医学界新聞

 

新研修医に一番はじめに伝えたいこと

153名が参加,慶應大学病院新研修医ワークショップ


 300名以上の研修医が在籍する全国最大の臨床研修施設,慶應義塾大学病院(以下,慶應病院)で,4月16-18日の3日間に分けて新研修医ワークショップが行なわれた。本紙では,153名の新研修医が参加した同ワークショップを取材し,研修医教育の中で「一番大切なもの」を探ってみた。  また,研修医数の激減など,臨床研修必修化で,多大な影響を受ける同院の今後について,卒後臨床研修センター長を務める河瀬斌氏(脳神経外科教授)にインタビューした(別掲)。


 「医師としての心構え,自覚をあらたにしてほしい」ワークショップのコーディネータを務めた矢崎貴仁氏(脳神経外科)は,真新しいスーツに身を包んだ新研修医たちを前に,最初にこう呼びかけた。矢崎氏は「医学部教育は一般的に知識詰め込み型になりがちだ。『心構え』が十分にできている研修医ばかりとは言えない」と指摘する。
 チーフコーディネータの大谷吉秀氏(一般・消化器外科)は,「患者さんとの信頼関係・コミュニケーションという医療の根本に据えるべきものを,研修医になるにあたって真剣に考えることが必要だ」と本ワークショップの狙いを話す。大谷氏は「現在は,教育制度の移行期にある,これまでは十分とは言えなかったこのような教育が,今後はより重視されるべきだ」と考える。慶大では,すでにこの数年,指導医教育の強化などを進めている。

終日「医療面接」に取り組む

 午前中のワークショップでは,参加者全員の前で,一般内科初診を想定して新研修医の代表2名が模擬患者(SP)の病歴を聴取する医療面接が行なわれた(写真1)。近々海外旅行を予定しているが胸の痛みが気になり来診した,などのシナリオを持つSPに対して,医師役の新研修医が病歴や嗜好品,アレルギー有無を聴取していく。新研修医のあとは指導医が同様の設定で医師役として登場。「最後に何かありますか」と患者に問いかけるなど,検査前の不安を取りのぞこうとする配慮の仕方に経験の差を感じさせた。さらに,小児科外来など特定分野の医療面接を行なったあと,「医療面接に際して留意すべき点は何か」をテーマに,KJ法を使ったグループ討議(写真2),全体発表へと続いた。
 午後からは,事前に配布された検査結果や治療方針を,医師役の新研修医がSPに説明する「患者・家族への説明」の医療面接が行なわれた(写真3)。午前中の医療面接は講堂で,医師役も新研修医数名だったのが,ここからはグループごとに各部屋で行なう実習形式。「医療面接は接遇という狭い範囲に収めるべきものではない。これを考えるきっかけにして,医師になったのがゴールではなくスタートだと感じてほしい」という佐伯晴子氏(東京SP研究会・SPコーディネーター)の言葉どおり,内容の濃い研修となった。


写真1 病歴を聴取する新研修医
「嗜好品など,聞き忘れたことを思い出そうとして話に詰まった」という新研修医に,佐伯氏は「信頼関係が築けていれば,少し考えさせてくださいと言ってもいい」と助言。
 
写真2 KJ法によるグループ討議
討論結果は模造紙にまとめられて,全体発表の準備となる。所属や出身大学が均等になるようグループ構成されたなかで,初対面同士の結束力が問われる。
 

写真3 実習「患者・家族への説明」
検査結果と治療方針は,あらかじめ新研修医に配布される。8分間で患者の不安をいかにやわらげることができるか。面接終了後は,グループアドバイザーの医師,SP,新研修医も交えての反省会に。
 
写真4 スタッフとして協力した東京SP研究会の佐伯晴子氏
「医療面接は接遇マナーの範囲に収めるのではない。患者への説明を体験するなかでインフォームド・コンセントを学んでほしい」という佐伯氏の願いが,新研修医に伝わったはずだ。

検査結果の説明に四苦八苦

 例えば,胃の不調で内視鏡検査を受けた患者に対して胃幽門部のびらんを説明する際に,「胃が削れている」と表現し,患者役のSPを不安にさせる場面があった。面接後,新研修医は「医学用語を噛み砕くことは学生時代に教わっていないので苦労した」と,検査結果を説明する難しさを語った。
 その他に,検査結果で不安定狭心症の疑いが出た患者に入院して様子をみることを勧めるという設定の医療面接では,新研修医が狭心症と不安定狭心症の違いを「重症」と説明したことなどから,「退院の可能性がないのか」と摸擬患者が問いただす場面もあった。面接後に患者役のSPは,「こちらはそれほどの病気でないと思っていたのに,重症で入院と言われればびっくりする。入院は検査のためか,治療のためか。入院して様子をみると言われてもとまどう」と感想を述べた。アドバイザー役の医師からは,「医学的には,心筋梗塞にならないために様子をみる入院も必要。言い方の問題で,“医者が言わなければならないこと”と“患者の知りたいこと”の擦り合わせが必要」と助言した。
 また,新研修医のなかには「胸痛がなぜ起こるのか聞かれて,あたふたした。実際にあると大変なこと」という感想もあったが,SP研究会のメンバーは「答えられなかったのが悪いわけではない。これが勉強の刺激になれば」と期待を込めて語った。

「これからも悩んでほしい」

 その後は,グループ討論「患者・家族への説明に際して留意すべき点は何か」と,全体での討論結果発表・討論となった。討論結果発表では,留意すべき点として,「“聞かせる”のではなく“伝える”ことが大事。メディカルタームを噛み砕くと何と言うか,常に頭に置いておく必要がある」「時には素直にわからないという正直さも必要」などの意見があがった。
 最後に佐伯氏は,「これからも悩んでほしい。悩む仲間をこの場で見つけることができたのもよかった。悩むのは自分のためであり,患者のため」と,門出のメッセージを送った。