医学界新聞

 

あなたの患者になりたい

エレベーターは患者さん優先!

佐伯晴子(東京SP研究会・模擬患者コーディネーター)


 先日,ある大学病院でOSCEをした時のことです。見慣れたエレベーターのはずなのに,何か違う。再び乗ろうと前に立った時にわかりました。扉の全面に太く大きい文字で「患者さん優先」と書かれていたのです。
 なるほど,エレベーターは小さめで,いつ乗ってもいっぱいでした。乗れずに見送る患者さんの姿を何度も見たことがありますので,患者さんやご家族の不満があったのかもしれません。デカデカと書くことで「患者さん中心の医療」をしていますよとアピールする意味もあるのでしょう。それで患者さんが優先されれば結構なことです。
 しかし,あえて書かない限り患者さんは優先してもらえないのか,と私は寂しくなりました。病院は利用する人のためにあると思います。もちろん業務で急ぐ必要があれば,専用のエレベーターなどで迅速に動いてくださればよいと思います。ただ,通院でも入院でも,患者さんは病院を利用するというより,お忙しい現場にお邪魔して,さらにお忙しくさせてしまい,申し訳ないような肩身の狭さを感じてしまうことがあるのです。
 また,ある病院の副院長に連絡をとる必要がありました。電話交換の担当者がつなぐたびに電話が切れてしまいます。「先ほどつながらなかったのですが」と言いますと,同じ声が「呼んでます!」「何か用ですか? 副院長先生は今いらっしゃいませんけど」と言われました。その病院は毎年研修医のコミュニケーション学習会を行ない,副院長が教育者としても活躍しておられます。せっかく患者さんとの信頼関係を大事にしようと努力していても,最初の入口である電話交換がすべて台無しにしては,あまりにもったいない話です。私は思い切って申し上げました。
 「あの,先ほどからお聞きしていますと,お言葉が私には少し気になるのですが。副院長はあいにく席をはずしております,とおっしゃるほうがよいのではないでしょうか?」
 すると「うちでは,先生には敬語を使うことになってます」と憮然。
 では外部の人や患者さんにはどんな言葉を使っていただけるのでしょう? 今後何かトラブルが起きなければいいが,と他人事ながら心配になりました。

プロとアマ

 患者さんが肩身が狭く,ときに無礼にあしらわれたと感じるのは,実に残念なことですね。せっかく患者さんに対して限られた時間の中で,最大限の共感を示し,ずっとその人のことを気にかけてすごすひとりの専門家がいても,些細なことでその努力が報われなくなるというのはいかにも理不尽なことだと思います。
 これは,病院全体がまだプロになっていないからではないでしょうか。プロとアマの違いは,仕事に対する責任感とプライドだと私は思っています。高い技術に裏打ちされた自信と,常にもっといいもの,さらに上をめざす志がプロとアマを分けるのではないかと。だからこそ,本当のプロには尊敬をもって,いろいろお世話になりたいと心から思います。そんなプロの病院がもっともっと増えてくれたら安心ですね。