医学界新聞

 

〔特別企画〕これからの専門医のあり方

「質」が問われる時代の専門医

日本内科学会「専門医制度」の現状と課題

【インタビュー】小林祥泰氏(日本内科学会認定医制度審議会長,島根医科大学教授)


●確立しつつある内科医の専門教育制度

―――内科専門(認定)医制度の現状とは?
小林 内科学会の認定内科専門医制度の特徴は,「認定医(認定内科医)」と「専門医(認定内科専門医)」の「2階建て」の仕組みになっていることです。認定医は国家試験取得後3年間の内科研修,専門医は認定医を取得し,かつ5年間以上の内科研修を終了した者に,それぞれの試験の受験資格が与えられ,毎年試験が行なわれています。

臨床に対する評価がなかった時代

小林 内科専門医は1968年に,アメリカの専門医制度を手本にして,「日本でもそういうものを作らなければいけない」と,日野原重明先生(聖路加国際病院理事長)たちが中心になってつくられたものです。これはすべて試験によるもので,過渡的認定は一切行ないませんでした。発想はすばらしかったのですが,新しすぎて,周りの人の理解が得られず,特に古い大学においては,まったく関心が示されませんでした。称号として何がほしいかといえば,博士号だという時代でもありましたし,臨床に対する評価がなかったといってもいい時代でした。臨床の基本的な訓練をまったく行なわずに1つの専門の研究に走ってしまうケースが,少なくなかったわけです。
 少し話がそれますが,アメリカでなぜあれだけ臨床医学が発展したかというと,そこが違うわけです。どれだけのトレーニングを受けたかをしっかり評価している。また,レジデントを受け入れる研修指定病院の基準も非常に厳格に定められています。日本では,どこの大学を出たかということばかり聞きますが,アメリカでは,どこの病院でレジデントをしたかということのほうが重要なんです。きっちりした訓練を受けているかどうかの証拠になりますから。

過渡的な称号としての内科認定医の誕生

小林 さて,医学界全体の理解が十分でない状況で内科の専門医制度を始めたわけですから,いろいろな課題を抱えながらのものでした。その1つは,試験を受ける人が増えないという問題です。10年経っても専門医は何百人という程度でした。内科学会は現在,約8万人の会員がおりますが,当時はその約半分程度だったと思います。しかし,その中で専門医制度は広がらず,あまり発展しませんでした。
 その一方で,ある時期から,他の学会が認定医制度を始め,それが普及していきました。もちろん,麻酔科のように最初から厳格にやっているところもありますが,過渡的認定によって多くの学会が5000人とか,1万人という数の認定医をつくってしまったわけです。すると,内科学会のやり方は,他との比較でアンバランスではないか,という議論が出てきました。
 そこで,専門医とは別に,3年間の内科研修後に受験資格が与えられる「認定医」を別につくったわけです。この制度は1985年から実施され,過渡的措置(3年間)による認定で,約2万2000人の認定医が誕生しました。これでいっきにバランスを取ったわけです。
 ただ,ここで強調したいのは,認定医はあくまでも基礎的な内科の力を持っているという証明であり,それを持った上で,血液や循環器,消化器などのさらに専門的なトレーニングをやり,各内科系の専門医の資格を取るべきものだということです。つまり,認定内科医とは自らの専門を得るまでのあくまで過渡的な称号なのです。一方,内科専門医は,最近増えてはいるものの,非常に数が少ない状況です。内科学会8万の会員のうち,認定医が約4万2000人,内科専門医が約7000人です。一定の研修機関で教育を受けて,しかも症例を50例出さなくてはならないので,試験が難しいというよりも受けるまでが大変なのです。
 以上のような流れで内科学会の認定内科専門医制度は現在の姿になったわけですが,この「2階建て」の仕組みは当面変化することはないと思います。

必修化される初期研修の位置づけ

―――2004年より2年間の卒後臨床研修が必修化されますが,この2年間は内科研修期間としてカウントされるのですか。
小林 必修化後の初期研修プログラムについて,内科学会としては,2001年に,内科系研修を少なくとも12か月は確保してほしいと要望を出しました。現在の厚生労働省のプログラム案では,内科が6か月以上となっていますが,救急の3か月,あるいは地域保健・医療のプライマリ・ケアや各プログラムが独自に設ける選択期間で,内科的なものを多く学べるわけですから,要望が受け入れられたとも言えるし,不十分だという見方もあります。しかし,たとえ産婦人科,外科,小児科であっても,プライマリ・ケアの基本については経験しておくことは非常に重要なことであると考えており,初期研修の2年間すべてを内科の認定医・専門医の研修期間としてカウントするという方針です。そして3年目に内科をきっちりやって,3年間で内科認定医をまず取ってもらうと,これが今後の内科医の基本的なあり方となると思います。

●専門医の質の向上に内科学会として取り組む

広告規制の緩和をどう捉えるか

―――昨(2002)年の4月より,専門医広告の規制緩和が行なわれたことについては,どうお考えですか?
小林 アメリカやイギリスでは専門医そのものに明確な差をつけています。その資格を得ると待遇がぜんぜん違ってくるのです。メリットが違うわけですから,勉強する側のモチベーションもまた違うわけです。例えばアメリカの内科学会へ行きますと,教育プログラムがたくさんあり,超満員になるんですね。やはり免許の更新にかかわりますから,必死です。質問も非常に活発で,学会自体の内容,役割もまったく異なります。
 ところが,日本の場合には患者さんにとってもよくわからない専門医制度になってしまっているし,医師にとっても専門医を取得したからといってメリットがあるわけでもなかった。このメリットがないということこそ,いままで専門医制度が無視されてきた最大の理由です。
 昨年から「専門医」を広告することが認められて対外的に表示できるようになりました。つまり,ようやく専門医を取得することのメリットが出てきたのです。そして,その次には必ず保険制度の中に差が出てきます。すでに外科領域では,専門医が入っていない手術は点数を落とすということになってきています。医師個人の報酬に差をつけることはないにしても,すでに専門医の有無が施設認定をする際の要件になってきているわけです。あるいは,今後,「内科専門医が何人以上いないと研修指定病院になれない」というようなことも出てくるかもしれません。専門医制度の発展にとって大きな一歩になるのではないかと期待しています。

国民にわかりやすい制度を

小林 しかし,それよりも,例えば外科の先生であっても,内科とか小児科とかいっぱい表示していて,「この人は本来,何科なんだ?」という状況が問題なのです。この人は実は外科の専門医であるということがきちんと表示されれば,それを承知の上で患者さんは受診できるわけです。専門医の表示は国民にとってもメリットのあることなのですから,それに対して日本医師会が反対するのはおかしいと思います。また,非常にお年をめした方は専門医の資格を持っておられないわけですが,「持っていない人がいるから不公平だ」というのはおかしいです。努力して資格を取った人は,差をつけるべきです。足を引っ張るような悪平等を主張すべきではありません。これからの医師の質を社会に対してどう保証していくか,これからの医師をどう育てていくのか,という問題なのですから,今後も理解を広げていきたいと考えています。

広告認可申請の見通し

―――広告の認可を得るための手続は,内科系各学会で順調に進んでいますか。
小林 内科系学会の多くは,ほぼ申請を出せる状況にあります。内科系で問題があるのは,例えば消化器です。消化器病学会の中には,消化器外科医や小児科医もいます。あるいは,アレルギー学会もそうです。眼科医もいれば,耳鼻咽喉科医もいる。リウマチも複数の診療科の医師が所属している。結局それらの学会がどう結論を出すかということが,問題になると思います。
 まずは,そのような学会としての方針がはっきりしていて,厚生労働省の示している外形基準を満たしているところから申請するということになると思います。申請自体はそれほど難しいことではないですから。
 もちろん,内科専門医についても早いうちに申請を出す方向で調整中です。

専門医制度の今後の展望

―――最後に,近い将来,この専門医制度がどのように発展していくべきか,お考えをお聞かせください。
小林 実際に,対外表示ができるようになったということは,厚生労働省が専門医を正式に認めたということとも言えます。今後,施設や医師の評価に専門医の有無が入っていくることになると思います。
 ですから,学会として取り組まなくてはならないと考えているのは,むしろ専門医の質の向上です。まず国民から「やはり,専門医はレベルが高い」と評価されなければ,「名ばかりの専門医」と言われてしまいます。内科専門医について言えば,人数も少なく,すべてが試験を受けた人たちですので,それほど質の問題はないのですが,学会によっては質のバラツキもあります。一定の更新制度,あるいは第三者による評価をしっかり国民にわかるような形でつくることが必要だと思います。
 まずは,自分たちのレベルの向上と維持,このための教育が非常に大事だと思っています。したがって内科学会としての今後の取り組みとしては,生涯教育プログラムを重視して考えるべきです。医師免許も将来は更新制が導入されるかもしれませんし,そうあるべきではないかと思います。そのような時,内科学会はいちばんの基本領域にあるわけですから,率先して仕組みをつくっていく義務があると思います。
 アメリカの内科学会をみて非常に驚いたのは,やはり徹底して教育を担っている点です。日本内科学会は,かつては「教授の学会」と呼ばれていましたが,認定医制度ができて,更新が必要になったために,人数も参加者もどっと増えました。だからこそ,教育は重要になる。いまも力を入れていますが,アメリカなどに比べると,本当の意味の教育,いわゆる超専門ではない人のための教育は不十分ではなかろうかと考えています。今後は,そういう方向に徹底していかなければいけないのではないかと思っています。
―――ありがとうございました。