医学界新聞

 

第9回日本看護診断学会開催される

電子カルテ化へ向け,看護診断の新たな展開




 第9回日本看護診断学会がさる6月14-15日の2日間,小田正枝会長(西南女学院大教授)のもと,福岡県の福岡国際会議場で行なわれた。「看護診断-看護の共通用語確立への貢献」をメインテーマとした今回は,NOC(看護成果分類),NIC(看護介入分類)と看護診断のリンケージを中心に,看護診断の諸課題が話し合われた。また,医療情報のIT化の流れの中で,看護診断はどのように情報化に貢献できるかについて,シンポジウムが持たれた。海外からは,米国,中国からゲストが招かれ,看護診断の現状と未来について,各国の状況とともに示唆に富んだ講演を行なった。

■歴史的背景からみる看護診断

看護過程と看護診断

 6月14日,「看護診断を支える看護過程論──看護過程成立の基盤となるもの」をテーマに,小田正枝会長(西南女学院大学教授)による会長講演が行なわれた。学会初日の午前中にもかかわらず,会場には数百人を越える聴衆が集まった。
 小田氏は,看護診断を支える看護過程の概念に関して,まずその歴史的発展について述べた。ナイチンゲールが『看護覚え書』の中で観察の重要性を指摘し,看護職による診断-介入理論の端緒を開いてから,1960年代アメリカを中心に看護診断関連の文献が流布するに至るまでの,さまざまな研究者による,臨床看護のプロセスを言語化する試みを概観した。
 続けて氏は,「看護過程」成立に必要な知識基盤として,目標志向性,自己コントロール,クリティカルシンキング,創造性を指摘した。さらに,そうした性質を持つ看護過程は,さまざまな看護理論・モデルに支えられてはじめて説得力を持ち,また,看護理論・モデルは看護過程に適用されてはじめて実践の科学として意味を持つことを強調。看護理論と看護過程の統合こそ,看護実践の基礎であるとした。
 また氏は,看護過程と看護診断の日本における導入の経緯と現況を概観。医療情報の電子化,共有化がめざされる今,ますます看護過程と看護診断が,基礎教育から卒後教育に至るまで,系統的に学習されるべきものとして,重要なものとなっていくだろうと述べた。また,そこでの課題は,クリティカルシンキング能力,アセスメント能力の向上であり,これらを育てるためにもアウトカムの教育を採りいれる必要があると述べ,講演をまとめた。

NANDAの現況と展開

 続いて行なわれた招待講演では,来日を予定していた現NANDA(北米看護診断協会)会長のMary A. Lavin会長が体調不良のため,急遽元会長のKay C. Auant氏が,“Nursing Diagnoses in the 21st Century and their Evidence Based”をテーマにNANDAを中心とした看護診断の現況について述べた。
 氏はまず,看護診断の根拠について,歴史的な側面から概説した。看護診断における「診断」とは,医師が行なう診断とはさまざまな点で異なったものであることを述べ,そうした看護職が行なう診断──看護診断が,ナイチンゲール以来,着々と発展してきた歴史を紹介した。
 医師の診断が疾患を対象とするのに対し,看護診断は患者の状態を対象とする。それゆえ,そこから導き出される看護介入や看護成果も,患者を多面的に捉えるものとなるとの考えを示した氏は,「多くの医師は,“診断”という行為が自分たちの枠組みの中でなされることによって,正確性を確保されると考えているが,それによって患者の多くの側面が見落とされていることに気づいていない」として,臨床現場における看護診断の有効性,必要性を解説した。
 また氏は,看護診断における用語分類団体が全米で13存在する中で,NANDAのエンドユーザーが年々拡大している現状を紹介。日本のNANDAユーザーに対しても,それぞれの施設での看護診断をぜひNANDAに送ってほしい,それがNANDAの貴重な財産になる,と会場に訴えた。さらに氏は,日本における看護診断のエビデンスレベルは非常に高いと指摘。今後の看護診断を牽引していく役割を日本の看護師に期待したいと述べた。

■電子カルテ化時代の看護診断

 24日午後より行なわれたシンポジウムでは,中木高夫氏(日赤看護大),佐藤和子氏(佐賀医大)の司会のもと,「看護診断導入とIT記録の変化」をテーマとして,電子カルテなどをはじめとする,昨今の急激な医療界における情報化の流れにおける看護診断の位置づけについて,3時間にわたって議論が交わされた。

情報化の基本要件と必要条件

 まず,美代賢吾氏(神戸大附属病院医療情報部)が,医療情報を電子化していくにあたって,押さえておくべき基本用件を簡潔に述べた。氏は,記録を電子化するメリットを,
1)高い情報密度
2)高速な情報検索
3)情報の再利用
4)情報の再構成(グラフ化など)
5)情報の関連づけ(キーワード検索など)
6)高速な情報伝達(インターネット)
7)情報の共有
 という7点にまとめたうえで,これらを実現するための必要条件として,情報構造の定義や,情報の内容となる用語の統一の必要性について解説した。
 また,上記のメリットの中でも,どれをどの程度重要視するかによって,どのような情報構造を採用するのかや,どの程度まで用語を標準化するのかといった,電子化の中身が決まってくることを指摘。「NANDA,NOC,NICなどを活用して,看護記録を標準化し,電子化していくことは可能」であるが,まず,情報の電子化によって何を実現したいのかという目的をはっきりさせることが,看護診断と記録の電子化のリンケージには必須要件であるとまとめた。
 続けて,佐保美恵子氏(国立病院九州医療センター),隈本博幸氏(小倉第一病院),大北美恵子氏(福井医大附属病院)らが,それぞれの施設における情報電子化の取り組みについて述べ,最後に田村やよひ氏(厚労省)が,行政の立場から医療情報の電子化について述べた後,総合討論に入った。

情報化の課題と展望

 討論では,会場に集まった参加者の中でも,特に標準化に向けて取り組みをはじめた施設管理者や看護管理者を中心に,質問が相次いだ。
 厚労省が推進する「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」では,看護分野における用語標準化の推進が目標にかかげられているが,各施設ごとの取り組みと,国がかかげる標準化目標が異なっていることは少なくない。これについて,国の基準に従うべきなのか,という質問があった。これに対し田村氏は,「標準化=すべての施設が従う,という意味ではない」とし,先行する施設ごとの取り組みは優先されるべきであり,厚労省の指針は,後発施設が取り組む際の目安としたい考えを述べた。
 また,記録のすべてを電子化していくことによるセキュリティの問題も指摘された。隈本氏は,小倉第一病院ではこれまで大きなセキュリティ問題が生じていない現状を述べたうえで,セキュリティの問題は最終的には,管理する人間の問題であり,媒体が紙であるか,コンピュータであるかは本質的な問題ではないのではないかという考えを述べた。
 看護記録が今後電子化されていく方向性であること,その際には情報の標準化ということが大きな課題となること,さらにその際には,NANDAなどの看護診断が,大きなツールとして貢献していく可能性があることなどが確認されたシンポジウムとなった。