医学界新聞

 

注目の話題をとりあげた新しい企画も

第58回日本消化器外科学会開催される




 第58回日本消化器外科学会が,炭山嘉伸会長(東邦大)のもと,さる7月16-18日の3日間にわたり,東京・千代田区のホテルニューオータニにおいて「Love&Science」をテーマに開催された。
 会期中の総会において本学会の法人化が承認され,任意団体として開催する最後の学会となった今回は,特別講演,国際招待講演などの指定演題134題を含めた計2554題が発表演題として採択された。また,特別企画として来年度からスタートする卒後臨床研修の必修化をにらんだセッション「卒後臨床研修と消化器外科医像」や,緊急特別企画として,岡部信彦氏(感染研)による講演「SARSの動向について」が行なわれるなど,時代の動きに合わせた企画も盛り込まれた。

外科手術後感染症に立ち向かう

 「日本の外科術後感染症の現状と将来展望」と題して行なわれた会長講演で炭山氏はまず,現在では縮小手術,内視鏡下手術といった低侵襲の手術が広まっており,これによって感染症発症率の低減にもつながると説明。一方で,腹腔鏡下手術においては手術時間の延長が問題となることにも触れ,特に癌の手術の場合,接着分子が発現しやすくなることで転移をきたす可能性が上がることについて指摘した。
 80年代後半から分離頻度の増加が見られているMRSAについては,その発症要因を,抗菌薬使用の結果起こる菌交代症によるとする内因性と,院内感染を含めた外来性の菌によるとする外因性とに分けて説明。特に抗菌薬の使用のあり方について述べ,腸内細菌叢を温存する抗菌薬の使い方が適正使用につながると指摘した。具体的には術後感染予防薬の投与期間短縮や,治療薬との使い分けによって多剤耐性菌の分離頻度が低下し,起因菌の抗菌薬に対する感受性が改善するなどの効果があったと報告し,抗菌薬の適正使用に向けたガイドラインの作成が必要とも提言した。
 外因性要因については,院内感染対策委員会の設置や厚労省事業の手術部位感染サーベイランス,MRSA対策の未実施を減算対象とするなどといった行政主体の対策が進んでいると紹介。さらに,1999年に発足した日本病院感染疫学調査(=JNIS:2003年2月までに54施設が加盟)の解析について「極めて正確な術後感染サーベイランスである」と評価したうえで,JNISによるサーベイランスの結果,消化器系手術後の感染症発生率が,非消化器系手術に比べ高率であったことを報告した。
 まとめにあたり氏は,新たな抗菌薬の使用方法として,監視培養による真菌のcolonizationの証明などを参考に,疑診のまま抗真菌薬を投与する「Early presumptive therapy」や,ICUなどで重症患者に対し,消化管内の病原性細菌を,抗菌薬を用いて選択的に除菌・コントロールする「SDD」,数種の抗菌薬を,期間を区切ってサイクルさせることで耐性化を防止する「Cycling chemotherapy」などをあげた。
 なお,炭山氏は本年より研究会から学会へと発展した「日本外科感染症学会」においても自らが初代会長を務め,抗菌薬の適正使用について積極的に取り組んでいく姿勢を示している。

腹腔鏡下手術の普及は外科医教育に影響を与えたか?

 患者にとって,侵襲の少なくてすむ内視鏡下手術の普及は,身体的,経済的負担の軽減,術後感染症のリスク低下などメリットが大きい。その一方,開腹手術の機会が減ることで,経験の少ない外科医への教育のあり方が問われはじめている現状がある。研修医,指導医にとって内視鏡下手術の普及による教育面での影響はどのようなものなのか。
 特別企画3「内視鏡下手術時代のopen surgeryの教育」(座長=跡見裕氏 杏林大,門田守人氏 阪大)では,森俊幸氏(杏林大),関本貢嗣氏(阪大),加納宣康氏(亀田総合病院),北野正剛氏(大分医大),笹子三津留氏(国立がんセンター中央病院),吉野肇一氏(慶大)の,6名の指導的立場にある演者がそれぞれの施設における経験から,現状における手術手技教育について報告した。外科系の学会で教育をテーマとした議論がなされることはめずらしく,会場の参加者は熱心に議論に参加した。

「21世紀の外科医」

 森氏は,特に胆嚢摘出術(以下,胆摘)において内視鏡下手術が適用になる場合が非常に多くなっている現状を鑑み,トレーニングボックスや動物を用いるなど,限られたリソースによる訓練を工夫する必要があると述べた。氏は,自身の施設における研修医へのトレーニングについて調査した結果を報告し,手術の力量のうち,知覚運動能については客観的評価が可能であると結論したが,その他に手術解剖の理解や,経験に基づく総合的な戦略を身につける必要があることから,ビデオや仮想現実技術などを利用した疑似体験の積み重ねをトレーニングに含む必要性を指摘した。
 一方,関本氏は指導医,研修医に対して実施したアンケート結果から,若手外科医にとって腹腔鏡下手術は,「当然マスターすべき技術」として認識されていると報告。また,ある程度以上の開腹胆摘を経験すれば,以降の腹腔鏡下胆摘の経験も,開腹胆摘の修練に役立つと感じているとも述べ,現状では腹腔鏡下胆摘の普及によって大きな教育的問題は生じていないとした。
 加納氏は亀田総合病院における外科のシニアレジデントに対する研修プログラムを紹介し,これまでの外科医は開腹手術を学んでから内視鏡下手術を学んだが,「21世紀の外科医」は,開腹手術と内視鏡下手術の両方を平行して訓練することで相乗効果を得ながら成長していくものと述べた。
 議論の後,特別発言として演壇に立った出月康夫氏(南千住病院名誉院長)は,内視鏡下手術を「これからの消化器外科医にとってはできなくてはならないもの」と位置付ける一方,現状において開腹手術と内視鏡下手術の両方をすべての施設で経験できる必要はなく,研修の中で病院間でのローテーションを行なうことで,開腹手術についての教育もできると提言した。