医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


いざという時に役立つ,より深い救急の知識を整理

《総合診療ブックス》
救急総合診療Advanced Course21

箕輪良行,他 編集

《書 評》下 正宗(東葛病院副院長)

1段高いレベルで救急の知識を整理

 「救急総合診療Basic20問」の続編である。前書が,研修医や若いレジデントが基本的に知っておかなければならないものを中心に記載しているのに対し,本書は,救急を専門にしていないが,日常診療の場面で,種々の救急の対応をしなければならない病院のレジデントや診療所,一般病院の医師を対象にして書かれている。2004年に医師臨床研修が必修化されるが,卒後2年間ですべての臨床医は前書レベルの能力は修得しなければならない。本書ではそれより少し高いレベルで,知識として,あるいは,手技として身につけておくべき事項が記載されている。

読者の興味を引き続ける,ポイントをついた構成

 第1次医療機関での適切な対応が,その後の高次医療機関に転送された際の予後を左右することはよく知られていることであるが,まさに,そのレベルを上げるために書かれたものである。各対応に対する記憶術(mnemonics)は,目の前に起きている現象にどのように対処するかの行動の指針になるものばかりである。
 「いまだに議論が分かれる点」の記載は,救急対応のピットフォールともいえる内容で,各著者が多くの症例経験の中で見いだしたポイントが記載されており非常に興味深い。
 また,手技に関しては,きれいなイラストが描かれてあり,イメージトレーニングに最適である。
 扱われている課題は診療所や一般病院では,そう頻繁に遭遇するケースばかりでないが,いざというときのために,ときどき本書を開いて復習しておくようなことは必要であろう。
A5・頁264 定価(本体4,000円+税)医学書院


世界に通用する,体系的な日本の臨床呼吸器病学テキスト

開業医のための呼吸器クリニック
谷本普一 著

《書 評》宮城征四郎(臨床研修病院群プロジェクト「群星沖縄」研修センター長)

第一人者による豊富な臨床経験が凝縮

 本邦における臨床呼吸器病学の第一人者として,日頃,私が敬愛している谷本普一先生が,この度,表題の開業医向けのテキストを上梓された。
 虎の門病院呼吸器科部長,慈恵医科大学第4内科教授を経て,10年前に呼吸器クリニックを開業され,大成功を収めておられる実績を抜きにして本書について語ることはできない。
 個人的には前職の沖縄県立中部病院で私が呼吸器科部長の頃,谷本先生に沖縄の地までお運びいただき,1週間にわたって回診や臨床講義を通じて呼吸器病学のなんたるかをご教示いただいた間柄であり,その縁で私が中心となって結成している全国ウフイーチ会の名誉会員のお1人でもあられる。
 同様な形で沖縄の私たちにご教授に来られた名誉会員の中には,故本間日臣先生,故鈴木明先生,吉良枝郎先生など錚々たる呼吸器病学の大家たちが含まれているので,いかに私が当時から谷本先生を敬愛していたかがおわかりいただけると思う。
 general pulmonologistを目指して生涯教育に励んで来た私にとって,谷本先生は常に憧れであり,目標でもあった。
 その谷本先生が大学教授を定年ご退官の後,約10年にわたる呼吸器疾患を中心とした開業医としての臨床の蘊蓄を傾けて,表題のテキストを上梓されたことは,私にとって大きな驚きであると共にまた大きな喜びであり,すでに同様に定年を迎えた現段階での私にある種の示唆を与えてくれるものである。

日本の医療文化にこだわる

 本書を一読して感ずることは,著者が根っからの臨床家であり,自らが知悉しておられる事実を,すべてご自身のわかりやすい言葉のみで語り,かつ,日本の医療風土を極めて大切にしておられる点である。
 したがって読みやすく,あたかも随筆などでも読むかのような気安さで読み進むことができる。
 グローバリゼーションが声高に叫ばれ,グローバルスタンダードの臨床医療の重要性が取り沙汰される中にあって,本書は終始,日本の医療文化にこだわり,日本人という人種,民族にこだわった医療の在り方を模索されておられる。
 先生ご自身の自験例やお仲間との臨床共同研究の実際を全面に出され,世界にも当然通用する日本の臨床呼吸器病学を体系付けておられる。
 長年,真摯に患者に向き合って,日々,真剣に取り組んで来られた臨床体験がなければ到底,記載が不可能と思われる内容に満ち満ちている。
 特に挿入されている図や表の大部分がその典型であり,どこかの教科書や文献から引用されたものではない。ご自分の臨床経験の中から頻度順に整理され,呼吸器クリニックを開業されておられる諸先生とシェアーすべき知識として整理されている。開業医のみならず,一般臨床をご開業の諸先生,勤務医,さらには病棟で呻吟する研修医たちにとっても大変参考になる良書であり,すべての専門分野でこのような臨床教則本が世に出てほしいと願うものである。
A5・頁272 定価(本体3,800円+税)医学書院


研修医,皮膚科医にとって力強い味方となる一冊

皮膚科外来診療マニュアル 第2版
宮地良樹,竹原和彦 編集

《書 評》戸倉新樹(産業医大教授・皮膚科学)

「診断のための引き出し」を引くヒントを与えてくれる

 皮膚科医は頭の中に診断のためのいくつもの引き出しを持っている。ある皮疹を診る。どのカテゴリーの疾患に属するか考え,大きな引き出しを引く。その引き出しの中には,小さな引き出しがいっぱいある。さらに小さな引き出しを引くと,その中に診断が書かれた紙が入っている,といった手順で診断していく。ある時はすぐさま小さな引き出しを1個引く,つまり簡単に診断できてしまうこともある。しかし,またある時はいくつもの引き出しを,それも時によっては異なる複数の大きな引き出しを引くこともある。多くの場合,引き方には軽重がある。堂々と全部引くことも,自信無げに半開きにすることもある。
 本書の第I章「症状から診断へ」はまさにこの引き出しを引く大きなヒントを与えてくれるものである。視診から診断に至る皮膚科独特の実践を遂行するうえでの指針となり,さらに自分の見落としまで補完してくれる可能性がある。
 第II章「外来で行なう検査と治療」では,研修医や若い皮膚科医が外来診療で,「あれっ?どうだったかしら…」と迷う検査の手技と治療法の要点が簡潔に書かれている。忙しい診察時にはなかなか医師室に帰って調べることは困難であり,これ1冊あればほとんど事足りる。
 第III章「Common Skin Diseaseの治療」では,よく見かける疾患の治療法が,まず何がfirst choiceなのか,という実践的な観点から書かれている。例えば,シラミは時に外来で遭遇する疾患であるが,皮膚科学として学ぶことは少なく実地上の知識が欠落していることもあるが,短かく適切に書かれた文章は便利この上ない。

「手帳」と言えるほど効率のよい構成

 最後に「付録」が付いている。実は本書の中でもっともページを開く回数が多いのはこの部分かもしれない。大小6つの付録があるが,例えば「皮膚科常用薬の禁忌一覧」は日常診療上もっとも面倒臭い相互禁忌薬の調べを容易にしてくれる。
 本書の帯見出しには,「外来診療の机上に,レジデントのポケットに」と書かれているが,まさにその目的に見合う本であろう。本と言うより手帳である。この種の本は役に立つ情報を満載していることと,簡潔でかさばらないことの相反する条件を満足しなければならない運命を持っている。そこは編者の宮地,竹原両教授がご自身の手兵を束ねて本書をものしただけあり,無駄のない効率のいい紙面・内容となっている。おそらくもっとも本書のお世話になる医師は研修医であろうが,ど忘れしたり,あるいは歳には勝てずぼんやりとしか以前の知識が思い出されない医師にとっても,日常診療上の力強い味方になってくれるはずである。
B6変・頁296 定価(本体4,000円+税)医学書院


呼吸器疾患の重要課題をまとめて参照できる1冊

《米国胸部学会ガイドライン》
間質性肺疾患診療ガイドライン

長井苑子,泉 孝英 監訳

《書 評》杉山幸比古(自治医大教授・呼吸器内科)

3つの重要な呼吸器疾患のガイドラインを1冊に

 呼吸器疾患はきわめて多種多様であるが,大別すると肺癌などの腫瘍,感染症,COPD・喘息,間質性肺疾患などに分けられる。このうち気管支喘息に関しては,吸入ステロイドにより大きな治療の改善がみられ,一段落した感があり,今後は癌・感染症を除くと,われわれ呼吸器専門医としてはCOPD,間質性肺疾患に対しての対応が求められるであろう。これはわが国に限らず,全世界的な傾向でもある。そういった点から,COPDのガイドライン“GOLD”が策定されているが,その一方で,サルコイドーシス,特発性間質性肺炎・肺線維症に対しても米国胸部学会においてガイドラインが発表されてきた。
 本書はこれらの領域の最近の3つのきわめて重要なガイドラインをまとめて翻訳したものに,日本の現状を踏まえた訳注がつけられた形をとっている。この3つのガイドラインは,サルコイドーシス,特発性間質性肺炎の現状を理解するうえで欠くことのできない重要な文書であり,これらをまとめて参照できるという点で,本書は大変便利でもある。

日米の違いとガイドラインの理解を進めるための解説が充実

 監訳者の泉名誉教授は,日本において,これら間質性肺疾患に対して,いち早く取り組まれ,京都に数多くの欧米の著名な専門家を招いて研究会を開催してこられた。こういった取り組みが日本のこの領域の理解に果たした役割はきわめて大きいといえる。京都の地でBOOPが,NSIPが語られ,われわれに大きなインパクトを与えてきた。残暑厳しい京都の夕暮れに,鴨川べりを歩きながら興奮して帰った日のことを思い出す。
 本書には,泉名誉教授,長井助教授を中心とする京都の方々の長い臨床の積み重ねから得られた,適切なそして有用なコメントが訳注として数多くつけられており,各ガイドラインの理解を進めると共に,日本と欧米との違いや,さらに進むべき道を示唆してくれて,大変ユニークである。現在,日本呼吸器学会においても,日本医科大学工藤教授を中心に「特発性間質性肺炎 診断・治療ガイドライン」の合同作成委員会が最終段階に入っており,日本でのガイドライン出版も間近である。この日本のガイドラインとともに本書は,わが国の呼吸器専門医および呼吸器疾患に関心を持つ方々すべての必携の書といえる。
B5・頁176 定価(本体5,000円+税)医学書院


CBTをにらんだ,標準的薬理学の学習に最適な1冊

薬理学プレテスト
アーノルド・スターン 著/渡邊康裕 監訳

《書 評》三木直正(阪大教授・情報薬理)

CBT主要科目の1つとなる薬理学の学習に最適

 米国の医師国家試験は,Step1,Step2,Step3から構成されている。Step1は基礎医学2年で,Step2は臨床医学2年で受験する。Step3はレジデント研修1年後(インターンシップ1年)に受験し,これらに合格すれば正式の医師免許が交付される。わが国の医師国家免許は,1回の試験に合格しただけでもらえるが,この試験は米国のStep2に相当する。
 2005年度から,共用試験といわれるComputer Based Test(CBT)が,基礎医学から臨床医学課程に進む時に課せられようとしている。この試験は,米国のStep1に相当する。Step1の出題科目は,解剖学,行動科学(精神科,行動科学,統計学,公衆衛生学をあわせたもの),生化学,細菌学,薬理学,生理学である。薬理学は,主要科目の1つである。
 医学教育への「コアカリキュラム」と「CBT」の導入を前にして,このたび,『薬理学プレテスト』(アーノルド・スターン著,医学書院)という翻訳本が,防衛医科大学の渡邊康裕教授らにより出版された。まったく時宜を得た問題集である。最初の部分に,基礎となる薬物分類表があり,憶えるべき薬物が記載されている。問題ページの後には解答ページがあり,かなり詳しく解説されている。また,索引も付いているし,全体的に読みやすい訳となっている。

標準的な薬理学の知識を確かなものに

 従来,医学部の基礎医学の試験は,「~について記せ」という記述式問題がほとんどであった。CBTが導入されると,各大学の基礎医学の試験は選択問題が中心となるが,標準的な問題を作るのは結構難しい。また,各大学は,教官独自の判断で講義の内容を決めているところが多い。しかしCBTが導入されると,各大学ともCBTの問題に合わせて薬理学の「コアカリキュラム」の講義をするようになる。どの大学の医学生も,一定水準の薬理学の知識を持つようになる。マクドナルドのハンバーガーと同じように,どこでも同じ品質の医者を養成するのがねらいである。このことは,ある患者へ治療薬を投与したときの薬物の効果,作用機序および副作用についての標準的な薬理学の知識を持つことが要求されることを意味する。
 自律神経系に働く薬のところで,「65歳の男性が,視野の狭窄を訴えている。眼底検査により視神経乳頭の陥没が認められた。また,周辺視野の狭窄が視野検査によって認められた。彼の眼圧は増大していた。薬物による治療後,視野が明瞭になり,眼圧も低下した。」の症例から,どの薬物を投与したかを,薬物リストの中から選ばせる問題がある。このような臨床薬理学的な問題も多く記載されている。
 学生は,試験勉強の時に,この問題集の問題を解き,解答欄をていねいに読むことにより,自分の知識をより確かなものにできる。また,教師の立場からすれば,講義をするときにこの問題集を参考にすれば,講義内容のチェックができるし,CBTの問題作成にも役立つ。
 私は,毎年3回,50題ずつ同様な試験問題を作成しているが,この問題集をながめると,米国でのシステム化された医学教育の歴史を感じる。
 わが国で承認されていない薬物についての問題も多いので,日本で市販されている類似薬があれば括弧や注を入れて,併記して欲しかった。CBTを通して,薬理学の標準問題が蓄積され,将来,日本独自の問題集が出版されることを願っている。
A5・頁312 定価(本体3,300円+税)医学書院


世界中の放射線診断医のバイブルがさらに充実

Radiology Review Manual 5th edition
Wolfgang Dahnert 著

《書 評》大友 邦(東大教授・放射線診断学)

 本書の序文には「最近20年間において,一般的な放射線診断医に対しより深い医学知識とより広い範囲の読影が求められる傾向が急速に進行してきた。しかし,複数の専門領域に分化した放射線診断学全般にわたる教科書的知識を常に整理整頓して,日常の診療にあたることは不可能に近い」とある。このような状況に対処するための「持ち運びのできる備忘録」として企画された本書は,1991年の初版以降,版を重ねるごとに内容を充実させ,専門医をめざす放射線科のレジデントから「green bible」,「green giant」とニックネームをつけられ,世界中に広く受け入れられている。

厳選された知識を,利用しやすい箇条書きで整理

 内容的には領域ごとの放射線診断学を扱う11章に核医学全般を加えた12章からなり,各領域は代表的異常所見の鑑別診断(古典的Gamuts),正常の解剖学・生理学(わかりやすいシェーマを多用),そしてアルファベット順の各論の3部構成となっている。本書の真骨頂はなんといっても「知っていなければならない知識」を厳選して,わかりやすい“箇条書き”にした各論部分にある。一例として器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎(BOOP)の項目をあげる。そこではBOOPの頻度,原因,病理,好発年齢と性比,臨床症状・徴候の種類と頻度,単純X線で認められる7つの異常所見と頻度,HRCTにおける6つの異常所見と頻度,確定診断法,治療並びに予後が,A4判(letter size)2段組みの紙面の上半分にまとめられている。呼吸器領域を専門としていない放射線診断医が,BOOPに関するこれだけの知識を記憶しているであろうか。答えはおそらく「No」。しかし,たとえ記憶していなくてもこの項目さえ参照できれば,的をはずさないレポートを書くことが可能になる。

放射線科レジデントにとって専門医試験対策のパートナー

 本書は放射線専門医試験用の「枕の下に置く教科書」として作られたものである。対象は「初心者」ではなく,本書を使いこなすには放射線診断学に関する知識がバックグラウンドとして求められている。「多くの放射線科のレジデントが専門医試験の準備中にこのような本を編集することを考えたであろう」と著者は述べている。気の遠くなるような労力を払ってアイデアを実現させた著者の「persistence and determination」に最大限の敬意を表するとともに,本書が1人でも多くの放射線診断医の読影の質を向上させ,1人でも多くの患者さんに貢献することを切望する。
A4変・頁1202 定価(本体19,300+税)
Lippincott Williams&Wilkins社