医学界新聞

 

医師国試-今年の傾向と今後の対策

堀之内秀仁(鹿児島大学医学部卒)




 現出題ガイドラインが導入されてから,今回で既に3回目の国家試験となりました。4年ごとに改訂されるガイドラインで考えると,起承転結の「転」にあたる今回の国家試験,実際,例年とはいろいろな面で雰囲気が異なった,と感じた学生が多かったようです。

「継承と創造」のせめぎ合い

 今回の国家試験では,95回,96回にも増して「継承と創造」のせめぎ合いを感じさせられました。従来の傾向を継承しようとする部分,即ち,プール問題あるいは繰り返し出題されるテーマと,新しい出題傾向やテーマを作り出していこうとする創造の部分が混在し,これまでの学習で見たことがあるような問題のすぐ後で,まったく新しい出題に出会います。そして,学生のあいだでひろがった「雰囲気が違う」というとまどいの主な原因は,この「継承と創造」のギャップによる部分も大きかったと感じています。
 また,新傾向の問題には,複数の合併症を抱えた症例や,ファーストチョイスと言われるような治療方法をあえて外した選択肢など,素直に解答しにくい問題が散見され,新たな出題の方向性を構築していくことの難しさも感じられました。

出題の傾向に変化
来年の国試にどう取り組むか

 次に,出題の力点,出題疾患,そして出題方法に分けてやや踏み込んで振り返ります。出題の力点の置き方では,疾患についての知識だけではなく,例えば医師・患者コミュニケーションのあり方や,患者の感情面への配慮について問う問題が随所に見られ,ヘルスサービスの提供者としての自覚を促す内容となっていました。
 次に,出題疾患については,Common diseaseが重点的に,3日間の試験で角度を変えて何度も問われ,その分多くの医学生が試験問題でしか接したことがないような疾病の出題は少なくなっています。最後に出題方法については,診断を問う問題は減少し,病態生理や治療方針を問う問題が増えているのはもちろんのこと,現場感覚,すなわち病棟,外来,手術室などで得た知識がものをいう出題が多く見られました。
 ただ,先述のように,これまで挙げたような新しい出題傾向が目立つ傍らで,良問のプール問題や学生にとって定番となった基本的出題も十分に確保されており,土台となる必須知識と,医師として求められる一定の到達水準の両方のバランスをとろう,という意図を感じます。
 現出題ガイドラインの最後の年となり,なおかつ,卒後臨床研修義務化の最初の学年が受験する来年の国家試験,どのような姿勢で臨めばよいのでしょうか。
 まず最初のポイントは,足腰ともいえる基本的な知識の確保です。新たな出題傾向に目を奪われがちですが,多くの問題は基本的な知識のみで解答可能です。過去の出題を振り返り,自分の弱点を把握し,足腰の強化を図る必要があります。
 その際,注意しなければならないことは,出題方法の変化です。シンプルに診断のみを問う出題は減少傾向にあり,症状A即ち疾患Bといった1対1対応の学習方法では足もとをすくわれかねません。ケーススタディがよいといわれるのはこの部分であり,症状,鑑別診断,診断,治療,フォローアップの流れを仮想体験することで,有機的な知識を身に付けることが可能となります。もちろん臨床実習で実際の症例を経験することはなおさら効果的ですし,教科書も上記のような要求を満たす情報を提供してくれます。

重視されるCommon disease
臨床実習に臨む姿勢が大切

 ただ,そういったきめ細かい学習を,ガイドラインに掲載されているすべての疾患に対して行なうことは困難を極めます。そして実際,国家試験の出題は,比較的限定されたCommon diseaseを重視する傾向にあり,まずはこのような疾患に対してしっかりと学習することを求めています。つまり,2番目のポイントはCommon diseaseといえます。ここで,Common diseaseと簡単に書くことはできますが,学生がその短い臨床実習と疾病統計のみで何がCommonで何がCommonでないのかということを身をもって感じ取ることは難しいと思われます。そのような経験不足を補うためには,例えば出題基準の「必修の基本項目」や,昨今議論されている卒後臨床研修義務化にむけて厚労省が提示したガイドラインでなどを参照することをお薦めします。
 3番目のポイントとして,臨床実習に真摯な気持ちで臨むことが必要です。出題の力点として医師・患者コミュニケーション,患者の感情面への配慮が重要視されていることは既に述べましたが,こういった事柄は机上の学習だけでは体得できません。なおかつ,臨床現場に身を置いてその場で五感の全てを動員して得た経験も,教科書からは得られないものです。ただ散漫に実習に望むだけでは,見れども見えず,聞けども聞こえず,触れども触れずという状態に陥ることは明白で,常に「なぜだろう」「次はどうしよう」という能動的な気持ちと態度で,実習にエネルギーをつぎ込む必要があります。

国試は医学を学ぶスタート地点

 最後に4番目のポイントとして,継続的な学習があります。「国家試験は国家試験だから」「国家試験的には」など,国家試験と一般の医学学習が別々に考えられることが多いのはたしかです。しかし,私は両者を変に区別することに懐疑的です。特に,近年,国家試験はどんどんと臨床に即したものに生まれ変わりつつあり,試験終了とともに忘れ去ってしまうような方法で勉強することは非効率的です。生涯学習の代表選手である医学を学ぶスタート地点として国家試験対策を捉え,試験終了後も利用可能なかたちを整えることをお薦めします。それは,自分なりに書き込みをした参考書でもよいでしょうし,自分でまとめたノートでもよいでしょう。そして,まとめる過程で常に,「医師になってからも使える内容」を意識していれば,大きな収穫を得られるものと信じます。
 卒前教育改革,国家試験変革,卒後臨床研修義務化など,医学生,そして研修医をめぐる状況が大きなうねりの真っ直中にあるからこそ,ひとつひとつの学習機会をしっかりとつかみ取っていくことが重要なのではないでしょうか。