医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床留学希望者必読! 臨床教育の重要性がみえる1冊

太平洋を渡った医師たち 13人の北米留学記
安次嶺 馨 編集

《書 評》宮坂勝之(国立成育医療センター・手術集中治療部長)

医師たちの「情熱の物語」

 私にはなぜか「15少年漂流記」を連想させる表題だった。もちろん本書の内容はジュール・ヴェルヌの名作とは直接の関係はないが,太平洋,留学,そして13人というキーワードが,誰もが少年時代に胸を躍らせた冒険記とオーバーラップさせたのだろう。実際に,冒険とまでは言わないものの,不安をかかえながら未知の世界に飛び込んでいった心意気が満ちている。北米から日本へ,太平洋を越えてやって来た2名の医師の話も加わっており,15人の医師の情熱の物語でもあるといえる。登場する人物(すなわち執筆者)全員が沖縄県立中部病院の関係者で,現在の院長の安次嶺馨先生の薫陶を受けている点が共通であり,その共通の主張は真栄城元院長の序文に尽くされている。

留学をめぐる日本の医療風土

 執筆者らは,北米との臨床交流が実質的に途絶えた70年代以降に北米に留学し,現在の地位を築かれた方々である。第二次大戦後の60年代までは,いわば占領地保護政策の一環として,フルブライト奨学生に代表される米国主導のプログラムに助けられ,多くの医師が臨床留学し,現在の日本の医学の礎となる幾多のリーダーが輩出された。しかし,70年代以降,米国の保護政策の中心が韓国,中国,ベトナムなどへと移るにつれて,高度成長時代の日本にとって,金銭面および英語面で敷居の高い臨床留学の挑戦者は激減した。代わりに,論文偏重の日本の医科大学の土壌が追い風となり,資格要件があまり問われない研究費持参の研究留学を増やす結果を招いた。「見えない障壁」のため,日本への臨床留学の受け入れは皆無に近いことから,研究留学者が日本の臨床医療に大きな影響を与えてきた。
 こうした研究留学者の多くも,臨床を垣間見る機会はあったのだろうが,論文になる個々の医療技術とは異なり,医療システムの違いは見学では十分な吸収は困難であり,結果的に日本に臨床医療はほとんど伝わらなくなってしまった。加えて,レジデントなどとして臨床留学しても,帰国してからその臨床能力を発揮するためにはシステムの整備が不可欠という現実が存在し,また帰国後も,「出る杭となっては打たれ,ただの杭となっては能力を生かせない」という逆風が存在することは,臨床留学希望者減少にさらなる追討ちをかけることになっていった。
 来年度から始まる卒後研修の義務化では,日本の医科大学教育ではとうとう実現できなかった系統的な卒後教育の導入が求められている。そのような中,北米式の系統的教育システムを積極的に取り入れ,多くの留学者を送り出してきた沖縄県立中部病院は大いに注目される。本書はその北米式の教育の恩恵を最大限に受け,感動した人々により書かれており,通常のガイドブックにはみられない,臨床教育の重要さへの共通した情熱が感じられる。医学生のみならず,これから研修医の教育に携わる一線病院の医師たちにも推薦できる内容である。一気に読破できる読みやすさがよい。
A5・頁212 定価(本体2,800円+税)医学書院


小児科医の診療机に必ず置きたい定番の書

今日の小児治療指針 第13版
大関武彦,他 編集

《書 評》徳丸 実(徳丸小児科医院院長)

 私は小児外来診療に長く従事して,いろいろな成書を使ってきましたが,最も長く,今も診療机に置いていて愛用しているのは結局本書です。その理由は,患児や親を前にして,大体の診断の見当はついても,正しいかどうか確かめたいとき,診断に役立つポイントが実にうまくコンパクトにまとめられていて,そして最新の処方例で,素早く具体的な薬品名を選ぶことができるからです。
 本書は1970年の初版以来2-3年に1度の間隔で改訂がなされてきました。編集者,責任編者,執筆者もこの10年の進歩の著しさが反映され,各領域の新しいトップの方ばかりです。
 その結果,編集に新アイデアが生かされ,たとえば,治療手順の答を得るためのステップバイステップの手続きであるアルゴリズムを導入したり,見やすい表が多くなり,疾患頻度など統計データが新しくなったりして,新改訂版を手に入れた快感をおぼえます。
 一方,項目では心因性疾患,精神医学的疾患が重点的に充実され,また小児科診療における新しい技術資料が「遺伝カウンセリング」や「2002年小児気管支喘息治療ガイドライン」,「予防接種」など数多く紹介されています。

珍しい疾患も,重要なものはしっかり網羅

 本書のもう1つの特色は,小児一般診療医にとって珍しい病気であっても,入院を要する新しい疾患として重要なテーマは辞書的にほとんど網羅されていることです。たとえば無菌性髄膜炎症候群,造血幹細胞移植,川崎病性心血管障害などを知ることは頭の整理になります。つまり2-3年小児科学月刊誌を取っていなくても,この新改訂版があれば,新知識獲得におくれをとらないですむことになります。
 既刊本書にくらべて,処方例が大幅に増えたことは選択の幅が増えたことであり,どんな処方がよいかと思案しているとき助かります。また小児用市販薬一覧も新製品がきちんと収録されており役立ちます。
 日常疾患もまれな疾患も,急性も慢性疾患も,最初に受け持つ小児科クリニックの診療机にぜひ1冊備えたい本といえば,「今日の小児治療指針13版」をお薦めしたいと思います。
B5・頁744 定価(本体15,500円+税)医学書院


プライマリケア医のための神経疾患診断・治療ガイド

症状からみた神経内科ハンドブック 第3版
Kerri S. Remmel,他 著
水澤英洋,山脇正永 監訳

《書 評》金澤一郎(国立精神・神経センター総長)

一流の学者による翻訳

 十数年前のあるとき,わが国を代表する神経科学者の伊藤正男先生と雑談をしていて「翻訳を引き受けていると一流の学者にはなれないよ」と言われたことがある。そんなものか,という漠然とした思いと,でも翻訳本の中にも一流の学者が訳したものもあるのになぁ,という思いが交錯した覚えがある。そして今,一流の学者である水澤教授らが心を込めて訳されたこの本を読んでみて,やはり伊藤先生の言葉は間違っていると思う。
 本書は,プライマリケア医がよく遭遇する神経疾患や神経救急疾患の診断・治療の手助けのためにと1980年に初版が上梓されてから版を重ね,昨年に第4版が出版されている。当初は4人の執筆者であったが,そのうちの1人Christofersonはすでに亡く,新たに若い女性2人RemmelとBunyanが加わった新陣営による本書は,初版の精神をよく受け継いでいる。つまり,原書の題名であるHandbook of Symptom-Oriented Neurologyにふさわしく,実にメリハリの利いた症状や疾患の選び方をしている。そして選ばれた項目については懇切丁寧な記載に満ちている。選ぶ範囲も,成人の神経学のみならず小児神経,精神医学,整形外科にまで広がっている。また,その内容は広いばかりでなく驚くほど深い。例えば攻撃性の強い性格の患者には,「あなたには,それをやる力があります」というように対応するとよい,など具体的である。訳者のコメントも随所にあって,例えばわが国で売られていない薬への配慮も嬉しい。

イラストを用いたわかりやすい解説

 本書のもう1つの特徴は,個性豊かなイラストであろう。すべて手書きである。神経放射線学的検査法の項目はポイントを簡潔にまとめているが,画像写真は1つもない。この種の本では何もかも詰め込もうとして,特に画像をふんだんに取り入れてかえって中途半端になっていることが少なくないが,本書はこれが1つのポリシーであると逆に感心した。イラストで描かれる国籍不明の人も魅力的であるし,筋萎縮の様子などは写真よりもわかりやすいように思える。
 訳者はおそらく,原著者とは異なり自分ならこうするだろうなと思うところがあったのであろう。例えばBabinski徴候の誘発法についてであるが,本書にあるように私もかつては自分のポケットに入れていた鍵でやっていた。ところが,私が尊敬する同級生の岩田誠氏に「エイズがはやっている今どき,そんなやり方はよくない」と諭され,それ以来,爪楊枝の頭にした。これなら使い捨てができる。他にもいくらも原著者との意見の違いがあったのではないだろうか。訳者の立場というのもつらいものである。
 本書は座右と言うよりも,少し大きめのポケットに入れて持ち歩くのに最適な良書である。ところで,最近伊藤正男先生とお会いする機会があり,先生のお言葉は必ずしも当っていないかもしれないとお話した。先生は,実はあの言葉は遠い昔に先生が一生懸命にある本の翻訳しておられたのを見た先輩の大先生からお叱りを受けたことがあって,そのとき先生に向けられた言葉の「受け売り」である,と言われたのにはギャフンとなった。何のことはない,あれは伊藤先生のトラウマに基づくお言葉であったのである。
A5変・頁474 定価(本体6,200円+税)MEDSi


外科医のみならず,消化器癌と闘うすべての医師へ

消化器外科のエビデンス 気になるテーマ30
安達洋祐 著

《書 評》森 正樹(九大教授・生体防御医学研究所分子腫瘍学)

推薦できる理由

 安達洋祐先生による『消化器外科のエビデンス-気になるテーマ30』を消化器外科医のみならず,消化器癌をとり扱う内科医,放射線科医など多くの医師に心からお薦めしたい。本書は日常の臨床の際に誰しもが一度は疑問に思うであろう30のテーマについて,私見を介入させず,国内外の優れた論文を客観的に解析し結論を導き出している。いろいろな参考書が多い中で,本書は「痒いところに手が届く」,そのような本である。本書をお薦めするのは以下の理由による。
1)テーマが鋭い
 胃,大腸,直腸,肝胆膵の各臓器の外科,および治療手技と患者管理の6項目に分けられているが,そのどの項目も,今知りたい,あるいは前から知りたかったがなかなか調べることができず,気になっていた具体的なテーマが厳選されている。読んだ後には「ああ,こういうふうに考えられているのか」と納得でき,また安心できる。テーマを見るだけで本書を読んでみようかという気分にさせてくれる。また,1つのテーマに要するページ数は多くも少なくもなく,大変読みやすい長さになっている。
2)客観的である
 著者が最初に本書のなりたちを紹介している。その中でも強調しているように,昔から経験的に行なってきた外科の診断,治療などのポイントについて,現時点で何がわかっていて何がわかっていないかの解答を論文に求め,主観を排してデータを引用し記しているため信頼性がきわめて高い。著者自身が読破し咀嚼した最新の1500余りの論文が,客観性の裏打ちに大切な役割を果たしている。
3)〈文献〉,〈結論〉がよい
 これは外せないと思う最新の論文が必ず網羅されている。参考文献の質,量はともに申し分ない。また,本文の最後にそのテーマについての結論が書かれている。ここでは,現在明らかな結論が出ていないものには正直に「どちらともいえない」と書かれており,若い研究者には逆にこれを研究して立派なエビデンスを作り上げてほしいとの著者の期待が込められているように思う。
4)〈Note〉が役立つ
 各テーマの本文の最後には〈Note〉と記された項目がある。ここには主題テーマに関連したcoffee break的なことが記されているが,きわめて有用であり,ここだけを急いで読んでも大変おもしろい。エビデンスのレベル,生存曲線,カンファレンス,ドレーンの種類,やさしい手術など多彩な内容で,短い中に豊富な内容を凝縮させている。
5)〈My Opinion〉が読みごたえがある
 各章の最後には,その分野でもっとも活躍されているオーソリティーに意見を書いていただいている。厳しい意見,もっともな意見,優しい意見などさまざまであるが,どの先生も表面的ではなく深い考察をもって意見を述べておられるのは,本書の内容のインパクトが強いため自然に力が入ったのではないかと推察している。
 以上のような特徴を備えた本書は,臨床の場で日常的に遭遇する疑問点に対し,現時点でのエビデンスを示すことにより明快で有用な情報を提供してくれる良書,必読の書である。この本の基礎は著者の前任地である大分医科大での4人組の勉強会にあるという。安達先生とともに適切なテーマをとらえて真摯に勉強してこられた大分医大の4人組にも敬意を表したい。
B5・頁360 定価(本体6,500円+税)医学書院


一般内科医も必携の外来診療マニュアルがさらに充実

内科外来診療マニュアル 第3版
吉岡成人 編集

《書 評》林田憲明(聖路加国際病院・内科部長)

 医学書院から『内科外来診療マニュアル(第3版)』が上梓された。本書は執筆者の1人である高尾信廣先生が中心となって書かれた『内科レジデントマニュアル(第1版,1984年)』を一般内科医をも対象としてまとめなおした外来診療版(第1版,1995年)の2度目の改訂である。

総論にみる著者らの心意気

 前回の第2版も充実した改訂と思われたが,今回はさらに工夫され医療の変化に対応した内容になっている。「第1章 主訴から診断」,「第2章 common diseaseへの対応」,「第3章 健診異常者への対応」の構成は変わらないが,冒頭に外来診療にあたって,「日常診療と臨床疫学」,「外来診療に慣れてきたら」,という項目がまとめられた。病院の“顔”としてのマナー・心構え,症状に対する心身両面の把握の重要性といった総論が述べられており,「臨床医学は不確実性のサイエンスであり,確率のアートである」というOslerの言葉が引用され,著者らの心意気が伝わってくる。
 1-3章の全体をみて気づくのは“side meno”が45項目から60項目に増えていることである。これは著者らの経験をまとめたエッセンスであり,これを読み通すだけでもかなりの常識家になれる。第1章では腰背部痛,けいれん,食欲不振といった教科書的になりやすい項目が除かれ,体重減少の項目が追加されたがページ数は増えておりさらに充実した。第2章では花粉症,不整脈,口腔内疾患,高尿酸血症,顔面神経麻痺,パニック障害,更年期障害,皮膚疾患が加えられ22項目となった。図・表については一般的でないもの,総論的なものは多少整理され,逆にアレルギー疾患治療薬の一覧表,原発性骨粗鬆症・パニック障害の診断基準など実用的なものが追加されている。第3章の健診異常者への対応については大幅にページ数が削減された。各検査値項目が血液検査,画像診断などにまとめられた。これは“健診の有用性と限界”の項でも述べられているように,一般的な健診が費用の割には有効な診断と治療に必ずしも結びつかないことがある,というEBMの結果を色濃く反映したものであろう。
 通読して私の個人的な感想を言えば,第2版で書かれていた“臨床疫学を診断・治療に生かす”という項を数行の用語解説を交えて簡潔にまとめ,日常臨床と臨床疫学の項に加えて補強してもよいのではないかと思った。しかしこのような細かな箇所は大きな問題ではなく,本書は明らかに時代を捕えた改訂であり,多くの読者を満足させるものであることには間違いない。
 片手間の,あるいはアルバイトのための外来診療が,今や初期研修の最適の場になろうとしている。多くの病名をつけてブルドーザーで整地するように血液・尿検査を行なう,めまいと聞けば十分に診察もせずに脳CTをオーダーする,かぜの処方に必ず抗生物質を加える,といった診療が横行する中で,すでにbeyond EBMとしてnarrative based medicineにも目を向けるべきだとする吉岡成人先生らの診療姿勢は,本書とともに益々その成熟度を増していくものと期待される。

 “われわれは患者とともに学びをはじめ,患者とともに学びを続け,患者とともに学びを終える。”
(Sir William Osler, 1849-1919)
B6変・頁344 定価(本体4,200円+税)医学書院


入院・外来患者の経過観察期における検査計画に最適の1冊

フォローアップ検査ガイド
北村 聖,他 編集

《書 評》北島 勲(富山医薬大教授・臨床検査医学)

初めてフォローアップ検査がテーマに

 多くの疾患の診断や治療判定は臨床検査なしでは不可能である。しかし,医療経済の厳しさ,とりわけ保険制度の枠組みの中で,包括医療が進み,臨床検査の点数がいわゆる「マルメ」で計算されるようになったため,無駄のない有効な検査計画が必須である。特に臨床検査を多く利用する臨床医は,臨床検査の経済性を追求しながら,患者の病態把握に最適な臨床検査は何かを的確に把握する判断能力が要求される。このような医療情勢の下,的確な診断に至るまでのスクリーニング検査法から確定診断に至るまでの,適切かつ効率のよい検査法や検査選択に関しては,良質の書籍・雑誌・電子媒体が入手できるようになってきた。しかし,適切な診断がついた後や,治療が行なわれた後,患者の経過観察,フォローアップにおける有効な検査の使い方を専門的に取り扱った書籍は,いままで発行されたことはなかった。まず,フォローアップにおける検査の使い方に焦点を合わせた初めての企画であることが,本書の最大の特徴である。

診療現場で使いやすい,整理された情報

 本書は,日常臨床で多く遭遇する疾患を選別し,臓器別に取り上げている。まず,診断確定や病状判定に至る手順をフローチャートでわかりやすく表示している。次に診断確定後の入院・外来患者のフォローアップに必要となる検査として,(1)治療効果判定のための検査,(2)副作用モニターとしての検査,(3)合併症・臓器障害判定のための検査,(4)安定期の検査に関して,短い文章で平易に表記されている。特に必要な検査を急性期と慢性期に分け,検査すべき検査項目を★★(必須項目),★(重要検査),無印(状況・条件により必要な検査)と一目でわかるように表にまとめられている。
 さらに患者の身体的負担や医療経済的な負担を考慮した測定頻度も記載されたことは,診療現場での活用にきわめて効果的であると考える。例えば,関節リウマチ(RA)の項目を読むと,診断基準に指定されている血清リウマトイド因子(RF)は日常診療で偽陽性が多いことはよく知られているが,RA以外の疾患ではRAHAが1280倍以上の強陽性になることは少ないことや,血管炎合併RAでは力価が非常に高いことなど,判定に苦慮する場合の情報が随所に記載されている。また,シェーグレン症候群の合併症では,尿pH測定による尿細管アシドーシスが1-2か月に1回検査する必要性や,骨軟化症のチェックの必要性,安定期においてもB細胞性リンパ腫の高頻度合併フォローアップのため,血中M蛋白測定の重要性などが記載されている。
 このように,フォローアップ時期に入ると検査がパターン化され,通院間隔も長くなってくるので,重要な合併症が見逃される危険性がある。フォローアップ期における合併症や薬物副作用の早期発見のためにも,ぜひ診察室に置いていただきたい1冊である。
B5・頁568 定価(本体6,500円+税)医学書院