医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


骨折に携わる医師必携! AO法の集大成がここに

AO法骨折治療
[英語版CD-ROM 2枚付]

糸満盛憲 日本語版総編集
田中正 日本語版編集代表

《書 評》水野耕作(神戸労災病院院長)

原理や原則を振り返りながらAO法を正しく十分に理解する

 AO法骨折治療は,骨折の強固な固定と四肢運動機能の温存を2大目標として,1958年にMullerらにより考案され,瞬く間に世界中に普及しました。整形外科医ならばAO法手術をしたことがないとはいえないまでに発展しております。しかし,拙劣な手術的治療は保存的治療よりもその後遺症が深刻なものとなります。手術的治療の優位差を導くには,その手術法を正しく理解し実行しなければなりません。一部の人は,その術式のマニュアルや図解ガイドのみを手本として手術しているかもしれません。やはり,AO法骨折治療がいかに工夫され合理的に安全に発展したかを十分に理解することが必要です。
 本書はそのAO法の集大成として発刊されたものです。A4判,688頁に及ぶ膨大な教科書でありますが,1600点以上のカラー図版を巧みに取り入れ,手術手技はもちろんのこと,AO法の原理や原則もわかりやすく解説されています。第1,2,3章の基本的知識と原理を中心とした前半と,第4章の治療法を詳述した後半に大別されています。前半では,第1章にみるごとく,骨組織や血管組織における骨折治癒過程,骨折固定におけるインプラントの特徴とその原理ならびにAO骨折分類法などについて基本的な知識を解説しています。第2,3章では,骨折の部位と損傷状況からみた治療方針の決定法と術前計画を述べ,術中における骨折片の整復法,さらにスクリューや髄内釘などによる一般的な固定手技を詳述しています。後半は第4章の部位別治療法であり,いわば,本書の中枢であります。しかし,各部位別骨折の治療法とはいうものの,治療手技のみを詳細に述べているだけではなく,その骨折部位における組織特性,力学,材料や固定法などの原理と特徴を振り返らせながら(文中に→chapter 1.2と表示して,前半の第1章・基礎知識を再読させる),治療法を理解させ,その上で正しく実行させようという優しい配慮と熱心な指導方針がうかがえます。したがって,本書では,読者は治療現場で遭遇した骨折の部位,すなわち,第4章のうちで,しかも該当部分を読むだけで,基本的な知識も治療法も同時に取得できるように工夫されています。

基礎の章にぜひ目を通してほしい

 本当は,本書を精読してからAO法骨折治療を実施することが最良と思われますが,この膨大な成書を一気に読破することのできる人は少ないでしょう。また,基礎的な難しいことはあまり好きでないという人もいるかもしれません。しかし,イラストも多くて解りやすく解説されていますので,前半の基礎・原理などの第1,2,3章をせめて斜め読みでもよいからぜひ目を通していただきたいものです。AO法骨折治療の長年にわたって培った歴史のみならず,現在のAO骨折治療の真髄を知ることができ,読者自身が骨折治療の熟練者のみならず基礎知識と理論を兼ね備えたエキスパートになった感じがするに違いありません。
 Drs. Ruedi & Murphyの編集主幹と約70人の執筆者を動員して刊行されたAOグループの底力を感じるとともに,糸満,田中AOコース日本両代表をはじめとした19名の翻訳者の意気込みと誇りが,美しくレイアウトされた大著から滲み出て,思わず感動せずにはおれません。翻訳書に付きまとう不自然な日本文も非常に少なく,無理な単語訳は少々混在するものの,巻末の用語集で補完されています。それに,CD-ROMの併用でリアルな手技と正確な治療法が取得でき,骨折に携わる医師として必携の書と考えられます。
A4・頁688 定価(本体35,000円+税)医学書院


タンパク質立体構造から疾患を理解するための好書

Molecules of Life and Mutations
Understanding Diseases by Understanding Proteins

Siegfried Schwartz 編

《書 評》金井 理 (株式会社ファルマデザイン取締役研究開発本部・バイオインフォマティクス部長)

臨床医のための構造生物学事例集

 ゲノム・プロジェクトによって,ヒトが持つ遺伝子の概要をほぼつかむことができた。しかし,ゲノム創薬やゲノム医療から見れば,これは1つの出発点にすぎない。ゲノム創薬やゲノム医療においては,例えば,遺伝子がコードするタンパク質の機能,さらに,アミノ酸変異も含め,それらが疾患とどのようにかかわりあっているかを理解する必要がある。そのためには,リガンド分子がタンパク質に対してどのように相互作用しているかを,立体構造レベルで詳細に検討しなければならない。そのような研究を行なうのが構造生物学であり,構造生物学によって,疾患原因の解釈やより合理的な薬物の分子設計が支援される。
 本書は,臨床医が患者に対して疾患を懇切丁寧に説明できるように意図された構造生物学の事例集といってよい。本書では,最も重要と考えられている約130個の低分子化合物やタンパク質の機能について,構造生物学的な解釈を与えている。そればかりでなく,そのタンパク質が疾患とどのようにかかわっているか,また,タンパク質内に生じたアミノ酸変異がタンパク質の機能にどう影響を与え,どのような疾患をもたらすかについても簡潔に説明が加えられている。そして,このような説明を行なうために,本書では,コンピュータ・グラフィックスによる生体分子の立体構造図が効果的に利用されている。それによって,例えば,タンパク質から見た疾患のしくみや,投与される薬が疾患とそのタンパク質に対してどのように作用しているかを,臨床医は患者に対して具体的に説明できるようになるだろう。

的確にまとめられた研究の成果

 また,本書ではこれまでの研究が的確にまとめられているため,実際にゲノム情報に基づく創薬や医療の研究を行なっている者にとっても有益である。一方,現在,生体内の全タンパク質の立体構造を解析しようとする構造ゲノム科学プロジェクトが進行中である。このプロジェクトの進展によって,より多くのタンパク質の立体構造が明らかにされる。それにともなって,本書で示されるような構造生物学的なアプローチにより,多くの疾患の理解が進むだろう。そして,この分野の研究の発展により医療も変わっていくことを想像すれば,医学生にとっても,本書はたいへん参考となる。
 本書をより効果的に活用するためには,実際にコンピュータを利用して,タンパク質の立体構造を眺めてみるとよいだろう。つまり,本文中に示されているタンパク質の立体構造はPDBコードが記載されているので,Protein Data Bank1)からそのデータをダウンロードする。そして,分子グラフィックス・プログラム,例えばRasMol2)などを利用して,立体構造を眺めてみる。また,PDBsum3)のようなデータベースを参照し,リガンドとタンパク質の結合状態の模式図を見る。それらにより,本書の内容について理解がより深まるはずである。

1)日本でのミラーサイトは,http://pdb.protein.osaka-u.ac.jp/pdb/index.html
2)RasMolはフリーソフトであり,http://www.umass.edu/microbio/rasmol/rasras.htmより入手可能。Windows,Macintosh,Linuxなどさまざまなプラットフォームで動作する。
3)http://www.biochem.ucl.ac.uk/bsm/pdbsum/,タンパク質のPDBコードを入力しLIGPLOTの図を参照する。

A4変・頁112 定価(本体10,400円+税)
S. Karger社・医学書院総代理店


免疫学の定番教科書,待望の改訂

標準免疫学 第2版
谷口 克,宮坂昌之 編集

《書 評》田坂捷雄(山梨大助教授・免疫学)

母国語で医学教科書を持つ意味

 正確に調べたわけではないが,母国語で医学教科書を持てる国はそれほど多くはないと思う。グローバルスタンダードをめざす英語の教科書の出版状況を見ていると,いつまで日本語で教科書が出版できるのか心もとない。
 確かに比べると著者の意図が明確で読んでおもしろいこと,専門のテクニカルイラストレータによるカラフルで圧倒的な図,世界中から集められたシャープで説得力のある写真,2-3年ごとに確実に実行される改訂(日本語の免疫学の教科書で公約どおり2年毎に改訂されているのは矢田純一先生の『医系免疫学』ぐらいである),世界をマーケットにしているためCDが付録についても価格が安いこと,等々が英語版の利点としてあげられる。早期英語教育が義務化されもっと楽に読みこなせるようになれば,日本語の教科書は壊滅するかもしれない。
 そのような不安を吹き飛ばすかのように衝撃的なデビューをした初版の,6年ぶりの改訂版である。衝撃的といわれた理由は従来の教科書に比べて,各執筆者の主張がはっきりしており,研究指向で初心者にとっては難解なところもあるが,読んでおもしろいユニークな本にできあがっている点である。
 改訂版でもその特徴は保たれ,頁数は46頁減少したものの,新たに「免疫の生物学」と「免疫の病態制御」の2部構成となって病気との関連が拡充され,「胸腺外T細胞分化」,「ケモカインとその受容体」,「自然免疫」,「寄生虫感染」,「ウイルス感染」,「細菌感染」の項目が加わり,「造血幹細胞」,「補体」,「免疫不全」,「自己免疫」「腫瘍免疫」,「生殖免疫」,「老化」では執筆者が入れ替わった。「抗原の処理と細胞内輸送」「シグナル伝達機構の基本」,「NKT細胞の分化と機能」などが初版と同じく独立した章建てになっているのも本書の特徴をよく表している。
 また,各章の前にIntroduction to Chapterが新設され,目標がはっきり示されることで理解も助けている。目次にある各章の短いキャッチコピーも魅力的なのに,後半消えているのは惜しい。あえて,瑕瑾を探すとすれば,「抗体の認識,特異性と機能」の見出しのもとに「T細胞抗原受容体による抗原認識」という小見出しが含まれているのに学生は戸惑うかもしれない。また自己免疫の病因として愛知がんセンターの故西塚泰章所長らのマウス生後3日目新生児胸腺摘出実験まで触れられるのなら,「サプレッサーT細胞」と呼ぶより「調節性T細胞」と呼んだほうがよかったのではないだろうか。今後期待したいのは,2-3年ごとの改訂と,よりシャープな写真の充実である。
B5・頁544 定価(本体8,000円+税)医学書院


1型糖尿病児の生活を支えるすべての人に

1型糖尿病と歩こう “この子”への療養指導
青野繁雄 著

《書 評》松浦信夫(北里大教授・小児科)

認知されにくい1型糖尿病

 わが国の子どもの1型糖尿病の発症率は低く,結果として社会的認知が得られにくい状況にあります。そのため,1型糖尿病の子どものための解説書は非常に少なかったのですが,最近では日本糖尿病学会,日本小児内分泌学会,国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)などのコンセンサスガイドブック,外国の翻訳本,小児糖尿病専門医による解説書が出版されてきています。このような中,青野繁雄先生による『1型糖尿病と歩こう-“この子”への療養指導』が出版されました。青野先生はご夫婦で大阪市立大学小児科の糖尿病部門の責任者として,長い間小児1型糖尿病の診療にあたられてきました。現在は寺田町こども診療所を開設され,多くの糖尿病患者さんの診療にあたっておられます。さらに,日本糖尿病学会,日本糖尿病協会小児糖尿病対策委員会,厚生労働省糖尿病研究班など数々の公的な仕事もされ,また近畿地方の糖尿病小児のサマーキャンプにもかかわってこられました。

心の問題を核とする著者の思い

 青野先生が糖尿病児並びにそのご家族の心の問題を核にして診療されている様子は,学会の発表などからも十分に伺えます。1型糖尿病のように,慢性の病気をもった本人並びにご家族の心理的な負担は計り知れないものがあります。あまりに厳格にしても,また放任にしても,療養上うまくいきません。これまでの小児1型糖尿病の解説書の多くは1型糖尿病とは何か,インスリン量の調整法,シックデイの対応など,日常の診療に必要なことの解説が中心でした。子ども本人並びにご家族の心理的な面を含めた解説書は少なかったように思います。一方,先生の姿勢が十分に表わされた本書は,子ども本人並びにご家族の心理的な面を含めた解説書です。冒頭の“はじめに”に書かれている言葉には,まさしく出版にあたってのこの点における青野先生の気持ちが表われています。
 1型糖尿病のような慢性疾患に対する治療の動機付けで最も大切なのは,最初に診断したときの主治医の話し方,説明にあると言われています。それが,その後の病気に対する気持ち,態度を決めると言っても過言ではありません。この本の中にみなぎっている思いは,長い間にたくさんの患者さん,ご家族の方々から受けた経験からにじみ出てきたエッセンスのように思われます。タイトルで1型糖尿病の「治療」ではなく,「療養指導」という語を使用されたのも,そのような思いが背景にあるようです。療養指導の基礎的なことをこの本の前半部分にお書きになられたのも,先生の気持ちを表しているものと思います。
 目次構成も乳児,幼児,学童,思春期と,成長過程にある各年齢層の子どもへのアプローチの仕方から入っていて,とてもわかりやすく読みやすい本です。特に医療者が一番診療に苦慮する「問題のある子ども」への対応の仕方は,1型糖尿病を専門にしているわれわれにも大いに参考になる点です。
 この本が思春期以上の患者さんおよびそのご家族はもちろんのこと,将来糖尿病の専門医をめざす若い小児科医,現在小児糖尿病を診療している小児科医,あまり小児糖尿病を経験していない内科糖尿病専門医など多くの方に読まれることを願っています。また,学校の現場で1型糖尿病児の生活を支える養護教諭,担任教師にもぜひ読んでいただきたいと思います。
A5・頁184 定価(本体3,000円+税)医学書院


教科書にも辞書にも使える,臨床薬理学領域のすべてを網羅した書

臨床薬理学 第2版
日本臨床薬理学会 編
中野重行,他 編集委員

《書 評》杉山雄一(東大教授・分子薬物動態学)

臨床薬理学と薬物治療学を支える3本柱

 臨床薬理学の最も標準的な教科書として定着している『臨床薬理学』の待望の第2版が出版された。臨床薬理学とは合理的薬物治療を行なうための基本となる学問領域である。その実現のためには,編者の中野重行先生が書いておられるように,サイエンスとしての(1)医薬品の臨床評価のための臨床試験と,(2)合理的薬物投与計画法とそのために必要な臨床薬物動態学,さらにこのサイエンスを生かすために,アーティストとしての(3)患者と医療者との間のよき「治療のパートナーシップ」が重要である。この3つが臨床薬理学と薬物治療学を支える3本柱である。すでに得られた医薬品を有効に使用することとともに,優れた医薬品を開発して世界中へ届けることは国家的事業であるが,後者では倫理的,科学的手順を踏んで,治験を効率よく実施することが求められている。そのような背景がある一方,臨床薬理学が比較的新しい学問分野であるため,今まで適当な教科書がなく,日本臨床薬理学会認定医試験の準備学習のための臨床薬理学テキストをめざし,日本臨床薬理学会の認定医制度委員会が編集委員となって1996年に初版が出版された。
 本書は,この3本柱を十分に解説,説明するために,(1)臨床薬理学の概念と定義,(2)薬物治療学総論,(3)薬物治療学各論,(4)その他の重要な事項,の4つの章より成っている。(1)では医薬品開発と臨床試験,作用・有害作用のメカニズム,薬物動態学,作用・動態の個体差,薬物間相互作用などを中心に,(2)ではTDM,薬物投与計画の作成のための薬物動態学理論,また各種の病態生理学的な変動時における薬物投与計画,遺伝子情報を利用した薬物投与計画について,(3)では,疾患別に治療薬を15に分類し,各論が詳細に解説されるとともに,時間薬理学,添付文書の活用についても記述がなされ,(4)では,新薬開発,開発業務受託機関(CRO),治験施設支援機関(SMO),治験コーディネーター(CRC),医薬品の乱用と誤用,医事紛争,薬事行政,健康保険,薬剤疫学,などの項目の解説がなされている。
 第2版では認定医・認定薬剤師試験の準備学習のためのテキストとして,認定薬剤師制度委員長も編集委員に加わり,ここ数年間に重要性を増したトピックスが追加されている。その中には,臨床試験関連のトピックスとして,大規模臨床試験のほかに,上述のCRO,SMO,CRCがある。その他に治療法選択上,重要なエビデンスに基づく医療(EBM),個別治療をめざした投与計画設定時に参考にすべき知識として,有害反応予防,薬理ゲノミクスも追加された。また,薬物治療学各論に虚血性心疾患,高脂血症,消化器病,呼吸器疾患,てんかん,リウマチ,骨粗鬆症,耐性菌感染症,鎮痛薬,外科領域が追加された。
 2003年から治験コーディネーターの認定も開始されることを考えると,臨床薬理学領域にかかわるすべての情報が網羅されている本書は,薬物治療に関与してきた医師,薬剤師に加えて,臨床試験の支援を担う薬剤師,看護師,臨床検査技師から成る新しい職種としての治験コーディネーターのための参考書ともなり得る。医師,薬剤師,医療関係の大学における研究者,学部学生,大学院生や,製薬会社において医薬品の探索・開発,臨床開発およびマーケティングにかかわる方が教科書として勉強するために,また座右に置いて詳細な辞書として使うために最適の書といえる。
B5・頁600 定価(本体9,300円+税)医学書院


どこでも使える臨床精神医学小テキスト

カプラン臨床精神医学ハンドブック 第2版
DSM-IV-TR診断基準による診療の手引

融 道男,岩脇 淳 監訳

《書 評》井上新平(高知医大教授・神経統御学)

新機軸の記載も充実

 このたび,Kaplan & Sadock's Pocket Handbook of Clinical Psychiatry Third Editionが翻訳出版された。このポケットハンドブックの日本語訳は2回目であり,前回原書第2版も同じ訳者の手で1997年に発刊されている。今回の原本の発刊は2001年で,今回も翻訳までのスピードはかなり速い。訳者のご努力に感謝したい。
 原本はComprehensive Textbook of Psychiatry第7版(CTP/VII)のミニコンパニオンブックである。そこで本書には随所にCTP/VIIの対応ページが記載されており,詳細を知りたい者には大変役立つ。原書第3版で取り上げられた新項目は,監訳者が序文で要領よくまとめておられる。例えば,精神療法については弁証法的行動療法,催眠療法,イメージ誘導,バイオフィードバック,逆説療法,セックスセラピーが加わっている。また,脳画像が独立して取り上げられ,終末期ケアや倫理的問題が加えられている。以上は今回の新機軸のごく一部である。診断基準はDSM-IV-TRであり疾患ごとに表にまとめられている。治療面ではSDAやSSRIについての記載が充実している。

臨床精神医学のエッセンスが凝縮

 本書の内容は,面接,症候,診断と分類,各種疾患や病態(各論),精神療法,生物学的治療,検査,薬物誘導性運動障害,法的・倫理的問題の順に記載されている。すなわちポケット版の教科書としてのエッセンスが簡潔にまとめられている。項目の例として統合失調症を見ると,定義,歴史,診断・徴候・症状,病型,疫学,原因,臨床検査と心理テスト,病態生理,精神力動的要因,鑑別診断,経過と予後,治療,面接技法の順に,10枚の表を含め18頁にわたって包括的に書かれている。すでにAPAの統合失調症治療の臨床指針があるので内容的な目新しさはあまりないが,最後の節の中にある「精神医学的,精神療法的面接でするべきことと,してはいけないこと」は実践的でわかりやすく,かつ興味深い。自らの実践と照らし合わせて読んでしまうところである。
 本書は汎用性が高い。ちょっとしたことを思い出したい時,見落としがないか心配なとき,学生に知識をまとめさせる時,簡単な勉強会で使いたい時など,さまざまな機会に利用可能である。しかし当然だが,内容豊かな本書も何かを考えさせてくれるような種類のものではない。チュートリアル教育で学ぶ医学生が利用するインターネットと似たような次元の学習媒体である。何かを考えさせてくれるような学習のためには,大部の教科書や原典にあたらなくてはならないが,それはそれとして,本書はともかく便利な小テキストとして推奨したい。
A5・頁488 定価(本体6,800円+税)MEDSi