医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


40年の経験が裏付ける呼吸器診療の臨床知

開業医のための呼吸器クリニック
谷本普一 著

《書 評》阿部正和(慈恵医大名誉教授)

 1988年初頭,私は当時虎の門病院呼吸器科部長の任にあった谷本普一氏への面会を求めて病院を訪れた。私自身,呼吸器疾患についての知識も術も乏しく,慈恵医大の呼吸器科も貧弱だったので,谷本氏を慈恵に迎えて教示を願いたいと考えたのであった。
 私がかねてから谷本氏に注目していたのは,次の3点からであった。第1に,氏がわが国における呼吸器病臨床の第一人者である本間日臣氏の協力者であり,そのお手並みを本間氏からよく聞かされていたこと,第2に,氏の人柄がよく,いつも謙虚で,しかも真の臨床家であること,そして第3に,定年退任を間近に控えておられることであった。
 わずか20分足らず,谷本氏と面談している間に,この人こそ慈恵の教授に相応しい人物であると私は直感した。氏は,「しばらく考えさせてください」と言いながら前向きに応対してくれた。それからわずか旬日を経ずして「承諾」の返答を得たのだ。「慈恵医大の谷本教授」が実現した日である。嬉しかった。
 以来5年間,氏は慈恵の呼吸器内科確立のために尽力してくれた。若い医師に呼吸器疾患患者の診療の術のみならず,臨床家としてのあるべき姿を示してくれた。感謝に堪えない。

40年の臨床経験をビジュアルな構成で見せる

 この谷本氏が,このたび呼吸器疾患専門医としての40年間の豊かな臨床経験を基礎にして「開業医のための呼吸器クリニック」と題する本を刊行されたのである。私自身は,本書の専門的内容について論評する資格はない。しかし,直接御本人から書評の依頼を受けたので,あえて本書についての私の所感を述べる次第である。
 本書は272頁の小冊子であるが,内容はきわめて豊かである。至るところで表と図および写真が活用されている。94の表,120の図が縦横に駆使されて読者の理解を助けている。特に注目すべき点は,今の時代に失われつつある問診と身体的所見を診ることの重要性が強調されていることである。さらに胸部X線写真1枚1枚についての深い読影の術,呼吸機能の検査,動脈血のガス分析に至るまで,外来診療で活用できる範囲で,手にとるようにわかりやすく解説されている。そして,各種呼吸器疾患の外来診療のポイントと続き,最後にリハビリテーションと在宅酸素療法で締めくくられている。いかにも谷本氏らしい著書であり,巧みな筆致に感服した次第である。

変わる呼吸器診療

 著者は,「まえがき」で呼吸器専門医としての40年の経験から,難治とされてきた多くの疾患の治療が1970年を境にして急速に進歩発展してきたこと,今では多くの患者が外来治療で治癒ないしは症状の改善をみるようになったと感慨深く述べている。20世紀後期の医学の勝利とさえ声高らかに,誇らしげに語っている。著者の顔に微笑みが浮かぶようになったという,その顔がまるで目にみえるようである。
 開業医の方々はもとより,これから呼吸器科への道を歩み出そうと志している若い医師たちの必読の書であることは疑いない。
A5・頁272 定価(本体3,800円+税)医学書院


さらに充実した臨床薬理学テキストの決定版

臨床薬理学 第2版
日本臨床薬理学会 編
中野重行,他 編集委員

《書 評》高久史磨(自治医大学長)

わが国最初の臨床薬理学の本

 1996年に日本臨床薬理学会の編集によって『臨床薬理学』が医学書院から刊行された。臨床薬理学の概念,歴史,臨床試験の倫理性,臨床試験と医薬品開発から,薬物動態,薬物相互作用,有害反応,薬物治療学の総論,各論に及ぶ臨床薬理学のすべての分野をカバーした,わが国で刊行された最初の本格的な臨床薬理学のテキストであった。
 わが国では臨床薬理学の重要性が以前から指摘されていたにもかかわらず,優れた教科書がなかったことを考えると,この本の刊行がわが国の臨床薬理学の発展に大きく寄与してきたと言って間違いないであろう。
 このたび,その第2版が刊行された。第2版では初版の内容に臨床試験関連のトピックスとして,大規模臨床試験,開発業務受託機関(CRO),治験施設支援機関(SMO),治験コーディネーター(CRC)などの項目が追加されている。
 初版が刊行された1996年に日米欧の協調を目指した新しい「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」が薬事法の改正によって法制化された。新しいGCPの導入に伴う臨床試験体制の整備が遅れたため,その後わが国における治験の遅れが目立つようになった。その結果,わが国の製薬企業が外国と治験を行なうという,治験の空洞化が目立つようになった。このことが臨床試験の展開にとって,また製薬企業全体の発展にとってきわめて大きな問題であったことは自明である。このような治験体制の遅れを取り戻すため,現在さまざまな取り組みがなされている。今回第2版で新しく取り上げている上述の大規模臨床試験,CROやSMO整備,さらにCRCの育成などもそのような取り組みの例である。特にCRCに関しては,日本臨床薬理学会が本年から認定制度を開始している。この第2版はCRC認定をめざす人たちにとって特に有用なテキストになるであろう。
 第2版では上述した新規項目のほか,薬物有害反応予防,薬理ゲノミクスの項も新しく追加されており,薬物治療学各論の章での幾つかの重要な疾患が追加されていることと併せて,初版よりも一層充実した内容となっていることは間違いない。
 2003年4月にヒトの遺伝子における塩基配列の解析の終了が宣言された。ヒトの遺伝子解析の結果を利用したpharmacogenicsに基づく新しい形の薬剤の開発が今後一層加速されることが十分に期待される。そのような新しい時代を迎え,臨床医学における臨床薬理学教育の重要性が今後さらに強調されるようになることを疑う者はいないであろう。第2版の刊行によって,わが国の臨床薬理学教育の分野における本書の役割の大きさがさらに広く認識されるようになるものと信じている。
B5・頁600 定価(本体9,300円+税)医学書院


臨床的疑問から始まる,「アートとしての内科学」

内科診療シークレット
福井次矢,野口善令 監訳

《書 評》大生定義(横浜市立市民病院・神経内科)

 このたび,メディカル・サンエンス・インターナショナルから,『内科診療シークレット』が出版された。京都大学の臨床疫学(総合診療科)福井次矢教授と野口善令先生が監訳され,Q&A2188問を25人の先生が精力的に翻訳された。本書は,いわゆる“Secrets”シリーズの1つで,原名は“Medical Secrets(third edition)”である。翻訳にあたっては,設問難易度を医学生,研修医や認定内科医,内科専門医や指導医の3レベルで明示し,さらに日本の事情に配慮しての注釈が入れられ,統一性も保たれている。巻頭で福井教授は,adult learningについて言及されているが,まさに生涯教育の副読本として,臨床教育のヒント集として有用である。

臨床場面からの豊富な出題

 第1章は「総合診療・一般内科学」で,その第1問は「内科学におけるLoebの法則については何か」である。答えは,
(1)今していることが有効な時は,そのまま続行。
(2)今していることが有効でない時には中止する。
(3)何をすべきかわからない時には何もしない。
(4)治療方針の決定を外科医にまかせない。
である。内科医のもつべき,知識・判断へのなんと謙虚で厳格な法則ではないか。ちなみに,これはランクA(医学生レベル)である。
 原著も20人の分担執筆である。アートとしての内科学は臨床的疑問から始まるというところから出発して,ソクラテス式問答法をイメージして頻度の高い疾患から「シマウマ」的な珍しい疾患を簡略にすぎず,詳細にすぎず述べている。例えば,「菌血症を疑う患者に対して,血液培養は何回施行すべきか」(ランクA),「遺伝性血管浮腫の最も重要な臨床的特徴は何か」(ランクC),「病歴から聴き出せる末梢神経障害の特徴は」(ランクA)など臨床場面からの問題でいっぱいである。

読み手の心を打つ名言の数々

 全17章それぞれの扉の裏面には,多くの先達の至言・名言が付記されている。「AIDSおよびHIV感染症」の章では「患者に希望を与えることができる医者がもっとも優れた医者である」(Samuel Taylor Coleridge),「外来ケア」の章では「ここでは,いつ来ようと,明かりと援助と人間の優しさが見つかるだろう」(Albert Schweitzer)という言葉などが心を打つ。このようなすばらしい翻訳書の誕生を喜び,ぜひとも専門分野にかかわらず,多くの方に読んでいただくことを強く希望して,最後に,第1章の扉の言葉を記す。
 「わが息子へ:何科を専攻しようとかまわないが,医師であることだけは忘れないように」(Harry E. Mock)
A5変・頁770 定価(本体7,200円+税)MEDSi


慢性完全閉塞に対する治療法を達人が解説

PTCAテクニック慢性完全閉塞
光藤和明 著

《書 評》井上直人(京都第二赤十字病院 循環器科部長)

誰もが驚いた「光藤マジック」

 2002年3月に光藤氏を当院の院内ライブデモンストレーションに招聘した。その際,他院で不成功であった右冠動脈の慢性完全閉塞(chronic total occlusion:CTO)を用意していた。透析患者であり石灰化が強く,さらに屈曲を伴うCTOであり誰もが成功率は低いものと考えていた。しかし,光藤氏は解説を加えながらいとも簡単にやり遂げてしまったのである。参加者の誰もが驚き,以後その症例は光藤マジックと呼ばれるようになった。光藤氏にとってはそれは決してマジックではなく,長年の技術の蓄積およびデバイス改良の当然の成果であると考えておられたことと思う。そのノウハウをまとめられたのが本書である。

CTOに対するテクニックは職人だけのものではない

 光藤氏は大胆にも本書にてCTOに対するテクニックを系統的に標準化しようとしている。非CTO病変に対してのテクニックはステントの出現以来急速に標準化されたが,CTOに対するテクニックが標準化されることは難しいであろうと私は思っていた。しかし,本書を一読するとそれは杞憂であることがわかる。CTOは決して一部の職人のものではなく,ある程度熟練した術者であれば一定以上の成績が得られるように解説されている。光藤氏の果敢な挑戦に敬意を表する次第である。
 さて,本書のポイントは以下の点である。
(1)CTOを行なう際には,まず冠動脈の解剖を熟知することが重要であり,本書を読むとそれが再認識させられる。多方向造影で確認し(可能であればbiplane),仮想冠動脈ラインを頭の中においてガイドワイヤーを進めることが重要と説いている。
(2)次に重要なのは偽腔を大きくしない工夫である。今まではどちらかというと,ガイドワイヤーを回転させてワイヤーでルートを作るように操作していた。この方法ではガイドワイヤーが偽腔の場合,偽腔を大きくするばかりで真腔をとらえにくくなる。また従来は,柔らかいワイヤーから段階的に硬いワイヤーに変更していたが,0.014インチのワイヤーをあまり回転させて操作すると偽腔を大きくすることになり,先端がtaperingした0.009インチのConquestワイヤーに比較的早く変更することを推奨している。この考え方はCTOに対するアプローチを根本的に変えるものと思われる。
(3)さらに,どうしても真腔をとらえられないときのパラレルワイヤーテクニック,シーソーワイヤーテクニックなど最新のテクニックも紹介されている。
 以上,本書はこれからCTOに本格的に取り組もうとしておられる中級者のみならず,すでに十分な経験を積まれた上級者にも参考になることが多い。1人でも多くのインターベンショナリストが本書をカテーテル室の座右の書としていただき,CTOに対する治療に取り組んでいただきたいと切望する。
B5・頁124 定価(本体5,000円+税)医学書院


重要性増す薬理学の知識を整理

薬理学プレテスト
アーノルド・スターン 著
渡邊康裕 監訳

《書 評》遠藤政夫(山形大医学部長)

集中を切らさず学習できる工夫

 日本の医学教育における薬理学の位置づけは急激に変わりつつあり,これは基礎医学における教育方針全般の変化に伴うものである。基礎医学教育では臨床で患者を診て治療するための基礎となる知識を身につけさせることがより強く求められており,そのためのコア・カリキュラムがすでに実施されつつある。平成17年には臨床実習に入る前に必須の基礎的知識を問う全国共通テスト(CBT:computer-based test)が実施されることになる。したがって,治療学の基礎となる薬理作用機序および副作用(有害作用)を学習する薬理学の位置づけは著しくその重要性を増してきている。このような状況下でアーノルド・スターン著「薬理学プレテスト」の渡邊康裕教授による監訳はまさに時宜を得たものといえる。
 本書は薬理学の知識を臨床における治療の基礎として,積極的に頭を使いながら学習するという一貫した基本方針に基づいて書かれており,著者の配慮が細かいところまで行き届いている。これにより教科書を読むことによる勉強がどうしても単調なものとなり集中力の持続が困難に陥ることを避け,より効果的に新しい薬理学の知識を得ること,さらにはすでに学んだ知識の的確さをチェックすることが可能となる。自分で考えて解答を試みた後に,その事項に関する懇切丁寧な解説を読むことにより,効果的な知識の整理を可能にしている。一方,日常診療活動で投与する薬物に関する治療原則の基礎となる薬理学の重要知識のリフレッシュメントにも有用である。

解答は短時間で

 内容的には490題の基本問題が中心的な役割を演じているが,これらの問題はUnited States Medical Licensing Examination(USMLE)Step1の問題の形式と難易度に沿っている。1問につき1分以内で解答するようにという著者のアドバイスがあるが,問題の難易度にはバラツキがあり,平均すればほぼその程度の時間で解答することが可能である。最初に基本薬物分類表と頻出項目が記載されており,初めて薬理学を学ぶ学生には少しとっつきにくいかもしれないが,知識整理のためには非常に有用である。最初の「薬理作用」の章は,いわゆる薬理学総論の問題である。全体的なバランスを考慮するとやむを得ないかもしれないが,この章にはできればもう少しページ数を割いて欲しい。各論の問題項目は「抗感染症薬」から始まり,「癌化学療法」「癌免疫学」という順序になっているので少し入りにくい印象をもった。本書の項目の順序にとらわれないで各論に関しては「自律神経系」「心血管系」「呼吸器系」「中枢神経系」あたりから勉強を始めるのがよいと思われる。著者も章の項目ごとにまとめて勉強することを指示している。個々の薬物に関しては日本で発売されていないものも出てくるが,あまり気にしないで作用機序にターゲットを絞って勉強を進めることをお薦めしたい。
 問題はそれほど時間を使わず比較的容易に解答できるものが多いので,薬理学の知識の整理のために医学部・薬学部の学生をはじめ,実際の日常診療に従事している医師,薬剤師,看護師,製薬会社の研究者にも広く本書をお薦めしたい。
A5・頁312 定価(本体3,300円+税)医学書院


ベテラン皮膚科医の「目」をコンパクトに具現化

皮膚科外来診療マニュアル 第2版
宮地良樹,竹原和彦 編集

《書 評》岩月啓氏(岡山大教授 皮膚・粘膜・結合織学)

臨床現場での思考プロセスを具体化

 皮膚科医の診断は,皮疹の性状や分布を正確に認識することから始まる。ベテランは,問診と皮疹の視診・触診を行ないながら,どの部位にどのような皮疹があり,組織学的にどのレベルに病変があり,細胞浸潤がどの程度なのか,滲出性変化が強いかなど多くの情報を瞬時のうちに引き出し,多くの鑑別診断を想起する。いかに漏れなく鑑別診断を想起できるか,そして,さらなる問診や診察技術を駆使して鑑別診断を絞り込めるかによって皮膚科医の「目の値段」が決まる。十分な鑑別診断が想起できなければ,思い込みによる的外れな診断的アプローチをとり,余計な検査をオーダーする結果になりかねない。
 本書は皮疹の特徴から想起すべき重要な疾患がリストアップされている。忘れてはならないcommon diseaseが重点的にとりあげられ,実地医療に即座に役立つ内容になっている。ちょうど皮膚科医が皮疹をみて,鑑別診断を考えるプロセスを初学者にもわかりやすい形で具体化している。初学者が皮疹を診断する場合に,本書をチェックリストのように利用すれば鑑別診断を想起できる。また,各疾患の記載事項を参考にして,さらなる問診を行なうことによって鑑別診断の絞り込みが可能となる。
 鑑別診断が絞り込めたら,外来で実施可能な皮膚科的検査を行なうことが確定診断の早道である。その診断技術には,真菌・細菌・疥癬虫検査,硝子圧法,皮膚貼付試験,皮膚描記試験やTzanck試験などがある。これらの検査法は,その原理を理解し,多少の経験があれば誰にでも実施可能であるが,実践向きにその方法を記載した書物は少ない。本書はこれらの検査の進め方や実際の判読法などを簡潔に記載しており,臨床における皮膚科検査マニュアルとしても利用価値が高い。

診療の合間に知識が確認できる

 診断が確定すると,次は治療の選択を迫られる。たくさんの種類の副腎皮質ホルモン剤,抗アレルギー薬,抗菌薬の中から適切な治療薬を選択するにあたっては,投与禁忌の合併症や薬剤の相互作用がどうであったかなど膨大な情報量を頭の中で整理して,複雑なシミュレーションを行なって処方しなくてはならない。本書では,頻用薬が特徴によって分類されており,用法や副作用や使用上の注意点が簡潔に記載されているため,不適切な投薬を回避することができる。本書の構成は,ベテラン皮膚科医が身につけている診断・治療プロセスや思考過程をコンパクトに具現化している。疾患ごとの記載の簡潔さはエッセンシャルなものなので,忙しい診療の合間に,知識の確認のために用いることも可能である。医学生,卒後臨床研修医や皮膚科初学者が携帯して日常診療に活用するのに適している。
B6変・頁296 定価(本体4,000円+税)医学書院