医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


時宜にかなった出版,待望のIVR手引き書

IVRマニュアル
打田日出夫,山田龍作 監修/栗林幸夫,中村健治,廣田省三,吉岡哲也 編集

《書 評》平松京一(慶大客員教授)

目を見張るIVRの進歩,発展

 近年におけるinterventional radiology(IVR)の進歩,発展には実に目を見張るものがあり,日常の診療には不可欠の治療手技となっている。その対象となる領域は全身におよび,その基本手技も多種多様である。
 このIVRは,画像診断に用いる手技を治療に応用するものであり,血管系のIVR(vascular intervention)については血管造影の手技,つまり経皮カテーテル法の手技を,また非血管系のIVR(non-vascular intervention)では,主として超音波ガイド下穿刺の手技などを十分にマスターしておくことが必要である。また最近は後者の場合,CTやMRIガイド下の穿刺法までも必要となってきている。
 このように多くの複雑な手技をマスターし,さらに血管解剖,CT,MRI,USなどの解剖を熟知しておかないとIVRを円滑に施行することはできないし,起こり得る合併症,適応,禁忌などについても十分な知識が要求されるのは当然である。

最先端のIVR施行の知識を濃縮

 現在までは,これらの問題点がすべてまとめられた手引き書は皆無であったが,このたび,医学書院より打田日出夫,山田龍作両先生の監修になる『IVRマニュアル』が刊行されたことは実に喜ばしく,時宜にかなったものと言える。世界のIVRパイオニアとして知られる打田,山田両先生の監修に加え,今や本邦のIVRをリードする栗林幸夫,中村健治,廣田省三,吉岡哲也の先生方の編集によりすばらしい書にまとめあげられている。
 まずIVRの基本手技と術前準備にはじまり,vascular intervention,non-vascular interventionに関するすべての手技につき,適応,禁忌,術前準備,手技,術後処置,成績,合併症,文献などが簡潔にまとめられている。特に,手技につき注意すべき点については「手技のポイント」,知識として必要事項については「メモ」として囲み記事として,本文とは別に記載されている。
 手技については,非常にわかりやすいシェーマがつけ加えられており,操作の理解が容易となるような配慮がなされている。
 最後には,IVRにおける被曝と防護について詳細な説明がなされ,さらにIVRに必要な解剖図譜がシェーマでつけ加えられており,IVRを施行する際に大いに参考となるすばらしい図譜となっている。
 以上のようにIVRを施行する際に必要な知識が濃縮されて記載されており,これからIVRを始める初心者はもとより,IVRの専門家にとっても大いに役立つ手引き書であると確信している。
A5・頁348 定価(本体5,800円+税)医学書院


「3つのi」を備えたトテモ稀有な本

医者が心をひらくとき(上・下)
A Piece of My Mind

ロクサーヌK. ヤング 編集/李 啓充 訳

《書 評》向井万起男(慶大助教授・病理診断部)

 JAMA(米国医師会誌)に医師たちが自らの経験を綴ったエッセイの傑作選というだけで,何となく心がときめいてくる。さらに,訳者が,2冊の本(『市場原理に揺れるアメリカの医療』,『アメリカ医療の光と影』)で日本の医学界に強烈なインパクトを与えた李啓充となれば,読まずにはいられなくなってくる。そして,実際に読み始めると,途中でやめられなくなってくる。私は,この本(上下巻)を2日間で一気に読み終えた。

読む価値のある本の条件

 この本を読み終えた私は,言わずにはいられなくなってきた。普段から私が考えていること。で,この本の内容に触れる前に,そのことを言わせていただきたい。
 最近,本を読む人が少なくなったと喧伝されている。実際,本がホントに売れなくなっているらしい。こうした傾向の原因として,読む側の知的好奇心の低下,テレビのような受動的媒体とだけ触れる生活習慣などを指摘する人がいる。しかし,私はそうは思わない。読む側に問題がまったくないとは言わないが,もっと問題にすべき点は本の側にあると私は思う。テレビにも負けない内容が盛り込まれた,読む価値のある本が少なすぎるのだ。
 では,読む価値のある本の条件とは何か。そんなの簡単だ。「3つのi」に集約されてしまうから。informative(貴重な情報を与えてくれる),interesting(メチャクチャおもしろい),inspiring(激しく感動させてくれる)。本というのは,この「3つのi」のうち少なくとも1つは備えていなければいけない。もし備えていなければ,売り出す意味もない。2つ備えていれば,結構イケル本。読み終わった後,「あぁ読んでよかった」と思える。3つ全部揃っていれば最高で,誰にでも薦められる。最近,iを2つ備えている本や3つ備えている本が少なすぎるのだ。特に,3つ備えている本が。
 さて,もうお気づきだろうが,この本は「3つのi」を備えた,最近ではトテモ稀有な本なのだ。こう言ってしまうと,もう内容についてオマエなんかにイチイチ説明して貰わなくてもイイと思われるかもしれない。まさにその通りなのだが,まるっきり説明しないで書評を終えるわけにもいかないので,チョットだけ説明させてほしい。

この本を読んでわかる感動の事実

 この本には,米国の大勢の医師が医療を通じて経験したさまざまな苦悩,挫折,悲哀,涙,夢,喜びが語られている。どれもが,エッセイを書く機会を得て初めて公表したに違いないと思わせる内容だ。当然,医師たちが実際に遭遇した患者さんが大勢登場してくる(実に多くの,さまざまな病気の,そしてさまざまな年代の患者さんが登場してくる)。で,語られている苦悩,挫折,悲哀,涙,夢,喜びは,語っている医師自身だけのものというわけではなく,患者さんのものでもある。いや,医師と患者さんが共有したものと言ったほうがイイのかもしれない。
 エッセイを書いているのは主に医師だが,看護師が書いているものもあるし,さらに,患者さんが書いているものもある。どのエッセイ1つをとっても,「3つのi」のうち少なくとも1つが含まれている。もちろん,2つ含んでいるもの,3つ含んでいるものもある。
 しかし,この本の本当に凄いところは,ここから先にある。医師や看護師といった医療関係者が読んでも,患者さんが読んでも,つまり誰が読んでも,読み終えた後に或る事実に気づくのだ。それは,それ自身だけで「3つのi」を含んだ事実だ。貴重な情報であり,メチャクチャおもしろいことであり,激しく感動させられる事実。それは,「米国の医師も患者さんも,私たちと同じじゃないか。ずっと前から私たちの心の中にありながら,私たちが気づかずにいたことを書いてくれている」という事実。
〈上巻〉四六判・頁314 定価(本体2,000円+税)
〈下巻〉四六判・頁330 定価(本体2,000円+税)
医学書院


精神科研修に必携の精神科ポケットリファレンス

困ったときの精神科ポケットリファレンス
井上令一,四宮滋子 監訳

《書 評》岸本年史(奈良医大教授・精神医学)

 2004(平成16)年から精神科での研修が必修になるが,時宜を得た本が井上令一,四宮滋子先生の監訳によって私たちの手にすることができるようになったことはよろこばしい。
 近畿地区9大学の精神科教室の症例検討の場で,この本に「血清ビタミンB12と葉酸」が「精神科入院患者全員に必要な検査」にあげられていることを紹介することができた。早速,他大学の若い研修医がその本を紹介してくれと尋ねてきた。また原本の執筆には,多くのメイヨー医科大学大学院のレジデント(病棟研修医)がかかわっており,彼らがどのように患者と面談しているか,カルテをどのように記載しているか,朝の回診までにどのような臨床検査をオーダーしているかなど,彼らの日常を想像することができる。

日常の臨床に必要な項目をこまやかに解説

 この本を概観して感心した項目をあげてみよう。病歴をとる上での遺伝的家系図の書き方,MMPIの臨床尺度の読み方,処方について患者に何を伝えるべきか,薬物の血中濃度は少なくとも5回服用後に測定すること,治療薬の一覧のFDA薬物胎児危険度分類,AIMSの点数評価法,救急外来での暴力的な患者にどう接するべきか,ハーブ療法その効用と危険性など,日常の臨床で必要とし,さらに知るべきことが示されている。またリファレンスすることが速やかにできる。精神科医は精神症状を診る,病歴をとるのはもちろんのことであるが,心理所見を読むだけでなく臨床検査やX線所見も読み,それらを患者や家族だけでなくコメディカルのスタッフにも説明できなければならない。
 監訳者も序文で述べている通り,「このような書を容易に手にできる米国の若手の精神科医は恵まれていると思う」。実は,評者は英語版の原書を持っている。しかしあたり前のことであるが,日本語のほうがすぐに頭に入るということを痛感した。簡潔で正しい日本語訳でもって供された訳者に深謝する次第である。なお邦訳題名は,『困ったときの精神科ポケットリファレンス』と誠実で控え目な訳であるが,「必携の精神科ポケットリファレンス」としたい。
A5変・頁264 定価(本体3,600円+税)MEDSi


身近に迫った患者の自殺,求められる防止対策

医療者が知っておきたい自殺のリスクマネジメント
高橋祥友 著

《書 評》西島英利(日本医師会常任理事)

 この数年,年間自殺者総数が3万人を超えている。警察白書によると自殺の原因第1位は,「病苦」である。「病苦」により自殺した人々のほとんどが何らかの身体的症状を訴え,内科,整形外科などの多様な診療科を受診していた上での結果である。

各診療科にもある患者自殺の危険

 最近,厚生労働省内に「自殺防止対策有識者懇談会」が設置され,本書の著者もその委員として意見を述べている。その中での意見の大勢は,一般医療関係者(特にかかりつけ医,産業医など)に対する自殺防止のための知識の研修,精神科医などとの連携の必要性である。また,仰うつ状態が関与していることも指摘されている。精神科医療従事者にとっては,仰うつ状態は専門分野であり自殺は常に念頭に入れて対応しているが,一般医療従事者はその意識がなかなか生じにくい。しかしこの意識の有無が,病苦による自殺の数字としてあらわれているとも言える。
 このような時代の流れの中で出版された本書である。読んでいくと各診療科を受診しているかなりの患者が自殺の危険を持っており,その心理を理解することにより対応することの重要性が書かれている。さらに重要なことは,不幸にも自殺の経過をたどった時の遺族や他の患者,またはそれにかかわった医療従事者へのフォローの問題であることも指摘している。症例も豊富に書かれており,非常に実践的なわかりやすい内容である。自殺は単なる結果ではなく,病気の延長の中で起きる不幸な終結であるということを認識し,医療従事者が自殺防止対策に本書を利用されることを強く期待する。
 特に医療の最前線で患者と接している看護スタッフには,ぜひ一読してほしい1冊である。
A5・頁188 定価(本体2,600円+税)医学書院


「わかる!」ためのポイントを伝授する心電図入門書

はじめての心電図 第2版
兼本成斌 著

《書 評》小沢友紀雄(日大総合科学研教授・内科学)

心電図を教えるノウハウを知りつくした著者の好書

 このたび兼本成斌博士が『はじめての心電図』を改訂され,第2版を出版された。兼本博士は循環器専門の優れた臨床家で,特に心電図に愛着を持って長年にわたりその臨床と教育に携わってこられ,筆者をはじめ多くの専門家が尊敬の念を抱いている方である。本書はさすがに心電図を教えるノウハウを知りつくした博士が書かれた内容となっている。
 「心電図の基本を学ぶ」,「心筋梗塞と心電図」,「電解質・薬剤の影響を理解する」,「不整脈心電図を読む」,「その他の心電図検査・人工ペースメーカー」の各大項目に分けて,それぞれの中で初心者が学ぶべき心電図の知識を実にわかりやすく解説している。その内容は,心電図の正しい記録の仕方から人工ペースメーカーなどの最近の治療法まで幅広く,ナース,検査技師から医学生や臨床医に至るまで広い範囲の方々に対する心電図の入門書として恰好の内容となっている。しかも,Brugada症候群や抗不整脈薬のSicilian Gambit分類など,最近の知見もきちんと盛り込んである。

群をぬく鮮明な心電図

 世に多くの心電図の書が出ているが,心電図の図が鮮明でないものが多い。筆者も心がけている持論は,「心電図の解説書の心電図波形は読者にわかるような綺麗なものでなければならない」ということである。その点,本書の心電図は鮮明で,著者の言いたいことが読者に理解しやすい。また,解説のために描かれた多くの図がわかりやすく,読者への親切な気配りが感じられる。
 各項目の中の主題は,「考え方のポイント」,「診断のクライテリア」,「まとめ」に整理され,理解を容易にするための工夫がなされているのがよい。さらに,各主題の最後に「セルフチェック」が設けられ,読者がその主題を理解できたか自分で確認できるようにしてあるとともに,本書の最後に医師国家試験を念頭に置いた「セルフアセスメント53題」(これは兼本博士の労作と言ってよい)が掲載されている。これらの問題を試すことで,読者が本書でどのくらいの実力をつけたかを自己診断できるようになっている。もともと心電図診断はクイズのようなおもしろさがあり,落とし穴も仕掛けもある。本書を熟読した後で,本書の表紙に仕掛けられたクイズを解くことができれば,その読者は立派な心電図の読み手になったことを意味する(編集部註:この“クイズ”は制作上のミスにより生じたもので,著者が企図されたものではございません。この場をお借りし著者ならびに読者の皆様にお詫び申し上げます)。
 医学生のみならず,医療に携わるあらゆる分野の方々に,心電図の入門書として本書が広く読まれることを期待したい。
B5・頁340 定価(本体4,500円+税)医学書院


ビジュアルに記述された米国リウマチ学専門医の真骨頂

内科医のための
リウマチ・膠原病診療ビジュアルテキスト

上野征夫 著

《書 評》黒川 清(東海大総合医学研究所長/東海大教授)

満を持して書き下ろしたリウマチ学テキストブック

 毎年,日本から米国留学に出かける医師の数は多いが,ほとんどが研究室留学である。米国医学の真骨頂である臨床医学に接し,それを会得して帰る人の数はきわめて少ない。だからこそ,最近になって英米医学教育や臨床研修をした人たちの本が話題になっているのであろう。本書は,その数少ない医師の1人,上野征夫氏が帰国後20年,満を持して書き下ろしたリウマチ学のテキストブックである。
 本書をみるポイントに2つある。1つは本書が医学書として著者のリウマチ病を見つめる視点を貫きながら,一方ヨーロッパから米国に伝わった伝統的リウマチ学の正統性をはずすことなく,完璧なスタンダードテキストブックとして完成させたということである。2番目に,私たちが本書から学ぶべき点として強調したいのは,患者さんに対して目で見て,耳で聴き,ベッドサイドで教えを受け,医療行為の一挙手一投足すべてが,監視のhand by handで実践力を培わせる米国医学の真髄をこの本を通して垣間見ることができることにある。
 「総論」では,手や肩,腰,膝など,日常人々の会話の中に出てくるような身近な痛みに対しどのようにアプローチして診断し,患者に説明するかをわかりやすく解説している。また,「各論」では,主なcollagen-vascular diseaseの臨床像を豊富なカラー写真を用いて記述している。章立ては,あくまでコンパクトである。高齢化がまっただ中の社会においては,今日の医師にとっても重要な変形性関節症と骨粗鬆症については,十分なスペースを割いている。さらに文章の「テンポ」がよいので読みやすい。生き生きしている。

医学のアートの部分に迫る

 血液検査の項では,RAテストや抗核抗体陽性をどのように意味づけ,解釈をするのかを述べ,必要以上の不安を患者に与えないように諭している。また,痛風や偽痛風の診断には,関節液検査と鏡顕が診断に絶対的検査であることを美しいスライドを使ってみせる。
 しかし,本書でキー的に重要な章は,「単関節炎,多関節炎からの鑑別」の章であろう。すなわち,関節の炎症が急性か慢性か単発性か多発性かによって診断名を絞り込む方法は,まさに医学のアートの部分である。英国や米国の医学生は問診で80%以上,身体所見で90%以上診断にもっていくようにと訓練される。
 著者は日本で医学部を終えた後,ハワイ州の日系の病院でインターンを行なった後,南カリフォルニアの病院で内科学を修め,その後UCLAでサブスペシャリティとしてリウマチ学を専攻した。James Louie,Euqene Barnnet,Rodney Bluestoneなどの優れたお手本に遭遇し,すばらしいリウマチ内科医に成長した。私は,UCLA内科に勤務している時に上野氏に遭遇したが,今でもBarnnet,Bluestoneなどは懐かしい。上野氏とはそれ以来の友人であり,診療に忙しい毎日であるが,第一線の診療を行ないながら,そこで経験した症例を欧米の英文誌にもいくつも発表している。また東海大学の内科教授(非常勤)として私たちの教育にも参加していただいている。
 米国の医学教育制度は,4か年の大学を終了し所定の単位を取得した後,大学院としての4年制の医学部コースに入る。その後,例えば内科専門医となるためには,初年度のインターンを含め,合計3か年のレジデント修練を続けなければならない。さらにリウマチ学などでサブスペシャリティに進む人のために,科によって異なるが大抵2-3年のフェロー制と呼ばれる専門医へのトレーニングシステムがあり,それを終えてはじめてサブスペシャリティの専門医受験資格が与えられる。トレーニング期間は,長くはなく濃縮されている。英国でも医療供給制度は,National Health Serviceのシステムで,各専門医定数は国で決められているが,米国でも専門医研修のポジションは限られ,プログラム内容は毎年査定を受ける。あたかも工業製品を製造するように均質で質の高い医師を輩出して,自分たちでquality controlを維持しながら社会的責任を果たそうとすることがアメリカ医学教育制度の特徴の1つでもあると言われるが,著者はその「お手本(role model)」と言うことができる。
 本書はリウマチ学に興味を持つ,あるいは数多くの骨・関節の訴えを持つ患者を診る機会の多い医師のために執筆された本かもしれない。日本での標準教科書になると言える。私としては,医学教育に携わる人たち,医学の教育がどうあるべきか興味のある人たちすべてが本書に触れ,医師づくりのゴールをどこに置くべきかを知ってもらいたい本である。米国の医学臨床研修制度の実体験者からの日本の卒後研修制度に迫る,そしてこれからの医師たちへの熱い提言を受け止めてもらいたい。
B5・頁244 定価(本体6,800円+税)医学書院