医学界新聞

 

「患者の満足度」は医療の質指標

阿部俊子 東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科


 「患者の満足度」は医療の質指標である,という考えが欧米諸国での主流となってきた。米国では現在,医療機関における患者の満足度を医療の質を示す「患者経験」とし,調査結果を一般公開する試みが行なわれている。

Pickerのカンファレンスに参加

 Pickerの患者満足度のカンファレンスが,マサチューセッツのボストンで2003年7月16日から18日まであった。6か国から529名が参加して,患者中心のケアを提供するための方法論を話し合った。これはマネジドケアなどで病院が淘汰された時に,「患者に選ばれる病院」になるためのマーケティングとしての戦略でもある。
 特に今回は,2002年からはじまったメディケアとメディケイドのサービスセンターのCAHPS(Consumer Assessment Of Health Plans Study)プロジェクトが大きな焦点であった。これは,毎年医療ケアの利用者の調査を行なって,その内容を利用者や一般に公開しようというものである。「患者経験の標準」がどこにあるのかを定めようと,米国のアリゾナ,ニューヨーク,メリーランド州は調査をはじめている。2003年4-6月にデータ収集,7-8月に分析と病院調査を行ない,2003年9月から実施する。
 その「患者経験」の調査項目は,次のとおり。
1)患者の意思を尊重する
2)ケアの調整と統合
3)家族のかかわり
4)ケアのアクセス
5)情報と教育
6)患者の支援
7)継続と連携
8)身体的な安楽
 この7つの調査項目は,「Pickerの患者満足度」の項目そのままである。
 日本でも「Pickerの患者満足度」を使用して諸外国とのベンチマークをすることで,日本の医療での患者満足の問題点を分析していこうという試みが,東北大学の上原教授らを中心に現在行なわれている。米国では多くの病院でこのPickerの項目が用いられ,ヨーロッパでも英国,ドイツ,スウェーデンなどで使用され,比較されている。

感情面の支援が満足度を左右

 米国における患者の満足度で問題となる点の上位4つをあげてみると,(1)感情的支援,(2)患者教育,(3)家族へのかかわり,(4)ケアの継続となる。患者満足度の中で一番問題となっているのは,「患者の感情支援」である。これは患者の満足度に影響する点で,医師にとっても看護師にとっても重要なケアである。
 医療者は治療をするだけではなく,精神的な支援をしていくことが大切だが,そのためには患者が医師や看護師を信頼することが重要である。「患者にわかる言葉で説明する」のがその前提条件で,さらには患者のベッドサイドに「いる」ことが重要である。そのためにも,傾聴する,タッチセラピー,さらにはベッドサイド記録をするなどで時間の工夫が必要である。
 退院指導も一方的ではなくて,「自宅に帰ると大変なことは何ですか?」などオープンエンドで聞くことなどの本当に基本的な工夫が,今回のカンファレンスで話し合われていた。その当たり前のことを,当たり前にしていくことが非常に困難なのだ。
 また病院の管理者がどんなに高邁な医療のあり方を考えていても,それをスタッフに伝えるのは非常に難しい。組織における医療スタッフの価値観はそのまま行動に反映するので,スタッフの行動は組織の価値観でもある。医療スタッフ同士のチーム医療のありかたはそのまま医療スタッフと患者のかかわり方となる。
 患者中心の文化というのは,患者のニーズに対しての価値観であり,医療者が考える医療の質は患者にわかりにくいものかもしれない。でも患者にわかるような質を目指した医療にしていくことがこれからの課題である。医療は誰のためのものであるのか,ということを今回考えさせられた。