医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


基礎から実際までの内容を幅広く網羅した手引書

臨床検査技術学17
遺伝子検査学 第2版

菅野剛史,松田信義 編集/須藤加代子,前川真人 著

《書 評》登 勉(三重大教授・臨床検査医学)

最先端の内容も充実

 本書の目次を見て,臨床実習中の医学生でもこれほどの内容を学んでいないのではと思った。それほど遺伝子検査に関して,基礎から実際の応用まで広い範囲にわたる内容を含んでいるというのが第一印象であった。執筆者らの意図がそれぞれの章に表れていて,例えば,図表を多く配して2色刷りにし視覚的にも理解を深められるようにしてあり,基本知識に関しても必要かつ十分な内容を簡潔に説明する努力がされている。
 少々驚いたのは,5章から7章で遺伝子導入による機能解析・応用,組み換え蛋白質の発現,さらに遺伝子工学(生命工学)の応用といった生命科学研究の最先端の知識が平易にして簡潔にまとめられていることである。ここまできて初めて,執筆者らのもう1つの意図,すなわち,本書が単に臨床検査技師をめざす学生のみならず,すでに医療の第一線で活躍している検査技師にとっても,遺伝子検査という比較的新しい分野の検査技術を修得するための手引書となることを理解した次第である。

精度管理への工夫も

 8章から13章では遺伝子解析技術の理論と応用について解説されているが,図表とともに「サイドメモ」が学習の助けになるであろう。また,解析技術の応用に関しては,臨床で頻用されている癌,移植,そして細菌・ウイルス感染症の遺伝子検査を取り上げて,代表的な検査法が解説されている。
 実習と題した最終章では,実習を始めるにあたっての注意が述べられている。この中で最も感心したのは,B.基本操作とC.遺伝子操作の項である。遺伝子検査が臨床応用される場合,精度管理が重要であることに議論の余地はない。その結果,検査がキット化され,誰が実施しても同じ結果が得られるような工夫がされている。遺伝子検査の場合,完全に自動化できる状況ではないので,検査実施者の技量や経験によって検査結果が左右される可能性が残っている。基礎知識と技術の歴史的背景を理解した検査技師の育成が課題であると考えられるが,執筆者らが,これまで研究室で使用されてきたプロトコールを敢えて基本操作と遺伝子操作として紹介している慧眼に敬意を表したい。
 各章ごとに,「学習の要点」と「理解度の点検と問題」を掲げ,理解度を自己評価できるようにしてあり,講義形式の教科書としても,また,自学自習のための参考書としても大変有用な一書である。
B5・頁184 定価(本体3,200円+税)医学書院


医療の基本中の基本を解説した「OSCEの教科書」

基本的臨床技能ヴィジュアルノート
OSCEなんてこわくない

松岡 健 編集

《書 評》北村 聖(東大教授・医学教育国際協力研究センター)

医学教育改革の代名詞「OSCE」

 ここ数年の医学教育改革の大きな流れは,とどまるところを知らない。その中で,医学教育改革の代名詞となった感があるのが,OSCE(Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力試験)であり,またSP(Standardized Patient;模擬患者)である。OSCEは,2005年の共用試験での実施に向けて多くの大学ですでに取り入れられており,数校ずつが相互に試験官を送りあうことで評価の標準化が試みられている地域もある。
 OSCEは,文字通り外来の制度・教育法であり,日本における標準法はまだない。教育熱心な教官が見学にいったり,米国の教師を招聘したり独自のルートでその方法を学んできたというのが現状であり,まさしく群盲象を撫でるの図である。したがって,試験のやり方は学校ごとにさまざまであり,試験室(ステーション)の数や,試験内容も一定したものはない。さらに,このような外枠からして一定していないことから考え,内容のばらつきに関しては現状ではきわめて大きいと考えられる。いまだ研修医のシャッフルが十分でないため,大学卒業生間の臨床技能能力の差異に関しては,まだ気づかれていないというのが本当かもしれない。

標準的な基本技能をわかりやすく説明

 このような状況のもと,本書は出版が待たれていたものである。本書の内容は,「週刊医学界新聞」の学生・研修医版に連載されたもので,私はかねてよりぜひ単行本にまとめて出版していただきたいと思っていた。OSCEがほとんどの大学で施行されても,現状では受験する学生のための教科書がなく,学生諸君は各大学ごとに作っている冊子で勉強していた。日本の医学教育における臨床技能の教育は,ややもすれば知識の教育より低く見られ,その内容も標準化されておらず,診察の順番,手の置き方,聴診器の当てる順番などなどすべてにおいて学校ごと,教授者ごとに異なっていると思われる。確かにこの独自性の中に名人芸が存在するかもしれないが,学生に必要なものは当たり前の標準的な基本技能で,本書はこの点を非常に多くの写真を駆使してわかりやすく説明している。とくに異常呼吸状態(起座呼吸や口すぼめ呼吸など)では,実際の患者の写真を使い,また小児診察では,小児の写真が使われている。ただ,一部の診療行為は,実際には動きのあるものであり写真だけではどちら方向への動きかわからないものもあり,図の併用や,願わくは,本書と対応したDVDなどによる動画も出版していただけるとありがたい。
 また,本書は学生のための教科書であるから,望んではいけないことかもしれないが,著者の先生方の経験を生かしてステーションの設営,人員の配置,チェック項目の実際などなど教官のためにOSCE実施のノウハウも付録で教えていただきたかった。これはわがままなお願いであり,また受験者には手の内を見せないということかもしれない。
 医療のことを「手あて」という。医療の原点は,患者に触れることである。患者に触れる技能を試験するのがOSCEであるのだから,OSCEの教科書である本書は,「医療の基本の『き』の字」の教科書といえる。
B5・頁184 定価(本体3,000円+税)医学書院


「MRIの原理」のバイブルが改訂

MRI「超」講義 第2版
Q&Aで学ぶ原理と臨床応用

荒木 力 監訳

《書 評》山下康行(熊本大教授・医学薬学研究部放射線診断学部門)

難解なMRIの原理をわかりやすく解説

 あの名著“Questions and Answers in Magnetic Resonance Imaging”の邦訳である“MRI「超」講義”の第2版が出た。第2版では新たに拡散画像と灌流画像,高速撮像法ならびにその他の最新のMRI撮像技術の章が加わり,ここ数年のMRIの進歩が網羅され,かなり厚みも増している。また今回の改訂で特筆すべきは,MRIの安全性について多くのページを割いていることであろう。
 本書の著者であるProfessor ElsterはWake Forest大学の主任教授であり,現在,画像診断の有力雑誌の1つである,Journal of Computed Assisted Tomographyのchief editorも務めている人である。第2版より,同じくWake Forest大学の神経放射線科医であるBurdette助教授も執筆に加わっている。本書は学生から実際に出された質問に対して解説するという構成で執筆され,ユーモアあふれる文体で比較的難解とされるMRIの基礎原理を数式を使うことなしに見事に非常にわかりやすく説明している。おそらく著者らがMDであるため,このようにわかりやすい説明ができたのであろう。Q&A形式なので必ずしもはじめから通読する必要もなく,初心者にも取っつきやすい構成であるが,内容は本格的である。間違いなく本書は世界第一級のMRIの入門者向け解説書であろう。

わかりやすさを失わない完成度の高い翻訳

 じつは今から7,8年ぐらい前,初版の邦訳が出る前に本書をアメリカの学会の書店で見つけ,読破していた。英語であったにもかかわらず,内容的にわかりやすかったので,素晴らしい宝物を見つけ,一人慈しんでいるような気分に浸っていた。間もなく荒木力先生の手による訳本が出たときは,独り占めしていた大切なものが多くの人の知るところとなり,少しがっかりした気分になったのをよく覚えている。これまでも多くの日本人が本書を片手にMRIを勉強したに違いない。時に訳本はオリジナルの著者のセンスが必ずしも伝わってこないことも多い。しかし,荒木先生の訳は原文に勝るとも劣らぬ完成度の高さである。翻訳を担当された山梨大学の放射線科の皆様に心よりお礼を申し上げたい。
 本書を放射線科医,診療放射線技師,臨床検査技師をはじめ,MRIに関心があるすべての読者に勧めたい。本書でMRIが勉強できる読者は幸せである。
B5・頁368 定価(本体5,800円+税)MEDSi


リハビリテーション医療者定番の書が最新知見を加えて改訂

老人のリハビリテーション 第6版
前田真治 著

《書 評》石田 暉(東海大教授・リハビリテーション科学)

老人リハを正面から捉えた貴重な一冊

 『老人のリハビリテーション』は版を重ねるごとに内容が充実し,今回は前田真治先生の手で第6版が出版されることになりました。内容もさらに充実し読み応えのあるものになっています。
 老人のリハビリテーション(以下,リハビリ)は以前から「老人は教科書的な症状を示さない」,「老人には身体面のみならず精神面も含む包括的なリハビリが必要である」,「老人のリハビリは一般のリハビリの延長上にあるのではない」などと言われ,老人には独立したリハビリの領域があることはリハビリ臨床を行なうものにとっては周知のことであります。しかしながら,老人リハビリを正面から,そして幅広く捉えた本は少なく,本書が,本邦では唯一のものであると言って差し支えないと思います。
 内容に目を向けるとupdateなものが豊富に付け加えられ,特に老人のリハビリで最も関心のある介護保険やそれに関連する社会資源の活用などが大幅に加わり,読者のニーズに応えるものになっています。また,最近大いに注目を集めている高次脳機能障害では,脳のそれぞれの部位の働きから,障害とそれらに対するリハビリを説明している点で,初学者が入門書として読んでもわかりやすいものになっています。

性の問題にもしっかり言及,バランスよい内容に

 私がこの第6版でもっとも注目しているのは,老人の性の問題がしっかり取り上げられている点であります。老年医学では性の問題は老人の心理を理解するうえで切っても切れないものになっていますが,老人リハビリの本で取り上げられることは滅多になく,そういう意味でも人間の復権あるいはノーマライゼーションを訴えるリハビリの理念に合致したものと思われます。
 著者は内科学にバックグラウンドを持つリハビリ医でありますが,老人を含めて幅広いリハビリの分野に造詣が深く,序の中で述べられているように,転倒,骨折やその他の整形外科疾患に対するリハビリにも十分な配慮がなされ,バランスの取れた内容になっています。編集にあたっては図や表がふんだんに用いられ,読者に見やすい内容になっています。したがってこの本は教科書や参考書の域を出て,リハビリ臨床を行なう者にとってぜひ身近に置いておきたい1冊といえます。
B5・頁372 定価(本体5,800円+税)医学書院


タイトルも新たに,使いやすさを追求した改訂

臨床検査技術学7
生理検査学・画像検査学 第3版

菅野剛史,松田信義 編集/清水加代子,他 著

《書 評》今井 正 (東京文化医学技術専門学校/全臨検教育施設協議会 生理機能検査学担当国家試験出題基準検討資料作成主任委員)

学習者にやさしい工夫が随所に

 今回出版された『臨床検査技術学7 生理検査学・画像検査学 第3版』は,主に臨床検査学科の学生のために,第一線で活躍中の著名な執筆者による豊富な経験を基に書かれた教科書である。今版からは国家試験出題基準にのっとり,タイトルも新たにしている。
 周知の通り,生理検査学・画像検査学は検体検査学とは違い,「生体からの生理機能情報を収集するための理論と実際について習得し,結果の解析と評価について学習し,検査時の急変の対応について学ぶ」ものなので,患者に直接接触し検査するという特徴がある。それだけに検査機器と負荷時における生体への安全性の確保が最重要課題である。
 本書の特徴は以上の要点を十分に考慮に入れ,ページレイアウトが工夫され,誰が見ても見やすく,ともすれば生理学を嫌いな科目にしてしまう難解な概念も,図表の意図が明瞭で,ていねいな解説により理解が進み,特に今回からは2色刷りを多用することにより視覚的にも内容が一段と把握されやすくなっている。換言すれば,かゆいところに手が届く仕上がりになっている。

国家試験対策に最適な構成と内容

 具体的に他書と内容を比較してよい点は,中項目ごとに「キーワード」「学習の要点」および習得した知識の確認のために「理解度の点検と問題」が配置されていることである。広範囲な勉強の忙しい時期に,無駄がなく勉学が進むよう配慮されていることはたいへんありがたく思う。また,基礎生理や医用工学的解説は十分であり,新しい技術も基本からわかりやすく解説してあるので,長い経験を積まれた技師の方々のリフレッシュにも十分対応していると思われる。
 さらに,豊富な臨床例による解説はさまざまな病態に応用が利き,今の臨床検査技師が一番求められている問題解決能力を習得するうえで実践的なノウハウが満載され,国家試験合格に向け学習する時に非常に有効である。
 一方,研究的,先鋭的で評価の十分に定まっていない項目や,臨床応用の極めて少ない項目は取り上げず,国家試験出題基準を十分考慮に入れ,日常行なわれている生理機能検査と近未来に本当に必要な内容を厳選していることは非常に評価できる。
 さて,最近では専門技師制度導入について各科で論議され,一部導入もされてきている。生理検査・画像検査領域も古くから超音波検査士制度や臨床病理技術士資格制度が存在し,卒後教育とレベルアップの中核になってきた。その受験準備にも大きな役割を果たすことは容易に想像できるので,いつも本書を座右に置き,おおいに利用していただきたいものである。
B5・頁336 定価(本体6,200円+税)医学書院


USMLE対策で定番の問題集が邦訳化

薬理学プレテスト
アーノルド・スターン 著/渡邊康裕 監訳

《書 評》中木敏男(帝京大教授・薬理学)

初学者にやさしい,ていねいな解説とバランスよい内容

 原書のPretestシリーズは1976年に刊行され,米国医師資格試験(USMLE)のStep1の準備用問題集として長い間使用されてきた。Step1は基礎医学分野を対象とした試験である。わが国にはそのような基礎科目を対象とした試験は従来なかったが,近い将来全国的規模で導入されるであろうCBTは,このStep1を雛形にしてわが国に適合した形式で実施される試験である。CBTの成績の扱いは各大学に当面任されることになっている。大学によっては進級の資料として取り扱われる場合もあるであろう。このような状況の中で,本書が出版されたことは誠に時宜を得たと言うべきである。特に本書は薬理学の定期試験やCBTの準備として使用することにより,自分の弱点を知ることができ,学習効果が上がるであろう。
 著者が述べておられるように,わが国の医学部での薬理学教育はややもすれば薬理学偏重,すなわち,薬の作用機序に重点を置きすぎる側面があった。しかし,薬をその重要な治療手段として使用する臨床家にとっては,薬理学のみでは不十分であり,薬物動態学も知らねばならないことは明白である。この問題集でもその点への配慮が見られ,必要最小限の薬理学をバランスよく学習できるように編集されている。平易な設問から比較的難しい問題までそろっているが,いずれもよく検討された良問である。本書で扱っている490題の問題を完全に消化できれば,薬理学上の重要なポイントについては一応満足すべき成果を得ることになるであろう。

教科書やノートで知識を確認する作業も忘れずに

 各問に対して,ていねいな問題解説が載っており,初学者には特に学習しやすくなっている。ただし,原著者も述べているように,便利さにかまけて教科書やノートなどで知識を確認する作業を怠らないことである。最近の医学生の傾向として,手軽に学習できる書籍のみで済ませる人が増えているようであるが,好ましいことではない。問題の他に,巻頭には重要項目のまとめが掲載されており,自分の知識の確認が容易にできるようになっている。巻末にはていねいな索引が載っており,特定の薬についての問題のみを検索するときに役に立つ。
 邦訳版の本書は第一線の薬理学者によって訳され,ややもすれば難しい内容を平易な日本語訳をつけることにより大変読みやすく書かれている。他の訳本では,用語が統一性を欠いていたり,わが国での薬物名としては正式名ではない場合がありがちだが,それらの訳本とは異なり,本書は薬物名に関してわが国の現状をほぼ完璧に反映しており,編集者・訳者の熱意がうかがわれる。本文中の*印は,わが国では承認されていない薬を表している。また,本書は内容,分量ともに適切であり,高価な医学書が多い中にあって価格も手頃である点もありがたい。
A5・頁312 定価(本体3,300円+税)医学書院