医学界新聞

 

《プロフェッショナルな外科医を育てる-心臓血管外科領域の新しい動向》

若手心臓外科医が抱える疑問・不安
――「心臓外科医の専門教育を考える」

「CCT2002」モーニングセミナーの話題から




 さる2002年10月30日-11月1日,神戸市・神戸国際会議場において,心臓インターベンション治療の発展と普及をめざした第2回CCT2002(Complex Catheter The‐rapeutics)が開催された。その中で,モーニングセミナー「心臓外科の専門教育を考える-プロの心臓外科医になる方法,考えましょう」(司会=大和成和病院 南淵明宏氏)が行なわれた。本紙では,このセッションを中心に報告する。

「1950's」vs「GenerationX」

 本セミナーの参加者は,1950年代生まれで,現在第一線で活躍する心臓外科医(「1950's」)と,一流の心臓外科医をめざして研修中の20-30代の医師ら(「GenerationX」)と二手に分かれ,GenerationX側が質問し,それに先輩医師(「1950's」)が答えていく形で進められた。
 「1950's」として,道井洋吏氏(北海道大野病院),島本光臣氏(静岡市立静岡病院),夜久均氏(京都府立医大)大北裕氏(神戸大),島倉唯行氏(福山循環器病院),浅井徹氏(滋賀医大)が,「GenerationX」側には,鈴木博之氏(相澤病院心臓病センター),片山郁雄氏(千葉西総合病院),内藤和寛氏(COMICレジストラ,),村田明氏(千葉県立こども病院),長野博司氏(三井記念病院),西宏之氏(大阪市立総合医療センター)と,計12名が登壇した。
 まず最初に,「1950's」が「プロの心臓外科医とは何か」を1人ずつ定義。「他施設から依頼される」(道井氏),「自分の名前で患者がくる。自分の責任において手術ができる人間」(夜久氏),「自己責任がとれる。患者さんから『あの先生に手術してダメならしょうがない』と信頼される(島倉氏)などが述べられた。

学位や海外留学は本当に必要?

 最初の質問は,長野氏による「心臓外科医になるために学位や基礎研究が必要か」に,「学位があるのは悪いことじゃない。サイエンティフィックな考え方を深めるのにはよい」(大北氏)や「基礎研究するかしないかはオプション」(浅井氏)とする意見の一方,「外科医を市中病院で雇うポイントは腕のみ」とする意見もあがった。
 続いて,片山氏の「海外での研修が必要か」には,「自分は海外研修はしていないが,あまり必要ないのでは。日本でも研修はできる」(道井氏)とする意見と,「積極的に海外に出たほうがよい」(大北氏)など意見は分かれたが,自分のやりたい研修を明確にし,それが可能な場所を探すべきだとの点で一致が見られた。
 西氏から「心臓外科医の人数が多すぎること,心臓外科手術を行なう施設が多すぎることに関して,みなさんがどう考えており,どういう対策が実際行なわれているか」との問いかけには,「施設を減らすのは難しいが,医師は減らせることは可能。学会がその気になればできる」(夜久氏),「計算すれば毎年200人くらいのエントリーでよいはず。また100例規制をもっと進めてもよい」などに加えて,社会全体の意識を向上させるのが近道,との回答も見られた。
 村田氏は「何歳までに何をクリアすべきか? 例えばon pump CABGを1人で術者」との質問に,「35歳くらいにまでに一人前に」(南淵氏),「何歳ということは言えないが,早ければ早いほうがよい」(島本氏)などの意見が中心だった。

患者さんが集まる医師・専門医

 さらに内藤氏の「何を持って先生方は,症例を集められるようになったのか」との問いには,「信頼関係から,周囲の同級生の内科医が患者さんを送ってくれた」,「パートナーは内科医で,いかにそのニーズに答えるかが大事」(夜久氏),「この人に患者を送ったら助けてくれると思ってもらうこと」(道井氏),「患者会や地域の医師の集まり,症例検討会などの集まりに出席するなど,自分の提供できる医療を周囲にアピールした」(島倉氏)と周囲との信頼関係を構築する重要性の一方,「教授という肩書きだけでは患者は集まらない。成績がついてこなければダメ」(大北氏)など厳しい意見もあがった。
 最後に,鈴木氏から「心臓外科医になるために,学会などの行なう専門医の認定が必要になるのか」との質問に,「専門医資格はなくてもやっていけるが,キャリアを積む過程で取得すればよいのでは」という意見に加えて,「オーストラリアではフェローシップを取得しないと手術ができない。日本でも学会主導で質のコントロールをすべき」(夜久氏),「将来は専門医を取得しないと就職が難しくなる可能性もある。しかし,それ以前に認定の内容が問題。社会にも説明していくべき」(大北氏),「この人にかかれば安心できる成績を持つ人が専門医というのが本当の姿」(島倉氏)と,専門医制度の問題点も指摘された。
 最後に南淵氏は,「このような議論を,社会に広く開かれた場所で行なう意義は大きい」として本セミナーを結んだ。
 セミナー終了後,「GenerationX」として参加した若手医師に話を聞く機会を得た。皆,何年たっても手術をさせてもらえない先輩の姿などをみて,「このままで本当に『手術のできる心臓外科医』になれるのか」との危機感から,積極的に自分の研修場所を選択したと言う。その中で内藤氏は,所属大学を飛び出してCOMICに参加した経歴から,「大学から離れるリスクより,手術の実力を確実に身に付けられる可能性のほうが大事」と真摯な思いを語ってくれた。プロの心臓外科医をめざして柔軟に自分の専門研修を選び取る若い医師の存在は,浮上した問題を解く鍵になるかもしれない。
●註:Collaborating Organaization of Medical Institute for Cardiac Surgery の略。大学の枠組みを超え,年間300症例以上の心臓外科手術を行なう3つの民間病院(北海道大野病院,新東京病院,大和成和病院)が共同で,若手医師に3年間の心臓外科専門研修を提供するシステム。次回募集は2005年。