医学界新聞

 

平成14年度東大シンポジウム開催

「看護学の新展開-情報学とのドッキング」




 さる2月20-21日,「平成14年度東大シンポジウム看護学の新展開-情報学とのドッキング――New Development on Nursing Informatics」が,東大教育研究棟鉄門記念講堂で,杉下知子委員長(東大,写真)のもとに開催された。
 海外からKyung Ja Hong氏(ソウル国立大)やKathryn J Hannah氏(カルガリー大)ら5名が参加し,招聘講演2題やセッションで議論に加わった他,教育講演1題,さらに看護情報の標準化やEvidence-based Nursing,在宅看護と遠隔看護システムを主題としたシンポジウムセッション4題が企画された。
 杉下氏の基調講演「看護学の新しい展開-情報学とともに」では,IT化によって看護実践・教育・研究にどのような変革をもたらしているのかを整理。ナイチンゲールによる看護記録の始まりから,日本および世界の看護情報学の流れを解説。特に,氏は情報学の発展が,看護学におけるエビデンスの探索や,看護計画を実践・評価して分析を行ない,その結果を看護計画に反映させていくという一連の看護ケアシステムを構築する上で大いに寄与するし,看護および医療の質向上にとって必須のツールであると強調した。

看護実践の中で情報技術をどう使いこなすか

 セッションA「看護実践における情報技術の活用-どこまで来たか,どこへ向かうべきか」(司会=東大病院 入村瑠美子氏,神戸大 美代賢吾氏)では,東大病院における看護実践のIT化の話題を中心に,(1)看護情報システム概論(入村氏),(2)リスクマネジメントと情報システム(東大病院山本千恵美氏),(3)患者との情報共有-ベッドサイド情報提供端末(東大病院 山地のぶ子氏),(4)看護記録の電子化とその課題(国立看護大学校 柏木公一氏),(5)病院情報システムを用いた臨床スタッフへの知識支援(美代氏)をテーマに5人が登壇した。
 最初に(1)では,看護情報学の実践の現状を,東大病院の実践を通して概説。現在,PHSナースコール,輸血や注射の照合など看護業務支援に関連するシステムの他,標準看護計画,看護管理システムなども可動している。その経験から病院情報システムの方向性として,医療の質保証,顧客満足,経営改善,職員教育の4点を示した。
 続いて(2)は,東大病院における,バーコードを用いた輸血事故防止の取組みを紹介。病棟看護師はほぼ1人1台の携帯型診療端末(Palmコンピュータ)を持ち,輸血業務の際には,患者リストバンドと輸血バックのバーコードをそれぞれ読みこみ,両者で示された患者IDが一致しているかを判定することで,患者取り違えや輸血バック取り違いを回避している現状を報告した。今後の課題として,準備されてきた輸血製剤の種類やその量,施行時間や交差適合試験の結果を無線LANで瞬時に把握したり,医事会計情報としての利用も可能であると述べた。
 (3)は,入院患者が知りたい病院の情報を十分に得ることができず,不満を感じていることから,ベッドサイドに設置されたテレビや専用端末アダプターで,施設の情報やお知らせ,医療関連情報,東大ホームページなどの9項目が利用でき,情報提供することで患者の入院生活をサポートしている現状を報告した。今後は,患者自身が自分の検査結果などをベッドサイドで確認できる個人情報提供システムの計画があることも明らかにした。
 さらに(4)では,「将来看護は,情報システムの中にどのような情報が盛り込まれているか,その内容によって定義されるようになる」との視点から,看護記録のあり方を検討。何を記載するかには,共通情報と個別情報の2つを組み合わせたものを,また,分量が多くて使いづらい看護計画の見直し,さらに問題と焦点をかたまりとして記載し,大勢で管理できる経過記録の導入,の3つを提案。それらを反映させた看護記録の試作も披露した。
 また(5)では美代氏自身が開発した,(1)病院情報システムと連携した電子医学教科書,(2)標準看護計画と連携した電子医学教科書,(3)検査マニュアルと教科書とのリンクを紹介し,インターネットを駆使した学びの可能性を提示し,「臨床スタッフへの知識支援は,病院情報システムの1つの方向性」と結んだ。
 フロアとの議論の中で,データの記載法や保存法への疑問や,電子化は看護のオーバーワークを軽減できるのか,などの意見が集まり,看護の変革が期待できることからか,関心の高さをうかがわせた。