医学界新聞

 

Vol.18 No.6 for Students & Residents

医学生・研修医版 2003. Jul

日程変更,8月上旬より登録開始。臨床研修施設の8割以上が参加を表明

 

〔直前レポート〕  マッチングがはじまる


実施スケジュールが変更に
情報提供システムは今月中にも公開
医学生が知っておきたい注意事項
変な噂に惑わされず,公的機関に確かめる


 研修医と研修施設の組み合わせを,双方の希望をもとにコンピュータで決定する「マッチング」がついにはじまる。最近の調査によれば,臨床研修病院と大学病院の8-9割がマッチングに参加する見込みであり,新しい臨床研修システムの稼動に向けて歴史的な一歩を踏み出すことになりそうだ。一方で,実施要綱の発表は遅れており,研修病院の採用試験が本格化する夏休みを前に,学生の間に不安も広がっている。本紙では,情報不足に悩む医学生のために,マッチングに関する現時点での最新の情報をできるだけ正確にお伝えする。


 先ごろ厚労省が発表した,臨床研修病院と大学病院を対象にした調査結果(図2参照)によれば,80.1%の病院がマッチングに「参加する予定」としており,「参加しない予定」(8.9%)と「まだ決めていない」(11.0%)を大きく上回った。大多数の病院がマッチングに参加する流れを受けて,さらに参加病院の数は増えることが予想される。最終的には全体の8-9割の研修病院がマッチングに参加する模様だ。
 どこがマッチング実施機構となるかは,現時点(7月10日)ではまだ決定されていない。ただし,事務局は医療研修推進財団に置かれることが決まり,すでに問い合わせに応じている。7月中には実施機構が正式に発足する見通しで,マッチングについての正式な実施要綱の発表が行なわれる予定だ。しかし,マッチングに参加する病院や新制度下で初の研修医となる医学生らが情報不足になるとの懸念から,実施機構の発足に先んじて,先月末から各地で厚労省地方厚生局による説明会が行なわれ,マッチングについての概要(案)が発表された。この概要は関係者の合意が概ね得られたものといわれており,基本的にこれに沿って実施される見込みだ。

図2 マッチング参加希望についての調査(厚労省実施,2003年6月24日現在)
 参加する
予定
参加しない
予定
まだ
決めていない
臨床研修病院既指定410
(84.2%)
37
(7.6%)
40
(8.2%)
487
(100%)
新規申請125
(66.5%)
28
(14.9%)
35
(18.6%)
188
(100%)
大学病院96
(85.0%)
5
(4.4%)
12
(10.6%)
113
(100%)
合計631
(80.1%)
70
(8.9%)
87
(11.0%)
788
(100%)
*大学病院については125病院から回答があったが,平成16年度以降協力型病院相当として臨床研修を行なう大学病院を除いて算出。
*括弧内は各区分毎に占める割合を示す。

マッチングの最新スケジュール(案)

 示されたスケジュールは次の通り。

7月    国による情報提供システム公開
8月上旬  オンライン登録開始
9月末    登録締切
10月中旬  中間公表
10月下旬  希望順位表提出最終締切
11月中旬  結果通知(オンライン)

 厚労省は当初,「これまで主に秋に行なわれてきた従来型の研修病院の採用手続きを乱したくない」との理由からマッチングの結果通知を9月末に設定していた。しかし,「マッチングへの参加率が高く,ほとんどの病院が参加するのであれば,そのような心配はいらない」と判断した。また,卒業試験や国家試験の準備にも考慮した結果,「11月中旬に通知」という方向になったという。

●順位表には行きたい病院を網羅的に素直な気持ちで書く

 学生は,厚労省の田原氏(インタビューを参照)が話しているように,まずは,希望する研修施設の採用手続きを受けることが重要だ。一部の大学病院では,7月の中旬から8月の初旬に採用試験を行なうところもある。そのような病院の場合には,採用試験を受けた後で,その病院がマッチングに参加する場合にはマッチングに登録することになる。また,マッチングのスケジュールが,当初予定されていたよりも後ろにずらされたこともあり,応募の締切や採用日程を変更する病院も出てくる可能性があるので注意が必要だ。なお,マッチングを実施するために発生する費用は各参加病院が負担するため,参加する医学生の費用負担はない方向で検討が進んでいる。

マッチング参加病院と不参加病院の両方を受ける場合どうするか?

 田原氏が注意を促しているように,マッチングシステムに参加し,最終的に希望順位表を提出してしまったら,決定病院に必ず行かなければならないことになっている。これに違反して別の病院へ行った場合,学生自身の処罰は予定されていないが,ルールを無視してその学生を採用した病院には,マッチングへの参加資格を剥奪するなどの厳しいペナルティが科されることになる。事実上,このルールを破ることは難しいだろう。
 マッチング不参加病院が第1希望であり,マッチングへの登録締切の9月末までに,その病院の採用通知が得られれば,マッチングへの登録をやめたり,取り消したりすることが可能だ。しかし,マッチングで病院が決定した後で採用通知が得られた場合などには,第1希望であっても不参加病院へは断りをいれなければならなくなる。マッチング不参加病院に応募し,かつマッチングへの参加も検討している学生は,トラブルを避けるためにも,事前に不参加病院などに相談をしておいたほうがよい。

組み合わせはどう行なわれるか?

 学生にとって,重大な関心事の1つは,研修希望者と研修病院の組み合わせがどのように決まるかということだろう。このことを正確に理解していないと,希望順位表を的確に作成することができないからだ。現在マッチングで使用される予定である組み合わせ決定のアルゴリズムはすでに公開されている。厚労省ホームページの中の新医師臨床研修ワーキンググループの資料(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/s1212-2f.html)として読むことが可能だ。
 これによると,学生の希望順位の高い病院から順にマッチするので,第1希望の病院が作成する採用希望順位表の定員内に自分の名前があれば,第1希望の病院とマッチすることになり,第2希望以下の病院とマッチすることはない。
 一方,病院側を主体に考えれば,病院が作成した希望順位表に従って,研修希望者とマッチしていくことになり,その研修希望者がその病院を第1希望で出しているか,第2希望で出しているか,は影響しない。ただ,病院が順位表を作成する際に,それぞれの学生が第何位で希望しているかということを考慮する可能性はあるが,現在のところ,研修希望者,研修病院双方の希望順位表の提出日程は同一であり,どのような順位をつけているかを相互に通知する予定もない。学生にとっては,どの病院に何位をつけるか,ということを,あまり戦略的に考える必要はなさそうだ。厚労省も「公平なシステムであり,自分の希望を素直に順位づけして提出することが大切だ」と強調している。
 なお,10月の中旬には「中間公表」が予定されている。これは,研修病院ごとに第1希望者の数のみを発表するもので,インターネット上で行なわれる。一部の研修病院へ人気が偏っている場合などに,学生がみずから調整し,希望順位表を修正する効果を狙ったものだが,効果を疑問視する声もある。

今月中にも正式な実施要綱発表

 希望順位表の修正は10月末に締切となり,組み合わせ決定処理が行なわれる。結果通知は11月中旬の予定だ。その後,マッチングにもれた学生は,国による情報システムで公開される各研修病院の空席情報などを参考に,個別に研修先と交渉することになる。マッチングにもれる確率を低くするためには,「行きたい病院」の採用手続きをできるだけ多く受け,さらに,それらの病院を網羅的に希望順位表に記載すべきだが,「行きたくない病院」については絶対に記載してはいけない。
 なお,今回紹介したマッチングについての概要は,あくまでも7月10日現在の案であり,正式には,7月中に予定されている,マッチング実施機構による実施要綱の発表を待つ必要がある。厚労省や医療研修推進財団のホームページには,発表され次第掲載される予定なので,注意しておきたい。


●まずは希望する病院の採用試験を受けること
 マッチングについては後で考えればよい

田原克志氏(厚生労働省医政局医事課・課長補佐)に「マッチングの概要(案)」を聞く

──マッチングの基本的な手続きとは?
田原 流れとしては,図1のとおりです。参加病院の側が行なうのは,病院ごとの「選考手続き」およびマッチングへの「参加登録」です。選考手続きは各病院がマッチングに参加するしないにかかわらず行なうものですから,マッチングとは別のものです。参加登録の前に選考手続きを行なうこともあり得ます。参加病院は参加の登録をし,選考手続きに基づいてその病院が採りたい学生の順位表をマッチング実施機構(以下,実施機構)に提出するわけです。
 一方,学生は,まず希望病院の選考手続きを受けなければなりません。マッチングへの参加登録前であっても選考手続きは受けていただいて結構です。そして,それらの病院がマッチングに参加するのであれば,マッチングに参加し,最終的な締切までに各病院の研修プログラムごとに希望順位を決定し実施機構に提出します。11月中旬には結果の通知がなされます。

情報の入手は各病院から早めに

──マッチングや研修病院についての情報提供はどのように行なわれるのですか?
田原 大きく分けて3つのルートがあると思います。1つは,「国による情報提供システム」です。これは研修プログラムの申請や変更届けを通じて,各研修病院から厚労省に提供された情報(研修プログラムの概要や処遇など)を審査が済み次第,インターネットで公開するものです,また,マッチングで組み合わせが決まらなかった方に対して,いわゆる空席情報,募集定員の空き情報をリアルタイムでお知らせします。
 2つ目は,実施機構からの情報提供で,国の情報提供システムとリンクしつつ,実施機構が独自に集めた,研修病院の生の声などををお伝えする形になると思います。医療研修推進財団のホームページ(http://www.pmet.or.jp/)に,「臨床研修病院ガイドブック」というものがアップされていますが,それと似たイメージです。
 3つ目は,個別の病院のホームページなど,各病院が独自に行なう情報提供です。
 国による情報提供システムは7月中にも公開されますが,審査を修了した病院ごとの掲載ですので,情報が遅れる場合もあります。先に,実施機構や個別の病院のホームページをご覧いただき,応募先を決め,最終的な中身を,国からの情報提供で確認していただければと思っています。
──マッチングの正式なスケジュールはいつ公表される予定ですか?
田原 実施機構が正式に決まり次第,そちらからお知らせすることになります。7月中には公表される見込みです。当初の計画よりは1か月半ほど,後ろにずらして実施される予定です。図1のように,希望順位表の最終締め切りを10月下旬とし,結果の通知は11月中旬になりそうです。

医学生が知っておきたい注意事項

──学生にはマッチングへの不安もあります。新制度下で適切に研修病院を決定できるように,アドバイスをお願いします。
田原 まずは,「各病院が行なう『選考手続き』を受けてください」ということです。マッチングの実施要綱が未公表なので,試験を受けるかどうか迷っているという方もいるかもしれませんが,その病院が「マッチングに参加する/しない」とは関係なく,まず行きたい病院の手続きを受けることが大切です。マッチングの登録締切は9月末なので,十分に検討する時間はあります。マッチングについては後で考えればいいのです。一応,「参加」と登録しておいて,最終的に参加を取りやめることもできる仕組みになりますから,そこは気軽に考えたほうがいいです。
 ただし,気軽に考えられないのは,最終的に希望順位表を提出してしまったら,決定病院に必ず行かなければならないということです。これは非常に重要です。つまり,行きたくないところは絶対に希望順位表に載せてはいけないということです。例えば,採用手続きを受けた病院でも,印象が悪く,研修を希望しないのであれば,その病院を希望順位表に書いてはいけません。マッチングへの参加は任意であり,「参加する/しない」は自由ですが,参加して,マッチした以上は,結果に従って研修契約を結ばなくてはなりません。
 最後に一言。変な噂も流れていますが,それには惑わされずに,心配なことは医療研修推進財団や厚生労働省,あるいは各地方厚生局に直接聞いてください。まだお答えできないこともありますが,答えがないということは,まだアクションをする必要はないということです。今は,このマッチングについての概要を知ったうえで,「参加する/しない」の検討を進めながら,自分の行きたい病院の「選考手続き」を受けるということで問題はありません。
──ありがとうございました。