医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


「緩和内視鏡治療」を提唱し,その真髄を伝授

緩和内視鏡治療
鈴木博昭,鈴木 裕 編集

《書 評》近藤 仁 (斗南病院消化器病センター長/前・国立がんセンター中央病院内視鏡部医長)

今世紀の主流になる緩和内視鏡治療

 興味を持って一気に読み通した。著者らの豊富な臨床経験がコンパクトに整理されており,通読すると緩和医療において知っておくべき内視鏡治療のすべてがわかる構成になっている。「緩和内視鏡治療は,今世紀の内視鏡診療の主流になる」という編者の言葉を実感させられる待望の1冊である。
 緩和医療の基本は,チーム医療である。嚥下困難や消化管狭窄などのがん患者のQOLを向上させるために,緩和医療チームの中で内視鏡治療が果たす役割はきわめて大きく,実際,緩和医療の学会では内視鏡関連の演題が数多く発表されている。しかし,これまで適当な緩和内視鏡治療の参考書がなかった上に,緩和医療の教科書を繙いてみても,残念ながら内視鏡検査についての記述は,ほとんど見当たらなかった。

役立つ確実な内視鏡手技の会得

 本書では,緩和内視鏡治療を「積極的に苦痛を和らげる治療」と広義にとらえて,がん患者に対するステント留置やPEG(内視鏡的胃瘻造設術)はもちろん,静脈瘤や消化管出血など良性疾患に対する治療についても解説されている。そのため,さまざまな病態に応用がきく広範な知識を身につけることができる。また,各治療法の利点・欠点を実践的に理解できるように「期待通りの効果が得られた症例」だけでなく,「効果が得られなかった症例」も呈示されており,臨床家には大いに参考になるに違いない。写真や図をふんだんに用いた解説は,コメディカルにもわかりやすく,また確実な内視鏡手技の会得に役立つことは言うまでもない。
 医師,特に内視鏡医にはもちろんのこと,ぜひとも看護師やMSWも読んで日常臨床に役立てていただきたい。本書が単なる技術書にとどまらないことは,編者の言葉や,各章末尾の「現状と展望」に総括された緩和医療学における内視鏡論をご覧になればわかっていただけると思う。緩和内視鏡学の教科書として,緩和医療に携わる皆さんに推薦したい。
B5・頁192 定価(本体8,000円+税)医学書院


日本の神経学における1つの金字塔

神経内科ハンドブック 第3版
鑑別診断と治療

水野美邦 編集

《書 評》田代邦雄(北大大学院教授・神経内科学)

編著者自身が体験した米国レジデント研修を基本に

 待望の第3版が,ついに登場した。9年前に第2版が出版された際に書評を担当する機会に恵まれた私にとっては,この第3版でもそれを依頼されるという名誉に浴し感激している次第である。この間に本書は9刷を数え多くの医学生,研修医ばかりでなく,神経内科専門医をめざす医師,さらには神経学ならびに関連各科の専門医にとっても,座右の書として重要な役割を果たしてきたと言えるであろう。
 しかし,この間における神経学の発展は飛躍的であり,それを取り入れることにより本書は,さらにすばらしい展開をみせることとなった。執筆者も前回の20名から30名に,また総頁数も912から1120と約200頁増となっていることで,その事実がまず示されている。しかし本書の構成は,初版以来のコンセプトを守り,編者の水野美邦教授が自ら体験された米国のレジデント研修の実を,わが国においても拡げたいとする意図が貫かれており,個人的なことになるが同時期に米国においてレジデント生活を体験した者の1人として深い感銘を受けるのである。

神経学全般の情報をすべて盛りこんだ画期的なハンドブック

 本書の第1章から第6章にいたる章立ては,第2版と変更がない。そのことは逆に両者を比較することで,その間に神経学が飛躍的に発展してきていることを読者は実感させられるのである。
 まず,第1章神経学的診察法に目を通してみよう。神経内科医といえば,例えば他科から往診依頼を受ければ,診察鞄の中に診察用具を入れて駆けつけ,ベッドサイドで用具を駆使して的確な診断と判断をし,適切な指示を与える存在である。正しい神経診察とその解釈ができなければならず,とかく画像診断などが先行するきらいのある今日でも,これは神経学の基本である。この章をみると本書の改訂の概要を知ることができる。すなわち,見出し語や図表にカラーを付けることで見やすくするだけでなく,さらに解剖図などを大幅に増やし,理解を深める配慮がなされている。このコンセプトは,全章にわたってみられている。
 第2章の局所診断,第3章の症候から鑑別診断,そして第4章の神経学的検査法にいたっては,多くのカラー写真を追加,第5章では,近年注目されている疾患も新たに追加,例えばCADASIL,抗リン脂質抗体症候群,先にはスローウイルス感染症に含まれていたCJDなどをプリオン病として独立させ,傍腫瘍性症候群,パーキンソン病や脊髄小脳変性症の最新の分子遺伝学的データなども加えてアップデイトとし,さらに全章での参考文献の充実が図られている。また,一方では,腫瘍や外傷といった脳外科的疾患とされがちな疾患にも,典型的な画像や豊富で見事なカラー組織像を追加するなど,まさに神経学全般の情報をすべて盛りこんだ画期的なハンドブックとして完成されたのである。
 本書こそ医学生や研修医などの神経学の初歩から,指導的立場にある専門医まで,すべての神経学領域の諸先生にとって必読の書であり,日本の神経学における1つの金字塔をたてられたものと感服する次第である。
A5・頁1120 定価(本体13,500円+税)医学書院


日本が誇る臨床指導医が語る医学教育の方向性

“大リーガー医”に学ぶ
地域病院における一般内科研修の試み

松村理司 著

《書 評》畑尾正彦(日赤武蔵野短大教授)

 おもしろい題の本である。題だけではない。中身は,題以上におもしろい。
 そもそも著者がおもしろい人なのだ。だから題も中身もおもしろいのは当たり前なのかもしれない。中身はおもしろいだけでなく,ためになる。

医学教育における“舞鶴”

 日本における貴重な臨床指導医の1人である松村理司氏は,変わり者の多い医学教育界の中でもユニークな存在である。あまり大きくもない地方都市の,あまり大きくもない公立の病院を根城に,日々の診療をきちんとこなしていれば,日々がつつがなく過ぎていって何の不思議もないはずなのに,舞鶴があるのは福井県か京都府かと迷う人はマシなほうで,鶴が舞い降りる北海道だろうと納得するような素直な人でも,医学教育に関心を持つ人ならほとんどすべての人が,舞鶴に,あの知的にとぼけてみせる松村氏がいらっしゃることを知っているであろう。そのわけは,この本を読むとよくわかる。
 A5判328頁のこの本は,9つ(I から IX)の章からなっているが,それを評者が勝手に分けさせていただくと,パート1は I-III で,日本の医学教育の現状の問題点の指摘と舞鶴市民病院の研修の現況,パート2が IV と V で,中核をなす“大リーガー医”の言行録,パート3が VI-IXで,日本の医学教育のこれからに向けたビジョンといった3部に大別できそうである。その全体が,松村氏のジェネラリズムへの熱い思いで貫かれている。
 パート1では,日本の医学教育が抱える多くの問題点を尻目に,舞鶴が独自の卒後臨床研修を編みだし,高い評価を得てきた経緯がよくわかる。

日本の医学教育の痛いところを見事についている大リーガー医たちの箴言

 パート2は大リーガー医1人ひとりの紹介だが,それぞれに人柄がうかがわれるだけでなく,症例検討ではまるで推理ドラマの探偵さながらの謎解きが楽しめる。大リーガー医たちの多くの箴言は,痛いところを見事についている。何とかしないと,日本の医学教育は世界のスタンダードに遅れをとることになりそうだという焦りを禁じ得ない。いやすでに遅れをとっているという思いが強い。
 パート3は,史上かつてない変革の波にうねっている日本の医学教育に対する,さらなる問題点の指摘は,襟を正して聞くべきことが多い。
 卒前・卒後の医学教育におけるジェネラリズムの重要性は,FD(faculty development)に専門医や外科医が参加することは即刻中止していただきたい,と松村氏に言わしめた(251頁)。その通りだと思う。外科医である筆者がFDに参加させていただく時,外科医であることをすっかり忘れていたことに気づいた。かといってジェネラリストにはほど遠い自分を恥じるしかないようである。
 ともあれ,いろんな人が読むとよい本だ。大リーグの選手たちを診るスポーツドクターのことを書いた本だと思って,いつイチローが出てくるか,大魔神が出てくるかと頁を繰る人たちにとっても,損のないおもしろい本である。医学教育に直接携わる人たちはもちろん,健康政策に関わる人たちや医療に直接関わらない人たちにも,広く読んでいただきたいものである。
A5・頁328 定価(本体2,200円+税)医学書院


熱気さえ感じられる脳血管内治療の実践に即した解説

脳血管内治療のDo's & Don'ts
吉田 純,宮地 茂 著

《書 評》橋本信夫(京大教授・脳神経外科学)

 車の運転技術書やメカニズム解説書を読んで運転ができるようになるわけではなく,スキューバダイビングの解説書を読んで安全に海に潜れるわけではない。だから解説書は要らない,というのは大間違いで,危険な状況に落ち込まない,またたとえ落ち込みかけてもパニックに陥らずに,次善の策がとれるといったすべを知っているか否かが生死の分かれ目になる。どこで潮流が海岸近くから沖に向かって流れているか(rip current)を知らなければ,どのように奮闘しても沖に流され,2度と戻れなくなる。またそのような現象があるということを知識として知っていなければ,回避どころか注意を向けることさえできない。
 医療においても,技術書を読んだだけで高度な医療技術が身につくわけではないが,技術を駆使する場合,知っているか否かが,治療の成否と危険およびその回避に直結している。そんなことはだれでも認識している。

医療行為において自分が知らないということを知らないことの危険

 問題は,自分が知らない,ということを知らない場合である。当然のことであるが,ある現象や事実を知らない場合,自分が知らないということを知らないのである。これは,医療行為において大変危険なことである。知らないことに気づく方法には,2つある。1つは,失敗して気づくことである。しかしこれは当然ながら,時にきわめて大きな対価を必要とする。2つ目は,情報を得ることである。人から教えてもらうことはきわめて有効であるが,教えてもらわなかったことに関しては,知らないことを知らないままである。それをチェックする方法は,例えば脳血管内治療の場合,本書のような解説書,しかも最も基本から技術的側面,器材,インフォームドコンセントまで網羅したもの,を通読することである。経験者も流し通読することをお勧めする。案外,自分が知らなかったこと,誤解していたこと,時には著者の意見は間違いだと思うことなどが出てくるはずである。まさに,デブリスをフィルターで漉すがごとく,気づかずに飛ばしていたものが見えてくるかもしれないのである。己の知識と技術と経験を過信して麻痺が出てから気づく,という合併症を未然に防ぐことになる。また,フィルターに何もかからなければ,それはそれで結構であり,自分の来し方に自信を持って,さらなる研鑽の礎とされたい。

一行一行噛みしめてほしいDon'tsの重み

 本書においては,脳血管内治療に対する編者の強い意志と期待,エキスパートの先生たちの実践(本の帯には“実戦”とあり,気持ちは理解できるが,“実践”でしょう)に即した解説には熱気さえ感じられる。特に,エキスパートたちの述べる,Don'tsには重みがあり,一行一行噛みしめて,Don'tsをしてしまった状況を1つひとつイメージしてみる価値がある。1つ目の解決策(失敗して気づくこと)を回避する最高のinstrumentであり,techniqueであり,shadow trainingである。
B5・頁368 定価(本体10,000円+税)医学書院


日本のがん疼痛治療法の歴史と現状を的確にまとめた好著

がんの痛みを救おう!
「WHOがん疼痛救済プログラム」とともに

武田文和 著

《書 評》柏木哲夫(阪大大学院教授/淀川キリスト教病院名誉ホスピス長)

 1981年以来,がんは日本人の死因の第1位を走り続けている。年間約30万人が,がんで死亡する。その半数以上が,痛みの治療を十分受けていないと言われている。がんに伴う苦痛は,痛みだけではない。悪心,嘔吐,呼吸困難,全身倦怠感なども多くのがん患者を苦しめる。しかし,痛みは発生頻度が高いこと,長期にわたって患者を苦しめることから,その治療は緩和医療の中心をなすものである。

モルヒネの消費量とがん疼痛対策は比例する

 がんの痛みの治療は全世界的な関心事であり,1986年にはWHO方式がん疼痛救済法が公表された。WHOの研究結果によると,がん患者1人あたりのモルヒネの消費量とその国のがん疼痛のコントロールの程度が比例するという。言い換えると,モルヒネの消費量の少ない国のがん患者は,痛むということである。
 国際麻薬統制委員会の調査によると,1日あたりのモルヒネ消費量のトップはオーストラリアで,カナダ,イギリス,アメリカと続く。上位はすべて西洋諸国で,日本をはじめとする東洋諸国ではモルヒネの消費量は少なく,ここでは西高東低である。ちなみに1997年の消費量をみると,日本はオーストラリアの約8分の1に過ぎない。日本のがん疼痛対策は,まだまだということが言える。しかし,ここ10年ばかりの間に,日本においても,がんの痛みのコントロールの重要性が叫ばれるようになり,医療用モルヒネ消費量は,年ごとに伸びている。特に硫酸モルヒネが市場に出てからは,その伸び率がいちじるしくなった。ちなみに1998年度は,その10年前の1988年度に比べて約8倍になっている。

高まるがんの痛みのコントロールに対する関心

 このような背景のもとに,日本においても,がんの痛みのコントロールに対する関心が高まり,これまでにもかなり多くの書物が刊行されている。本書の著者である武田文和先生もこの分野で多くの著書を世に出しておられ,がん性疼痛のコントロールに関してはわが国のリーダーと言える。
 本書は,武田先生が医学書院の「週刊医学界新聞」に1999年から2001年にかけて連載された「WHOがん疼痛救済プログラムとともに歩んで」と題した連続エッセイを中心にして,修正加筆されたものである。
 先生のWHOとの関わり,サイコオンコロジーへの関与,患者とのコミュニケーション,西太平洋地域でのプログラム展開,カンボジアのがん疼痛治療,など先生の世界的な広い視野とご活動の軌跡がよくわかり,教えられるところが多い。付録として,痛みのマネジメントが記載されている。これは厚生労働省・日本医師会編『がん緩和ケアに関するマニュアル』(日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団刊行,2002)からの転載である。このマニュアルは武田先生が責任者として作成されたもので,WHO方式がん疼痛治療法にそった国としてのマニュアルである。
 以上のように,本書は日本のがん疼痛治療法の歴史と現状を的確にまとめた好著である。疼痛コントロールに関心を持つ医師,看護師,薬剤師,その他コメディカルのスタッフにも広く読まれることを期待したい。
A5・頁224 定価(本体1,900円+税)医学書院


透析医療スタッフにとって「恐怖の本」誕生

透析専門ナース
稲本 元 著

《書 評》今田聰雄〔近畿大堺病院教授・腎・透析科/第48回(社)日本透析医学会長〕

 透析を専門とする看護師だけではなく,透析専門医をめざす医師や透析に携わろうと考えている臨床工学技士,あるいはその他の医療スタッフにとって,「恐怖の本」が出ました。
 この『透析専門ナース』を読めば,今日の透析現場で,30年以上の透析歴を持つ透析者とも,また透析を専門とする医療スタッフとも,透析医療について,突っ込んだ議論がすぐにできると思います。書かれていることが理解できたら透析専門の医療スタッフです。
 わが国の透析者数が22万人を超え,日本人の580人に1人が透析者である現状でも,看護師を中心とした透析スタッフが透析現場で透析医療に関して悩むことは尽きません。透析療法,血液浄化療法に関する専門書は,今日では積み上げることができるほど出版されています。しかし,1冊で知りたいことが得られる書籍は少ないようです。この『透析専門ナース』を読ませてもらって,「恐怖」を感じたのは,現在の透析現場で,その中心である看護師の専門性のために,著者が理想とする透析専門の看護師像をはっきりと打ち出していることに対してです。わが国の透析施設のすべてが,透析専門の看護師の存在を望むか,あるいはすでに存在していると思いますが,専門性を認める基準がありませんでした。本書は,その基準となる教科書です。

図と写真を多用したわかりやすい説明・解説

 第1章の「透析医療の基礎知識」にまとめられている内容の中で透析関連機器やブラッドアクセスなどは,臨床工学技士や医師の専門分野ですが,いきなり透析室に配属された看護師でも理解できるように図や写真を多用して,わかりやすく説明・解説がされているのは,1960年代後半の透析療法の黎明期から,透析現場で活躍し続けている著者でなければできないことであると思います。第2章の「透析の理論」にあるドライウエイトもこれほど明快に書かれると,読めばわかるとしか言いようがありません。さらに第3章の「透析治療の専門技術」は,これがわかれば並の医師や臨床工学技士が相手なら指導もできると思われる内容が見事にまとめあげられています。特に第4章の「透析治療の観察点」では,これこそ透析専門ナースと言える,看護師にとって必須の項目が,著者の透析医療に対する哲学を踏まえて書き込まれています。この章を実践してくれる看護師がいてくれたら,医師の仕事がなくなるであろうと思われる内容です。
 最終の第9章「透析医療と連絡・管理」は,事務の仕事であると考えていましたが,現在では透析医療の中心に坐る看護師が扱うか,指示をしてこそ透析専門の看護師であるという著者の声が聞こえてくるような気がしました。
 透析専門の看護師「透析専門ナース」あるいは,「エキスパートナース」を育成し,認知しようとしても,その基準作りが難しいと思いましたが,この『透析専門ナース』があれば,育成のためのカリキュラムから,試験の実施までもが容易にできると思いました。
 看護師だけではなく,医師も臨床工学技士も,透析医療に携わろうと思う医療スタッフ,加えるなら透析者でも,今日の透析医療から取り残されたくなければ,『透析専門ナース』を熟読すべきであると思います。
B5・頁232 定価(本体3,800円+税)医学書院