医学界新聞

 

第26回日本死の臨床研究会が開催される




 第26回日本死の臨床研究会が,昨(2002)年11月23-24日の両日,斎藤龍生(国療西群馬病院),渡辺孝子(国際医療福祉大)両会長のもと,群馬県高崎市の群馬音楽センターを主会場に開催された(2516号に既報)。
 今学会では,特別講演「WHO方式がん疼痛救済プログラムの歴史的背景と世界規模での普及活動」(前埼玉県立がんセンター総長 武田文和氏)や,「緩和ケアと感情労働」(日本赤十字看護大 武井麻子氏)など教育講演4題の他,シンポジウム,特別企画「詩画からのメッセージ-星野富弘の世界」(対談:詩人・画家 星野富弘氏,阪大・同学会世話人代表 柏木哲夫氏,朗読:美咲蘭氏),市民セッション「あなたががんになったとき-ホスピスってな~に」などが企画された。
 本号では,教育講演および特別企画の内容を報告する。


「感情労働」からみた緩和ケア

 教育講演を行なった武井氏は,自著『感情と看護』(医学書院発行)の中で,「看護の中でこれまで最も光の当てられてこなかった領域,それが感情の領域です。看護職として働く中でどのような感情を体験しているのか,看護職も表立って語ることができませんでした。(略)
 看護職はさまざまな感情を体験しているのですが,それを外にあらわすことは不適切とする感情規制があるため,強い感情がわくたびに,なんとかその感情を自分で管理しようとするのです。(略)
 勤務室で患者の悪口を言って憂さを晴らしたり,涙をこらえて何も感じないふりをしたりするのも,看護職による感情作業の1つです。こうした感情の処理,つまり感情管理の作業は,看護という仕事の中で必要不可欠な部分であり,感情という要素を無視して,看護を語ることはできません。けれども,それも看護の一部として理解している人は多くありません」と述べている。(注:原文では看護を職業とする人の総称として「看護婦」と表現している)
 今回の講演で武井氏は,これらのことを概説した上で,「病院の顔を代表する看護職は,明るく,優しく,笑顔で接することが求められている。対象である患者の不安や怒りの感情をなだめるよう指導をされ,それは近年多くの病院に普及した『接遇マニュアル』にも著われている。しかし,その労働は現実の給与に値するものかは疑問」と指摘。また,「最近多くの学会発表や,病院現場で『患者様』との表現が多くなってきたが,これは賢くなった患者の権利意識の取り違いを招き,逆に横暴でわがままな患者を増やす要因にもなっている」と述べた。
 緩和ケアと感情労働については,「これまで病棟の場では,死を告げることはタブー視されていたが,緩和ケアの場はそこがオープンとなり,感情を丸ごと受け入れるルールに変わった」と解説。それを踏まえ,「一方で看護職には,それまでかかわりのあった患者に対しても涙してはいけないルールがあり,取り乱さないで処置をすることが求められる場面もある。こうした悲しみを,自分の悲しみとして受け入れられない時に,看護職は『うつ』になる。感性マヒ,心的感覚マヒが起こり,現実を考えられないままに職業上身体が勝手にテキパキと行動してしまうなど,ある種の2次的PTSDが働くことがあると,欧米の研究報告からも実証されている」と強調した。

寂しく悲しい時は,看護職,医師から無視される時

 特別企画では,独特な作風が人を魅了し,日本だけではなく世界的に人気の高い,詩人であり画家の星野富弘氏が対談に登壇。氏は,群馬県出身で高崎市の中学校に体育教諭として勤務していたが,クラブ活動の指導中に墜落し,手足の自由が奪われた。入院中に口に筆を加えて絵と詩を書くようになり,現在は同県内に個人美術館がある。
 本企画では,星野氏の詩がギター演奏で朗読されるとともに,柏木氏のユーモアを交えた軽妙な進行で,「なぜ絵には余白が多く,詩は漢字が少ないのか」を聞き出すなどし,星野氏の世界が自身から語られた。
 星野氏は,絵は事故に遭う前から好きで,少年時代に授業中に漫画を書いていたことや,字体は手で書いていた時と,口で書いている今と同じであることなどを紹介。また,入院中のこととして,「看護職や医師から無視をされたような気がした時は寂しく悲しかった」と語り,「立ったままでなく,座って自分の話を真剣に聞いてくれる医師がうれしかった」などと述べた。