医学界新聞

 

第64回日本臨床外科学会開催

「臨床外科:あしたへの架け橋」をテーマに話題性ある演題を企画




 第64回日本臨床外科学会が,小柳泰久会長(東医大教授)のもと,さる11月13-15日の3日間,東京・新宿の京王プラザホテルにて開催された。会長の小柳氏は,東医大附属病院長も務めていることから,「卒後臨床研修」や「外科専門教育」,「医療事故防止」や「セイフティマネジメント」,あるいは「保険医療」や「情報公開」など,医療現場で今話題の演題が多数企画された。

米国からの招聘演者の提言

 特別講演「米国の医療過誤防止から何を学ぶか」では,作家で前ハーバード大助教授の李啓充氏を招聘。李氏は,医療過誤防止について「米国に学ぶべきなのは,医療システムのプロセスの見直しだ」と述べ,「誰」ではなく,「なぜ」と問うべきであり,「punishment」ではなく,「prevention」の発想が必要だとした。また,米国の医療過誤防止のあり方に大きな影響を与えた事例を紹介し,医療過誤を防止するためには,「医療文化の改革」が必要だと強調した。
 また,同じく米国から教育講演に招聘された木村健氏(アイオワ大名誉教授)は「米国の外科卒後研修制度」について講演。米国では,専門医研修と一体化した臨床研修が行なわれているが,「外科研修(レジデンシー)を修了しなければ只の人」,「研修を終えていない医師に診療報酬なし」と,専門医資格を中心とした厳しい米国外科研修制度を,歯切れよく解説した。さらに木村氏は,「高度なスキルは高値で売れる」,「スキルは医師個人の財産」と述べ,研修を終え,専門医を取得した後に開けるプロフェッショナルな世界を紹介し,適切に技術を習得させるための研修制度と,医師の技術を評価する仕組みの重要性を示した。
 講演の最後に木村氏は,米国の卒後外科研修制度同様に,日本の外科研修でも「単独で手術のできる外科医を育てること」を目標としてはどうかと提言。その上で,取得すれば「それだけで食べていける」ようなしっかりとした質に裏打ちされた専門医制度の構築が必要との考えを示した。

若手医師らが発言

 特別パネルディスカッション「卒後臨床研修の義務化へ向けて」(司会=出月康夫副会長,佐藤裕俊副会長)では,星北斗氏(日本医師会常任理事),中島正治氏(厚生労働省医事課長),矢崎義雄氏(国立国際医療センター総長)ら新医師臨床研修制度の設計にあたったメンバーが招かれ,新制度の趣旨,課題,展望などについて議論が行なわれた(2514号で既報)。
 本パネルでは,これらのパネリストたちの口演に続いて,近年,研修医を修了した2人の若手医師たちが登壇し,学ぶ研修医の視点から発言する場も設けられた。この中で,尾形高士氏(東医大第3外科)は,自身が研修した東医大と県立がんセンターの比較を交えつつ,大学病院での研修の問題点として「低賃金」,「社会保険なし」,「雑務による不規則な生活」,「長時間勤務」などを指摘。今後大学病院での研修には「処遇の改善と,十分なプライマリケア研修を可能にするための,効率のよい院内ローテーションや関連病院などの活用が必要だ」と述べた。一方,峯真司氏(虎の門病院)は「インターン時代から立派なレジデント制度を持つ」という同院の充実した研修システムを概説した上で,「独自の研修プログラムを持っていた病院にとっては,必修化によってその特徴が失われるのではないか」と危惧を表明した。