医学界新聞

 

医師国試合格体験記


■「焦る」こと,「諦める」ことは禁物

大森慎太郎(聖マリアンナ医科大学卒)

自分なりの勉強スタイルを持つ

 国家試験対策の勉強法やその開始時期は,個々人の事情によって異なってくることでしょう。しかし,決められた期日に行なわれる国家試験に向けて勉強を進めるうえで,みなさんに共通したアドバイスとして言えることがあると思います。それは,国試用の自分なりの勉強スタイルを持つということです。
 現在,国試対策の問題集や参考書,あるいは専門予備校などが多数存在しています。そしてその中に絶対的なものは存在しません。ですから,各々から自分に適したものを抽出して組み合わせていくこと(=自分の勉強スタイルを持つこと)が大切なのです。「○○の問題集を△回終わらせた」ことが重要なのではなく,すべてを解かなくてもその本の中で要点としていることを理解していることが大切なのだと思います。問題集などを自分の理解のために「利用」していくことは大切ですが,それらを単純にこなすことだけに執着するのは得策と言えないでしょう。また自分にとって興味のある分野ばかりを深く掘り下げて学ぶあまりに,他の分野をおろそかにしてしまうことも同様です。
 「限られた時間の中で国家試験にパスすることを目的に勉強するのであれば,何が優先されるべきなのか」という事を意識すること(=国試用の勉強スタイルを持つこと)を心掛けるとよいと思います。

問題集を解く際にも目的を持つ

 実際の勉強面では,多くの出版社から出されている臓器別の問題集を解くことと,ほかに95回-97回,計3回分の国家試験の復元問題を解いておくことをお勧めします。解く時期,解き進め方は人によってさまざまでよいと思います。すべての科においてBSLやポリクリで習得し得る知識を問う問題が多く存在していることがわかると思います。(もうBSLを終えてしまって国試まで新たな習得の機会を逃してしまったという人も,まずは机上なりの知識として,解く際にそれを頭に入れてしまえばよいでしょう)また一方で,マイナー科に関しては全科が国家試験で出題されるようになって以来,基本的な内容を問う問題が中心になっているのがわかると思います。
 つまり,ここで大切なのは問題集にある過去問に闇雲にあたることではなく,それぞれを解く際の目的を持つことです。それにより知識が効率よく加わり,あるいは整理されやすくなります。問題を解く目的は「最近の傾向をつかむ」「みんなが解けるような問題を確実に解けるようにする」「病態生理の理解を深める」「本番のペース配分をつかむ」……などさまざまであると思います。そして国試直前においてはどんなに不安や未練があっても,新しい知識を入れることに努めるより,既知の知識を再確認することをお勧めします。
 生活面で国試対策として有効なのは,周りの人たちとおおよそ同じように過ごすということでしょうか。同じような時間に同じようなものを食べて,同じようなことを学び,同じように国試に対する不安を抱え,同じように時にはおしゃべりをしたり遊んだりしてリフレッシュをはかり,同じように眠る……とてもシンプルな話になってしまいますが,そういうことだと思います。もちろんこれはほとんどが自然に成されていくことでしょうし,また時にはそう努めるべき場合もあるでしょう。例えて言えば,試験直前には朝方の生活にしておくことをお勧めしておきます。

よく言われる「鉄則」はやはり大事

 もうひとつ国家試験を受けて実感したことについて書きます。先に書いた「直前には朝方の生活」もそうですが,「よく言われる」鉄則はやはり大切なのだと思います。
 例えば私の場合,「前日にはしっかり睡眠をとる」でした。本番では緊張もあったとは思いますが,普段なら意識せずに解答できたことが頭の中で急に不明確になったり,しっかり物を考えられる状態であれば解答が明確であったにもかかわらず,誤問をすることがありました。その原因を遡った結果,「前日見直しに気をとられすぎて,寝るのがいつもより遅くなってしまった」ことに行き着きました。本番前だからと何かと特別なことをしたくなるかもしれませんが,そうするよりは普段からのスタイルを維持するのに努めることをお勧めします。現在の国家試験は合格率が約9割におよぶものです。それだけに多くの人たちが言う,あたりまえの「鉄則」を守ることが大切なのだと思います。
 最後に一言。来年度より,「初期臨床研修の必修化」がなされますね。新制度のもと,研修先の病院を決めるために今の時期から時間的制約をより多く課せられている人もいるでしょう。その分,国試対策について不安を覚える機会も多いかと思います。ですが焦らずに,ひとつひとつをこなしていくことに努めてください。焦ること,そして,諦めることが何よりも禁物だと思います。
 みなさんとともに医師として働けることを楽しみにしております。


■医学生も患者さんと同じものと闘っている

前田恵理子(東京大学医学部卒)

 国家試験体験記ということで原稿を書いていますが,3年生から淡々と同じような生活をして,その体験すべてが国家試験でも活きたので,私には追い込みらしい期間がありませんでした。したがってここでは,専門に入ってからの勉強を振り返りたいと思います。

後に残るような勉強を

 基礎医学は,実習や授業の予習復習として,『Snell解剖学&発生学』,『ヴォート生化学』,『標準』,『NEW』,薬理学は『Lippincott』と『Katzung』,『Robbins病理学』などを読みました。国家試験でも,解剖・生理・薬理などが結構出ます。なにより,基礎の勉強は医学の勉強の情報圧縮回路となるので,基礎をしっかりやっておくと,記憶に頼る部分が減り,臨床の勉強が数段,楽になります。
 4年生になると臨床講義が始まりました。内科は,『内科学書』(中山書店),大学のテキストと雑誌が中心でした。4年生は「内科1周目」として,重要そうな疾患に重点を置いて,大学の講義とテキストをベースに,基礎の復習のつもりで薬理や病理の教科書を特によく使って勉強しました。
 5年生では「内科2周目」として,臨床実習で体験をつみながら今度は内科学書で基礎固めをしました。他の臨床も,『標準』・『NEW』などの教科書や雑誌を使って勉強しました。医学部の勉強は量が多いので,初めて出てきた時は科目の全体像を捉えて骨組みを作り,他の科目の時に肉付けして何周もやろうという意識で,とにかく後に残るような勉強を心がけるのがよいと思います。いろいろな本を使ったり,実習・授業・クルズスで五感を使って感じるものを大切にしたりして,手を変え品を変え頭に刺激を送ると,後に残るような立体的なイメージが構築されるはずです。

病気とは手ごわいもの
真摯な態度で取り組もう

 教科書や雑誌は,全部読んだものも,主な疾患や特色あるコラムだけでもという意識で読んだものもあります。最近は手軽な国試向けの教科書も出ていて,私も科目によっては併用しましたが,安易にそちらには流れないようにしました。文献を探して,そのevidenceを探したり,読み比べたりするような勉強も必要です。
 病気という自然現象は,「何々向け」にわかりやすく表現できるわけもないほど,複雑で手ごわいものです。医学生は,なにも国試と闘っているのではなく,医学を武器に患者さんと同じものとの闘いをしているのです。理不尽にも病気を背負い,真剣に闘病生活している患者さんを思えば,こちらも病気や医学の勉強に対して安易な態度など取れません。医学生レベルでできることは,安きに流れず勉強することくらいしかありませんが,常に真摯な態度で,教科書に書いてあることも常に疑うくらいの気で取り組むことは大切です。
 国試に関しても,病態生理はよく聞かれますし,最近は病理・画像・皮膚や内視鏡などが超頻出です。病理や,ともすれば名前だけで終わりがちな良性疾患など,骨のある勉強の中でいつの間にか写真を沢山目にしていたのは大きなプラスになりました。
 東大では6年生の11月まで臨床実習なのですが,9月・12月に卒業試験があるので,それもにらんで過去問は6年生の7月から,『クエスチョンバンク』,『100%』,『100問』などをそれぞれ3周ほど解きました。4年生のときから取り組んだ内科ですが,試験勉強となると緊張感が違うので,6年生は知識倍増以上の1年間となりました。国試本もよくできたもので,問題を解いたりゴロを唱えたりしているうちに信じられないような知識量が頭に入り,国試対策の勉強の意義も大きいなと思いました。
 試験といえば,不登校・リハビリテーション・社会的な問題など,科目で縦割りするとどこにも入らないような問題が最近目につきます。過去問では対応しきれなくなっている部分もあるので,広い分野に関心を持つことも必要でしょう。
 では医学生の皆さん,ぜひ,中身の濃い合格を勝ち取ってください。ともに精進していきましょう!