医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医学生・研修医への多彩な提案

君はどんな医師になりたいのか
「主治医」を目指して

川越正平,川畑雅照,松岡角英,和田忠志 著

《書 評》田中雄二郎(東医歯大附属病院教授・総合診療部)

 学生時代「どんな医師になりたいのか」と自問自答した覚えは,医師であれば誰にでもあるだろう。そして,その明確な解を見出せないまま医師になっていく場合が多いのではないだろうか。実は,私もそうであった。医師になった後もさまざまな転機があり,そのつどこの「どんな医師になりたいのか」の問いが再浮上してくるのである。
 東京医科歯科大学では一昨年初めての試みとして,入学したばかりの学生を対象に「多様な医師像について」,「医学の未来像」をテーマにした連続講義を行なった。基礎医学研究,臨床医学研究,医療行政,国際医療など,さまざまな分野で活躍する人を講師に迎え,医師の多様な可能性を示すとともに医学の将来の姿を見せることが「どんな医師になりたいのか」について考える参考になればというねらいだった。このシリーズの最後の講師が,この本の著者の1人である和田忠志先生であった。先生はその講義においても,本書に述べられる「主治医」すなわち「継続して患者の生命と生活に責任を持ち続ける医師」のあり方について熱を込めて話され,多数の新入生がシリーズ終了後に回収した感想文に大きな感銘と共感を記していた。
 そのような背景もあり,本書の上梓を心待ちにしていたわけであるが,実際にひもとくと,その内容は想像以上に幅広く奥深いものであった。

医学生,研修医の視線での現実的アドバイス

 「どんな医師になりたいか」というこの問いかけに対し,「主治医」の尊さに関する明確なメッセージの提示はあるが,本書はそれに止まらず,読者が自らこの問いに対する解を見出すことができるように,若手医師4人から明日を担う医学生・研修医への多彩な提案が散りばめられている。「卒業前にやっておいたほうがよいことは何か」,「医師として患者の前に出るようになった折に求められることは何か」など,あたかも先輩が後輩に助言をするように書かれている。4人の著者はいずれも三十代であり,しかも日ごろから医学生,研修医との接触を心がけているだけのことはあって,医学生,研修医の視線で,誰もが抱く不安,ためらいなどを十分に踏まえた現実的なアドバイスとなっている。
 「継続して患者の生命と生活に責任を持ち続ける」と心を決めても,その責任の重さに呆然とする日もあるかもしれない。医学は日進月歩であり,社会が医師に求めるものも時代により変化する。本人および周りの環境の変化もあるであろう。それゆえ,医学部入学後(あるいは医学部を志願する段階から)本書を手元におき,在学中,初期臨床研修,ひいてはその後にいたるまで「どんな医師になりたいか」を自らに問いかけつつ,折に触れて読んでいくのがよいのではないか,またそれに値する好著と思われる。
A5・頁184 定価(本体1,800円+税)医学書院


ヒトの高次脳機能の働きを映像化した画期的アトラス

《神経心理学コレクション》
高次機能のブレインイメージング
[ハイブリッドCD-ROM付]

山鳥 重,他 シリーズ編集/川島隆太 著

《書 評》宝金清博(札幌医大教授・脳神経外科学)

驚くべき進歩の高次脳機能の解析イメージング

 好き,嫌い,想い,感動,悲哀,懐かしさ……。本書では,これまで到底,そのphysicalな局在など見つけることは不可能と考えられていた領域に,サイエンスの光が当てられています。そもそも,そうした高次な脳機能は,解析が可能なものであるかどうかさえ疑わしかったことを思えば,驚くべきことだと思います。
 本書では,知覚と認知,学習,記憶など,すでに研究が進んでいる比較的単純なイメージングに関しては,知識の整理がきちんとされるようになっています。また,ワーキングメモリーに関する解説は,多くの臨床医が知るべき必須の知識と感じました。加えて,コミュニケーション,思考,情動に関するイメージングを系統的に記載したのは,本書だけであろうと思います。特に驚嘆するのは,こうした,いまだにファジーな領域の研究についての詳説は,ともすれば散漫なひとりよがりのものになりがちですが,川島先生は,筆力があるというか,構想力があるというか,実によく整理整頓され,かつ文章も練られており,読みやすいものになっていることです。

ポストゲノム時代の潮流と拮抗する脳機能の研究

 遺伝子の世界では,今,ポストゲノムといわれ,既知となったシークエンスを解読する作業が進んでいます。ここには,多くの過剰な期待と誤解,そして当然未知の可能性が潜んでいます。この神の言語が解読されることを期待しています。ただ,ひょっとして,確かに言語学的には,それは解読されるかもしれませんが,その意味を私たちが完全に解明できるかどうかは,必ずしも楽観はできないと思っています。Wordsの集合体として1つひとつが認識されることと,全体としてsemanticであるはずの膨大な小説の構造全体が解明されることの間には,深い溝があります。そうでもなければ,私たちは,源氏物語など学ぶ必要はなかったのですから……。
 脳機能の研究は,こうしたポストゲノム時代の潮流と,ある意味で拮抗していると思います。現代の生物学が,いわば素粒子論的なelement追究に向かっているのに対して,脳機能研究者は,「統合」を最初から意識しています。というか,脳にとって,1つひとつの遺伝子に意味があろうはずもないし,数段次元が上になる神経細胞ですら1つひとつの持つ意味は希薄です。言うまでもなく,集合体として,システムとしてどう構築されているかが重要です。その意味からすれば,むしろ脳を飛び越えて,「脳」の集合である人間社会の研究のほうが,脳の仕組みを知るうえでは有力な手段ではないかとさえ思えてしまいます。
 本書に書かれた多くの驚くべき新知見は,その後ろに,おそらく非常にシンプルな法則の存在を感じさせます。脳の機能を支配する単純で美しいprinciple,いわば「心」の原理があるのではという期待が膨らみます。川島先生は,ひょっとすると,その幾つかをすでに見つけてしまっているのかもしれません。本書には,その秘密が少し隠されているような気がします。
 本書には,CD-ROMが付属しています。実によくできています。これを体験することも,本書を読む愉しみの1つです。少し臨床に疲れた先生方,神経科学の先端を垣間見たい学生,研究者の皆さん,ぜひご一読をお勧めします。
 わが家では,家内もぱらぱらと見て,しばらく,「脳機能,脳機能」と騒いでおりました……。川島先生,次回は,もう少し「心」の秘密の扉を開いて,私たちに見せてください。「扉」の向こうに,また,「扉」が見えるような気もしますし……最後の扉の向こうに座っているのは……!!
A5・頁240 定価(本体5,200円+税)医学書院


透析医療スタッフにとって親身にあふれた内容が満載

透析専門ナース
稲本 元 著

《書 評》中本雅彦(済生会八幡総合病院腎センター主任部長)

目覚ましい透析医療の進歩,喜ばしい本書の登場

 わが国における透析医療の進歩は目覚ましく,1万人以上の患者が透析治療により20年以上生存している。これは医療スタッフの高度な治療技術と良質な透析機器によるものである。その中でも,ナースを中心としたコメディカルスタッフの果たしている役割は大きい。しかし,ナースが透析療法について勉強しようとすると,医師向けの難解な医学書か患者用のやさしすぎる本のいずれかで,適当な参考書がなかった。われわれも透析ナースの教育のために使用する教科書がなく難渋していたが,このたび,稲本先生が『透析専門ナース』を医学書院から出版されたのは大変喜ばしいことである。本書は著者の長年の経験を基にして書かれているため,コメディカルスタッフにとって必須な知識や技術がわかりやすく系統立てて示されている。

わかりやすく実践的な内容

 本書の特徴は,ほとんどの図表は著者が考え抜いて作製しており,非常にわかりやすく,実践的である。透析医療の現状の項では透析患者数の推移は当然のことながら,医療スタッフ数の推移まで書かれており,透析医療が置かれている現況が手に取るようにわかる。また,コメディカルスタッフが比較的理解しづらいブラッドアクセスに関しては多くの紙面を割き,症例にそってわかりやすく書かれている。第7章の食事療法には代表的な外食の蛋白量,食塩量,リン含有量が一目でわかるような図が収載されていて,患者を指導する際に便利である。加えて,身体障害者福祉法などの社会医療制度についても簡潔に述べられている。
 本書は,新人の透析スタッフにとっては透析医療が系統的に理解できるように,中堅の透析スタッフにとっては理解を一層深めることができるように書かれている。
 本書は,透析医療に従事するナース,臨床工学技士,栄養士,事務職員にとって最適な参考書と思われる。
B5・頁232 定価(本体3,800円+税)医学書院


臨床心臓電気生理検査に欠かせない必読書

EPS
臨床心臓電気生理検査

井上 博,奥村 謙 編集

《書 評》大江 透(岡山大大学院教授・循環器内科学)

今日の臨床心臓電気検査の全分野を網羅

 この本は,今日施行されている臨床心臓電気生理検査の内容をほぼ全分野にわたり詳細に解説している。具体的には臨床心臓電気生理検査を,基本的手技,心内電位の記録・読み方,検査結果の評価,個々の不整脈における検査法,不整脈研究としての検査法に分けてそれぞれ説明している。
 最初の3章では,臨床電気生理検査の基本を説明しているが,種々の電極カテーテル別の使用目的および挿入法・操作法を紹介し,つぎに,診断に最も重要な心内電位の記録法,心内電位の読み方,電気的刺激法を説明している。また,3章で電気生理検査の理解に必要な不整脈言語(不応期,伝導時間,リエントリー,一方向性ブロック,緩徐伝導,異常自動脳,激発活動,entrainmentなど)を解説している。
 4-6章は徐脈性不整脈を扱っているが,前章で説明した方法(手技,記録,読み方など)を用いて,洞機能不全,房室ブロック,心室内伝導障害における具体的な検査法と評価法を説明している。7-11章は,頻拍性不整脈に対する電気生理検査を解説している。上室性頻拍は,房室結節リエントリー性頻拍,副伝導路症候群,それ以外の上室頻拍に分類しているが,カテーテルアブレーション目的で検査が施行されることが多い今日,現実的な分け方と考えられる。したがって,この上室性頻拍の項ではアブレーションの至適部位の同定法が詳細に解説してある。同様に,心房粗動に関しても回旋回路の同定,特にアブレーション部位の同定法の説明が中心である。心室頻拍では,心室頻拍をタイプと機序別に分けて,各々の検査法・評価法を解説している。心室頻拍におけるリエントリー回路の同定は特に難解であるが,ここでは実際の心内電位と模式図を対比させて説明している。QT延長症候群・Brugada症候群の臨床心臓電気生理検査は,まだ研究段階であることから,臨床心臓電気生理検査のデータと動物実験から得られたデータの両者を紹介している。
 7章以降は,主に不整脈治療を解説している。ここでは,抗不整脈薬の薬効評価,ペースメーカー,植込み型除細動器,外科手術,カテーテルアブレーションの適応,手技,治療法の理論的裏づけが説明されている。

実践的な臨床心臓電気生理検査の解説書

 この本は,実際に電気生理検査を行なっている第一線の医師が執筆しているので,電極カテーテルの操作法,心内電位の記録法,計測法,評価法などが具体的に記載され,実践的な臨床心臓電気生理検査の解説書となっている。また,電気生理検査を初めて学ぶ人が直面するいろいろな疑問に対して答えてくれるような内容になっているが,未解決の問題点を随所に挿入し経験を積んだ医師の疑問にも答えている。
 今日,臨床心臓電気生理検査に関する良書が市販されているが,井上・奥村両先生の編集による『EPS-臨床心臓電気生理検査』は,最も実践的であり,臨床心臓電気生理検査を学ぼうとするものには必読の本である。
B5・頁480 定価(本体12,000円+税)医学書院


米国リウマチ学専門医の力量が存分に注ぎ込まれた1冊

内科医のための
リウマチ・膠原病診療ビジュアルテキスト

上野征夫 著

《書 評》松村理司(市立舞鶴市民病院副院長)

深み・緻密さの次元が違う診療内容

 上野征夫先生とお付き合いさせていただいて18年以上が経つ。出会いは,1984年の春であった。ところは,市立舞鶴市民病院,つまり,現在の私の勤務先である。1年弱の臨床研修を終えて米国から帰国し,同院で働き出してまもなくの私であったが,上野先生は,すでにそれ以前から月1回の非常勤医としてこられていたのであった。当時の病院長(瀬戸山元一医師。現高知県・高知市病院組合理事)の同窓のよしみもあった。
 招聘の趣旨が,大勢のリウマチ患者さんを扱ってもらうことではなく,リウマチ学の教育にあったから,私をはじめ大勢の一般内科医・研修医は,実に多くを教わることができた。米国リウマチ学専門医の力量は,病歴と身体所見,および簡便な検査に基づく鑑別診断の妙味に象徴された。奇を衒うことはなく,きわめてオーソドックスな診療であったが,日本の平均的な整形外科医の診察とは,深み・緻密さの次元が違った。また,学識が豊かであっても,同時に実用的なので,臨床現場では風格に欠ける研究派内科医の方々とも一線を画していた。
 当院の“大リーガー医”招聘計画にも当初から積極的にかかわっていただいた。特に“大リーガー医”の履歴書の解釈では,独壇場になることもあった。“大リーガー医”との私的な懇談の場では,上野先生の知性と諧謔に満ちた英語が,座を仕切ることも多かった。

楽しく学べるリウマチ学

 数年前に「関東のシティボーイ」となられた先生が,いよいよ執筆にかかろうとされているとは聞こえていた。満を持しての作品が,本書である。実にきれいな本である。図や絵が多く,わかりやすい。多くのカラー写真が値段を吊り上げたようだが,これだけきれいなのだから仕方あるまい。ビジュアルテキストとは,至言である。記述が誠に簡潔明瞭で,歯切れがよい。医学の記載はこうでなくてはと思わされるが,なみなみならぬ学識と臨床経験に支えられて初めて可能としたのは間違いない。なまじEBMに関する叙述がなくても,豊富な臨床経験と必要最低限の的確な文献とが,良質の「EBM空間」を作っている。
 研修医や一般内科医に土,日曜の2日間の自由時間があれば,通読できる。整理された知識に触れて楽しくなるし,少なくともしばらくは,リウマチ学の物知りでおれる。もちろん,必要に迫られての読書でも,教えられるところは多い。「あれ,結節性多発動脈炎は? 顕微鏡的多発血管炎は?…」と言ったさらなる各論への期待があるかもしれない。実は,これは前編であり,同分量の後編が予定されているらしい。
 「この本を父,母と浅野川総合病院看護・介護スタッフに捧げる」とある。米国仕込みの作法も感じるし,同時に,先生の「Japaneseness」も感じさせられる。また,本書に先生の生涯がかかっているのも明らかだ。ともあれ,「上野先生,続編も楽しみにしています。なお,差し出がましいですが,手書きよりワープロのほうが速く便利ですよ」。
B5・頁244 定価(本体6,800円+税)医学書院


好評のQ&A形式で臨床麻酔科学全般の知識が得られる

麻酔科シークレット
太城力良,上農喜朗,辻本三郎 監訳

《書 評》瀬尾憲正(自治医大教授・麻酔科学)

 狭義の麻酔科学は,人間の身体(生命)を安全に手術可能な状態におくための学問であるが,広義の麻酔科学は,術前,術中,術後の外科的侵襲から患者を守るというキュアよりケアを優先する周術期の実践内科学である。その意味では,麻酔科医はまず総合医学としての内科学の知識と素養を身につけ,そのうえに周術期の病態生理を理解し,生理学や薬理学の知識を応用し,周術期に最適のケアを提供することが求められる。また,麻酔科医は侵襲から患者を守るという生体管理学としての知識,技術を提供することができるということから,麻酔科医が働くところは,手術室だけでなく,集中治療部,ペインクリニック,救急医療,無痛分娩など,さまざまな分野に広がっている。
 『麻酔科シークレット』は,アメリカの医学生や研修医に好評の《The Secret Series》の1つである『Anesthesia Secrets』の第2版の翻訳である。兵庫医科大学麻酔科学教室の太城力良教授,上農喜朗講師,辻本三郎講師が監訳され,その3人を含む16名の方々が訳者となっている。
 本書は11章からなり,内容は,手術室,回診時あるいは口頭試問で問われるような質問とそれに対する簡潔で明快な解答という,1620問のQ&A形式になっている。
 「第1章患者管理の基礎」,「第2章薬理学」,「第3章麻酔前の準備」,「第4章患者のモニタリングと処置」,「第5章周術期の問題点」,「第6章麻酔と全身疾患」,「第7章特殊患者の麻酔管理」,「第8章区域麻酔」,「第9章各種外科手術の麻酔法」,「第10章痛みの管理」,「第11章クリティカルケア」と,実践麻酔科学のほとんどを網羅している。全体を学習することによって臨床麻酔科学全般の知識が得られるようになっている。

心憎い段階式質問の配慮

 『麻酔科シークレット』では,監訳者により,質問が医学生から麻酔科研修医に必須レベル,専門医試験レベル,難問であまり知らなくてよい意地悪問題の3段階に分けられている。原著にはない心憎い配慮である。
 原書の編集者であるJ. DukeとSG. Rosenbergは,序文の中で,麻酔科医はまず内科医であり,麻酔科医は手術室に閉じこもってはいけないと述べ,麻酔科学は,術前,術中,術後のケアを成功させるという周術期医学の実践であると明言している。そして,本書で得られた知識を用いれば,手術室以外での対応,術前・術後の患者の評価,緊急手術や緊急処置に遭遇する問題にも容易に対応できるようになる,というメッセージである。
 「あなたの麻酔器とあなたの家族,どちらが大切か?」
 このような質問が出される教科書をこれまで筆者は見たことがない。この質問に読者はどう答えるだろうか?
 「麻酔医である前に,家族を愛するよき家庭人であれ」と執筆者は解答している。執筆者の暖かい人間愛のあふれる優しい心が感じられる。ややもすると,醒めた科学の眼で見つめ,理詰めで行なうようになってしまった現在の医療に執筆者たちは警告を発しているのである。
 「論述文」は読者を説得し,自分の主張を広めるために書かれるもので,はっきりとした「メッセージ」があり,「ためになり,面白く,わかりやすい」ものでなければならない(『「超」文章法』野口悠紀雄著,中公新書より)。
 本書には,はっきりとした「メッセージ」がある。そして,「ためになり,面白い」ことは保証する。ただし,「わかりやすい」という点では,翻訳に若干気になる箇所もある。これは,読者が多くを指摘していくことで,より「わかりやすい」ものになっていくと確信している。
 本書は,麻酔科学を学んだばかりの医学生,麻酔科専攻レジデント,あるいは専門医試験をめざす麻酔科医はもとより,研修中のあらゆるレジデント,中でもスーパーローテートで麻酔科を研修する内科系および外科系研修医にも必携の書である。
A5変・頁580 定価(本体7,200円+税)MEDSi


よき臨床医をめざす人にぜひ手にとってほしい1冊

新臨床内科学 第8版
高久史麿,尾形悦郎,黒川 清,矢崎義雄 監修

《書 評》森 英理(横浜市立大医学部5年)

 私は,今まで「STEP」シリーズ以外の日本語の内科学書を手にとったことがありません(日本語で書かれた内科学成書の多くは,情報が古くて読みにくいという印象があったため,洋書を選択しています)ので,他の日本語の内科学成書と本書を比較することはできません。また内容の1つひとつについて吟味できるような立場でもありません。そのためここでは,学生の立場から見た本書の印象と使い勝手について述べさせていただきます。

実習中に目を通しておきたい

 章立てを見るとまず「1.内科臨床医としての必修事項」の「良き臨床医になるために」というタイトルが目を引きます。「3.医療と経済」,「4.臨床判断・決断とEBM」,「8.内科医とコンサルテーション」といった項目が目新しさを感じさせます。
 多くの医学部では,内科学の教育はナンバーで分かれた内科専門科の足し算で行なわれている(これは内科に限ったことではないかもしれませんが)ため,学生の側も自ずと専門各科の知識の足し合わせによって医学を学ぶ傾向があるように思います。知識を身につけるだけならそれでも多くをカバーできると思いますが,医学は目の前にある問題を解決するための実学であるため,それ以外のスキルも要求されます。
 例えば,EBM1つとっても,もはや興味ある一部の医師・学生のみが理解していればよいというレベルのものではありません。また,他科コンサルテーションを円滑に行なえるスキルが臨床医としていかに重要であるかは,まっとうな医学生なら病院実習を通して感じていることでしょう。しかしそれらをどうやって学ぶかといえば,各科を回った時たまたまロールモデルとなるようなドクターが見つかったら食らいついてでも教えを請うしかないでしょう。
 本書の「良き臨床医になるために」の部分は,大変簡潔に書かれていますが,実習前でも実習中でも目を通しておいて「良き臨床医とは何か」を考えるたたき台とするには最適だと思います。

医学生に使いやすい3分冊本

 頁レイアウトの見やすさ,索引の使いやすさ,体裁(分冊になっているかどうか)も大事な点ですが,本書の3分冊本は十分持ち歩ける重さで,また総索引が各巻についているため,毎日重たい教科書を抱えて通う医学生にとっては優しい教科書といえます。索引も主要掲載頁はゴシック体にするなどの工夫がされています。各巻末に基準値一覧がつけられている点も特記すべきでしょう。
 心から良き臨床医になりたいと思っている人,古臭くなく使いやすい日本語の内科学書を探している人に,ぜひ手にとってほしい本だと思います。
1冊本●B5 頁2234 2002年 定価(本体20,000円+税)医学書院刊
3分冊版●B5 頁2552 2002年 定価(本体20,000円+税)医学書院刊