医学界新聞

 

第11回日本総合診療医学会開催される

地域を基盤にした医療教育の構築を




 第11回日本総合診療医学会が,さる3月1-2日,前沢政次会長(北大教授)のもと,北大学術交流会館において開催された。今回は,メインテーマに「地域医療教育のフロンティア・スピリット」を据え,地域を基盤にした医学教育および地域保健医療教育のあり方を考える場となった。
 今学会では,世界の地域家庭医療教育に精通するジョナサン・E ロドニック氏(カリフォルニア大サンフランシスコ校)による特別講演,医学教育のトピックスなど教育セミナー4題,シンポジウム「臨床研修における地域保健・医療教育」,パネルディスカッション「総合診療領域への質的研究導入に向けて」が行なわれ,多数の参加者を集めた。また優れた臨床研究を対象とした日野原重明氏(聖路加国際病院理事長)の名を冠した「日野原賞」は,前野哲博氏(筑波大)に贈られた。


臨床研修で地域保健・医療をどう学ぶか

 臨床研修において地域保健・医療が必修科目となったが,その提供体制についてはまだ議論が足りないことが指摘されている。シンポジウム「臨床研修における地域保健・医療の教育」(司会=佐賀医大 小泉俊三氏,三重大 津田司氏)では,行政,大学病院,地域保健・医療の現場と3者の立場から講演が行なわれた。
 最初に中島正治氏(厚生労働省医事課長)が,現在進められている医師の臨床研修必修化の概要を説明。特に,2次医療圏に少なくとも1つの研修体制などの研修施設,研修協力施設,研修病院の指導体制や定員など,現段階での方向性を示した。今後ワーキンググループなどで検討を急がなければいけない課題として,マッチング,研修時の処遇,終了後の評価の3点をあげた。
 続いて,大学附属病院の院長の立場から加藤紘之氏(北大附属病院長)が登壇。「大学病院ではよい医師は生まれないとの批判を浴びているが,大学にも良医を育成する義務がある」と述べ,「そのためには地元の臨床研修指定病院との連携が鍵になる」とした。また特に土地柄,過疎地医療をサポートするためにも,大学病院と地方のセンター病院との連携が重要であり,そこで大学病院としても十分に地域保健・医療を学ぶ場を提供でき,現在その体制を整えつつあることを示した。
 山口昇氏(広島県御調町保健医療福祉管理者)は,医療に加えて,保健サービス,在宅ケア,リハビリテーション,福祉・介護サービスを包括した全人的医療を提供する地域包括ケアシステムを紹介。氏は「今後は,地域のニーズに応える病院が生きる時代。これから医師になる人には,プライマリケア医療を中心に地域包括医療を学んでもらいたい」とした。
 また,特にその動向が注目されるマッチングについては,中島氏の講演の中では具体的なスケジュールに関しては触れられなかったものの,会場からの質問に答える形で,(1)自由参加となる可能性が大きく,(2)研修病院の従来の選考時期(通常は10月-翌年1月頃)より前に実施する,(3)夏季休暇を利用して学生が病院見学をすることから,それ以降の時期に実施する可能性が高い,などを明らかにした。

質的研究を総合診療に生かす

 パネルディスカッション「総合診療領域への質的研究の導入に向けて」(司会=東大 大滝純司氏,札幌厚生北野病院 宮田靖志氏)では,(1)「質的研究と数量的研究-折衷主義の立場から」(帝京大 橋本英樹氏),看護の立場から(2)「グラウンデッド・セオリー・アプローチによる質的研究」(札幌医大看護学 野地有子氏),(3)「健康をテーマとしたナラティヴ志考の質的研究の実例」(北大 小田博志氏),総合診療に携る臨床医の立場から(4)「延命治療に関する判断について:1993-1997現場からリサーチまで私のナレティヴ」(国立病院東京医療センター 尾藤誠司氏),最後に追加発言として(5)「質的研究における妥当性と課題」(北大 瀬畠克之氏)の5名が登壇し,今後ますます臨床研究の有効なツールになることが期待される質的研究のあり方を探った。