医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護教育学研究に必要な知識と技術を解説

看護教育学研究
発見・創造・証明の過程

舟島なをみ 著

《書 評》小川妙子(順天堂医療短大教授)

 看護学教員は,専門の看護学各領域の教育研究に取り組んでいる方も多いであろう。本書は,「看護教育学」と言う,「看護学各領域に普遍的に存在する要素である看護教育制度やカリキュラム,看護学教員や看護学生,看護学教育評価などを対象として研究を展開する学問」の研究に関する著作である。本書は,あらゆる看護学領域の実践者や教育者に共有できる普遍的な知識を生み出すために必要な知識,技術,態度を体系的に提示している。

ありのままの現実から理論を開発する姿勢が持つ説得力

 本書の第1の特徴は,1979年の国立大学唯一の看護教育学講座(千葉大学)開設以後の20余年にわたる看護教育学の研究成果の蓄積をもとに,要所に多様な研究成果の紹介がなされ,その結果に基づいた論述ゆえの説得力である。またその説得力は,著者の「看護実践や教育のありのままの現実から理論を開発する」と言う,一貫した姿勢からもきている。
 第2の特徴は,看護教育学研究の研究成果を,看護実践や教育に還元し,現実を改善するという理念から,開発した測定用具を読者が実際に実践に活用できるレベルまで,詳細に論述がなされていることである。
 本書は,3つの部分から構成されている。
 第1章は,看護教育学の目的達成のために,個々の研究が体系のどこに位置づけられるのか,基盤研究,応用研究,統合研究の意義と特徴が示されている。また,看護教育学研究に必要な倫理的配慮の指針と手続き,倫理的問題が示されている。
 第2章は,看護教育学の理論開発に必要な研究方法論について,独自に開発された「看護概念創出法」の目的と機能をはじめ,具体的展開が紹介されている。次に,看護教育学における現実適合性の高い測定用具の開発は,「看護学実習教授活動自己評価尺度」の実際の開発過程に沿って,理論的枠組みから信頼性・妥当性の検証の各段階について論述されている。さらに理論検証は,キング看護理論の検証について,詳細な文献検討と推考からの課題を提言している。
 第3章は,「看護教育学研究のための測定用具」について,5種類の測定用具を提示し,デモグラフィックデータ収集,教授活動の測定,授業過程評価のための測定用具の作成過程から活用方法を説明している。

知的刺激に満ちた看護教育学研究

 まさに本書は,そのタイトルが示すように,看護教育学の理論となる知識を発見し,創造し,検証する過程を,研究成果に基づいて緻密に展開している。同時に,「看護教育学」という看護学の中の後発学問が,看護教育学研究によってどのように体系化されていくのか,その道筋が見える,知的刺激に満ちた書である。看護実践や教育に携わる多くの方々が,本書に掲載された測定用具を実際に活用され,実践に役立てられることを確信し,お勧めしたい。
B5・頁244 定価(本体3,200円+税)医学書院


かくも複雑な内服与薬業務での医療従事者の協働に向けて

ヒヤリ・ハット報告が教える
内服与薬事故防止

川村治子 著

《書 評》陣田泰子(聖マリアンナ医大病院看護部長)

ヒヤリ・ハット報告を現場で働く人々と共有

 本書は,ヒヤリ・ハット事例を提出することは大変な勇気を必要としたはずで,その勇気を無駄にしない,そして研究結果を多くの現場に働く人々と共有したいという著者の思いから生まれた。著者は,医療の現場で日常的に行なわれている与薬業務は,実は臨床の3部門(医師・看護師・薬剤師)にまたがる時間・空間をくぐって患者のもとへいきつくという複雑なシステムを形成していることにまず言及している。
 本書の特徴は,その複雑多岐にわたる与薬システムを6つの業務プロセスに分け,さらにエラーの内容を(1)対象エラー,(2)薬剤エラー,(3)薬剤量エラー,(4)投与方法エラー,(5)その他エラーの5種に分類し,30のマトリックスで分析していることにある。
 日夜業務を担当している当事者は,当然この与薬業務の構造をわかっている。しかし,実は提示されてこれほど複雑なシステムであったのかと,改めて気づいた。
 事故防止対策を実施しているつもりでいたが,その対策は著者が嘆く対症療法的であり,本質的な療法になり得ていなかったことを自覚した。なぜならば,認知していない事柄に対して予防対策は行なわれないからである。
 整理・分析の考え方も,医療事故における2つの危険要因の違いについて記述されている。危険要因が患者側にある転倒・転落事故と医療側の積極的な介入で発生する与薬事故は,おのずと危険要因の所在が異なり,整理・分析方法は,その特徴をとらえて選択するべきものであると,著者は強調している。その結果,多数事例を分析する際の事実の整理方法として,2軸にその要因を配置したマトリックス法となった。
 本書では,その整理・分類法に沿って収集した具体的な事例が提示されており,事例番号も付記されている。この点は,今後各セクションで,あるいは全病院的に発生した事例の整理方法としてヒントとなる施設も多いのではないだろうか。

戦いに突入した臨床現場での「安全戦争」

 第4章の「精神科病棟ではなぜ患者間違いが多いのか-その背景要因と対策」では,一般病棟と比べて2倍以上の患者間違いが発生している事実を提示している。
 第5章の「注射と比較することで見えてくる内服与薬エラーの発生要因」では,注射と比較分析することで,内服与薬のエラーの特徴を際立たせている。比較することによって両者の特徴を明確にし,内服与薬事故に対する特徴の記憶と理解の促進を意図している。
 看護部長としては,看護部所属セクション全体のセーフティマネジメントも重要であるが,まずは各自の所属部署のリスク認知を確かにして対策に取り組んでもらいたいと願う。各部署の事故防止対策は,まずその部署の特徴の把握,そして発生した事故内容の分析を踏まえ,他部署とは異なる要因の特徴を明らかにしてターゲットを絞り込み,効果的に進めない限り“モグラたたき”の域は出ない。今,臨床の現場では,J. Reasonの言う「安全戦争」に突入している。この終わりのない戦いにいかに賢く取り組んでいくか,各施設ごと,部署ごとの緊急課題となっているはずである。
 第7章に「もし,…ならば内服与薬エラーは起こらない」と,6項目が記載されている(各自読んで確認されたし!)。今後,対応策を進める上で重要な点は,医師とともに薬剤師との協働が焦点となるのは間違いない。その際,本書を有効に使うことも重要な戦略になると,いま密かに考えている。
 読み終えての感想として言うならば,読み手の頭を整理するためのレイアウト上の工夫も随所にされている。欲を言えば具体的,現実的な対策をという著者のこだわりが,「看護師との協働」あるいは「具体的な病院での実践例」などの形で含まれていたらと期待してしまう。しかし,これらは本書を踏まえて,今後私たちが示していかなければならないことではある。
A5・頁104 定価(本体1,600円+税)医学書院


「あっ,困った!」そのときの臨床看護の知がイッパイ

困ったときの呼吸器疾患患者の看護
花田妙子 編集

《書 評》勝 京子(順大浦安病院)

 熊本大学の花田教授の編集による『困ったときの呼吸器疾患患者の看護』が出版された。日々の忙しい勤務を終えてから,厚い難しい書籍は読みにくいものである。その点,本書はわかりやすい表現で,コンパクトで読みやすい。
 臨床のベテランナースによる執筆のため,書かれている内容は,具体的で,臨床の場面が容易にイメージでき,魅力的である。日常生活の援助や患者への指導場面が取り上げられており,家で本書を読んでいるのに,自然と病室で患者様と接している感覚がよみがえってくる。
 私は,呼吸器,消化器疾患の内科病棟で勤務している。呼吸器疾患では肺癌,間質性肺炎,気胸,慢性閉塞性肺疾患,肺結核,喘息などのさまざまな患者様が入院されている。私が呼吸器疾患患者の看護を行なう中で大切にしていることは,(1)呼吸困難による肉体的苦痛をいかに迅速に軽減できるか,(2)生命危機への不安に対する援助,(3)呼吸器特有の器械・器具の技術習得,(4)肺理学療法・日常生活指導である。
 本書には,これらの呼吸器疾患看護の基本となる内容がすべて網羅されている。「肺癌を告知されず進行する症状に苦悩し続ける患者」や「在宅鎮痛療法を受ける苦痛の強い末期肺癌患者」では,従来の堅苦しい書籍とは異なり,患者様のありのままの言動,それに対する看護師の実際の言動が随所に記述されている。つまり臨床での看護過程が,ベテランナースにより再構成された1冊となっている。

ベテランナースが日常の看護実践から臨床の知を言語化

 特に,本書の第1章「肺癌を告知されず進行する症状に苦悩し続ける患者」の場面は,「あっ,こういう場面があった。患者様から言われて困ったけれど,この本のような対応のほうがよかったかな」と素直に感じた。日頃,私たちが行なっている看護が患者様の欲求に十分に応えられているのか,また効果的な看護サービスが提供できているのか,と本書によって振り返ることもできた。
 新人からさまざまな経験年数の看護師がいる中で,患者様に同じ質のよい看護を提供することは,重要な課題である。本書は17の症例それぞれに,患者様の状況と問題点,対策につづき看護の実践場面が事例紹介されているため,看護過程の展開が明確になっている。臨床で看護上の問題に直面し困った時は,本書を開けばベテランナースの言語化された看護実践から,どのようなケアや患者指導が必要かを導き出すことができ,とても有効な参考書である。
 新人教育での指標として,また自分の看護の振り返りなど,あらゆる経験年数の看護師,そして看護学生と幅広く,呼吸器疾患患者の看護に携わる人々に活用できる待望の書籍と考える。
A5・頁216 定価(本体2,300円+税)医学書院


ロイ適応モデルのエッセンスがわかる

ロイ適応モデルにもとづく看護アセスメントツール
Joan M. Seo-Cho 原著/野呂レナルド,柴田理恵 訳

《書 評》大島弓子(山梨県立看護大教授)

進むロイモデルの研究,広がる実践への広がり

 この書に触れて,少なからず驚愕を覚えた。なぜならば,私もロイモデルを基盤にしたアセスメントツールを作成し,現在,学生や看護師の教育に活用しているからである。したがって,なるほどと納得のいく箇所も多く,また,「あれ?」とやや疑問に思う箇所もあり,多様な思いや考察を加えながら,そして内容を身近に感じつつ1頁1頁を読み進めた。
 私は,今年3月にボストンカレッジのロイ先生のところで研修をさせていただいたが,その折にロイモデルの研究がさらに進み,かつ実践への幅が広がっていることを実感した。しかし,看護モデルを実際に活用するには,それに対応した具体的な手段を携える必要があることも常に感じている。つまり,ロイモデルの看護過程を展開するのにアセスメントツールを開発することは,このモデル実践のための手段となり得るわけである。
 Seo-Cho先生のこの書は,初学者である学生に向けて,ロイモデルを成人看護の領域で活用できるアセスメントツールにとの意図で開発されている。実践的に看護教育に取り組んでいるSeo-Cho先生の熱意を本書から感じ,同様な悩み,迷いを抱きながら教育にあたっている私は共感を覚えた。機会があれば先生から,どのような点が看護過程展開に難しいか,どのようにアセスメントツールを活用するとよいか,このツールの開発はどのように継続していくのか等々うかがえればとも感じた。

ロイモデルの4つの適応様式にそってアセスメントツールが展開

 本書は,ロイモデルの4つの適応様式にそってアセスメントツールが示されており,前半は生理的機能様式で,後半は心理社会的な適応様式である自己概念・役割機能・相互依存様式である。この前半と後半はともに,ロイモデルの看護過程の特徴である第1段階アセスメント,第2段階アセスメントの2つのアセスメントに対し,それぞれ行動と刺激を示し,看護診断へとつながっている。看護診断は,ロイモデルの適応問題およびNANDAの看護診断の使用もしている。しかし,前半の第1段階アセスメントにある1つひとつの行動に対する規範は,後半では十分に記されていないなど,スタイルが多少相違している。これらについて,私もツールを作成する上で同様な思いがあったため,「なるほど」と改めて考えさせられた。心理社会的適応様式においてもアセスメントツールにするならば,何らかの規範あるいはモデルを示すことが必要だろうと私は考えてはいる。しかし,それには適応を示す具体的な行動を広く研究する必要があるため,現段階ではツールとして明言できないでいる。Seo-Cho先生はこの点,どうとらえていらっしゃるのかも,うかがってみたいことである。
 本書に限らず,アセスメントツールは看護実践をするには具体的で有効であるが,時にはそのツールに縛られてしまうこともある。つまり,そのツールにとらわれ,そこに示されている情報を網羅することに追われたり,他の情報を排除してしまったりすることがあるからである。また,ツールにそって情報収集したとしても,その次にある分析・統合・判断をするためのクリティカルシンキングが十分にできなければ,結果として適切な看護診断,看護介入へとは向かわない。
 したがって,Seo-Cho先生が長年,苦労されて開発されたアセスメントツールの本書を有効に活用するために,ツール全体が意味する内容,例えば生理的様式の「酸素化」であればどういう状態が「酸素化」で適応しているというのか,「相互依存様式」ではどのような人間関係であることが適応しているのか,など理解しておくことは必要なことであろう。また,クリティカルシンキングを十分活用することも,本書のもつ有用さを増すものと考える。具体的なツールが示されている本書は,学生のみならず臨床や在宅でケアを行なっている看護師にも,アセスメントの手助けになるものであり,活用できるものである。ぜひ,有用に活用していただきたいと思う。
 私はこの書を読んでいて訳者の方々のロイモデルへの思い,Seo-Cho先生への親しみが随所に感じられ,3月にお会いしたロイ先生の笑顔とファイトとが重なって思い起こされた。Seo-Cho先生の開発された本書を活用しながら,日本でのツールづくりを,さらに見直し検討しようとあらためて考えさせられている。
B5・頁112 定価(本体1,600円+税)医学書院


看護状況に応じたリーダーシップを伝授

看護にいかすリーダーシップ
状況対応とコーチングの体験学習

諏訪茂樹 著

《書 評》金井Pak雅子(東女医大教授)

気の重い役割の雰囲気を解消

 病院に勤務する看護師にとっては,経験年数が3年以上くらいになると,ほぼ必然的に「リーダー研修」に参加することが義務づけられている。それまでの1メンバーとしての役割から,チームを率いるリーダーとしての役割を期待され,そのためのトレーニングとして集合研修が行なわれる。しかしながら,とかく看護師の間では「リーダーは気の重い役割」などという雰囲気が漂っているのが現実である。
 「看護にいかすリーダーシップ」は,そのような気の重さを解消してくれる内容である。読みやすさが読者を引きつけるのみでなく,要所に具体的な事例や解説があることで,次は何が出てくるのかを楽しみにしながら読み進むことができる。
 全体としては,「理論編」と「トレーニング編」の2部構成で,「理論編」では,リーダーシップに関する理論をわかりやすく解説してある。とかく理論というと,堅苦しくて敬遠されがちであるが,経営管理の理論をその歴史を踏まえて科学的管理論,X理論・Y理論,PM理論などが網羅されており,それらを看護の状況に照らし合わせているところが,著者の看護師を対象とした研修経験の豊かさを物語っている。また,「看護管理者研修レポート」からの抜粋の「暴君タイプのリーダー」や「機関車タイプ」などの事例が,よりインパクトがあり部署のリーダーである師長の関わりがいかにその部署の雰囲気,部下のやる気に直接関係しているかが如実に表されている。

どうすれば看護現場でリーダーシップが発揮できるか

 後半の「トレーニング編」では,まず冒頭にリーダーシップ学習が,すべての看護師にとっていかに重要かについて述べられている。そして,よりよいリーダーシップを発揮するためのトレーニングの実際が解説されている。状況別リーダーシップをもとした「発達対応モデル」や,交流分析をもとにした「場面対応モデル」などの研修プログラムが紹介されており,それぞれの具体的方法論について,ていねいに紹介されている。トレーニングプログラムの内容は,ゲーム感覚で親しみやすい。特に若い看護師にとっては,研修は楽しくかつ習得しやすい内容が望ましい。その意味でも,コンパクトにまとめられている。
 この本の内容を習得すると,臨床現場でリーダーをするのにも,少し気が楽になるのではないか。リーダーだからという気負いや肩を張らずに,いかにメンバーをまとめながら質の高い看護サービスの提供を追究していくか,看護界にとっては永遠の課題である。
A5・頁180 定価(本体2,000円+税)医学書院


看護研究の世界で迷子にならないための地図

看護研究ガイドマップ [ハイブリッドCD-ROM付]
川口孝泰 著

《書 評》川島みどり(健和会臨床看護学研究所長)

一度ならず経験する看護研究の迷い

 看護研究は,「大きく深い森で覆われた神秘の山岳地帯」と著者は言う。迷い込んで抜け出られなくなったり,沼に足を取られたりすることは,研究する者なら1度ならず経験しているので共感できる。だが,研究の初心者に,この複雑な地形や途上で出会うであろう困難を含めて,迷わず抜け出る道を教えることはそう簡単なことではない。そこで,著者は考えた。「この神秘の山岳地帯の全体を上空から俯瞰する地図」を。
 それがハイブリッドCD-ROM付の本書である。目次を見てもわかるように,研究に取り組む心構えから始まって,研究の種類と研究計画,データ収集,分析と,看護研究に必要な諸知識が系統的に盛り込まれ,プレゼンテーションの方法から研究倫理まで述べられている。難しいことをやさしく伝えることほど難しいことはないのだが,それに加えて楽しく学ぶことのできる工夫はさすがである。

体感できるビジュアルな映像の効果

 著者は,看護教育の場で,また卒後研修などで受講者の反応をつぶさに観察しながら,その難しさを和らげる手法として用いたビジュアルな映像の効果を体感されたのだろう。まずは,付録のCD-ROMを開いてみよう。全部で183場面からなり,カラー画面も美しい。随所にテキストが開ける状態になっていて,ふつうの印刷媒体から入ってくる情報とはやや異なった経路で,研究への扉を開いてくれる。
 実は,本書をいち早く卒後研修の場で活用させていただいた。自分の講義の不足分を補い曖昧な説明に終わっていた部分を確認する上で大変有用であった。ただ,ともすると映像に目が奪われて,簡単に「わかった気」になってしまわないように,十分深く考え理解するよう,教師は方向づけをする必要がある。また,1枚の絵からさらに自分の考えを発展させ,教師自身の言葉で語るようにしたい。研究に親しむ気風は,看護実践への主体的な姿勢にもつながるので,教育の場だけではなく,多くの現場の看護師にも勧めたい書である。
B5・頁192 定価(本体2,800円+税)医学書院


糖尿病療養指導士必携の書

糖尿病のマネージメント 第3版
チームアプローチと療養指導の実際

松岡健平,河盛隆造,岩本安彦 編集

《書 評》河口てる子(日赤看護大教授)

糖尿病看護分野で認定看護師誕生

 1994年刊行の第2版から7年経ち,その間にWHOやアメリカ糖尿病協会,日本糖尿病学会の糖尿病診断基準が変わりました。この新しい診断基準に合わせて改訂が必要でしたし,療養指導環境においては2001年6月に日本糖尿病療養指導士が誕生し,2002年8月には糖尿病看護分野の認定看護師が誕生しました。糖尿病専門医とあわせて強力なチーム医療,チーム教育をなし得る環境が整いつつあります。このような環境下では,糖尿病教育に携わる教育担当者向け,療養指導士・認定看護師向けのよきテキストが必須アイテムでした。その点,この本は充実した内容といい具体的な解決策の提示といい,またこの時期での改訂といい,まさにぴったりの本だと思われます。

高い専門性を備えコメディカルの疑問,質問にも答えてくれる内容

 この第3版を第2版と比較してみますと,まず編者・著者の方々が若返りました。糖尿病医学領域の重鎮の方々から,現在ばりばりに活躍しておられる方々と理想的なバトンタッチが行なわれています。昨今の新しいテーマであるクリニカルパス,精神的ケア,遺伝カウンセリング,高齢者ケアが追加され,充実した品ぞろえになっています。
 第2版もそうでしたが,本書は単なる糖尿病学の専門書ではなく,実地医家や糖尿病教育に携わる看護師・栄養士・薬剤師・検査技師にとって非常に便利に興味深く作られているのが特徴です。内容は専門性の非常に高いものですが,コメディカルの疑問,質問に答えてくれる面倒見のよさをかね備えています。今回の改訂では,その面倒見のよさはそのままに,新しい知見を加味して,より一層使いやすい内容となっています。そのよさの1つが,「Q&A」コーナーの話題内容とわかりやすさにあります。前版からこの形式で,具体的でわかりやすいと好評でした。今回の改訂版でもこの形式を踏襲し,患者さんが発する素朴な質問に要領よく,しかも結構高度な専門的知識を駆使して回答しておられるのに感心します。きっと知的だけれど,ちょっと理屈っぽく気難しい患者さんをも十分満足,納得させられると思います。また,糖尿病教育初心者の医療職にとっては「Q&A」を読んでいるだけでも,かなり高度な知識を身につけられるように思います。専門書を読んでいるだけと違って,知識が身につき血肉となる感じが快いものです。
 新しい診断基準のわかりやすい解説などは言うまでもないのですが,昨今の医療費抑制の影響もあり,実地医家やコメディカルに関心の高いクリニカルパスが,第3章療養指導のトップに設けられています。医療費抑制下でも質の高い効率的なケアを提供するために,各種の患者を想定し,例えば新患患者,1型糖尿病患者,2型糖尿病患者,妊娠糖尿病,高齢糖尿病患者のためのクリニカルパスが紹介されています。精神的ケアの項では,糖尿病患者の感情の問題,悲嘆プロセスが説明され,また糖尿病患者のセルフケア行動に関しては,変化ステージモデルを使ったケアの方法が述べられています。在宅ケアの実際の項では,2000年から施行された介護保険制度に合わせて,要介護認定の申請から訪問看護制度の活用まで具体的な事例を通して説明されています。在宅療養の推進が叫ばれている中,特に高齢の糖尿病患者の訪問看護や社会資源の活用方法が有益でしょう。
B5・頁344 定価(本体4,800円+税)医学書院


臨床で積み重ねた豊富な知識を言語化

困ったときの消化器疾患患者の看護
花田妙子 編集

《書 評》斉藤伊都子(順大浦安病院)

 本書は,消化器疾患患者の看護の経験が豊富な,臨床で活躍しているベテランナースによって執筆されている。看護の実践場面で,頻繁に遭遇する看護問題やさまざまな事例について,ベテランナースがどのように実際にかかわったのか,看護上の問題を解決するための対策や看護の工夫がていねいに解説してある。
 その内容は,「患者の苦痛や訴えに対する援助」,「有害作用や随伴症状に対する援助」,「食事摂取に問題の生じた患者への援助」,「術後の排泄に問題のある患者への援助」,「検査の介助」,「予後不良患者への援助」の,6章から構成されている。
 各章ごとに,日常,消化器疾患患者にかんする誰でもが体験する,肝硬変で腹部膨満感を訴える患者,術後せん妄を生じた高齢患者,経口摂取が進まない胃切除後の患者,ストーマケアによるトラブルを起こした患者,内視鏡検査・治療を受ける患者,化学療法により有害作用を生じた患者などの,看護場面が具体的に事例展開されている。

これこそ「臨床看護の知」

 各項は,患者の状況と問題点,対策,事例紹介の3つの柱で構成されている。患者の状況と問題点では,フィジカルアセスメントにより正確に病状を把握し,そこから発生する身体的・精神的問題が明確に記述されている。対策には,最初に看護の基本的原則が記述してあり,看護問題に直面した時,どのようなケアや処置,患者指導を行なっているか,なぜそのような方法をとったかについて詳しく解説されている。特に,事例紹介では,患者のありのままの言動から患者の反応や気持をとらえ,ケアに必要なデータを把握し,ベテランナースが身体面と精神面への援助をバランスよく提供していく看護過程が詳細に記述されている。ケアの内容と方法が患者の病状回復をどのように促進したか,また,患者の自己実現をどのようにサポートしたかが具体的で,わかりやすい。ベテランナースの,臨床経験で積み重ねた豊富な知識を言語化したもので,ベナーの言う「臨床の知」だと言えるのではないか。
 臨床の看護場面では,忙しさや言語化することの難しさから,ベテランナースが行なった看護実践を新人や経験の浅い看護師に言語化された知識として伝える機会が持ちにくい。
 本書が,経験の豊富さから語られる事例を「臨床看護の知」として言語化できたことは,熟練した看護技術と知識が共有でき,患者1人ひとりのニーズにあった看護の工夫に生かされる1冊となるであろう。
A5・頁236 定価(本体2,400円+税)医学書院


虐待から子どもをどのように保護するか,関係者必読

子ども保護のためのワーキング・トゥギャザー
児童虐待対応のイギリス政府ガイドライン

イギリス保健省・内務省・教育雇用省 著/松本伊智朗,屋代通子 訳

《書 評》小林美智子(大阪府立母子保健総合医療センター)

英国における児童虐待対応の到達点を集成

 英国の児童虐待対応を,過去の経験を科学的に検証して大きく転換した,かの有名な『ワーキング・トゥギャザー』(1991年初版の政府ガイドラインの1999年改訂版)の翻訳本である。
 この課題の日本の始動に貢献した英国人D.ゴフ氏(心理)から,「child abuseよりもsignificant harmと言う」,「ハイリスクと呼ぶのは不適切で,children in needと呼ぶ」,「関係者カンファレンスに親が参加するのは当たり前」と,10年近く前に聞いた時は,目眩を覚えた。それは,虐待についての社会の理解がまったく異なることを意味し,わが国がそこに到達する道程の遠さに茫然とさせられたからである。
 英国は,1974年のマリア・コールウェル事件のように,死亡や社会問題化した事件に調査委員会が報告書を出し,それに基づいて法律や制度を臨機応変に充実していった。その到達点がこの政府ガイドラインである。
 1991年に批准した「子どもの権利条約」を反映して,「すべての子どもはその可能性を最大限に発揮する機会を与えられる権利を有する」のを保障することを基本理念としている。対象は,狭義の虐待だけでなく,「援助の必要な子ども」を含み,社会的排斥を受ける人(ホームレス,10代妊娠,怠学中退,貧困,施設で暮らす子ども,マイノリティ,犯罪者など),夫婦間暴力,親の精神疾患や薬物・酒の濫用を,重要視している。
 福祉・保健・医療・教育・司法などの機関が連携して,多面的に責任を共有して,親と子どもに援助を行なう。子どもや親の意見を取入れるのは当然で,子どもへの重大な侵害(significant harm)が危惧される場合にのみ,行政が家族に介入しうる。「援助を求める親を,子育てにつまずいたとみなすのでなく,親としての責任を果たそうとしていると考えるべき」と,社会の意識変革をうながし,社会全体で子育てを支援しようとしている。これを実行するための組織や手続きも明確にしている。地域子ども保護委員会を設け,初期評価会議で調査計画を作成し,緊急保護や調査を行ない,コアアセスメントとして子どもを守るには何が必要か,親に必要な支援は何かを評価し,親を含む関係者が協議して援助計画を作成する。そして3か月後と6か月ごとに再検討会議を行ない,援助計画を変えていく。そのために,ソーシャルワーカー(SW)を中心とする組織を設け,連携や会議の手続きを明確にし,子どもや家族の評価基準を発展させている。関係者の相互認識で不可欠とされる職種は,SW92%,警察58%,教師34%,保健師53%,養護教諭27%,小児科医65%,GP33%,心理12%,精神科医12%,法律家22%で(峯本耕治著『子どもを虐待から守る制度と介入手法-イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題』,明石書店),今のわが国で必要と見なされる職種とはずいぶん異なる。小児科医やGP,保健師が非常に活躍している。

方針選択せまられる児童虐待防止の今後

 1994年,第1回日本子どもの虐待防止研究会で,国際虐待防止学会長のR.クルーグマンが「日本は米国型か欧州型かを選べるので,慎重に考えるべき」と,貴重な助言を残した。法が強い力を持ち,通告とその調査に追われて,援助しきれないでいる米国型を追うのか,専門職を育てて地域システムを作る欧州型(「専門職を信じるシステム」と彼は呼んだ)を追うのかという意味である。わが国に米国の情報が流入し,米国を追おうと焦り始めていた時期の,児童虐待を初めて報告したH.ケンプの後継者にあたる米国小児科医の言葉は,深く心に残った。子どもをめぐる保健医療福祉制度が充実しているわが国では,欧州型で取組む基盤が存在するとも言える。
 社会から虐待がなくなるには,人類の未来を担う子どもを育てることにすべての大人が責任を感じ,親にとっての育児負担を他の人が分け持ち,親を支援することが自然に成り立つ社会になった時であろう。でもそれは夢物語と思っていた。法の力で親に介入し,通告しない専門職を罰するのは,力が支配する虐待親子の人間関係を,そのまま発展させる制度である。幼少時の経験から,自分は尊重されるはずはないと思い,人を信じられず,援助を求めるなど思いもせず,相手のみならず自分の感情も思いやれない子どもや親は,援助者に尊重され大切にされ,人は信じられる存在であることを体験することを通してしか変われない。子どもや親の治療は,狭義の心理治療だけではなし得ず,生活を構造化する生活治療が必要とされている。英国は,それを国のシステムにまで広げようとしているようにみえる。
 わが国でも児童虐待防止法が,2000年11月に施行され,3年後に改正が約束されている。虐待対策は,子どもが大人になる20-30年先を見据えて立てられなければならない。クルーグマンの助言を吟味すべきこの時期に,この翻訳本が出た意義は大きい。ちなみに翻訳者松本伊智朗氏は,北海道子どもの虐待防止協会事務局長である。先に引用した峯本氏の著書や,鈴木敦子・他訳『児童虐待防止ハンドブック』(医学書院)と併読されることを勧めたい。
B5・頁184 定価(本体2,400円+税)医学書院


詰め込まれた透析専門ナースへの熱い情熱とメッセージ

透析専門ナース
稲本 元 著

《書 評》江川隆子(阪大教授・保健学)

 現在,私が慢性疾患看護領域に身を置いているのは,20数年前に慶応病院の透析室で稲本元先生にお会いしたことがきっかけです。私のように思ったナースは,たくさんいるでしょう。その稲本先生の新しい著書『透析専門ナース』に接し,あらためて先生の透析看護師にかける熱い思いに触れることができて非常に喜んでいます。この著書は,序で著者が述べているように透析専門ナースが誇り高く透析領域で働くための,幅広い基礎知識や技術の習得のための初本として,30年余りの経験を基に書きあげられたものです。そうした先生の透析専門ナースへの情熱とメッセージが,すみずみに詰め込まれています。

マイナーな透析看護への応援

 看護教育に携わって15年余りになりますが,最も専門看護師であるべき透析看護は,看護カリキュラムの中では,マイナーな領域とされています。ですから,腎不全や透析看護について教授する大学や看護学校は,残念ながら少数です。一方,臨床では,年々増加する透析患者人口に対して,看護師の知識や透析技術の不足や未熟さ,また准看護師の採用比が多いことなどが指摘されています。1998(平成10)年に創設された日本腎不全看護学会も,そうした透析看護師の知識や技術の向上を含め,腎不全看護学を学問的に立証するために設立されました。しかしながら,このような看護界の中で透析看護師の手本となる透析基礎知識や透析理論,透析専門技術,透析治療の観察といった系統的な看護師のための教科書本は,皆無に等しいものでした。したがって,この著書の登場は,透析看護の専門性の向上と確立をめざしているわれわれにとって大きな手助けになると信じています。

うかがえる透析看護への深い洞察

 本書は,9章からなります。1章は「透析医療の基礎知識」,2章は「透析の理論」,3章は「透析治療の専門技術」,4章は「透析治療の観察点」,5章は「事故,トラブル」,6章は「薬物療法」,7章は「食事療法」,8章は「透析医療と教育」,9章は「透析医療と連絡・管理」について書かれています。そして,それぞれの章は,読者の疑問に答えるかのように細項目に分けて詳しく説明されています。例えば,1章の基礎知識の「ブラッドアクセスの観察」では,その観察として,見る,触れる,スリル,駆血による変化,など血管の状態を図に示しながら説明しています。また,3章の専門技術の項では,われわれが苦労する「穿刺」についても,穿刺方向,穿刺針固定,回路の固定などこれらも図を用いてわかりやすく説明しています。特に目を引いたのは,第4章の観察点の項で,「患者の観察」について,表情や声,歩き方,訴え,家族の会話など看護において必須の事柄に触れていることに,著者の看護への洞察がうかがえます。また,第8章の透析医療と教育では,実際の新人看護師の教育課程が,図表を用いてその教育内容が細やかに論じられています。このような内容から,きっとこの本が透析看護師の知識や技術の向上,教育や管理の参考になるでしょう。

求められる透析専門ナースの充実

 読めば読むほど,この本が透析専門ナースの透析知識や技術の向上のために必須本であることは間違いありません。この本を読めば,透析看護師になろうとする者に勇気を,ベテラン透析看護師には透析治療の基本的な知識と技術の再確認とスタッフ教育に勇気を与えてくれるものであると感謝いたします。
 ただ,感謝しながら,一言希望を言わせていただくと,腎不全および透析看護も学問的に発展しています。そこで,透析看護でもこうした透析医療の知識や技術を基礎にした医療援助とともに,看護独自のケアに対する看護診断やその目標,援助,評価といった学問体系が発展しているということを認識していただければと思います。
 しかし,私も7年余りの透析看護を経験していることから,この書の中に書かれているすべての知識や技術が患者のために必須であることは身をもって実感しています。ですから,透析看護の基礎知識として,透析に興味のある看護師もベテラン看護師もぜひ本書を読んでいただいて,明日からの看護に,また将来の透析専門ナースの確立に寄与していだだくことを希望します。
B5・頁232 定価(本体3,800円+税)医学書院