医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


便利で重宝な消化器疾患の総合診療事典

今日の消化器疾患治療指針 第2版
多賀須幸男,三田村圭二,幕内雅敏 編集

《書 評》上野文昭(大船中央病院部長・内科)

待望久しい改訂版

 1991年に出版された『今日の消化器疾患治療指針』は,日々の消化器診療におけるアクセスのよいリファレンスとして,多くの医師や医療スタッフに活用されていた。早いもので出版後10年以上の歳月が過ぎ,進歩の早い分野の記載にはさすがに違和感を覚えるようになってきた。そしてこのたび,待望久しい改訂版が上梓されることとなった。
 早速第2版に目を通すと,まずこの10余年の進歩を「重要トピックス」として第1章にまとめ,大きく変貌をとげた「画像診断」が第2章,そして「検査の要点」,「主要治療手技」,「救急治療」,「対症的治療」など多くの疾患に共通する項目が続き,第7章以下が疾患別の治療指針となるわかりやすい構成である。消化器系各臓器別の章立ての冒頭には,最近の動向が簡潔にまとめられ,必要に応じてその臓器疾患に用いる薬剤や検査法などが記載されているのは親切な配慮といえる。

垣間見られる編集者の細やかな気配り

 疾患別の治療指針の項目立てにも,読者に対する編集者の細やかな気配りが垣間見られる。単に治療法を羅列するだけではなく,[患者や家族への説明のポイント],[医療スタッフへの注意],[知っておくと役立つこと],[専門医へ紹介する判断基準]など,実際の診療でわれわれが本当に知りたいことが随所に記載されている。これらの情報は一般的な教科書はもちろん,いくら文献を検索したところで得難いものであり,エキスパート・オピニオンを中心に構成された本書ならではの美点である。また文献も無理して格調高い学術論文とせず,[役立つ文献]として実際的なものにとどめたことは,本書が実用書であることを考えるとありがたい。
 治療指針シリーズには,より広い領域をカバーする『今日の治療指針』もあるが,当然のことながら消化器領域に関しては,本書のほうが掘り下げ方がはるかに優る。消化器疾患を診る機会の多い内科医・外科医にとっては,必要にして十分な内容が網羅されていることと思われる。
 執筆者がきわめて多数であることに付随する弱点もないわけではない。項目立ての不均一性が若干目立ち,中には編集者の意図したところと異なると思われるような記載も見られた。けれども“Multi-Authors Textbook”としてやむを得ない範囲のものであり,これだけの多くの専門医の意見を居ながらにして聞くことができるという利点のために目をつぶるべきであろう。
 本書は,消化器疾患の日常診療における便利で重宝なリファレンス・ブックである。特にすぐ相談できる消化器専門医が周囲にいない実地診療医や勤務医にとって,心強い味方となってくれるはずである。また逆に,消化器のスーパー・スペシャリストにも本書はきっと役立つに違いない。消化器の中でもさらに細分化され高度に専門化したわが国の診療では,広汎な消化器領域をすべて掌握することが困難となっているからである。
A5・頁992 定価(本体12,000円+税)医学書院


体外受精のこの上ない手引き書

体外受精ガイダンス
荒木重雄,福田貴美子 編著/体外受精コーディネーターワーキンググループ 協力

《書 評》松本清一(日本家族計画協会長/群大・自治医大名誉教授)

時代の要求に対応した「体外受精コーディネーター」の誕生

 1996年に出版され,不妊治療にあたる医師と患者の双方に大変好評を博した『不妊治療ガイダンス』(医学書院)の著者である荒木重雄博士が,このたび体外受精コーディネーターの福田貴美子氏と共著で,体外受精の進歩に関する詳細な情報を医療者のみならず不妊に悩む方々に提供し,自立的意思決定をサポートすることを目的としたユニークな著書を上梓した。
 体外受精を中心とした生殖介助技術のいちじるしい進歩は,不妊に悩む方々に恩恵を与えた反面,それに伴う身体的,精神的,経済的な大きな負担や,医療機関での対応,家族や地域社会からの外的圧力,また自分自身の内的圧力などに悩む方々も増え,治療とともに適切なカウンセリングで援助する必要が増した。それに応えるために,患者に医療内容を理解させ,適切な治療法の選択を促すとともに,心理的サポートにも配慮する特別の研修を積んだ専門職「体外受精コーディネーター」が生まれた。

体外受精の第一人者による画期的ガイダンス

 荒木博士は,群馬大学,米国コロンビア大学,自治医科大学で生殖内分泌学の研鑽を積み優れた研究業績を上げるとともに,臨床面では不妊治療にすばらしい実績を上げ,また不妊学級を開くなど熱心に不妊相談にも応じてきた経験豊富な専門医である。現在,国際医療技術研究所理事長ならびに日本生殖医療研究協会会長として,不妊カウンセラー,体外受精コーディネーターの養成にも努めている。
 また共著者の福田貴美子氏は,山口県立衛生看護学院助産婦科卒業後に九州大学でも学ばれ,済生会下関総合病院に助産師として勤務。1995(平成7)年からは,わが国で最初に体外受精コーディネーターのシステムを導入した蔵本ウイメンズクリニックの看護師長・体外受精コーディネーターに就任し,学会活動,不妊患者の支援活動に力を注ぎ,高い評価を得ている体外受精コーディネーターの第一人者である。
 このお2人の執筆による本書は,まさに「体外受精ガイダンス」のこの上ない手引き書ということができよう。
 本書は,高度生殖医療,ART(生殖補助技術)による不妊治療の必要性の解説に始まり,調節卵巣過剰刺激,GnRHアナログの役割,採卵から胚培養までの操作,胚移植と着床,顕微授精の有用性,凍結保存技術の進歩,男性不妊への対応,不成功にかかわる要因とその対応,卵管を利用したART,合併症とその対応,新しい試みとその評価,臨床成績,不妊カップルの悩みへの対応,倫理と法規制などに関して,高度の専門的知識や技術を大変わかりやすく解説している上に,欄外に引用文献と概要を示し,専門研究者の要求にも応じている。
 そして本書の最大の特徴は,前述の各項目ごとに「体外受精コーディネーター」からのアドバイスが具体的に患者や夫との一問一答で述べられていることである。ところどころに「体外受精コーディネーターの日々」というコーディネーター数名の経験談が囲み記事で挿入されていることも,体外受精コーディネーターの役割に対する理解を深めさせてくれる。
 生殖医療にかかわる方々,また不妊に悩む方々にぜひ熟読していただきたい良書である。
A4・頁232 定価(本体7,000円+税)医学書院


角膜診療の教科書として不動の地位を確立

角膜クリニック 第2版
眞鍋禮三,木下 茂,大橋裕一 監修/井上幸次,渡辺 仁,前田直之,西田幸二 編集

《書 評》坪田一男(東歯大教授・眼科学)

 眞鍋禮三先生,木下茂先生,大橋裕一先生の監修・編集のもと,『角膜クリニック』の初版が作られたのが1990年である。当時私は,東京歯科大学眼科に赴任し,角膜外来を立ち上げたばかりの時だった。その時もっとも使わせていただいた日本の教科書が,この『角膜クリニック』であった。
 日本の角膜臨床,研究のトップをいく大阪大学の,角膜疾患に対する考え方や治療方法,検査方法が簡便に記載されていて,それは使いやすい本だった。以来13年が経過して,第2版の出版となった。

若返った執筆陣,面目を一新した内容

 今回の第2版は,前版にも増してわかりやすい。カラー写真もきれいで,表も見やすくなっている。編集に井上幸次先生(鳥取大学教授),渡辺仁先生(大阪大学助教授),前田直之先生(大阪大学助教授),そして西田幸二先生(大阪大学講師)の4人の先生が加わり,随所に工夫がみられ,執筆陣も大幅に若返っている。日本の角膜教科書としては,まとまりのよさ,読みやすさ,新しさ,執筆陣のレベルの高さから,2003年現在でもっともお勧めと断言できる。
 特に開業医の先生や研修中の若手眼科医にとって,まとまった知識を得るのに本当によい本と思う。頭から読んでいっても十分に読みこなせる量であるし,日々の診療で遭遇した疾患について確認したり,新しい治療方法を調べるのに適している。また,角膜専門医にとっても机の上においておくと便利である。本格的には英語の教科書や文献を読むとしても,ちょっと復習したり,自分の弱い分野をほんの1-2分で勉強するのに使える。私は外来や自分の部屋において,そんな使い方をしている。

日本の角膜臨床,研究にとっての財産

 大阪大学角膜グループは,日本の角膜サイエンスを率いているもっとも大きなグループであり,またもっとも尊敬されているドクターたちだ。教科書をまとめるのは大変だと思うが,そのようなグループが今回のように自分たちの考えを1つの教科書にまとめておいてくれることに,とても感謝している。これは日本の角膜臨床,研究にとっての財産だ。第1版と第2版の間は13年たっているが,今の学問の進歩を考えると第3版はもっと早い時期に作ってほしい。永遠の角膜教科書としてベストセラーになるように,ぜひこれからも企画を続けてほしいと願っている。
B5・頁372 定価(本体20,000円+税)医学書院