医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


介護に必要なリハビリテーションの知識と技術を提供

介護バージョンアップ 障害のみかたから介助のしかたまで
山田道廣 編著

《書 評》奈良 勲(広大教授・運動・代謝障害理学療法学)

求められる適切な介護プログラム

 2000(平成12)年4月から介護保険が始まり,2003(平成15)年にはその改定が行なわれることになっている。介護保険自体は,わが国の高齢社会の到来に対応する社会保障制度の1つとして高く評価される。しかし,現実的にはそれが要介護者に効率的に提供される介護現場において,種々の課題がないわけではない。その中で,介護現場における実際的課題としては,要介護者をいかに的確に評価し,それに準じた適切な介護プログラム(ケアプラン)をいかに提供するかである。

介護現場でたいへん役立つ実践的内容

 『介護バージョンアップ』には,そのような問題意識を抱いてきた医師をはじめとする関連職種の実践活動と,「リハビリテーション介護技術講習会」を開催してきた経験に基づいて,独自のフローチャートを工夫し,障害のみかたから介助(介護,ケア)のしかたまでをていねいに記載してある。よって,本書は,介護現場での経験の少ない関連職種はもとより,家庭で介護にたずさわる家族の方々にもたいへん理解しやすい内容になっている。
 本書は4部構成になっている。第I部「在宅障害者の自立をめざして」では,主にリハビリテーションの概念,第II部「在宅障害者のアセスメントと評価」では,主にフローチャートによる障害のチェックと介護のアセスメント,第III部「障害のみかたから介助のしかたへ」では,主にチェック項目の意味づけやその際の判断基準,そして介護の実際にいかすリハビリテーションの基本的知識と技術,第IV部「目で見る移動・介助の実技」では,主に寝返り,起き上がりなどの基本動作の介助とトランスファーテクニックの理論と応用に触れている。
 本書では,簡単な「事例」と「事例紹介や失敗例」が記載されている。しかし,本書に注文を付けるとすれば,それぞれの介護度に対応した「事例報告」を記載し,その中で介護予防・介護効果に触れていただくとさらに参考になるといえよう。
 ちなみに,高齢障害者における介護予防・介護効果とは,心身の機能向上だけではなく,その維持および下降緩和を含めて考えるべき課題ではないか,と考える。
B5・頁200 定価(本体2,200円+税)医学書院


出現した日本の臨床神経学診断と治療のバイブル

神経内科ハンドブック 第3版
鑑別診断と治療

水野美邦 編集

《書 評》廣瀬源二郎(金沢医大教授・神経内科学)

見事に成功を収めた卒後神経学書のスタンダード

 『神経内科ハンドブック』の第3版が,200頁ほど増頁され発刊された。初版から15年,2版から9年を経た出版である。
 初版では,米国の神経学卒後教育のいわゆる『レジデントマニュアル』日本版をめざして,日本での卒後教育のスタンダードたるべく編者は意図され,見事に成功を収めた出版であった。米国での神経学卒後教育の経験に,日本でのあるべき卒後臨床研修の標準を見極めて2版,3版と改訂されてきたわけである。今回の第3版により本書は,間違いなく臨床神経学診断と治療のバイブルとなったと言えよう。第2版では,神経疾患患者における臨床診断の最重要点である局所診断の項が加えられ,診断のプロセスの重要さが明らかにされたが,第3版ではそれをさらに重要と考え,まず第1章の神経学的診察法において,脳神経症状を十分に理解できるようたくさんの脳神経の解剖図譜が2色印刷で加えられた。理論だけでなく臨床の実際を考え局所診断をするためには,その基礎となる神経解剖の知識が必須であることは言うまでもない。この点の教育がわが国ではないがしろにされており,その充実こそが実践の場における局所診断に必要なことは明白である。この本を読むことによりその知識が加わり,専門医試験の準備をする若手の医師,臨床の場で責任ある仕事をする専門医には,きわめて有用であろう。

編者の深い経験と高い教育理念に裏づけされた改訂内容

 もう1つの変更点は,第5章,診断と治療の章で過去9年で進歩のいちじるしい分野での書き直しであろう。今回の改訂では,今までの自治医大神経内科関係者から順天堂大学脳神経内科に関係する分担執筆者に変わっている。特に脳脊髄血管障害,脳腫瘍・脊髄腫瘍,炎症性疾患,神経変性疾患,筋肉疾患などは,まったく新しい内容に一新されている。
 脳脊髄血管障害の項では,実際の現場の検査機器の進歩に対応して,多くのMRI,MRAおよびエコーなどのデータが新しくCT画像に取って変わっており,また新たに動脈解離や遺伝性血管障害のCADASIL,CARASIL,家族性凝固障害,抗リン脂質抗体症候群などの話題の疾患群も取り入れられた。脳腫瘍では,新しいWHO分類,脳腫瘍全国集計調査報告が加えられ,典型的脳腫瘍のMRI,CT画像が加わり,さらに神経内科医として最小限知っておくべき腫瘍病理所見もカラーで挿入された。炎症性疾患,変性疾患,筋疾患の項でも新しい分子生物学的病態解明などの進歩に合わせてきわめて妥当な書き直しがされている。
 文献も新しいもののみならず,各事項の理解に必要な必須の文献も含まれているのがこのハンドブックの従来からの特徴でもあり,これらを含めて臨床の現場で働く医師のみならず,専門医試験をめざしている若い受験者には,きわめて有用な情報源となろう。
 過去に編者と同じような米国でのレジデント経験を持ち,同様の手引きを編もうとした私にとり,本書は,これ以上の教科書はつくれないと諦めさせることになった神経学臨床のバイブルであり,編者の神経学における深い経験と高い教育理念に敬服するばかりである。
 本書は,とりわけ神経内科専門医をめざして勉強している若手の医師,ベッドサイドで神経内科を勉強する高学年医学生のみならず,臨床の現場で神経疾患患者の診断・治療にあたるベテランの専門医にとっても,卒後教育の継続として第1にお勧めしたい教科書である。
A5・頁1120 定価(本体13,500円+税)医学書院


今,小児医療に燃える著者らの緊急子育て指針

《総合診療ブックス》
はじめよう臨床医にできる子育てサポート21

山中龍宏,内海裕美,横田俊一郎 編集

《書 評》成島澄子(静岡県立こども病院看護部長)

何より求められる子育てサポートマインド

 本書は,小児医療に燃える23名の先生方による12の子育てサポートの道しるべと,21のトピックスへのアドバイスで構成されている。私たちが日常的に出会っている事柄として,「フンフン納得」という構成である。
 そのコンセプトは,「基礎知識」,「子育てサポートマインドで日常診療を変える」,「子育てサポートの知識・技能を見直す」,「Case」,「Caseの教訓」,「Note」,「メールアドバイス」である。
 最近某テレビ番組は,「子育てママの『叫び』13万件のメールから」を放送していた。公園デビューさえメールにて確認し,登場の日を決めている母親の姿が印象的であった。
 ここに執筆されている先生方は,それらの親の「不安や緊張をやわらげる方法」を説いている。子どもの健康生活についての基礎的知識・技能として身につけておかなければならないマインドを,心憎いばかりに言い当てている。
 子育て支援は,小児内科の医師のみでなく,小児を対象として関わるすべての専門医にも必須である。
 小児医療は,このプライマリ・ケアから始まる。専門病院で研修する者も看護大学で学ぶ者も,この書をサブテキストとして活用されたい。小児の日常の臨床に慣らされている者にとっては,ことさら有用である。何となれば,曖昧であった知識・技術を効率よく整理できる構成になっているからである。

子育ての知恵は,おばあちゃんからメル友へ

 この書を手にした者は,小児医療の道をめざすだろう。そして,健康な日本社会は,この子育てから生まれると説くことになるだろう。この子育てマインドは,万人の心を平穏にしてくれる。母親のする看護も専門職がする看護も原点は,この「子育てマインド」にあると言える。核家族化,また自分の親には余分な心配をかけたくない,親が教えることは「古い」等々と。今や,おばあちゃんの智恵からメル友の知恵に代わろうとしている。本書の中には,サポーターのアドレスも明記されている。
 本院の院長は,「ジュニアレジデントにテキストとしてぜひ携帯させたい」と,本書を推薦している。
A5・頁256 定価(本体4,000円+税)医学書院


座右に備えれば,大腸内視鏡検査・診断に自信が持てる

内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
下部消化管

多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治

《書 評》棟方昭博(弘前大教授・内科学)

「大腸疾患研究会」30数年にわたる見事な症例検討の集積

 敬愛する多田正大博士らにより,このたび『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断-下部消化管』が上梓された。多田博士は大腸診断学,特に大腸内視鏡診断での日本の第一人者であり,大腸ファイバースコープの黎明期から挿入法,色素内視鏡,スコープの改良などや,また最近では“コロナビ”の普及など大腸内視鏡の発展に大きく貢献してきた。多田博士は,超一流の内視鏡医であると同時に,玄人並みの写真家でもあり,その目の肥えたフィルターを通した見事な写真から本書が構成されている。
 本書には,大阪の「大腸疾患研究会」で,30年近くの間に140回に及ぶ検討と集積により,選び抜かれた質の高い多数の症例から構築された内視鏡のよみ方と鑑別診断が示されている。
 消化管疾患の形態診断には地道な症例の積み重ねから,詳細な分析,考察の下に論理を導入し,体系化することが重要である。そのためにも,内視鏡のみならずX線検査との協調の必要性を述べている著者の考えは,王道を歩む者の考えである。従来の診断学書では各疾患での所見が述べられているが,本書でのユニークな点は,まず「所見」を認識し,その所見を呈する疾患群の鑑別診断について述べており,臨床の場で内視鏡を実際に施行している大腸内視鏡医にとっては,手元に置くことにより鑑別診断の大きな助けとなる実用的な書である。初学者からベテランまで第一線で活躍する内視鏡医が,この書で学ぶことにより大腸内視鏡検査・診断に自信を持てるようになるであろう。

コロノスコピストにとって必携の書

 本書は4章から構成されており,第1章では正常を知る意味から内視鏡の局所解剖,正常内視鏡像を解説している。第3,4章の圧倒されるような内視鏡写真群の前に,第2章では内視鏡検査の位置づけと診断手順が述べられており,本書の目的である鑑別診断にいたる前の重要なアクセントである。特に内視鏡検査とX線検査の優劣を述べており,内視鏡診断をより容易に理解する上での両検査法の短所・長所が強調されている。読者に対する著者の心配りが感じられる。第3章の腫瘍性疾患では形態から主分類し,その上で表面性状などから亜分類していることにより診断が絞り込まれ,最終診断する上での鑑別診断のポイントと,鑑別すべき疾患などが記されている。第4章では,炎症性腸疾患が述べられている。腸管の炎症性疾患は数多く,長年大腸疾患診断に携わってきたコロノスコピストでも経験していないまれな症例まで提示されている。病因からの分類,病変範囲や潰瘍・びらんの形態などの所見からの鑑別診断について整理された説明の上で,各疾患の炎症パターンの特徴を簡潔・明瞭に記されており,本書を熟読することにより大腸内視鏡検査がさらに身近になると思われる。
 本書は,コロノスコピストにとって必携の書であり,座右に備えることをお勧めする。
B5・頁208 定価(本体12,000円+税)医学書院


新しい発想が手術を変える

ミニマム創 内視鏡下泌尿器手術
Portless Endoscopic Urological Surgery

木原和徳 編著

《書 評》松田公志(関西医大教授・泌尿器科学)

驚異の「ミニマム創内視鏡下手術」の提案

 泌尿器科に腹腔鏡手術が導入されて,12年が経過した。精索を剥離してクリップをかけるという単純な操作に難渋した当初からみれば,前立腺全摘除術や膀胱全摘除術が行なえるまでになった進歩には,目を見張るものがある。こうした進歩を支えてきたのは,医療技術の進歩とともに,低侵襲手術開発に向けての社会の要請と泌尿器科医の意欲であった。
 2001年春,神戸での日本泌尿器科学会で,泌尿器科の主要な手術すべてについて新しいタイプの低侵襲手術が大々的に発表された。東京医科歯科大学木原和徳教授による,「ミニマム創内視鏡下手術」の提案である。開放手術から腹腔鏡手術への流れに身をおいていた多くの泌尿器科医にとって,「あっ」という驚きとともにじっと手許を見つめるようなインパクトのある発表であった。従来の開放手術と同じ手法で,傷を小さくする,そのために内視鏡を利用する。手術侵襲を小さくしようという目的を突き詰める中で編み出された,新たな提案である。その提案には,何のために何をするのか,腹腔鏡手術を推し進めてきたものに対する厳しい問いかけも内蔵されている。「早く回復するためなら,腹腔鏡手術の形式にとらわれる必要がない」,合理的な考えの集約とも言える。
 腹腔鏡手術かミニマム創内視鏡下手術か,優劣をつけるのは難しいし,その必要もなかろう。どちらがより多くの患者に受け入れられ,より多くの外科医に支持されるか,いずれおのずと明らかになろう。しかし,技術を創出した基礎になる考え方は共通であり,いつまでも消えることがない。「治療を受ける間も患者のQOLを重視しよう,手術の侵襲を低減しよう」。腹腔鏡手術もミニマム創内視鏡下手術も,この共通の目的地に向かう少し別の道筋に過ぎない。

期待される外科系他領域への発展

 腹腔鏡手術では,現在,いかに技術を伝えるか,いかに安全に普及させるか,教育システムの構築が最も重要な課題として議論されている。ドライボックスでの鉗子操作の練習,大型動物を用いた手術研修,医局やグループを超えた手術指導など,ステップを踏んだ研修体制が,泌尿器科を含めて多くの外科領域で広まりつつある。このミニマム創内視鏡下手術においても,いかに伝えるか,広めるか,その戦略が重要であろう。さらに,ひとり泌尿器科のみならず,外科系他領域への発展が,手術体系として確立されるためには必須と考える。すでに,頸部外科領域では,甲状腺や上皮小体に対する手術手技として,同じようなコンセプトを持ったミニマム創内視鏡下手術であるVANS(video assisted neck surgery)がわが国で開発され,世界的にも広く受け入れられている。これら他領域の手術と連携してその本質を深めることが,それぞれの領域での発展に大きく寄与するであろう。
 わが泌尿器科におけるミニマム創内視鏡下手術の将来やいかに。木原教授の行動力と指導力によって大きく発展するものと信じているが,その第一歩となる本書『ミニマム創内視鏡下泌尿器手術』の発刊を,同じ目的を持つ泌尿器科医として心から祝福するとともに,多くの泌尿器科医と患者によって,この術式の客観的な評価がなされることを期待するものである。
B5・頁216 定価(本体8,200円+税)医学書院


症例クイズ的に学習できる脊椎の画像診断の全貌

ケースレビュー脊椎の画像診断
戸山芳昭 監訳/百島祐貴 訳

《書 評》宮坂和男(北大大学院教授・放射線医学)

 慶応義塾大学整形外科戸山芳昭先生と放射線科百島祐貴先生の訳によるBrian C. Bowen著『脊椎の画像診断』は,メディカル・サイエンス・インターナショナル社のケースレビューシリーズの1冊であり,同シリーズの『脳の画像診断』,『頭頸部の画像診断』と合わせれば神経放射線領域をすべて網羅することになる。
 一般に,臨床神経学あるいは神経放射線学に関する通常のテキストブックでは,脳疾患の章に比較して脊椎・脊髄疾患の占める頁数が少ない。しかし,脊椎・脊髄疾患は,脳疾患と同様に炎症性,腫瘍性,血管性,先天性,脱髄・変性,代謝性の他,多岐にわたる。また,椎間板変性疾患,脊椎椎間板炎,脱臼などの脊椎独特の疾患がある。日常診療において,脊椎・脊髄疾患に遭遇することは決して少なくないのである。

バラエティに富んだ脊椎・脊髄疾患の症例

 『ケースレビュー脊椎の画像診断』は,175症例におよぶ多くの画像を収集した。ほとんどの類の脊椎・脊髄疾患が含まれ,症例がバラエティに富んでいる。約260頁余りのペーパーバックの書であるため,ハンディでめくりやすい。本書は,症例提示の出題形式で進められていく。1頁に3-4コマの画像が示され,4つの設問がある。解答・解説・参考文献が裏頁に記述されている。解説は,疾患の病態,画像所見発現の機序,MR画像の原理などを含み,かつ簡明である。入門編,実力編,挑戦編の3部から構成されているが,必ずしも入門編が大変やさしく,挑戦編がきわめて難解というわけではないので,どの頁をめくっても症例クイズ的に学習できる。一方で疾患群別に学習することも考慮されており,巻末には症例索引が疾患分類別にリストアップされている。
 整形外科・脳神経外科・放射線科などの研修医が,さまざまな症例を経験するとともに,疾患ごとに系統的に学習することもできる。整形外科や脳神経外科では,専門医試験で脊椎・脊髄疾患のウエートが大きい。設問には,所見の抽出や鑑別診断のみならず,治療法に関するものも含まれているので,専門医試験を受けるこれらの領域の人たちが通読するのにも適した書である。
A4変・頁268 定価(本体6,800円+税)MEDSi