医学界新聞

 

あなたの患者になりたい

「OSCEなので5分!」

佐伯晴子(東京SP研究会・模擬患者コーディネーター)


 OSCEシーズンが始まりました。多くの大学が同じような時期に行なうため,模擬患者の私たちは風邪もひけない忙しい毎日です。大学のOSCEも回を重ねるごとに準備や運営がスムーズになり,経験の積み重ねが目に見えてくると,SPもきちんと任務を果たそうと思います。それがよりよい医療づくりに患者の立場で参加するひとつの方法だと考えるからです。
 ところで,先日参加したOSCEの手技の課題に「患者さんへの配慮はしなくてよい」とありました。OSCEなので5分しかないから省略するのが理由だそうです。課題は器具を使った痛みの伴う特定の医療行為でした。もちろん人形の模型を使ってのことです。
 模型相手に声をかけるのも照れるかもしれませんが,なんだか本末転倒の印象が拭えませんでした。そもそも,OSCEは5分という決まりはないはずです。現行のOSCEの多くは1課題5分ですが,医療面接に限って言えば,5分OSCEの弊害があるように感じています。7分,8分,あるいは10分の医療面接を行なうOSCEに比べてみると明らかに充実度が異なります。お互いの満足感というべきものが5分面接ではほとんど得られません。

5分間共用試験OSCEの実態

 特に共用試験という臨床実習に入るための基礎教育として位置づけられたOSCEは,その目的に照らしてみると5分の省略版では逆効果になりはしないかとSPは危惧しています。
 なぜなら,医療面接で必要とされることを5分ですべて行なうことが求められるので,内容に深まりのない,一方的な質問に終わることが多いからです。これが何年も経験を積んだ医師であれば,5分の使い方も違うでしょう。しかし面識のない他人と話すことに慣れていない学生さんが,緊張で頭が真っ白になった状態で,相手の話をじっくり「傾聴」し,苦しみに「共感」し,理解を示し,「要約」をし,患者さんの「解釈モデル」を聞き出し,最後に「言い忘れたことは?」と聞くだけでなく,いくつもの質問項目すべてをあわせて5分で行なうということは少々無理な話ではないでしょうか?
 例えば「どうなさいましたか?」の問いに対して,SPはいくつかの文に分けて答えることにしています。1文はごく短いのですが,促されてSPが3つめの文に入ると,チラッと時計に目をやる学生さんがいます。5分しかないのに,質問しないといけないのに,こんなに「しゃべらせて」大丈夫かな? と焦りが早くも見えてきます。そうなると,患者さんの苦しみや心配や希望などへの関心より,テスト用紙の空白を埋める作業が優先されます。相手を目の前にしながら,相手の存在がその瞬間から消えていくと私には感じられます。相手の反応がどうであれ,マニュアル通りに聞くこと,親切そうな決まり文句を言うことで5分医療面接が完成です。

どんな医療のあり方を伝えたいか

 この医療面接スタイルが全国に行き渡り,誰もが同じように標準的な5分医療面接をするとき「患者中心の医療」が行なわれるのでしょうか? 少なくとも自己紹介もない問診よりはいいかもしれませんが,患者さんに対するこころの視線が感じられず,患者さんの言葉が届いていかないもどかしさは相変わらずです。
 塗装はきれいになったが中は昔のままかもしれません。SPが話を聴いてもらったと思える面接は,患者中心の医療のあり方と通じています。医学生にどんな医療のあり方を伝えたいのかがOSCE医療面接の時間設定に反映されているというのは言い過ぎでしょうか?