医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


高度生殖医療の現場に必携の1冊

体外受精ガイダンス
荒木重雄,福田貴美子 編著/
体外受精コーディネーターワーキンググループ 協力

《書 評》柴田文子(日本看護協会神戸研修センター・不妊看護認定看護師養成課程)

急激な伸びをみせる高度生殖医療の登録施設

 体外受精,すなわち高度生殖医療の登録施設は,過去10年間に急激な伸びをみせている。最近では,マスメディアで「体外受精」が取り上げられることも多く,「体外受精」という言葉が一般的に認知されつつあるところだろう。
 現在行なわれている,あるいは試みられている体外受精を理解するためには,まず高度生殖医療の歴史の概要を知っておく必要がある。そして,なぜ体外受精による治療が必要なのか,どんな状態が体外受精の適応になるのかなどを理解することが,医療を提供する側に立つものとして第一に知っておかなければならないことであろう。
 そして,実際に体外受精が必要であると判断された場合,どのように採卵するのか,治療ではどのようなホルモンメカニズムが利用されるのか,どのような操作がされるのか,副作用として何を考えるのか,その予防はどうするのかなどを正しく理解することが求められる。さらに,不妊は女性ばかりの問題ではない。男性不妊についても理解が必要である。
 これらのことがコンパクトにまとめられ,その根拠になる文献や解説も載せられているのが本書である。図解や色刷りがきれいであるばかりでなく,より理解を助けるものになっている。そして,これらの知識をどのように組み立てて話すとよいのか,臨床ではこの点に悩むことも多い。

不妊カップルが持ちやすい心理に対応したわかりやすい解説

 本書の優れている点は,不妊カップルが持ちやすい心理を解説し,コーディネーターが臨床でよく受ける質問にわかりやすく答えているところにある。
 1例をあげると,排卵誘発剤について説明している中で,「hMGは卵巣を刺激するホルモンということなのですね。そのホルモンで卵が大きくなるのですか?」と言う問いに,コーディネーターが患者の質問を引き出しながら答えている部分がある。このような解説は,難しいホルモンを説明するときのヒントを与えてくれるばかりでなく,私たち自身の理解を促す効果ももたらしている。
 このほか,現在試みられている新しい治療や治療成績の評価,生殖医療にまつわる倫理面やガイドラインも掲載されており,「体外受精」にかかわる必要な知識が網羅されている。
 このような理由から,この『体外受精ガイダンス』は,これから不妊医療を学習しようとする医療職だけでなく,現在,高度生殖医療の現場で働いている人にも勧めたい1冊である。
A4・頁232 定価(本体7,000円+税)医学書院


高齢者医療にかかわるすべての人のために

長寿科学事典
祖父江逸郎 監修

《書 評》尾前照雄(国立循環器病センター名誉総長/ヘルスC&Cセンター長)

世界に類を見ない長寿科学研究の集大成

 現在わが国は,世界に類を見ないスピードで人口の高齢化が進み,医学・医療のみならず社会のあらゆる面で対応が迫られている。本書は1997年長寿科学研究エンサイクロペディア事業による調査研究報告書の内容を検討し,その後の知見を整理して刊行されたものである。530名の執筆者が長寿科学に関するあらゆる分野を1,500項目について解説した前例のない力作である。
 長寿科学は生命科学とも直結し,人間のライフサイクルのすべての問題に関わっている。生命は遺伝と環境の所産であり長寿はそれが望ましい状態で具現した姿と考えられるが,一方では人間の生活を複雑化し克服すべき多くの問題が生じていることも事実である。臨床医学は老年医学においてその真価が問われ,いい社会であるか否かは高齢者のQOLが重要な判断材料になると考えるが,これらは21世紀における日本社会の最重要課題であろう。世界の最長寿国である日本は,これらの問題に関して先進国の役割を担っていかねばならない。この時期にあたってこのように包括的,総合的な書籍が出版されたことに深い敬意と共感を覚える。
 本書の構成は老化の基礎分野,老年病の総論(老年病へのアプローチ,診断・治療・疫学,高齢者の福祉・医療)と疾患別に書かれた各論,漢方・東洋医学・リハビリテーション,看護・介護分野,社会科学分野,支援機器開発分野からなっている。現時点で考えられるすべての分野がこの1冊のなかに集約されているのは見事というほかはない。

高齢者に関わるすべての人に有用

 生命は身体諸臓器の機能の調和の上に成り立っているが,高齢者ではそれがより大きな意味を持っている。家族や社会との関わりもきわめて重要である。その意味でも高齢者の心身の健康保持と疾病の予防と治療,看護と介護,社会復帰とそれを支援するための社会的,経済的配慮も親切に記述されている。新しい技術や新知見の開発も当然必要であるがそれをapplyするbackgroundへの配慮が同時に要求されている。そのbackgroundが,長寿科学の原点であろうと考える。
 執筆者が多く,病名の表現など若干の不統一と誤植が気にならぬことはないが,記述の内容が豊富で,それを十分にカバーした見事なできばえである。高齢者に関わる医療・看護・福祉職・行政職などすべての方々に推薦したい所以である。
A5・頁1200 定価(本体9,800円+税)医学書院


臨床現場の即戦力になる臨床検査の判読マニュアル

臨床検査データブック2003-2004
高久史麿 監修/黒川 清,春日雅人,北村 聖 編集

《書 評》北島 勲(富山医薬大教授・臨床検査医学)

Evidence-Based Laboratory Medicine(EBLM)実践のための書

 医学の進歩とともに検査項目,検査方法は日進月歩で検査内容は増える一方である。「Evidence-Based Medicine(根拠に基づく医療)」の提唱者であるGuyattは,検査について「従来のショットガン的な検査依頼や診断の進め方に比較して,臨床疫学的な感度や特異度のような定量的指標に基づく,より客観的な手法が重要である」と述べている。すなわち,今後ますますEvidence-Based Laboratory Medicine(根拠に基づく臨床検査医学)の実践が必要と考える。実際,必要な検査を選択し,効率よく行ない,評価することを日常診療の場で実践することは容易ではない。
 本年度も医学書院より,『臨床検査データブック』が刊行された。本書はデータブックと銘打っているが,本書を開くと臨床検査データを羅列した内容ではなく,いかにEBLMを実践するかに主眼を置いているか,編集者の意図するものが伝わってくる。
 本書の特徴として,(1)総論に「臨床検査の考え方」と「疾患別検査計画の進め方」を明記しており,「診療報酬改定の概要」や「クリティカルパスと臨床検査」など他書ではみられない項目や付録に「日本人小児の検査基準値」や「薬剤の臨床検査値への影響」が用意され,臨床現場の即戦力となるよう最大限の工夫がみられること,(2)検査各論の各項目には「異常値の出るメカニズム」が比較的詳しく用意されていて,病態と検査異常値の関わりを理解でき,「なぜこの病態でこのような検査値が出るのか」「この疾患を診断するためになぜこの検査が必要なのか」という臨床の基本ともいうべき「考える検査」を重視していること,(3)2年ごとの改訂で時代のニードに即した新しい項目(卒後臨床研修必修化に対応すべく「基本検査テクニック」と検査各論に「測定前後の患者指導」)が付け加えられ,新規保険収載項目の最新情報も網羅され,常に新鮮な検査evidenceを取りこむ努力がなされていることなどがあげられる。
 以上の理由から,EBLM実践の手引書になりえる1冊であると結論できる。

クリニカル・クラークシップと卒後初期臨床研修に必携

 本書が世に出る2003-2004年は,医学教育界において大変革の年である。卒前教育においてはコア・カリキュラムの導入と診療参加型実習(クリニカル・クラークシップ)がすでに実施され,2004年からは卒後2年間の初期臨床研修必修化がスタートする。その変革の背景にあるものは,普遍性の高い臨床の基本をすべての医師が身につけておかなければならないということであろう。この点は臨床検査分野にもあてはまる。
 本書には,検査項目の重要度を★印で3段階で示し,いつでもどこでも必要になる検査から特殊検査まで明示してある。また,今回から「基本検査テクニック」の章が設けられ,医師が自ら実施できなければならない基本手技が一目で理解できるように図解されている。とくに採痰,採便方法等の検体サンプリングはきわめて懇切丁寧に記載されている。「検査計画の進め方」と「基本検査テクニック」の項目は,クリニカル・クラークシップに入る前にぜひ,医学生に読んでおいていただきたい。さらに,今版には各検査項目の最後に「測定前後の患者指導」の小見出しが設けられ,検査の注意点や検査値の解釈を通して患者さんの指導方法に解説が加えられている。新しい医学教育には,インフォームドコンセントや患者コミュニケーションスキルを高めることが重要な課題としてあげられている。
 以上,本書は新しい臨床検査医学教育に活用できる意味からも,学生・研修医のみならずぜひ,指導教官にも目を通していただきたい必携の本である。
B6・頁912 定価(本体4,800円+税)医学書院