積み重ねの中で鍛え上げられてきた大きな成果であろう。
 人の一生が発達・成長と老化であることを考えると,小児科学をめざすかどうかにかかわらず,小児科学をよく理解することは大変重要なことと思う。本書は,小児科学の教科書として,比類のない知識を与えてくれるだろう。本書を習得した学生が卒業して日本の医療を支えることを想像すると,未来は明るいと言ってしまうのは過言だろうか。
B5・頁720 定価(本体8,800円+税)医学書院


研修医がちょっと背伸びして挑戦する,救急医療実践のための1冊

《総合診療ブックス》
救急総合診療 Advanced Course 21

箕輪良行,他 編

《書 評》松村理司(市立舞鶴市民病院副院長)

歯ごたえがありながら論旨が追いやすい内容

 救急現場の現役医師たちによって書かれた本である。味読とまではいえないが,一通り読ませてもらっての感想の第一は,なかなか歯ごたえがあるということである。既刊の「Basic20問」に次ぐAdvanced編だからであろう。現在50歳代半ばの筆者が救急現場で仲間と苦楽を共にしていたのは,すでに10年以上も前のことになるからでもある。
 感想の第二は,全体を通してかなりevidence-basedな記載が心がけられていることである。したがって,少々歯ごたえがあっても,論旨が追いやすい。また,そのことが,Step3の「未だに議論の分かれる点」の項が生きてくる理由にもなっている。
 最近,編者の1人の箕輪良行先生とお話をする機会があった。救急医療が,全国での総合診療部の展開の枠外に置かれやすいのをしきりに嘆いておられた。その思いは,地域病院で働く一般内科医の筆者もまったく同じである。

卒後臨床研修でも必修化された救急部門

 さて,来春から義務化される卒後臨床研修では,内科,外科,小児科,産婦人科,精神科,地域保健・医療に混じって救急部門が必修となっている。救急医療が必修科目であるのは当然の要請であり,遅きに失したと思われるぐらいだが,アカデミックな医療空間ではこれまで傍流でしかなかったことは否めない。また,全国を眺めても,救急医療の実践水準はまだまだ発展途上である。
 こういう次第だから,この本は,「必修化された臨床研修に臨む研修医には少し高いゴール」というよりも,「かなり高いゴール」かもしれない。しかし,研修医がちょっと背伸びをして挑戦する読み物としては,この領域の良書が少ない現状では,正に格好と言えよう。
 蛇足ながら,「救急現場で研修医と患者・家族との間に発生したもめごとの調整」といった内容の記述なら,現在の筆者の手に負えるかもしれない。
A5・頁264 定価(本体4,000円+税)医学書院


豊富な図と映像で整形外科領域の最先端を学ぶ

Operative Arthroscopy 3rd Edition
John B. McGinty 編

《書 評》杉田健彦(東北大助教授・整形外科)

鏡視下手術にも対応した新しい内容

 第3版となる本書は,総論的な前半の3章と,それぞれ関節ごとに記述されている各論7章の計10章からなっている。前半部分ではbasic scienceやanatomyについて述べられており,各論では膝関節,肩関節に多くのページが割かれているのはもちろんのこと,その他肘関節,手関節,股関節,足関節および脊椎と,あらゆる関節について手術手技が詳細に記載されている。特に今回は新しいトピックとして,種々のdeviceによる半月板修復,拘縮肩,投球肩,thermal capsulorrhaphy,橈骨頭切除,拘縮肘,スポーツ選手に対する肘・股関節鏡,足関節骨折,距骨の骨軟骨移植,距骨下関節鏡などの項目が追加されており,日々進歩する鏡視下手術にも十分対応したものとなっている。
 私個人としては,種々の半月板修復術が多くの図とともに述べられている点,および膝関節の軟骨,あるいは骨軟骨欠損に対する治療が,自家培養軟骨細胞移植をも含めて記述されている点が大いに参考になった。

付属のDVDで手技のポイントも学べる

 さらに特記すべきことは,付属のDVDが付いたことであろう。約200分にも及ぶもので,専門医による手術手技のポイントを繰り返し学ぶことができる。手術経験の浅い読者はもちろん,すでに自分なりの手技を確立している読者にとっても,自分の手術を今一度振り返ることができ,臨床に大いに役立つものと確信するが,第4版ではさらに多くの手技が収録されることを望みたい。
A4変・頁995 定価(本体58,300円+税)
Lippincott Williams & Wilkins