医学界新聞

 

時代の動向に合わせた取り組みへ議論

平成15年度日本看護協会通常総会開催


 日本看護協会(=以下,日看協,南裕子会長)の平成15年度通常総会および全国職能(保健師職能,助産師職能,看護師職能)集会が,さる5月21-23日の3日間にわたり,大阪府の大阪城ホール,他において開催された。本総会において採択されたスローガンは,「21世紀,国民の信頼に応えるライフサポーターをめざしてネットワークする看護職」。厳しい問題が次々と生じる看護をとりまく状況に対して,現場に立脚し,将来を見据えた活動を積極的に続けていく姿勢をあらわした形となった。
 なお,任期満了に伴う役員選挙では,南会長が3選を果している。


●看護の専門性,社会性が求められる流れに

重要議案を審議

 重要議案の1つとして提案された「看護制度改革推進について」では,看護師学校養成所2年課程(通信制)についても言及され,協会として今後さらに関係省庁,都道府県などへの働きかけを強めていく他,開設する学校の情報提供および進学相談などについても支援していくとする方針が承認された。岡谷恵子専務理事は同議案をめぐる議論の中で,すでに8校が2004年度からの導入を決めていることを明らかにしている。
 また,訪問看護・在宅ケアの推進についても審議され,訪問看護ステーション開設促進,訪問看護に従事する看護職の増員,訪問看護従事者の質向上と裁量・権限の拡大,訪問看護提供に関する制度改善,日本訪問看護振興財団との連携・協働の強化,のそれぞれに取り組むことで承認された。
 さらに,認定看護師の需要の増大や,認定看護師資格取得のニーズの高まりを背景に,認定看護師制度の拡大への取り組みについても審議され,日看協における認定看護師教育課程の定員増と教育スペースの確保の他,認定看護師の教育を実施できる他機関や団体への働きかけ,認定看護師教育拡大のための制度の改善,のそれぞれに取り組む方針となった。
 これらの方針とともに,平成15年度の事業計画においては,協会会員拡大,新会館の建設,医療・看護の安全対策,看護職のキャリア開発の仕組みづくりと卒後臨床研修の必修化,「まちの保健室」事業,国際的な看護支援・協力,看護職の労働条件の改善・向上,看護職のたばこ対策,災害看護ネットワークの構築,のそれぞれの推進を重点事業として掲げた。

看護も「地方の時代」に

 総会の終わりに挨拶に立った南会長は,「まちの保健室」事業や「健康日本21」,「すこやか親子21」関連の事業の他,准看護師の移行教育を推進するための,看護学校への働きかけなどについても,各都道府県看護協会の働きが非常に重要になっていると強調。さらに,時代の動向は看護の専門性,社会性,責任の拡大を伴いながら進んでいるとし,求められる課題に現場でどう立ち向かうのか,熱意を持って1つひとつ取り組んでいきたいと締めくくった。

●さまざまな立場からみた看護-看護師職能集会より

看護の課題は

 会期3日目には,保健師,助産師,看護師の各職能集会が行なわれた。このうち看護師職能集会では,シンポジウム「これからの看護への期待」(座長=日看協看護師職能委員 木藤京子氏,服部満生子氏)が企画され,看護職のみならず,第3者の立場からもパネリストが登壇。それぞれの視点から看護のあり方への提言がなされた。
 安全管理の専門家として原子力発電所や航空管制官などの仕事に携わってきた経験を持つ河野龍太郎氏(東京電力)は,エラーの見方を「人間が本来持っている特性と周囲の環境が合致していないために起こるもの」と示したうえで,エラーを個人の問題ととらえ,「きちんと注意する」「確認を徹底する」などといった「竹やり精神論」に根ざした改善策は効果が期待できないと指摘。安全管理のためには,コンピュータの導入を伴うシステムの改善を図ることが重要であるとした。
 実践者の立場から日向一代氏(葉山ハートセンター)は,自身の従事する「コーディネーター」の業務を,(1)家族とのかかわりを持つことで不安軽減に努める,(2)効率的な治療のために各医療部門との連携をとる,(3)紹介病院の主治医とのコンタクトを取ることで,スムーズな医療のリレーを行なう,(4)患者や家族のニーズを医療チーム内で共有化する,(5)費用,家族の宿泊などの情報提供をする,といった基本姿勢に基づいた活動を通じて,患者や家族の満足度を高めることと紹介。患者と医療の橋渡しとなる活動の重要性を示した。

看護の自立,患者の自立

 辻本好子氏(COML)は,患者からの電話相談に応える活動を通じて自身が感じた,看護職に対する思いを述べた。氏は,医療の受け手である患者も自立を求められていると前提したうえで,近年の電話相談でもっとも多い内容は「医療不信」であると報告し,患者の主体的な医療参加を支える役割を持つのは看護職であると改めて指摘した。
 宇都由美子氏(鹿児島大)は,鹿児島大附属病院における医療のIT化実践について紹介。同院において導入されている,バーコードなどを利用したITシステムの導入により,記録の効率化やリスクマネジメント,院内の連携に大きな効果を得られたと報告した。さらに氏は,「セキュリティの充実,看護の標準化の整備によって,電子カルテの普及がより促進される」と課題を述べた。
 フロアをまじえた議論の中で河野氏は,安全を管理するためには医療の現場はあまりに過酷と発言。「このような状況を国民全体が知ることが重要」と提言し,これを受けて会場からは「医療者がアピールしても言い訳に聞こえてしまう。第3者の専門家から見えることを,社会全体に知らせていく必要がある」という声があがった。
 一方で,会場内から「診療報酬の中だけで,カルテの電子化や安全管理のシステム作りを進めるのは難しい。まずは看護師長をはじめとして積極的に働きかけ,スタッフである看護師もそれを支えていくといった体制づくりが重要」との声もあがり,社会に対する理解を求めながら現場の看護職による自立した取り組みを進めていくといった両方の動きの必要性を示唆する議論となった。