医学界新聞

 

第67回日本循環器学会開催




 第67回日本循環器学会が,さる3月28-30日の3日間,竹下彰会長(九大教授)のもと,福岡市の福岡国際会議場,他で開催された。
 循環器領域の最先端のトピックを集めて,プレナリーセッションには「Molecular Mechanisms and Therapeutic Strategy for Cardiac Remodeling」など6題,シンポジウムは「Management of Chronic Heart Failure-Problems in Japan」など12題が行なわれた。多くの聴衆を集めるコントロバーシーには,「冠インターベンション治療」「高血圧」など6セッションが開催された。さらに,一般演題の採択数は口演932題,ポスター約1000題や,教育セッション,ミート・ザ・エキスパートなど,多彩な企画がなされた。

国際化,禁煙で特色

 また,本学会の特徴とも言うべき国際化を鑑みて,日本語と英語を公用語として,49%が英語で発表された。加えて,米国,欧州,韓国の循環器関連団体との共催によるジョイントシンポジウムなども開かれた。
 昨年から「禁煙宣言」を採択した本会総会で,禁煙推進委員会から喫煙する学会員へのハンディが,理事会の承認を得たことを報告。例えば専門医試験の採点で,喫煙者の場合には「-5点」程度のハンディを設ける案などが出ていると公表した。
 日本循環器学会の各種委員会が主催するセミナーも多彩で,心肺蘇生法普及委員会の「新しい心肺蘇生法の普及の現状と今後の取り組み」。禁煙推進委員会の「禁煙推進セミナー」,医療倫理委員会の「医療裁判の鑑定人推薦制度に関する講演会」,心肺蘇生法普及委員会によるAdvanced Cardiac Life Support(ACLS)の実習講習会などが企画された。

日本の医療の課題

 竹下氏による会長講演では,「医師は医療をよりよい方向に持っていくために大きな役割を果たさなければならない」と発言したうえで,「日本の医療の課題」をテーマに講演。日本がクリアにしなければならない課題として,(1)医療費対策,(2)患者本位の医療の確立,(3)医療の質の改善,の3点を提示。
 特に(2)の確立には「患者が医療を選択できる医療」をめざすことが条件であるとした。しかし,現状では,インフォームド・コンセントやカルテ開示,病院・医師についての情報など医療情報の提供,セカンドオピニオン制度の促進,小児医療など患者の需要に応じられる医療供給体制の構築や,病院における患者サービスなどがまだまだ不十分である点を指摘。さらに,(3)については,診療の標準化,医療機能の集約と連携,患者への情報開示,アメニティや相談体制を充実させた病院の医療サービスの改善,安全対策の5点が必要であると提言。中でも医療の標準化については,施設間の胃癌手術成績や,NY州が行なった病院ごとのCABG死亡率の公表の例をあげて,「このような情報公開が医療の質の改善につながる」と言及した。
 上記の3点に加えて,氏は日本の医療の改善すべき点について,(4)Translational researchの活性化,(5)日本人のデータに基づくEBMの確立,(6)治験の活性化,(7)医師養成のあり方の改善,の4点を示した。さらに話題は,医療の過剰供給の抑制,技術料の重視,治験の問題など多岐に広がり,医師がこれらの問題に積極的に関わる意義を示して講演を結んだ。




包括化は循環器診療を変えるか

──第67回日本循環器学会の話題から




 大学病院などの特定機能病院に今年4月から段階的に導入されている「DPC(Diagnosis Procedure Combination;日本版診断群分類)」が,今後の循環器診療に及ぼす影響の大きさを鑑みて,本学会の健康保険対策委員会の主催によるパネルディスカッション「包括医療時代の到来-DPCの導入をめぐって」(司会=虎の門病院 山口徹氏,国立病院東京医療センター茅野眞男氏)が行なわれた。

診療報酬改定の影響をアンケート

 包括化への議論に先駆けて,一色高明氏(帝京大)から,2002年度の診療報酬点数改定により経皮的冠インターベンション(PCI)関連分野をめぐる状況の変化や影響について,心血管インターベンション学会など関連4学会に行なった調査結果(回収219名)を発表。調査項目は(1)PCI施行時の本数制限,(2)同一病変に対するPCIの施行回数の制限,(3)心血管造検査・PCI施行時のシネフィルム算定不可,(4)PCI・冠動脈バイパス術などに設定された施設基準の4点。
 その結果について,本数制限は比較的受け入れられていたが,回数制限とシネフィルム算定には否定的意見が多く見られ,施設基準については意見が分かれたと結論した。さらに氏は,専門医が医療行政に,良識ある意見を集約して公表する機会を持つことの意義と,「この調査は学会レベルでこれまで取り上げられてこなかった診療報酬における問題を,関連学会で取り上げた最初の企画」であるなど,その意義を評価した。

DPCは医療に何をもたらすか

 続いて,(1)DPC開発に携った橋本英樹氏(帝京大)が「DPC開発経緯・現状・展望について」,厚生労働省から(2)「DPCの運用と導入の目的」を矢島鉄也氏(厚生労働省保険局),臨床医の立場から(3)「DPCで予測される影響」を和泉徹氏(北里大),(4)「DPCの問題点」を宮武邦夫氏(国立循環器病センター),外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の委員の1人でもある山口俊晴氏(癌研病院)が「DPCと技術評価-外保連における手術料算定」をテーマにそれぞれ講演した他,オブザーバーとして松田晋也氏(産業医大)が登壇した。
 この中で橋本氏は,「DPCは定額先払いのためにあるのでなく,医療に管理,マネジメントなど『見通し』を得るために必要」とし,諸外国と診断群分類導入の意味が異なる点を強調。さらに診断群分類を導入することで,病院間の比較可能な情報により医療施設が選択できるなど,医療従事者と患者と,また保険者との管理のあり方が変わってくるなど,DPC導入の目的とその意義を解説した。また,矢島氏も,包括評価制度における診療報酬のあり方(包括評価部分+出来高部分)など制度の概要を述べ,参加者に理解を促した。しかし,参加した臨床医からは,大学病院にDPC導入した場合,年間約6000万円の損害になるとのデータを示し,「診療実感と大きくかけ離れている」など,DPCに対する強い懸念が示された。この他,DPCは7-10月をデータ収集期間としてきたことから,「循環器は季節的な影響を受けやすい領域。1年間を通してみてもらいたい」,「教育病院と診療報酬とは切り離して考えていくべきでは」などの意見もあがり,見直すべき点が浮き彫りとなった。
 また,司会の山口氏からは,本学会をはじめとする30を超える循環器関連学会により「循環器関連健保対策協議会」の設立が進められ,今後の循環器領域における保険のあり方を学会を超えて議論を重ねていく方向にあることが報告された。