医学界新聞

 

医療の継続性を支える
看護の新たな取り組み

エイズ医療におけるコーディネーターナース

渡辺 恵(国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター 看護支援調整官)


はじめに

 医学界新聞第2501号(2002年9月9日)の特集で道場信孝氏((財)ライフ・プランニング・センター顧問)が,「米国における老年医療の現況」について書かれていた。
 この中で補論として,米国のケースマネジメントについて紹介され,結びには「わが国の医療において最も欠けている部分の1つである医療の継続性が,このようなケースマネジメントの方式を取り入れ,かつ医療に対する医療者の基本的な意識の改革を通じて,1日も早く改善されることを望んでやまない」と述べられていた。
 日本においても,医療の高度化と患者の安全や人権の確保,医療費対策と患者中心の医療への要求の高まりなどを背景に,そのような役割の意義が認識されつつある。「ケースマネジャー」という名称ではないものの,さまざまな専門領域においてそのような役割を果たしている看護師が少しずつ増えている。
 エイズ医療においてはエイズ治療・研究開発センター(AIDS Clinical Center: ACC)のコーディネーターナース(Coordinator Nurse: CN)がそれに該当するので,この機会にぜひ紹介したい。

政策医療におけるエイズ拠点病院体制

 当センターは,日本におけるエイズ医療のナショナルセンターとして,1997年に国立国際医療センター内に設置された。
 登録患者数は増加の一途をたどり,現在までに約1,200名(平成15年7月現在)を数え,外来受診者数は月平均約700名(のべ人数)である(図1)。
 このような傾向は,日本全体の患者数増加と合致している(図2)。
 また,当時の厚生省は日本全国を8ブロックに分け,それぞれにエイズ診療の中核病院として「ブロック拠点病院」を定め,HIV診療担当医と看護実務担当者を置いた。さらに全国366の「エイズ拠点病院」を定め,政策医療としてのエイズ医療体制を構築し,有機的な連携をもって運用が続いてきた(図3)。





エイズ医療の現状とACCの役割

 HIV感染症の治療は,1990年代後半に登場したプロテアーゼ阻害剤によって,多剤併用療法(Highly Active Anti Retroviral Therapy: HAART)が可能になり,HIVを抑制する力は格段に進歩した。
 そのため患者はある程度免疫力を維持することが可能になり,社会生活を行ないながら治療を並行させる「慢性疾患」へと変化した。つまり,入院による対症療法・ターミナルケアから外来通院による治療が中心となり,医療者の役割も患者のセルフケア支援,自己決定支援へと変化したのである(図4)。
 しかし,HAARTは決して容易な治療法ではない。患者は治療成功のために高い内服率を維持しつつ,生涯にわたって内服を継続しなければならない。その間,さまざまな副作用に対処したり,定期的な通院を続けたりする必要がある。
 そして,この治療法はまだ発展途上であるため,患者が常に最新の情報を入手して,治療に関する意思決定をし,治療継続に取り組むのは非常に困難である。同様に一般の医師が,抗HIV療法の計画を立てることも困難である。
 そこで,当センターのHIV専門医やブロック拠点病院のHIV診療担当医が「初期治療計画の立案」を担当し,「治療開始後の安定期」には拠点病院でフォローアップを,「日和見感染症への対応」などはブロック拠点病院で行なうという役割分担が,エイズ拠点病院体制をもって実施されつつある。
 また,高い内服率を維持しつつ生涯にわたって内服継続することは,治療成功にかかわる重要な課題であるにもかかわらず,最も難しい課題である。世界中のHIV感染症の治療に携わる医療者がアドヒアランスをテーマに研究し,治療ガイドライン1)の中でも扱われていることからも,その難しさが理解できる。
 HIV専門医による初期治療計画の立案には,当センターのCNやブロック拠点病院の看護実務担当者が行なっている「患者教育や服薬支援」という専門的なサービスが,必ず同時に必要であると考えられる2)
 初期治療計画と患者教育や服薬支援とをセットで実施している施設の患者について調査したところ,内服率,満足度ともに非常に良好であった3)

CNの活動と目標

 当センターCNは,現在7名で全員看護師である。当センターの患者については主治医同様に患者担当制で,患者が外来通院中には外来看護師,入院中には病棟看護師とそれぞれ役割分担しながら直接サービスを行なっている4)
 また,エイズ拠点病院体制の中では,ブロック拠点病院の看護実務担当者や拠点病院のHIV担当看護師と定期的な連絡会議,共同研究,研修会,ケアに関する日常的なコンサルテーションなどを通じて,HIV/AIDS患者へのトータルなケアの質向上に努めている。
 CNは患者の受診継続および高い内服率を維持した服薬継続とを支援するために,5つの活動を行なっている(図5)。
 受診中断によって,抗HIV療法をまだ開始していない患者にとっては,治療開始の時機を逃すことにつながる恐れがあり,一方,すでに治療を開始している患者にとっては,副作用等による影響を最小限にしつつ安全に,最も治療効果が得られるような内服方法を継続することが難しくなる可能性があるからである。
 それらの活動は,初診時からはじまっており,抗HIV療法が開始されるまでの間を最も重要視して活動している。
 それは受診中断の理由について調査した結果,中断者のうち初診から半年以内の受診を最後に中断に至る患者が多かったからであり,また中断後受診を再開した患者からの聞き取り調査から,医療者との信頼関係や体調の変化等が受診中断,再開の理由と考えられたことからも,特に初診時の対応の重要さが理解できる。
 初診から早い段階でしっかりと患者-医療者関係を築き,少なくとも定期的な受診ができるような支援を行なうことが重要である。患者が医療からこぼれる隙間を作らないよう,患者アクセスの1つの選択肢として,CNの存在意義があると考えられる。

HIV/AIDS患者の在宅療養支援に対するニーズ

 当センターでは近年,保健師や訪問看護師,ヘルパー,理学療法士など,地域で活動する保健・医療・福祉職との連携を要するHIV/AIDS患者が増加してきた5)センター登録患者の約6%にあたる57名が,何らかの在宅療養支援を受けているが,支援導入についても主治医や病棟看護師とともに退院の時期,場所,方法とその後の医療継続について検討,役割分担しながら準備をすすめる。患者の満足度を担保しつつ,退院計画を進める役割は,在院日数短縮の動きと相まって一層重要な役割である。
 また,専門医療機関が本来の役割を十分果たすためには,治療開始前後の安定した病状にある患者のフォローを一般病院や診療所とも役割分担する必要がある。その際,一般医療者に対する支援も同時に行なうことが,よりスムーズな連携を可能にする6)。CNは担当患者の療養に関する情報について,専門医療機関側の窓口として機能することにより,患者のプライバシー保護や一般医療機関の診療支援を行なうことができる。

まとめ

 エイズ医療は,患者の要望を受け,このような体制が政策医療として整備されてスタートした。これは新たな医療のあり方としてのトライアルであると同時に,その中で看護が新たな役割を模索し,国民に期待される医療者であり続けるための1つのモデルになると考えている。今後も,医療の継続を支えるという役割をもって,患者のQOL向上に資していきたい。

参考文献
1)Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-infected Adults and Adolescents, Department of Health and Human Services(DHHS), 4, February, 2002.
2)拠点病院の機能に関する検討会中間報告書,厚生労働省,2001年6月29日.
3)渡辺 恵,他:アドヒアランスを高める行動支援の取り組み,第15回日本エイズ学会学術集会・総会抄録,2001.
4)石原美和編著:エイズ・クオリティケアガイド,日本看護協会出版会,2001.
5)伊藤将子,他:HIV/AIDS患者における在宅療養支援の導入背景の検討,第16回日本エイズ学会学術集会・総会抄録,2002.
6)武田謙治,他:HIV専門医療機関と一般医療機関の病診連携に関する連携方法の検討,第16回日本エイズ学会学術集会・総会抄録,2002.