医学界新聞

 

「学会の役割」が問われる時代に突入

第103回日本外科学会開催される


 第103回日本外科学会が6月4-6日の3日間,加藤紘之会長(北大教授)のもと,札幌の北海道厚生年金会館,他で行なわれた。外科医療をめぐるこの1年の制度的な動きは激しく,「専門医の広告規制緩和」,「診療報酬の改定による手術施設基準の導入」,さらに日本では初の「診療報酬への専門医概念の導入」などが行なわれてきた。学会として取り組むべき課題は急速に拡大していると言える。本学会ではこのような現状を踏まえ,「専門医制度」,「医療保険制度」などが特別企画に取り上げられ,話題となった。


■「専門医」育てる学会の責任が重大に

 昨(2002)年の診療報酬改定(手術の施設基準の緊急的な見直し)では,初めて専門医という概念が導入された。これは,専門医広告の規制緩和とあいまって,各学会の専門医制度に大きな影響を与えることとなった。このうち診療報酬上に位置づけられた専門医とは,それぞれの手術領域の各学会が「専門医」と認めた者のことを指しており,これまで日本医師会,日本医学会,日本専門医認定制機構の三者によって行なわれてきた専門医・認定医の三者承認は意味を失った(この状況を受けて開かれた本年6月3日の三者懇談会では「役割は終わった」として三者承認の廃止を決めている)。一方,4月25日からはあらたに外科専門医など4つの学会専門医が厚労省により広告可能な専門医として認められ,これにより現在広告可能な専門医は15を数えることとなった。

新しい外科専門医制度

 そのような状況を背景に企画された今回の特別企画「外科専門医制度と各学会専門医制度の整合性」(座長=東北大 大井龍司氏,JR東京総合病院 古瀬彰氏)では,司会の古瀬氏が「学会には,社会に対してしっかりした専門医を育てる責任が強まった」との認識を示し,各学会を代表する口演者たちに発言を求めた。
 初めに「外科専門医制度」について口演した二村雄次氏(名大)は,新しい外科専門医制度の構築に到るまでの過程とその概要を解説。昨年4月に厚労省が示した「専門医広告規制緩和の外形基準」では,「5年の修練期間」が明示され,各サブスペシャリティ専門医制度との関係から当初「4年」でデザインしていた外科専門医制度の修練期間の変更を余儀なくされ,それが最大の問題になっていたと述べた。
 しかし,その後の議論の結果として外科学会は「新外科専門医制度」を構築。これは,4年以上の修練期間を経た後に受ける予備試験(筆記試験),5年以上で必要症例数をすべて経験したものが受ける認定試験(面接試験)の2段構えになっており,それにサブスペシャリティ(消化器外科,小児外科,呼吸器外科,心臓血管外科)の専門医制度(外科専門医修練期間を含め5-7年以上)が上乗せされるというものだ。二村氏は,この新制度の概要をていねいに示した。

サブスペシャリティ学会
専門医制度の課題

 一方,各スペシャリティ学会からは,まず「心臓血管外科専門医制度」について北村惣一郎氏(国立循環器病センター)が口演。心臓血管外科領域における関連する3学会(日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会,日本血管外科学会)は,将来学会から独立した組織にすることも視野に,「心臓血管外科専門医認定機構」を発足させた。北村氏は,「専門医の質を担保するためにも学会から離れたところで専門医を認定することが必要だ」と強調した。
 続いて,吉村博邦氏(北里大)は新しい「呼吸器外科専門医制度」について解説。胸部外科学会と呼吸器外科学会からなる,やはり学会から離れた「呼吸器外科専門医認定機構」を立ち上げ認定するなどの特徴を述べる一方,卒後臨床研修の必修化により,「専門医として必要な症例数の経験が困難になるのではないか」など,新制度の問題点を指摘した。
 また,「小児外科専門医制度」について口演した山崎洋次氏(慈恵医大)は,新制度の概要を述べつつ,「小児外科専門医は首都圏,中京,京阪神に集中していて,地域的偏在がうかがわれる。これは専門医師の過多と一部地域の不足を意味し,過多は非効率や専門医師の技量の低下の原因となり,一方不足によっては医療の質的低下が懸念される」と述べ,学会において検討すべき課題であると指摘した。
 さらに,「消化器外科専門医制度」については,高崎健(東女医大)が解説。自分の専門臓器しかわからない外科医ではなく,「一般外科医としての知識技能,消化器外科領域全般に渡る知識と初期対応能力を備えた専門医像」を描く消化器外科専門医の特徴を示した。その中で氏は「消化器外科研修と外科専門医修練には共通する部分が多くあり,消化器外科研修で要求される450症例と外科専門医修練で要求される350症例には,重複があってもかまわない」との認識を示した。
 これら各学会からの発言の後,名川弘一氏(東大)が,日本外科学会が開始した外科専門医オンラインシステムについて解説した他,松田暉氏が「外科専門医制度とサブスペシャリティ学会の連携」について発言。松田氏はその中で「外科専門医制度を成功させるためには1階部分をあずかる外科学会が外科系の基盤学会としての役割を果たすこと,そして2階部分のサブスペシャリティ学会との緊密な連携を行なうことが強く求められる」と述べ,特に当面は,「専門医試験および評価についての連携」を進める必要性を強調した。
 最後に,司会の大井氏は「この専門医制度はこれから育っていくものだ。みなで大切に育ててほしい」と呼びかけ,長時間にわたった本企画をまとめた。

■手術施設基準に「撤回」の声相次ぐ

 昨(2002)年4月診療報酬に手術施設基準が導入されたことは医学・医療界に強い反発をもって迎えられた。厚労省はこれを受け,同8月には緊急見直しを行ない,「症例数基準60%超施設の専門医執刀手術は減算せず」という修正を行なったが,手術施設基準自体の枠組みは残っているため,医療界にはいまも不満がくすぶっている。
 特別企画「医療保険制度の変動と外科診療の将来」(座長 東大名誉教授 出月康夫氏,北里大名誉教授 比企能樹氏)では,第一線の外科医や病院管理者,医療経済学者らが手術施設基準に対し厳しい批判を展開した。

「エビデンスなし」の批判噴出

 司会の比企氏は,まず,「昨年4月の突然の手術施設基準導入で,外科医療は大きな課題をつきつけられた。今後はよりデータに基づいた議論をしていく必要がある」と述べ,演者らに議論を促した。
 演者の中では,西村昭男氏(カレスアライアンス)が「人工心肺を用いた開心術で手術症例数を満たす地域が,北海道にはわずか4医療圏しかない。この基準では,2次医療圏の中で医療を完結させるという地域医療計画の考え方そのものが崩壊する」と手術施設基準を批判。川渕孝一氏(東医歯大)も「この基準には,手術症例数が増加すると医療成果が向上するという前提があるが,日本の調査研究ではそのような相関関係はなかった」と指摘した。また,山口俊晴氏(癌研究会)は「基準を満たす施設が2次医療圏に1つもないようなことは,ばかげている」と切り捨てた。
 これに対して,厚労省の山崎晋一郎氏(保険局医療課課長補佐)は施設単位で症例数の基準をいれたことは必ずしも間違っているとは考えていないとの認識を示しつつ,「批判をいただく中で,中医協等で検討していきたい」と見直しに含みを持たせた。
 厚労省は機能分化を進める中で,医療機関の「選択と集中」を図ろうとしているが,「具現策が不適切」(西村氏),「選択とは治療成績の公表が適切に行なわれたうえで患者が行なうべきものであり,国が決めるべきものではない」(国立熊本病院 芳賀克夫氏),「導入のプロセスが間違っている。エビデンスのない施策であり,認める外科医はいない」(出月氏)などの批判が相次ぎ,演者らは口々に,次回診療報酬改定での撤回を迫った。厳しい批判の噴出に,青柳俊氏(日本医師会副会長)も中医協診療側委員の立場から「(昨年)3月の時点で了承したことは反省している」と述べ,「今後も撤回を求める。国民の納得があれば,出口の審査は残っても,入り口の審査・規制は撤廃できる」と強調した。
 最後に座長の出月氏は「こういう問題を学会として取り上げたのは初めてだが,むしろ今後は取り組まざるをえない時代になったと言える」と述べ,本企画を結んだ。