医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


世界を代表する内科学書についに日本語版が登場

ハリソン内科学 (原著第15版)
福井次矢,黒川清 日本語版監修

《書 評》高久史麿(自治医大学長)

膨大かつ最新の内容

 『ハリソン内科学』(原著第15版)が福井次矢,黒川清両教授のご監修によって今回メディカル・サイエンス・インターナショナルから刊行された。
 この版も従来の『ハリソン内科学』と同様,臨床医学総論,主要症候からはじまり,引き続いて遺伝学と疾患,臨床薬理学,栄養など,各疾患に関連した横割り的な内容のPartがあり,その後,腫瘍・血液疾患,感染症,循環器疾患,呼吸器疾患,腎・泌尿器疾患,消化器疾患,免疫系・結合組織・関節疾患,内分泌・代謝疾患,神経疾患と各系統ごとの疾患が続き,最後に環境・職業上の有害因子のPartで終わっている。
 各Partの内容には,病態生理から予防・診断・治療について最新の情報がくまなく網羅されており,本文だけで2700頁にも及ぶ膨大な内容のものとなっている。今回久しぶりにハリソン内科学を開いてみたが,Partごとに関連したノーベル生理学・医学賞の受賞者がその研究の内容とともに紹介されていることに気づいた。何版頃からこのような企画がなされるようになったかは知らないが,医学生に先輩たちの偉大な業績を紹介することはきわめて大きな意義があると考える。

『ハリソン物語』で,本書が世界中で読まれる理由がわかる

 『ハリソン内科学』の刊行にあわせて同じく同社から『ハリソン物語』(訳/小澤元彦)が出版された。時間を見つけて一読したが,『ハリソン内科学』の刊行にあたって各編者がいかに編集・執筆に時間と労力を費やしたかがHarisonをはじめとする編者たちによって述べられている。この本を読むことによって,『ハリソン内科学』が初刊行以来50年もたっても,代表的な内科学書として世界中で読まれている理由がよくわかった。
 膨大な量に及ぶ『ハリソン内科学』日本語版の監修に当たられた福井・黒川両教授,監訳者・翻訳者の方々,並びにメディカル・サイエンス・インターナショナルの方々のご努力に敬意を表して推薦の言葉の締めくくりとしたい。
A4変・頁3200 刊行記念特別定価(本体28,000円+税,特価期限2003年8月31日),定価(本体29,800円+税)MEDSi

※文中の「ハリソン物語」(非売品)をご希望の方には,MEDSiより贈呈致しますので,E-mail:info@medsi.co.jpに直接お申込ください。


臨床の場における倫理的問題を解決するために

臨床倫理学入門
福井次矢,他 編集

《書 評》服部健司(群馬大教授・医学哲学・医学倫理学)

ベテランが独学を求められる医療倫理学

 医療倫理学が大きな関心を集めるようになってきている。けれども医療倫理学が,いわば刺身のツマでなく,儀礼や訓示としてでもなく,医系教育機関でしっかりと教えられるようになってきたのは,ごくごく最近のことにすぎない。そこで多くのベテラン医療者は,医療倫理学を独学する必要に迫られている。かつて心電図やCT,エコーがそうであったように。
 今日,書店の棚には実にたくさんの医療倫理学書が並んでいる。それらの多くは,哲学・倫理学者の手になるものであって,知識や議論の蓄積を伝えることを主眼とした啓蒙教育書であるか,純粋に学問的研究を志向した専門書であるか,いずれかであるといってよい。著者の個人的な医療倫理観を開示しただけのものも散見される。そうした中で,本書の特性は明確である。
 すなわち本書は,複数の医療者と1人の倫理学者とによって著されており,そのねらいとするところは,医療者が臨床現場で「日常的にしばしば遭遇する倫理的問題」を同定,分析したうえで,著者らが適切と考えるその解決策を,根拠や倫理学的な思考の道筋とともに,具体的に示すことにある。ほとんどの章節がケース提示からはじまり,そのケースに内在する倫理問題を解くために必要な背景的な論点の整理や解説,歴史的症例への目配り,さまざまな論者の意見の紹介,といった具合に叙述がふくらみ,最後には著者らの見解が示される,という組立てになっている。抽象的な議論に終始して結論は玉虫色などということがない。その意味で,すぐれて実践的な書だということができる。

倫理的に考える能力に磨きをかける

 1つひとつの章節はコンパクトで,一気に読むことができる。また図表がふんだんに盛られているため,とてもすっきりしていて,ポイントがよく見えてくる。
 だが本書は,単なるマニュアル型の指南書におさまるものでは決してない。読者自身の「倫理的に考える能力」に磨きがかかるように,倫理委員会やガイドラインといった外的な規律規制とは独立に,また慣習の縛りをほどいて,「1人ひとりが自発的に倫理的に好ましい」判断と行動を行なえるように,そして個々の症例で最善の結果が得られるように,との著者らの希いが,そのための工夫のかたちを伴って随所に見てとれる。相当数の(英語圏のものを中心とした)文献が網羅されており,著者たちの勝手な倫理観を押しつけられるのではないか,というご心配は不要である。
 「臨床倫理学の基礎理論」という節では,近現代の倫理学説の川の流れ,そして臨床倫理学という山へのいくつもの登山道が一望のもとに見渡せるし,実録「エシックス・ケース・カンファレンス」は最終章を飾るにふさわしい。読んでいてわくわくする。
 白状すれば,私自身,本書のもととなった『病院』誌の連載が毎月楽しみで,パワーアップした本書の刊行を心待ちにしていた1人である。1人で読んでも得るところが大きいが,教育現場でも十二分に活用できる有用な書として,本書を広くお薦めしたい。
A5・頁320 定価(本体2,800円+税)医学書院


細かな配慮で小児医家にとって必要不可欠な情報を網羅

今日の小児治療指針 第13版
大関武彦,他 編集

《書 評》堤 裕幸(札幌医大教授・小児科学)

改版のたびに加わる特色

 『今日の小児治療指針 第13版』が刊行された。1970年に初版が上梓されて以来,2-3年間隔で改訂され,すでに13版と版を重ねていることからもわかるように,この書籍は小児の実地医家にとって必要不可欠な地位を確立したようである。
 改版のたびに新たな特色が加わっているが,今回は,何といっても最初の救急医療の項目がすべてブルーのカラーページになったことであろう。小児の救急医療は,わが国の医療における緊急テーマであり,それを中心的に担う小児科医のみならず,小児を診療する可能性のある他科の医師にとっても重要な課題である。この救急医療の項がコンパクトにそしてむらなくまとめられ,さらに使用上の便宜を考え色刷りで第1章に置かれたことは,知識を迅速・的確に得るためのうってつけの配慮といえる。書店で是非1度ページをめくってみていただきたい。

「虐待」についても独立して収録

 第13版におけるもう1つの特色は昨今のトピックである「小児の虐待」について,心因性疾患・精神医学的疾患から独立させて「第3章:虐待と暴力」として設けた点である。小児の虐待の問題は今にはじまったことではないが,核家族化が進行し,子どもを取り巻く社会環境が変化しているなかクローズアップされてきている。また,表面に出にくく,その対処も一部の専門家や児童相談所などに任された面が多かったが,問題のすそ野の広がりとともに,一般臨床家の立場での一応の対処が必要とされてきていた。今回の改訂版で独立項が設けられ,解説が加えられたことは機を見た配慮といえる。
 その他,細やかな配慮が窺われるものとして,前版からのものであるが,目次が見やすい点がある。目次自体が見やすくなっていることはもちろんであるが,その他各項目の最後に,その項でも取り上げられるはずであるが,実際は他の項に入れられている事柄が「○○→何頁」と記載されている。また,巻末には“患者会”の一覧と,それぞれのホームページアドレスが記載されている。患者会の情報などは実際に患者さんに紹介しようと思った時にはみつからないことが多いので,このように一覧となっていることは大変役立つ。また,日本いのちの電話連盟加盟センター相談電話の一覧も裏表紙にみられている。
 最後にあげる特徴は,第13版がきっちり700ページ以内に収められていることである。医学の進歩とともに,『今日の小児治療指針』の取り上げるべき項目数,その内容は拡大の一途をたどっているはずであるが,それを許し,徐々にボリュームアップしていくことは,この本の最大の特徴の1つである“現場で実地医家に役立つ”という“使い勝手のよさ”を侵すものとなってこよう。第13版は既刊行版とページ数はそのままで増加した項目・内容に対処され,利便性も活かされている。編集の浜松医大の大関武彦先生,新たに加わられた山口大学の古川漸先生,御開業の横田俊一郎先生に深く敬意を表します。
B5・頁744 定価(本体15,500円+税)医学書院


骨折治療法確立への道しるべ

AO法骨折治療
[英語版CD-ROM 2枚付]

糸満 盛憲 日本語版総編集
田中 正 日本語版編集代表

《書 評》山内裕雄(順大名誉教授)

時とともに変わってきたAO法の考え方

 この美しい本を前にして,時の移ろいに感じ入っている。縁あって1975年1月,私は京都府立医大の平澤泰介先生とご一緒にDavosでのAOセミナーに出席した。2人とも助教授だった。このセミナーに日本からの参加者はまだ少なかった。セミナーの充実ぶりにほとほと感心し,実習で本物の人骨をふんだんに使うのに驚いた(その後はプラスチック骨になったようだ)。午後はスキーをかついでいろいろなゲレンデに行ったが,そのスケールの大きさ,雪の滑りのよさにまた驚いた。
 当時AO法は日本でも流行になりつつあった。強固な固定により外固定を必要としない方法は魅力的だった。しかし強すぎる固定による再骨折や海綿骨化が問題にされはじめていた。セミナーではAO法の理論・臨床が熱心に語られ,手を取って手技の実際を教えられたが,総じてあまりにも工学的なという印象はぬぐえなかった。圧迫固定によるprimary bone healingが強調されすぎ,骨膜性仮骨は好ましくないとさえ言う講師もいた。私は,全面的にはついていけない,彼らにはもっと古典整形外科的な,より生物学的な骨折治癒機転を尊重して欲しいなと思いながら帰国した。
 その後,また縁あってAOマニュアル改訂第3版を『骨折手術法マニュアル-AO法の実際』(シュプリンガー・フェアラーク東京,1994)として教室の遠藤昭彦君と訳出した。訳しながらAOグループの考え方が1975年の時点よりだいぶん変わったなと感じた。prinary bone healingがdirect bone healingとなり,骨折治癒機転における骨膜性血行の重要性が尊重され,部分的コンタクトのプレートも提示されている。よいことだと思った。

きわめて医学的になったAO法

 そしてこの本である。全頁カラーでまったく別の本になってしまった。内容をみて,あまりにも工学的と思っていたAO法が極めて医学的になったなと感じた。強固な固定法という言葉は少なく,安定性ある固定法がより強調され,フレキシブルな固定についての言及もあり,さらに点接触のみで,骨膜・骨皮質を圧迫せず,かつプレートを当てた骨皮質面のみを固定する「内固定器」という概念さえ出てきた。AOも変わったものだと思う。そして実際の症例や手技のビデオが2枚のCD-ROMに入っている。凄いものである。
 CD-ROM(マック・ウインドウズ共用)には英語版の全頁が収録され,多くの手技がビデオで供覧され,さらに主要な文献をクリックするとオンラインで即座にabstractが出てくる。じつに便利な世の中になったものである。
 比較的短時日のうちに本書を訳出された糸満盛憲教授ほか翻訳陣のかたがたのご熱意とご努力には頭が下がる。骨折治療に携わる整形外科医必携の書であることは間違いない。しかし本書は決して骨折治療のバイブルではない。本書に述べられた方法が必ずしも唯一のものではない,という目で読み,自分自身の骨折治療法確立へのよい参考書として使っていただきたいと希っている。
A4・頁688 定価(本体35,000円+税)医学書院